サードウェイ(第三の道) ~白井信雄のサスティナブル・スタイル

地域の足もとから、持続可能な自立共生社会を目指して

気候変動適応策(adfaptation)とは、脆弱性(Vulnerability)の要素を改善すること

2013年08月10日 | 気候変動適応

1.気候変動適応策とは、脆弱性の要素である感受性を改善し、適応能力を高めること

 

脆弱性という言葉にこだわって、気候変動(地球温暖化)の地域への影響と適応策(影響を防御・軽減するための対策)の研究を行っている。

気候変動の影響は、温室効果ガスの増加とその他の要因の複合による「気候外力」の変化(気温上昇、豪雨の増加等)と人間側の気候外力の変化に対する「感受性」、影響を打ち消そうとする「適応能力」の結果として発生する。脆弱性とは、「気候外力」と「感受性」、「適応能力」の関数である(IPCCの定義)。

この脆弱性を規定する要素のうち、「気候外力」を改善するための温室効果ガスの排出削減が緩和策(いわゆる低炭素策)であり、「感受性」と「適応能力」を改善することが適応策である。

こうした脆弱性の要素をあえて強調する理由は、気候変動の影響を防ぐための対症療法だけが適応策として捉えがちで、根本治療が軽視される(あるいは議論されない)傾向があるためである。

こうした考え方から、気候変動の影響分野(水災害、水質悪化、渇水、農業被害、自然生態系の変化、熱中症、感染症、産業・生活への影響等)毎に、脆弱性の要素である「感受性」と「適応能力」の構造を描きだす作業をしてみた。

そうすると、影響分野に共通する「感受性」と「適応能力」に関する課題が浮かび上がってきた。この分析の結果から、脆弱性の改善としての適応策のあり方や具体像を整理する。

 

2.感受性の根本的改善としての土地利用を再構築する

 

a)  健全な水,大気,熱の循環を目指す土地利用政策

土地利用の再構築は、気候変動への感受性の改善を目指して、水、大気、熱等の自然システムの健全な循環を阻害する要因の解消を目指して、実施されるべきである。土地利用にかかる具体的な適応策としては、水質分野では流域の土砂流出,内水域の汚濁物質蓄積等の解消,水資源分野では流域の保水能力の向上、農業分野では農地の持つ地力の再生、森林生態系分野では生物生息地ネットワークの形成、熱中症では都市内の風の道づくり等があげられる。こうした土地利用の再構築としての適応策について、総合的あるいは個別的な土地利用計画に盛り込んでいくことが必要である。

 

b)  都市に集中する地域構造の再構築

都市に活動が集中している地域構造は、水資源や水災害、あるいは熱中症において、感受性が高い。こうした地域構造を再構築するためには、都市毎に適応の観点から望ましい土地への再集約(コンパクトシティ化)を進めるとともに、より広域的な見地から、都市から農山村等への移住を進め、都市への集中を緩和する施策も必要である。また、日本全体で少子高齢化が進展するなか、縮小に対応する地域構造の再構築が求められている。こうした縮小のデザインに、気候変動適応の視点を盛り込むことが重要である。

 

3. 気候変動の影響における弱者に配慮する

 

a)  感受性と適応能力の両面における弱者への配慮

気候変動の影響における弱者には2つのタイプがある、「適応策の採用上の弱者」と「気候変動の影響を受けやすい弱者」である、熱中症分野において、高齢者は身体的に影響を受けやすい弱者であるとともに、エアコンをつけることに抵抗感が強く、適応策の採用上の弱者にもなっている、また、農業分野では、小規模零細な農家や体力や資金面等で弱い農家では適応策の採用を円滑に行い難い場合があると考えられる。2つのタイプの適応弱者は、上記以外にもあらゆる影響分野において存在する。適応弱者の存在を検討し、適応弱者をターゲットとした適応策を設計することが必要である。

 

b)  社会関係資本の希薄化の解消

社会関係資本の希薄化は、特に水災害、熱中症、農業等の分野での脆弱性を高めている可能性がある、社会関係資本には、結合型社会関係資本と橋渡し型社会関係資本がある。希薄化が進展しているのは結合型社会関係資本であり、橋渡し型社会関係資本は、NPOの台頭やインターネットを介した自由なつながりの広がり等により、強まっている傾向がある。気候被害は属地的な被害であるため、地縁的な共助関係の形成としての結合型社会関係資本の強化が重要であるが、農家の被害等ではそれを消費者側で支えるような橋渡し型社会関係資本の重要性もある。社会関係資本の強化については、適応策を実践しながらその活動を通じて、関係を強めるような方法が有効であると考えられる。

 

4.社会経済システム、国土利用の多様性を高めること

 

a)  農業経営の多角化・多様化

農業分野での脆弱性の規定要因として、農業経営の画一化があることに注目する。農業経営の画一化は,スーパーの登場を背景して、大量生産・大量流通を支えるために導入された産地指定制度が根幹にある。地域において特定の作物、品種等に特化して生産を行うことで、供給を安定させ、地域ブランドとしての付加価値を確立させる方法が、農業経営を画一化させてきた。しかし、地域毎に画一化された農業では,気候被害を受けると壊滅になる恐れがある。被害を一定を範囲に留めるためには、農業経営の多様化を進めるという視点も必要である。

 

b)  自助・互助・公助の多重性

先に示した社会関係資本の希薄化は、「互助としての適応策」の必要性を指摘するものである。ただし、適応策には、「自助としての適応策」(自らの意識や能力の向上)、「公助としての適応策」(行政による防御や支援)がある。国民の生命や財産を守るための公助は必要であるが、それに任せるだけでは限界もある。自助についても、民間以上によって自助をサポートすることも考えられるが、サービスを得るための自己負担ができない弱者が存在する。互助は、暮らしの豊かさを支える人間関係という意味で、あるべき社会を築く重要な基盤であるが、互助だけで気候変動適応を行う限界もある。以上のことから、自助と互助、公助の多重性を確保し、相互に補完し合う強靭さを確保することが必要である。

 

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