いつもの放課後。
いつもの夕暮れ。
いつもの帰り道。
ただひとつだけ違うのは、やはりあの日以来2人の間に会話は少なめになった。
マイがレンに卒業後の事を問いかけたあの日からだ。
2人の足音、車の通り過ぎる音、下校途中の小学生集団のはしゃぎ声、井戸端会議中のおばさん達の甲高い声などが普段よりも大きく感じられる。
申し訳なさそうにレンが話し始める。
「俺さ、昨日親父と話したんだ…」
「そうなんだ… それで?」
マイは本当は恐くて「それで」の後なんて聞きたくなかったが、きっとレンは話したいのだと思い、そう訊き返した。
「一応OKしてもらえた。」
「そうなんだ… 良かったね!」
マイは暗い表情で「そうなんだ…」と言ってしまった事をマズいと思い、すぐに明るい言葉を無理矢理に付け足した。
「それでさ… 2人で一緒に東京に行くなんて… 無理、だよね?」
「…」
マイは嬉しさと驚きですぐに次の言葉を用意することができなかった。
レンは別れではなく、たとえそれが無理でも一緒に上京する事を望んでくれていた。
「無理…だよな、今からじゃやっぱり…」
「ごめんね… 私がこっちでやりたい仕事を早く見つけたから…」
「いや、マイが謝ることないよ。俺がもっと早くハッキリしてれば違ってたかもしれないし。」
「…」
「遠距離になっちゃうな、俺たち…」
「そうだね。」
この日はそれ以上この話題を2人は進めなかった。
進められなかったと言った方が正しいかもしれない。
月日はあっという間に流れ、2人は春を迎えた。
高校の卒業式を終えて1週間が過ぎたある日。
大きな荷物を抱えたレンをマイは駅の改札まで見送った。
「それじゃあ…」
「うん…」
「東京に着いたらとりあえずメールするよ!」
「分かった! 気をつけてね!」
マイはレンが目の前に居るうちは絶対に泣かないと決めていた。
「ありがと! じゃあ!」
レンは普段より何十センチも高い位置で大きく手を振り返した。
(第8章へ続く)
いつもの夕暮れ。
いつもの帰り道。
ただひとつだけ違うのは、やはりあの日以来2人の間に会話は少なめになった。
マイがレンに卒業後の事を問いかけたあの日からだ。
2人の足音、車の通り過ぎる音、下校途中の小学生集団のはしゃぎ声、井戸端会議中のおばさん達の甲高い声などが普段よりも大きく感じられる。
申し訳なさそうにレンが話し始める。
「俺さ、昨日親父と話したんだ…」
「そうなんだ… それで?」
マイは本当は恐くて「それで」の後なんて聞きたくなかったが、きっとレンは話したいのだと思い、そう訊き返した。
「一応OKしてもらえた。」
「そうなんだ… 良かったね!」
マイは暗い表情で「そうなんだ…」と言ってしまった事をマズいと思い、すぐに明るい言葉を無理矢理に付け足した。
「それでさ… 2人で一緒に東京に行くなんて… 無理、だよね?」
「…」
マイは嬉しさと驚きですぐに次の言葉を用意することができなかった。
レンは別れではなく、たとえそれが無理でも一緒に上京する事を望んでくれていた。
「無理…だよな、今からじゃやっぱり…」
「ごめんね… 私がこっちでやりたい仕事を早く見つけたから…」
「いや、マイが謝ることないよ。俺がもっと早くハッキリしてれば違ってたかもしれないし。」
「…」
「遠距離になっちゃうな、俺たち…」
「そうだね。」
この日はそれ以上この話題を2人は進めなかった。
進められなかったと言った方が正しいかもしれない。
月日はあっという間に流れ、2人は春を迎えた。
高校の卒業式を終えて1週間が過ぎたある日。
大きな荷物を抱えたレンをマイは駅の改札まで見送った。
「それじゃあ…」
「うん…」
「東京に着いたらとりあえずメールするよ!」
「分かった! 気をつけてね!」
マイはレンが目の前に居るうちは絶対に泣かないと決めていた。
「ありがと! じゃあ!」
レンは普段より何十センチも高い位置で大きく手を振り返した。
(第8章へ続く)