S&R shudo's life

ロック、旅、小説、なんでもありだ!
人生はバクチだぜ!!!!

真冬の狂想曲17-1

2006-10-07 10:25:46 | 真冬の狂想曲
 俺があの暴力的で退廃的な日々から解放されて一晩経ったとき、シド・ヴィシャスが歌いだした。
「やっちゃーん、何しよん?暇やろ?」
 松と別れてから1日しか経ってない。正確には19時間しか経ってない。
「もうかよ!あとは大丈夫やったんやないんか!」
「そんなん言わんでいいやん、ちょっと人が足りんけ今から小倉まで来てくれん?ステーションホテルにおるけ。」
「分かった分かった、ほんなら飯食ってからすぐ行くわ。」
「やっぱ、やっちゃんやのー!待っちょくわ。ホテル着いたら電話して。」
 俺は子供を抱きしめ溜息をついた。
「また、しばらく帰ってこれんの?」
 女房は昼食を作りながら、諦め気味に言った。
「たぶん、そうなるやろうの。まー、これで終わりやろうけ我慢しとってくれ。それから明日給料日やけ、みんなに給料やっちょって。給料計算は終わっちょんけ、頼むわ」

 機嫌の悪い女房に、駅まで送ってくれとは頼めず、俺は駅までの10分程の道のりをてくてくと歩いた。12月も半ばになると、さすがに九州も寒さが厳しい。俺はマフラーを巻き直し駅までの道を急ぎ足で歩いた。
 5分程待ってホームに到着した電車に乗り込んだ。電車の中は暖房がよく効いている。マフラーを外し、いつものコートのボタンを外し、筋肉と脳みそを弛緩させた。30分程で小倉駅に着く。それまでは何も考えずにおこう。
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真冬の狂想曲16-2

2006-10-06 14:00:36 | 真冬の狂想曲
 タクシーを降り、松のカードでグリーン車の切符を買い、のぞみ号に乗り込みグリーン車のシートに身体を沈めた。前の席で松と松木社長が何やらこれからの話をしていたが、家に帰れるであろう安堵感で俺は深い眠りに落ちた。
 目が覚めたときにはもう、のぞみ号が広島を出たところだった。あと30分程で小倉に着くだろう。そこからローカル線で30分も揺られたら、女房と可愛い我が子の待つ平穏な世界に帰れる。少しの間だが。
「やっちゃん、ありがとう。あとはこっちでなんとかするけ、もういいよ。また連絡するわ。」
「おう、分かった、またなんかあったら電話して。」
 本当はもう連絡して欲しくないのだが、ついこう言ってしまう自分が呪わしい。
 のぞみ号は小倉駅に到着した。俺は松達に気をつけるように言って松達と別れ、一人日豊線の下り電車に乗り込んだ。これでいつもの生活に戻れる。何事も無く家に帰れてホッとしている。後はシド・ヴィシャスが歌わない事を祈るだけだ。
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真冬の狂想曲16-1

2006-10-05 09:09:34 | 真冬の狂想曲
 大都会東京で中村を生け捕るよりも、地の利に長けた九州のほうが動きやすいとの判断で、俺達は九州に帰る事を決めた。平井の持ち物の裏は韓国人達が調べて報告が入るようになっている。
「飛鳥ホテル」をチェックアウトし、タクシーで東京駅に向かった。ヤバイ仕事をするときは、飛行機には乗らない。逃げ場が無いからだ。
 来たときよりも一人少ない。佐々木を東京に残している。洋子は韓国人達に預けた。松は洋子を解放しようとしたが、佐々木を信用出来ない俺は洋子を人質にしとくように説得し、韓国人達に預けるように仕向けた。俺は詐欺師達を信用しない。
 佐々木は中村の動向を俺達に告げるように指示して、とりあえず東京に残した。平井は例のハイエースで九州まで来る事になっている。
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真冬の狂想曲15-9

2006-10-04 08:56:26 | 真冬の狂想曲
 死を目前にした平井の言葉は真実を語っているように感じたが、この2,3日で、この手の連中はどんな時でもどんな状況でも、平気で嘘を並べる事が出来る事を俺は学んでいた。
 俺は平井が嬲られている間、平井の持ち物と携帯電話を調べていた。そして、平井の家族かららしいメールと発信履歴、着信履歴を探りだしていた。それから別に大事に隠されていた女の写真と航空券の領収書。名刺入れのいろんな名前の名刺。実印にキャッシュカード。現金が96万2千円と小銭。その中から、携帯電話と写真と領収書を松に見せた。
 松はそれらを平井の顔面に突き出した後、イとチョンに渡した。
「どっちかそれもって裏取ってきてくれ。」
 イがそれらを受け取り、部屋から出ていった。
「平井よう、暫く生き延びたのう。さっきの話が与太やったら、さよならせないけんぞ。それとも心を入れ替えて俺に協力するかよ。来週までによく考えちょけ。どっちにしろ来週にはさっきの話が本当か嘘かハッキリするやろうけの。もし嘘がバレたら、お前だけやのうてメールの相手や、写真の女にも責任は取って貰うけの。安心して死ね。みんな一緒やけ寂しくなかろうが。」
 平井は嘘じゃないと必死にすがり、うなだれた。
 俺達は素っ裸で縛られたままの平井とチョンを残し、マンションを出た。どこかに走り去ったはずのハイエースがマンションの前で待っていた。
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真冬の狂想曲15-8

2006-10-03 18:07:43 | 真冬の狂想曲
「残念やの、平井。もう時間切れやわ。もう何も喋らんでいいわ…。」
 ここで平井の心は折れた。必死に首を振り、芋虫のように松の足にすがりついて行った。
「すみません!私の知っている事は全部話します!助けてください!」
 松は平井の胸の辺りを蹴り飛ばし、今度はマカロフを平井のこめかみに押し付けた。
「松!」
 俺はとっさに松の右手を掴んだ。
「大丈夫っちゃ、やっちゃん。」
 そう言って松は平井に向き直った。
「よし、平井。正直に全部話せよ。また与太飛ばしよったら、そこの二人にお前を預けるぞ。」
 平井はイとチョンのほうを目だけで見て、すぐに視線を松に戻した。
「はい、松崎さん。な…なんでも話します。でも本当に中村さんの家も金がどこにあるかも解らないんです。」
 松はイとチョンを呼んだ。慌てて平井はまくしたてた。
「待ってください!でも来週、中村が行く所は解ってます!水曜日に飯塚に行くはずです!」
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