昔、ある町に立派な寺が建立された。
とても美しく重厚な寺だったが、大仏の像だけがなかった。
そこで、信者たちは有名な彫刻家に大仏の像を制作してもらうことにした。
彫刻家は山に上ると、大仏になるのにふさわしい石を探した。
ようやく見つけた石は美しかったが大きすぎたため、彫刻家はそれを二つに割ると、早速片方の石に刀をあてて彫り始めた。
すると、彫られている石は彫刻家に向かって不満をこぼした。
「彫られるのは、本当に痛いし辛い。もう少し、優しく彫れないのか?私は風雨を耐えてきたが、こんなに辛いのは初めてだ。あんたは、私を大仏に彫るというが、本当なのか?」
彫刻家は答えた。
「忍耐がそのプロセスだ。もしお前が決心すれば、この辛苦の後に必ず新しい世界が開ける。私を信じ、耐え続けなさい」
石はしばらく考えると、彫刻家に聞いた。
「いつ、その大仏は完成するのか?」
「たった今彫り始めたばかりだ。30日間耐えなさい。その後、もし人々がお前の見栄えに満足しなければ、さらに彫り続け、仕上げに時間を要するだろう」
大仏の彫像になれたらどんなに素晴らしいだろう、と石は考えた。
しかし、それに至るまでの苦しみは容易ではない。
二時間ほど痛みに耐えた後、ついに我慢できなくなった。
「もういやだ。刀で私を彫るのをやめてくれないか。こんな痛みにはもう耐えられない」
彫刻家は仕方なく、もう片方の石を彫ることにした。
すると、この石はちっとも不満を漏らさない。
彫刻家は石に話しかけた。
「お前は痛くないのか?」
「私は簡単にあきらめたりはしない」
「最初の石は、優しく彫ってくれと言っていた。お前もそう思うか?」
「いや、優しく彫られたら、彫像の見栄えが悪くなるかもしれない。そうすれば、また彫刻のやり直しだ。初めから、きちんと彫ってくれた方が時間を無駄にしなくて済む」
彫刻家は石の強靭な意志に心を打たれ、懸命に大仏の姿を彫り始めた。
30日間の耐え難い苦しみの後、石は荘厳な大仏の姿に生まれ変わった。
間もなく、大仏の彫像は寺の祭壇に置かれ、大勢の人々が毎日参拝に訪れた。
ある日、寺の石床となった最初の石が、大仏に向かって言った。
「お前はどうしてそのような高い所におかれ、人々から敬われているのか。なぜ私は毎日、人々から踏みつけにされなければならないのか?」
大仏になった石は答えた。
「それは簡単だ。お前は容易な道を選び、石床になった。しかし、私は苦を舐める道を選び、大仏になったのだ」
安易な道と苦難の道、どちらを選ぶかは自分次第。
いずれの道を選んでも、必ずそれに見合うだけの結果が待っているだろう。
大紀元日本より
「運命とは偶然の問題ではなく、選択の問題である。それは、待つものではなく、自分の手で獲得するものである」
ウィリアム・ジェニングス・ブライアン(アメリカの政治家・元国務長官・政治学者)