サードウェイ(第三の道) ~白井信雄のサスティナブル・スタイル

地域の足もとから、持続可能な自立共生社会を目指して

方言の地理

2008年02月14日 | 環境の地理
1.関連研究の動向

 20世紀初頭、フランスの言語学者J.ジリエロンが、地理言語学を打ち立てている。

 日本では、柳田国男の『蝸牛考』(1927)が日本人による地理言語学の最初の著作とされている。

 また、1953年に発表された東条操の方言区画図は、音韻・アクセント・文法等の言語の各分野を総合的に把握し、日本全土にわたる方言の分類を試みたものとして有名である。

 さらに、1960年代には国立国語研究所によって資料収集調査された『日本言語地図』が作成され、日本における方言語彙の分布実態はかなり明らかになったとされる。


2.関連研究から得られる知見

●方言周圏論

 方言周圏論とは、文化の中心地で生まれた言葉が順次周囲に伝播することによって、同心円的な分布が出来あがると考えるものである。

 柳田国男が『蝸牛考』のなかで、「かたつむり」の方言を使って、京都を中心とした周圏分布があることを示したことが、方言周圏論の最初の証明とされる。

 この考え方では、中心から離れた地域ほど、古い言葉が分布することになり、これを逆算的にたどることにより、歴史を推定することができる。

 その後も、様々な分布事象において、周圏論が適用される現象が発見されている。潜水呼称の分布、「顔」の方言分布、「バカ・アホ」の分布等である。また、方言周圏論の発展したものとして、民俗周圏論がある。この例として、頭がけ背負い運搬法、葬法、エビス信仰等がある。


●語彙による方言分類

 方言を語彙の面から分類するもので、様々な試みがなされている。その1つとして、個々の項目の分布に注目する「分布類型の把握」というものがある。その手法により、明らかにされた分布類型としては、佐藤亮一による次のようなの分類がある。

A.東西対立型(東と西とに分布領域が分かれるもの)

 A1 糸魚川・浜名湖線付近で対立

    あさっての翌日(シアサッテ/ヤノアサッテ)
    煙(ケムリ・ケブリ/ケム・ケブ)
    茄子(ナスビ/ナス)
    鱗(ウロコ/コケ(ラ))
    塩辛い(カライ/ショッパイ)
    いる(オル/イル) 等
                〔/の左が西語形、右が東語形〕

 A2 糸魚川・浜名湖線の西で対立

    曾孫(ヒマゴ/ヒコ)
    細い(コマイ/ホソイ)
    魚(ウオ/サカナ) 等
                〔/の左が西語形、右が東語形〕

 A3 糸魚川・浜名湖線の東で対立

    畦(アゼ/クロ)
    牛(ウシ/ベコ)
    灰(ハイ/アク)
    目(メ/マナコ・マナク) 等
                〔/の左が西語形、右が東語形〕


B.表日本裏日本対立型(日本海地域と太平洋地域とに分布領域が分かれるもの)

    霜焼け(シモヤケ/ユキヤケ) 等
                〔/の左が表日本語形、右が裏日本語形〕


C.周圏型(同心円型)

    顔(ツラ/カオ)
    とんぼ(アキズ/トンボ)
    地震(ナイ/ジシン)
    塩味が薄い(アスイ/ウスイ/ミズクサイ)
    かたつむり(ナメクジ/ツブリ/カタツムリ/マイマイ/デデムシ)
    潜水呼称(ククル/モグル/スム(シム)/カツグ) 等
                〔いずれも/の右側ほど分布の中心に近い〕

D.交互型
  (東西対立型をA-B分布、周圏型をA-B-A分布とすると、ここでの交互分布はA-B-A-Bという分布を示すもの)

    ふすま(カタカミとフスマ)
    舌(シタとベロ)
    いくつ(ナンボとイクツ)
    いくら(ナンボとイクラ)
    大きい(オーキイとイカイ)
    貸す(カスとカセル) 等


【参考文献】

 赤坂憲雄「東西/南北考-いくつもの日本へ-」2000年、岩波新書
 小林隆/篠崎晃一編「ガイドブック方言研究」2003年、ひつじ書房
 真田信治「方言の日本地図 ことばの旅」2002年、講談社+α文庫
 渋谷勝巳「現代に生きる方言」ヨーゼフ・クライナー編『地域性からみた日本』1996年、新曜社
 下野敏見「日本列島の中央と地方」香月洋一郎・赤田光男編『講座日本の民俗学 10民俗研究の課題』2000年、雄山閣出版
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