「免疫抑制状態の池江さんを犠牲にするな」
池江璃花子さんを利用した東京五輪組織委員会
新型コロナウイルス感染拡大で延期となった東京五輪は2020年7月23日で開幕まであと1年となるそうだが、この日の午後8時、「白血病からの復帰を目指す」競泳の池江璃花子さんが、国立競技場に立った。池江璃花子さんがメッセージを発信したとき、岡江久美子さんや志村けんさんが新型コロナに感染し「基礎疾患」があったため重症化し死亡されたことを思いだした。
デイリー新潮の記事(『病み上がり「池江璃花子」への不安 大人と「なべおさみ」の都合で露出増』、2020年7月18日配信)によると、スポーツ紙記者が「東京五輪の開幕1年前に当たる7月23日には、組織委主催のイベントに出演予定。国立競技場に登場して世界にメッセージを発信することになりそう」と語っていたそうである。
この記者が語ったとおりになったが、デイリー新潮は記事の中での池江璃花子さんが7月23日に国立競技場に立つことに対する上昌広・医療ガバナンス研究所理事長の懸念する声を紹介していた。
「池江さんは白血病治療のために造血幹細胞移植を受けています。術前には多量の抗がん剤と放射線を用いた治療が必要で、術後も移植した免疫細胞が正常な細胞を攻撃し、内臓に障害を来すGVHD(移植片対宿主病)になる恐れがある。いかに体を鍛えてきた池江さんでも体調は万全ではありません。免疫力が低下しているのでコロナなどの感染症にも注意しなくてはならない。大人の都合で彼女を引っ張り回すのはいかがなものでしょうか」
また、岩田健太郎・神戸大学医学研究科感染症内科教授は7月23日午後8時31分にツイッターで「免疫抑制状態の池江さんを犠牲にするな。彼女の奮闘は心から応援するが、組織委員会がそれを食い物にするのは看過できん」とツイートし、さらに「オリンピックのためにぜひ、と頼まれれば一流のアスリートなら断れないだろう。断れない条件下で感染リスクの高い池江さんにそういうメッセージを出させる残酷さを関係諸氏はちゃんと理解しているのか」とつづけた。
そして、ラサール石井氏も「池江さんが個人でSNSなどで思いを伝えるならいいんです。でも、大手の代理店が考えたであろう『Tokyo 2020+1』という耳なれぬ、来年のオリンピック開催を感動的な既成事実にしようとするキャッチコピーと演出に、池江さんを巻き込んでしまうことに、違和感を覚えてしまいます」とツイート。
なお、私自身、基礎疾患のある家族と同居しているので、上昌広医師らの懸念の声は、よく理解している。そういう懸念の声があるにもかかわらず強行されたことは看過できない。また、小池百合子都知事が4連休の間は不要不急の外出を控えるよう(特に高齢者や基礎疾患のある者は外出を控えるよう)との強いお願いしていた時に、「何故だ」としか言いようがない。感染リスクの高い基礎疾患のある方々の「いのち」を守るため「感染しない」「感染させない」というメッセージこそが、希望につながると信じて、今、私たちは闘わなければならない。
池江璃花子メッセージ全文
池江璃花子です。
今日は、一人のアスリートとして、そして一人の人間として少しお話させてください。
本当なら、明日の今頃この国立競技場ではTOKYO2020の開会式が華やかに行われているはずでした。
私も、この大会に出るのが夢でした。
オリンピックやパラリンピックはアスリートにとって、特別なものです。
その大きな目標が目の前から、突然消えてしまったことは、アスリート達にとって、言葉にできないほどの喪失感だったと思います。
私も、白血病という大きな病気をしたから、よく分かります。
思っていた未来が、一夜にして、別世界のように変わる。それは、とてもキツい経験でした。そんな中でも、救いになったのはお医者さん、看護師さんなど、たくさんの医療従事者の方に、支えていただいたことです。
身近で見ていて、いかに大変なお仕事をされているのか、実感しました。
しかも今は、コロナという新たな敵とも戦っている。
本当に感謝しかありません。ありがとうございます。
2020年という、特別な年を経験したことでスポーツが、決してアスリートだけでできるものではない、ということを学びました。
さまざまな人の支えの上に、スポーツは存在する。本当に、そう思います。
今から、1年後。
オリンピックやパラリンピックができる世界になっていたら、どんなに素敵だろうと思います。 今は、一喜一憂することも多い毎日ですが一日でも早く、平和な日常が戻ってきて欲しいと、心から願っています。
スポーツは、人に勇気や、絆をくれるものだと思います。
私も闘病中、仲間のアスリートの頑張りにたくさんの力をもらいました。今だって、そうです。 練習でみんなに追いつけない。悔しい。そういう思いも含めて、前に進む力になっています。
TOKYO2020
今日、ここから始まる1年を単なる1年の延期ではなく、「プラス1」と考える。
それはとても、未来志向で前向きな考え方だと思いました。
もちろん、世の中がこんな大変な時期に、スポーツの話をすること自体、否定的な声があることもよく分かります。
ただ、一方で思うのは、逆境から這い上がっていく時には、どうしても、希望の力が必要だということです。
希望が、遠くに輝いているからこそ、どんなにつらくても、前を向いて頑張れる。
私の場合、もう一度プールに戻りたい。その一心でつらい治療を乗り越えることができました。 世界中のアスリートと、そのアスリートから勇気をもらっているすべての人のために。
一年後の今日、この場所で希望の炎が、輝いていて欲しいと思います。
競泳選手 池江璃花子 本日はありがとうございました。(スポーツ報知電子版=2020年7月24日配信より抜粋)
追記(2021年5月8日)
東京新聞デジタル版(2021年5月7日配信)は「白血病による長期療養を経て東京五輪代表入りを決めた競泳女子の池江璃花子選手が(5月)7日、自身のTwitterで、会員制交流サイト(SNS)を通じ、五輪の辞退や反対を求めるメッセージが寄せられていることを明かし『とても苦しいです』と思いをつづった」と報じた。
池江璃花子選手のツイッターアカウントのツイートには次の文面が添えられていた。。
いつも応援ありがとうございます。
Instagramのダイレクトメッセージ、Twitterのリプライに「辞退してほしい」「反対に声をあげてほしい」などのコメントが寄せられている事を知りました。もちろん、私たちアスリートはオリンピックに出るため、ずっと頑張ってきました。
ですが、今このコロナ禍でオリンピックの中止を求める声が多いことは仕方なく、当然の事だと思っています。私も、他の選手もきっとオリンピックがあってもなくても、決まったことは受け入れ、やるならもちろん全力で、ないなら次に向けて、頑張るだけだと思っています。
1年延期されたオリンピックは私のような選手であれば、ラッキーでもあり、逆に絶望してしまう選手もいます。持病を持ってる私も、開催され無くても今、目の前にある重症化リスクに日々不安な生活も送っています。私に反対の声を求めても、私は何も変えることができません。ただ今やるべき事を全うし、応援していただいてる方達の期待に応えたい一心で日々の練習をしています。
オリンピックについて、良いメッセージもあれば、正直、今日は非常に心を痛めたメッセージもありました。この暗い世の中をいち早く変えたい、そんな気持ちは皆さんと同じように強く持っています。ですが、それを選手個人に当てるのはとても苦しいです。
長くなってしまいましたが、わたしに限らず、頑張っている選手をどんな状況になっても暖かく見守っていてほしいなと思います。
池江璃花子さんを利用した東京五輪組織委員会
新型コロナウイルス感染拡大で延期となった東京五輪は2020年7月23日で開幕まであと1年となるそうだが、この日の午後8時、「白血病からの復帰を目指す」競泳の池江璃花子さんが、国立競技場に立った。池江璃花子さんがメッセージを発信したとき、岡江久美子さんや志村けんさんが新型コロナに感染し「基礎疾患」があったため重症化し死亡されたことを思いだした。
デイリー新潮の記事(『病み上がり「池江璃花子」への不安 大人と「なべおさみ」の都合で露出増』、2020年7月18日配信)によると、スポーツ紙記者が「東京五輪の開幕1年前に当たる7月23日には、組織委主催のイベントに出演予定。国立競技場に登場して世界にメッセージを発信することになりそう」と語っていたそうである。
この記者が語ったとおりになったが、デイリー新潮は記事の中での池江璃花子さんが7月23日に国立競技場に立つことに対する上昌広・医療ガバナンス研究所理事長の懸念する声を紹介していた。
「池江さんは白血病治療のために造血幹細胞移植を受けています。術前には多量の抗がん剤と放射線を用いた治療が必要で、術後も移植した免疫細胞が正常な細胞を攻撃し、内臓に障害を来すGVHD(移植片対宿主病)になる恐れがある。いかに体を鍛えてきた池江さんでも体調は万全ではありません。免疫力が低下しているのでコロナなどの感染症にも注意しなくてはならない。大人の都合で彼女を引っ張り回すのはいかがなものでしょうか」
また、岩田健太郎・神戸大学医学研究科感染症内科教授は7月23日午後8時31分にツイッターで「免疫抑制状態の池江さんを犠牲にするな。彼女の奮闘は心から応援するが、組織委員会がそれを食い物にするのは看過できん」とツイートし、さらに「オリンピックのためにぜひ、と頼まれれば一流のアスリートなら断れないだろう。断れない条件下で感染リスクの高い池江さんにそういうメッセージを出させる残酷さを関係諸氏はちゃんと理解しているのか」とつづけた。
そして、ラサール石井氏も「池江さんが個人でSNSなどで思いを伝えるならいいんです。でも、大手の代理店が考えたであろう『Tokyo 2020+1』という耳なれぬ、来年のオリンピック開催を感動的な既成事実にしようとするキャッチコピーと演出に、池江さんを巻き込んでしまうことに、違和感を覚えてしまいます」とツイート。
なお、私自身、基礎疾患のある家族と同居しているので、上昌広医師らの懸念の声は、よく理解している。そういう懸念の声があるにもかかわらず強行されたことは看過できない。また、小池百合子都知事が4連休の間は不要不急の外出を控えるよう(特に高齢者や基礎疾患のある者は外出を控えるよう)との強いお願いしていた時に、「何故だ」としか言いようがない。感染リスクの高い基礎疾患のある方々の「いのち」を守るため「感染しない」「感染させない」というメッセージこそが、希望につながると信じて、今、私たちは闘わなければならない。
池江璃花子メッセージ全文
池江璃花子です。
今日は、一人のアスリートとして、そして一人の人間として少しお話させてください。
本当なら、明日の今頃この国立競技場ではTOKYO2020の開会式が華やかに行われているはずでした。
私も、この大会に出るのが夢でした。
オリンピックやパラリンピックはアスリートにとって、特別なものです。
その大きな目標が目の前から、突然消えてしまったことは、アスリート達にとって、言葉にできないほどの喪失感だったと思います。
私も、白血病という大きな病気をしたから、よく分かります。
思っていた未来が、一夜にして、別世界のように変わる。それは、とてもキツい経験でした。そんな中でも、救いになったのはお医者さん、看護師さんなど、たくさんの医療従事者の方に、支えていただいたことです。
身近で見ていて、いかに大変なお仕事をされているのか、実感しました。
しかも今は、コロナという新たな敵とも戦っている。
本当に感謝しかありません。ありがとうございます。
2020年という、特別な年を経験したことでスポーツが、決してアスリートだけでできるものではない、ということを学びました。
さまざまな人の支えの上に、スポーツは存在する。本当に、そう思います。
今から、1年後。
オリンピックやパラリンピックができる世界になっていたら、どんなに素敵だろうと思います。 今は、一喜一憂することも多い毎日ですが一日でも早く、平和な日常が戻ってきて欲しいと、心から願っています。
スポーツは、人に勇気や、絆をくれるものだと思います。
私も闘病中、仲間のアスリートの頑張りにたくさんの力をもらいました。今だって、そうです。 練習でみんなに追いつけない。悔しい。そういう思いも含めて、前に進む力になっています。
TOKYO2020
今日、ここから始まる1年を単なる1年の延期ではなく、「プラス1」と考える。
それはとても、未来志向で前向きな考え方だと思いました。
もちろん、世の中がこんな大変な時期に、スポーツの話をすること自体、否定的な声があることもよく分かります。
ただ、一方で思うのは、逆境から這い上がっていく時には、どうしても、希望の力が必要だということです。
希望が、遠くに輝いているからこそ、どんなにつらくても、前を向いて頑張れる。
私の場合、もう一度プールに戻りたい。その一心でつらい治療を乗り越えることができました。 世界中のアスリートと、そのアスリートから勇気をもらっているすべての人のために。
一年後の今日、この場所で希望の炎が、輝いていて欲しいと思います。
競泳選手 池江璃花子 本日はありがとうございました。(スポーツ報知電子版=2020年7月24日配信より抜粋)
追記(2021年5月8日)
東京新聞デジタル版(2021年5月7日配信)は「白血病による長期療養を経て東京五輪代表入りを決めた競泳女子の池江璃花子選手が(5月)7日、自身のTwitterで、会員制交流サイト(SNS)を通じ、五輪の辞退や反対を求めるメッセージが寄せられていることを明かし『とても苦しいです』と思いをつづった」と報じた。
池江璃花子選手のツイッターアカウントのツイートには次の文面が添えられていた。。
いつも応援ありがとうございます。
Instagramのダイレクトメッセージ、Twitterのリプライに「辞退してほしい」「反対に声をあげてほしい」などのコメントが寄せられている事を知りました。もちろん、私たちアスリートはオリンピックに出るため、ずっと頑張ってきました。
ですが、今このコロナ禍でオリンピックの中止を求める声が多いことは仕方なく、当然の事だと思っています。私も、他の選手もきっとオリンピックがあってもなくても、決まったことは受け入れ、やるならもちろん全力で、ないなら次に向けて、頑張るだけだと思っています。
1年延期されたオリンピックは私のような選手であれば、ラッキーでもあり、逆に絶望してしまう選手もいます。持病を持ってる私も、開催され無くても今、目の前にある重症化リスクに日々不安な生活も送っています。私に反対の声を求めても、私は何も変えることができません。ただ今やるべき事を全うし、応援していただいてる方達の期待に応えたい一心で日々の練習をしています。
オリンピックについて、良いメッセージもあれば、正直、今日は非常に心を痛めたメッセージもありました。この暗い世の中をいち早く変えたい、そんな気持ちは皆さんと同じように強く持っています。ですが、それを選手個人に当てるのはとても苦しいです。
長くなってしまいましたが、わたしに限らず、頑張っている選手をどんな状況になっても暖かく見守っていてほしいなと思います。