1)スマートシティのイメージ
日本のスマートシティは、分散型電源である太陽光発電の大量普及を中心に発想されている。このため、分散型の発電とそのオンサイトでの需要との調整を行うこと、つまりスマートハウスあるいはスマートビルを中心に検討されている。住宅や業務ビルで、需給調整を行うシステムが、HEMS(ホームエネルギーマネジメントシステム)あるいはBEMS(ビルエネルギーマネジメントシステム)である。
そして住宅やビルの個別で調整しきれない余剰電力あるいは不足電力について、地域内での相互融通を調整する情報システムがCEMS(コミュニティエネルギーマネジメントシステム)である。
スマートハウスのイメージをみてみよう。スマートハウスで電力需給を調整する装置がスマートメーターである。狭義の意味でのスマートメーターは、電力の計量を通信で行ったり、遠隔制御で電力供給の開閉を行う装置のことをいう。これに加えて、スマートハウスの中心となる広義のスマートメーターは、電力消費や電力料金を「見える化」して、省エネを促したり、太陽光パネルによる発電と家庭での電気機器での消費の調整、余剰分の蓄電や売電を調整する。
スマートメーターとともに、スマートハウスの象徴的な存在が住宅用太陽光発電と電気自動車である。電気自動車は、電気を消費するだけでなく、蓄電の役割も担う。余剰電力が発生した時にはそれをオンサイトで蓄える方が送電によるロスも少ないと考えられる。また、太陽光発電が発電できないとき、あるいが外部からの電力供給がストップしたときには非常用電源としても使用できるという考え方である。
2)スマートシティの原型としての情報化未来都市構想
HEMSやBEMS、あるいはCEMSは決して新しい発想ではなく、1980年代の情報化未来都市構想や2000年代のユビキタスネットワークの検討の中で、示されていたものと基本的には同じである。
情報化未来都市については、通商産業省(当時)が1985年に提唱し、学識者、企業、地方自治体等をメンバーとする委員会が設けられ、構想の具体化とフィージリビリティ・スタディが実施された。当時は、まだパソコン、携帯電話(スマートフォン)、インターネットが普及していない段階であり、大容量の通信技術が広く普及はこれから実現していく未来のことであった。
このため、大容量の通信インフランを特定のエリアに集中的に整備し、そこに多様なインフラを導入しようとしたのである。当時検討されたマルチメディアネットワーク、エリアマネジメントシステム、ICカードシステム、ホームマネジメントシステム、都市交通情報システム、医療総合情報システム等は、その後に実現をしてきたものばかりであり、まさに先見の明を持って構想がつくられたと言えよう。
情報化未来都市で構想された都市は、国際経済活動、先端技術開発、情報・文化都市、アーバンリゾート等の拠点を目指すものであった。情報や知識、産業、人の集積による「アーバン・フロンティア」を目指す一方で、フェイス・ツー・フェイスのコミュニティケーションや緑や水の豊かな生活環境の確保を重視するという視点も盛り込まれている。
太陽光発電の大量普及やそれと電気自動車を組み合わせるという発想は、当時の情報化未来都市にはない。情報システムだけでなく、スマートハウスやスマートシティを構成する役者がようやく舞台に立ちことにより、ICTによるエネルギー管理が具体像を表し、日の目を浴びるようになってきたのである。
以上がスマートシティの原型である情報化未来都市の説明である。ICTの多方面への応用可能性を探った情報化未来都市に対して、スマートシティは、マートグリッドを中核技術として、エネルギー管理を入口して検討されている。
3)スマートシティの発展方向
スマートシティは、エネルギー管理だけでなく、スマートグリッドを活用する様々な可能性を探っている。可能性のある発展方向の具体例を以下に示す。福祉分野まで展開する方向性は、環境モデル都市、あるいは環境未来都市を、ICTの活用という側面で総合的に展開していくことになる。そして、情報化未来都市で構想したICTを利用したまちづくりの姿に近いものとなるだろう。
A. 電気だけでなく、ガス、熱、あるいは水等も扱うようにして、エネルギー・資源の総合管理システムへ発展させる。
B. 技術だけでなく、社会経済システムと組み合わせる。例えば、家庭での省エネ分でポイントが貯められるようにして、そのポイントで買い物等ができるようにする。
C. エネルギーや資源だけでなく、災害警報や遠隔医療、高齢者等の安否確認、遠隔教育等に使えるようにする。
D. 住宅や都市で完結するのではなく、都市と農山村との連携を促すようなシステムに発展させる。
E. 家電や電気自動車等のリース・レンタルのシステムをつくり、使用料に応じて課金する仕組みをつくる 等々