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気候変動適応策への誤解について、以前に6つの点を例示した。 こうした色眼鏡をはずして、適応策を正しく理解したうえで、各地域で主体的に、地域特性に応じた適応策の検討を行うことが望まれる。
以下、6つの点がなぜ誤解なのか、正しくはどのように考えるべきかを解説してみる。
【気候変動適応策への6つの誤解を解くための解説】
誤解その1.緩和策と適応策はトレードオフの関係にある(あるいは、適応策を行うことは、緩和策を諦めることである)
・緩和策を最大限に実施する(例えば、世界の温室効果ガスの排出量を半減する、先進国は同排出量を7~8割減とする)ことは最優先すべき目標である。しかし、緩和策を最大限に実施しても、気候変動の影響は回避できないため、適応策が必要ある。
・また、既に人類は温室効果ガスを大気中に排出してしまっており、それによる気候変動の影響が既に発生しており、しばらくは緩和策の努力量に関わらず、気候変動が進行する。
・緩和策と適応策について、行政資源配分上のトレードオフはあるとしても、適応策の予算を確保するために緩和策の努力を減らすのではなく、緩和策をさらに進め、必要な適応策を追加していくような工夫をすべきである。お金がかからない適応策、他の施策と統合性のある適応策、地域活性化につながる適応策等を創造する知恵を持つべきである。
誤解その2.先進国は緩和策を担う責任があり、適応策は開発途上国が行うものである
・確かに、過去に多くの温室効果ガスを排出してきた先進国は過去への責任も含めて、緩和策を開発途上国以上に実施すべきである。
・しかし、先進国においても、気候変動の影響は既に発生しており、自らの安全・安心を確保するための適応策は必要である。
・先進国においては、防災のための社会資本整備が遅れている開発途上国等と比べて、気候変動への適応能力は高い状況にあると考えられるが、都市への集中と地方の過疎化が進む中での気候変動への抵抗力(レジリエンス)の低下が危惧される。先進国ゆえの課題を捉えて、先進国の状況に応じた、適応策が求められる。
誤解その3.気候変動の危機をあおり、ハード対策の必要性を強調して、行政予算の確保を狙いとするものである
・これまでの水災害対策はハードウエア(施設、設備)による防御を中心に行われてきたが、想定を超える被害があることを前提にしてソフトウエア(制度、情報等)やヒューマンウエア(主体の意識、コミュニティ等)による影響最小化が重要となっている。
・適応策については一定のハードウエアの整備が必要だとしても、むしろハードウエアを整備すること自体が被害を拡大させる恐れもある。例えば、ハードウエアの過度な依存によるヒューマンウエアの軽視、行政制約によるハードウエアの維持管理の不足等である。
・つまり、適応策は、ハードウエアとソフトウエア、ヒューマンウエアを適切に組み合わせて実施すべきものである。一時的に、ハードウエアの整備だけを進めることは、他のふさわしい代替案の機会を損なう可能性や別の側面での問題を発生させる可能性があることを十分に配慮し、慎重に検討されなければならない。
誤解その4.現在の気候被害は既に実施されており、既存施策を強化すればよく、さらに追加すべき対策はない
・確かに、農業分野や水災害分野、熱中症等の分野では、現在既に深刻化している気候被害に対して、これまでにない対策を進めてきている。しかし、気候被害に対する対策を十分に検討していない分野もある。各地域においては、気候変動の現在あるいは将来的な影響を点検し、適応策の実施方針を体系的に作成しておくことが求められる。
・また、現在の施策に実施すべき適応策の方向として、「感受性の根本改善」と「中長期的影響への順応型管理」の2つがある。 「感受性の根本改善」の施策は、対症療法ではなく、地域社会のあり方に係る根本治療である。長期的な視点から適応社会を構想し、実現していくためには、土地利用や産業経営、地域経営戦略に、気候変動影響への「感受性の根本改善」の視点を盛り込んでいくことが必要である
・「中長期的影響への順応型管理」とは、モニタリングや予測などの最新の科学的知見を活用しながら、状況に応じて柔軟に施策を見直す計画的な管理手法である。
誤解その5.気候変動の将来影響は不確実であり、不確実なことへの対応は後回しでよい(優先順位が低い)
・現在発生している確実な問題と将来起こるかもしれない不確実な問題を比較した場合、前者に優先的に取り組みことは当然である。
・しかし、優先順位が低い将来の不確実な問題への対策を何も実施しないというゼロサムは問題である。
・先に示した「順応型管理」は、予測される多様なケースに対して代替案を用意しておき、状況をモニタリングしながら、可能な範囲で先を予測し、被害の深刻化を先取りして対策を実施していく方法である。この「順応型管理」の方法は、実際の政策として具体化された例が少なく、新たな管理手法として具体化し、導入していくことが望まれる。
誤解その6.適応策の分野横断的な検討が必要ではなく、各分野に気候変動への対策を組み込めばよい(メインストリーム化)
・途上国では、適応策のメインストリーム化という考え方が適切である。なぜなら、都市計画や河川整備、道路整備等をこれから進める場合に、その立地選定・配置、設計等において気候変動の視点を組み込むことが有効であるためである。
・しかし、日本等では、既に社会資本整備が一定の水準にあり、個々の社会資本整備が適応策として必要というよりは、各施設間の連鎖や行政分野横断的な部分に適応策として取り組むべき課題が多く残されていると考えられる。ひいていえば、行政分野の縦割りの弊害で十分に対策が行き届いていない部分に、気候変動の影響が生じやすく、従来施策へのメインストリーム化というよりは、従来施策の再構築を図るというような視点が重要である。
・また、気候変動適応策については、将来影響予測情報を共有するとともに、ここに示したような適応の哲学を行政分野横断的に共有し、その哲学を各分野に持ち帰って具体化することが必要である。
荒っぽい解説であるが、視点として記述した。
最期に、気候変動適応策を考えるうえで、根本的に共有すべき重要な視点を以下に示す。
人類は、気候も含めた自然システムに絶大な影響力を与える存在であることを自負しなければならないが、自然システムのすべてを解明して、将来を予測することや、自然の猛威を技術で完全に制御することは不可能である。気候変動の緩和策とは、自然システムを変えてしまう冒涜への反省として実施されるべきものであり、適応策とは、自然システムを解明・制御できるという不遜への反省として実施すべきものである。人類は、自然を尊重し、謙虚に付き合わないといけない。