京免 史朗
ベストアンサーに選ばれた回答
amanoamiitoさん
白拍子は遊女だ。遊女ではあるが、主に貴族の相手をする高級娼婦だった。
この時代の芸人は、芸だけでは飯を食えない。社会からドロップアウトした人々(例えばと呼ばれる集団)は人が嫌う様々な汚れ仕事を引き受けていた。女性は売春も当り前のことだった。そういう中から歌や舞、曲芸を演じて金を貰うという、今で言う大道芸人的な者達も現れたが、それらの人々にとっても特に女性ならば売春は避けられない仕事の一部だった。芸事の興行をするにも土地の権力者・顔役のご機嫌を取ることが必要だったからだ。
女性だけではなく、男もそう。「風姿花伝」で世界的な評価を受けている世阿弥にしても将軍足利義満の寵童として、その庇護の下で世に出ている。
時代が下り、静御前とは比較にならない大芸術家であり、しかも男性だった世阿弥にしてもそうだったのだ。
世阿弥より前の時代の静御前程度の白拍子が、男性を相手せずにいられるわけがないだろう。
庶民の相手をする遊女とは違って、舞を舞えるだけでなく、教養もあったが、それは銀座のトップクラスのホステスも相当な知識・教養があるのと同じことだ。また、白拍子も銀座のトップクラスのホステスと同じく、誰にでも奉仕をするわけではなかった。とはいえ、身分的には現代の銀座のホステスより遥かに下であり、いくら高級とはいえ遊女という下賎な身分であることに違いは無い。
それなりの男性は、遊び相手の女にも自分に近いそれなりのものを求める。身分が高く、教養ある男性は、マトモな会話もできない体だけの女性では付き合っても詰まらんでしょう。女性の方も、いくら遊女とはいえ、庶民の相手をするよりは貴族・権力者を相手にしたほうが良い暮らしができる。そういうこともあって芸や教養を磨いたのだ。
大河ドラマの義経には、静御前などの白拍子が出征中の平家の陣に呼ばれる場面があった。実際に膠着状態の陣中に女が呼ばれることは珍しい話ではなかった。
あれも平家の将軍達は、白拍子の舞が見たかったからだけでわざわざ戦地に呼び寄せたわけではない。少し考えれば本当の目的が何だったのかわかるだろう。将軍達は土地の下賎な女を相手にするわけにはいかないし、自分の妻を危ない戦場に呼び寄せるわけにもいかない。だから都の高級娼婦を呼び寄せたのだ。
現代の話をしよう。第二次世界大戦のノルマンディー上陸作戦前だ。英国に米軍が大挙して集結した。
この時に米軍の世話をしなければならない英軍は、米軍の将官達に美人女性秘書官(身分は一応軍人)を付けている。勿論、秘書としての能力が高かったことは間違いないだろう。しかし、当時の軍隊の秘書官は男性が普通だ(というか、当時の英米の常備軍には女性事務員はいても、女性の軍人そのものが本来は存在しない)。わざわざもれなく女性を配した意味はおわかりだろう。
有名なのは、後に米国大統領となる欧州方面連合軍最高司令官アイゼンハワーとその秘書だ。ロバート・デュバルがアイゼンハワー役で主演したTVドラマのミニシリーズにも描かれたことがあったが、アイゼンハワー夫人と美人秘書が邂逅する場面が秀逸だった。
美人女性秘書官達の身分は民間の事務員ではなく、本物の軍人として送り込まれた。おそらく民間の美人を側に送り込むのでは目的があまりにもあからさますぎると思われたからだろう。それに商売女は別にして、民間人に将軍への奉仕を言い含めるのは無理があるし、民間人に戦闘に巻き込まれるリスクを負わせるわけにはいかない。
その女性軍人達は軍人なのだから遊女と云ったら問題だろう。しかし、任務として質問の主旨が含まれていなかったといえば、例えそれが公にできる種類ではなかったとしても、暗黙の諒解でしかなかったとしても、おかしな話になるだろう。
そう言う意味での白拍子は現代でも形を変えて、世界中に存在しているということだろうか。