「まったくもう…」
カズの母は呆れて台所へ夕飯の準備に戻ってしまった。
「ただいまー。」
カズの父が仕事から帰ってきた。
「おかえりなさい。ねぇ、あなたからも何か言ってやってください。カズったら、卒業後の事ちゃんと考えてるのか分からなくて…」
「そうか… 俺は大丈夫だと思うけどなぁ。アイツもアイツなりにちゃんと考えてるんじゃないか? まぁ、なるようになるさ。」
「そんな呑気な…」
カズの性格はどうやら父に似てしまったらしい。
「よし、分かった! ここはひとつ、男同士、俺が話を聞いてやろうじゃないか!」
夕飯後、カズは自分の部屋に戻り、買ったばかりの安いエレキギターを弾き始めた。
その音は茶の間に居る父と母の耳にも若干入ってきた。
「ほら、あなた!」
「よし、分かった。」
父は半端の缶ビールの中身を飲み干すと、若干フラつきながらカズの部屋へと向かった。
トントン。
父はカズの部屋のドアをノックした。
「おい、カズ。ちょっと良いか?」
「うん。」
カズの部屋の中に入った父は、ベッドの上に座りながらギターを抱えるカズの横に腰掛けた。
「お前、高校卒業したらどうしたいんだ? え?」
「うーん… とりあえず… 東京に行きたい。」
「ほぉ。それで?」
「バンドをやりたいんだ。」
「そうか、バンドかぁ。父さんも若い頃はよく…」
若干酔っているバカ父はこの後ひとりで20分以上、自分が若かった頃の話を続けたが、それを全文載せると他の3人の主人公と不公平になってしまうので省略させていただく。
「ねぇ、あなた、どうだった? カズはちゃんと話してくれましたか?」
「お、おぅ! 素直に話してくれたよ。」
「そうですか… やっぱり私よりあなたの方が話しやすかったのかしら? それで… カズは何て言ってました?」
母は恐る恐る尋ねた。
「えーと… 何だったかな…」
「まったくもう…」
(第6章へ続く)