私たちの現在の暮らしは、巨大かつ複雑で、連鎖関係が強いシステムに、過度に依存して、成り立っている。このため、豪雨や地震等の強い外力が働き、システムの一部に障害が生じると、私たちの暮らしは停止状態となる(過度なシステム依存の問題)。そして、1つのシステムの障害が他のシステムの障害に連鎖的に波及し、被害が増幅する(複合リスクの増幅問題)。
こうした問題を実感する機会が増えている。例えば、ナショナルジオグラフィックが次のように報道している(2012年8月の記事より)。「東海岸のコネティカット州から西海岸のカリフォルニア州に至るまで、干ばつによる水不足に加えて冷却用水の温度が猛暑で急上昇。数多くの発電所が電力生産量の減少を余儀なくされている。冷却水の水温規制値に関して、適用除外の特例を求めるケースも出ている。 8月12日、コネティカット州南東部のニューロンドン近郊にあるミルストン原子力発電所では、原子炉2基のうち1基が停止した。冷却水として利用してきたロングアイランド湾の海水温度が、測定を始めた1971年以来最高レベルに達したためだ。」
また、最近では、東日本大震災の際、被災地での甚大な被害だけでなく、連鎖的に日本列島全体が麻痺したことが鮮烈である。最大の点としては、福島原発のメルトダウンによる計画停電があり、それが直接被災していない他の原発の運転停止に波及したことがあげられる。この停電により、バックアップ電源を持っていなかったごみの焼却施設で、ごみが燃やせない状況になったことも、筆者は鮮明に記憶している。また、被災地の部品工場の被害で自動車製造等が停止せざるを得なかったこと、阪神大震災では有効な通信手段となった携帯電話が使えない状態となったこと、乾電池(特に単1)の生産が需要に追い付かず、全国各地で品切れになったこと等も、現代文明の足元の脆弱さを気づかされる出来事だった。
最近では、山形県の豪雨で、川の濁度が想定以上に増してしまい、浄水場による処理能力を超えてしまったため、上水の供給は数日にわたり、停止した。本来、その川はきれいな川で、沈澱池の設計規準として想定していた濁度を超えてしまったらしい。 「県企業局によると、村山広域水道が給水を開始したのは1984(昭和59)年7月。現在は寒河江ダムを水源に山形、寒河江、上山、村山、天童、東根、山辺、中山、河北、西川、朝日、大江の6市6町に水を供給している。これら市町が広域水道への参加を決めた背景には、自前の設備の維持と更新に多額の費用がかかるという理由もあった。 広域水道への依存率は大江町の99.6%を筆頭に上山市98.5%、村山市97.3%、河北町94.8%、天童市87.6%と断水が長期化した市町が軒並み高い。」(山形新聞)という。
九州大学の小松先生は、豪雨の際、川の橋に大きな流出物が引っかかり、それが水の流出を遮り、周辺の氾濫をまねていることを指摘している。この流出物には、上流から流出した樹木もある。つまり、水災害は、河川管理だけでなく、道路管理、森林管理とも相互に関連する問題であり、リスクの相互関係を捉えて、その事象に応じた対策をとることが求められる。連鎖する脆弱性について、論文レビューを行ったことがある。例えば、和田(1986)は、災害や事故におけるシステムとしての都市機能の低下・マヒを都市の脆弱性と定義し、電力・ガス・水道・通信・医療等の都市機能の相互関連性から都市の脆弱性を考察している。桜井(1991)や池田(1998)は、システムの巨大さ・複雑さと事故のプロセス、エネルギー・毒物量の絶対量と被害の大きさ、制御の困難さ、モデル化の問題(限定的な想定による設計)、情報公開の問題(秘密保持による不十分さ)等から,巨大技術の不十分さを説明している。
また、タイの洪水で、ソニーのデジタルカメラの生産が停止したように、生産ネットワークの多国籍化の危うさも増大している。原材料の調達、部品生産、組み立て、輸送、あるいは消費、リサイクル、廃棄処分といったライフサイクルの各ステージにおいて、各ソテー時が所在する地域での気候災害、地震、紛争等の影響がありえると想定していくことが必要となっている。
気候変動、エネルギー枯渇(価格高騰)、自然災害(地震)のリスクは相互に関連する。個別のリスク管理に留まらず、これらの相互関係を捉えて、複合リスク全体を管理することが必要であるが、そうした施策検討が不十分である。気候変動のエネルギー需要への影響・発電施設の運転への影響、被災地復興における気候変動リスクへの順応型管理、エネルギー枯渇による気候変動適応策の阻害、自然災害と猛暑が重なることの危険など、複合リスクとして想定しておくべき課題は多い。これらをありえないことだと決めつけたり、予算制約があるから優先順位が低いなどと扱ってはならない。
参考文献)
和田雄志:都市の脆弱性と住民の防災意識(都市と安全対策),都市問題研究,38(6), pp.84-97,1986
桜井淳:巨大技術システムに潜む脆弱性--原発・航空機・新幹線に大事故は避けられない?!,エコノミスト,69(41), pp.88-93,1991
池田論:事故からみた現代技術の脆弱性(特集 事故をめぐって),技術史研究,(65), pp.27-37,1988