「親父…」
「なんだ?」
母がお風呂に入っているタイミングを見計らって、レンはソファーに座ってテレビを見ている父に声をかけた。
今夜は野球中継はない。
約1週間ぶりの父と子の会話だ。
「俺、親父が何て言おうと東京に行くから。」
「そうか。お前の好きにしなさい。」
レンはビックリした。また前みたいに言い争いになる覚悟だった。
「いいの?」
「お前の人生だろ。俺にどうこう言う権利はない。」
父はこの台詞をまるで何回も練習したかのように言った。
「ただし、お前が自分で選んだ道だ。どうなっても後で他人の所為にするんじゃないぞ。自信と誇りと、何よりも責任を持って進みなさい。」
この台詞にも台本があるかのようだった。
「うん… 分かったよ。」
「それから…」
「まだ何かあるの?」
「一人前の俳優になるまで、うちの敷居は跨ぐんじゃない!」
「…」
レンは一瞬ビックリしてすぐに言葉を返せなかった。
「と、言いたいところだが、盆と正月ぐらいは必ず帰って来い。母さんが心配するからな。」
この台詞は何回練習したのだろう。完全に棒読みだった。
ただ、父の目が若干潤んでいたのは、母の演技指導の中にも含まれていなかっただろう。
「うん。分かった。じゃあ、おやすみ。」
レンは自分の部屋に戻りベッドに横になった。すると何故だか自然と涙が溢れてきた。
レンが父に上京を許してもらえた嬉しさを真っ先に伝えたかった相手はマイだ。
レンは携帯電話を手に取り、マイ宛てに報告のメールを打ったが、送信しようとしたところで消してしまった。
明日マイに会って直接報告したいと思った。
というのは口実で、本当はメールの返事の内容や、それを待つ時間を考えると何だか恐くなってしまったのである。
レンは翌朝、軽いのだか重いのだか良く分からない足取りで登校した。
放課後にマイと会うまでの数時間が、父に自分の決意を伝える覚悟をするのにかかった1週間という時間よりも長く感じた。
(第7章へ続く)
「なんだ?」
母がお風呂に入っているタイミングを見計らって、レンはソファーに座ってテレビを見ている父に声をかけた。
今夜は野球中継はない。
約1週間ぶりの父と子の会話だ。
「俺、親父が何て言おうと東京に行くから。」
「そうか。お前の好きにしなさい。」
レンはビックリした。また前みたいに言い争いになる覚悟だった。
「いいの?」
「お前の人生だろ。俺にどうこう言う権利はない。」
父はこの台詞をまるで何回も練習したかのように言った。
「ただし、お前が自分で選んだ道だ。どうなっても後で他人の所為にするんじゃないぞ。自信と誇りと、何よりも責任を持って進みなさい。」
この台詞にも台本があるかのようだった。
「うん… 分かったよ。」
「それから…」
「まだ何かあるの?」
「一人前の俳優になるまで、うちの敷居は跨ぐんじゃない!」
「…」
レンは一瞬ビックリしてすぐに言葉を返せなかった。
「と、言いたいところだが、盆と正月ぐらいは必ず帰って来い。母さんが心配するからな。」
この台詞は何回練習したのだろう。完全に棒読みだった。
ただ、父の目が若干潤んでいたのは、母の演技指導の中にも含まれていなかっただろう。
「うん。分かった。じゃあ、おやすみ。」
レンは自分の部屋に戻りベッドに横になった。すると何故だか自然と涙が溢れてきた。
レンが父に上京を許してもらえた嬉しさを真っ先に伝えたかった相手はマイだ。
レンは携帯電話を手に取り、マイ宛てに報告のメールを打ったが、送信しようとしたところで消してしまった。
明日マイに会って直接報告したいと思った。
というのは口実で、本当はメールの返事の内容や、それを待つ時間を考えると何だか恐くなってしまったのである。
レンは翌朝、軽いのだか重いのだか良く分からない足取りで登校した。
放課後にマイと会うまでの数時間が、父に自分の決意を伝える覚悟をするのにかかった1週間という時間よりも長く感じた。
(第7章へ続く)