サードウェイ(第三の道) ~白井信雄のサスティナブル・スタイル

地域の足もとから、持続可能な自立共生社会を目指して

適応型社会の条件

2011年05月22日 | 気候変動適応

 温暖化適応の研究プロジェクトで、個人的にこころがけていることがある。次の5点である。

①温暖化の影響に対する対症療法だけにならないようにすること。つまり、脆弱性の改善という根本治療に踏み出すこと。

②適応策の実施が、より豊かな社会や経済、暮らしの創造に結びつくようにすること。

③温暖化影響という専門的知見に基づき専門家が適応策を検討するのではなく、市民が主体的に適応策に取り組むようにすること。

④技術や制度の限界を踏まえ、自然にあがなうのではなく、自然の力を受け入れ、活かすような方向で適応策を考えること。

⑤地方自治体と地方研究機関が、行政分野横断的に連携して、地域の特性に応じた適応策を地域独自に検討し、実行できるようにすること。

⑥適応型社会の主役を、地方の中小都市や農山村とすること。 

 少し補足する。

 ①の根本治療としての適応策については、地球温暖化対策としての緩和策(低炭素施策)の反省でもある。かつて、温暖化問題がクローズアップされたはしりの頃は、温暖化問題はライフスタイル問題(文化・文明問題)と言われたと思うが、いつのまにか、これまでの文化・文明をより発展させながら、同時に温暖化問題を解決するため、技術の高度化とその積極的導入が対策の柱になってしまった。これまでのやり方の変革を先送りするような形で、適応策を検討してはいけないと思う。

 ②適応策の検討のためには、地域への温暖化の現在及び短期、長期の影響を知ることが不可欠である。そのマイナスの影響を解消するのが適応策となりがちだが、それだけではない。温暖化の影響は、人間社会の弱いところに現れるのであり、その弱さを改善することが適応策である。また、地域が本来持っている強さを見直し、活かすことが適応策だと考える。

 ③温暖化の将来影響は、将来の気候予測モデルに基づき、専門家が計算をしないと、市民が感覚的な方法で把握できるものでない。しかし、適応策においては市民一人の意識や行動が不可欠であり、将来の温暖化影響を市民が理解し、考え、適応策を合理的に立案することが必要となる。そして、専門家と市民とのコミュニケーション手法やリスク・不確実性という考え方のリテラシー向上など、新たな方法の開発と普及が必要となる。

 ④の視点は、震災復興や日本再生につながる。自然にあがなうためにひたすら堤防を高くするという発想が、想定後の場合のダメージを大きくしてきたと思う。自然の力は常に人の力を超えるものであり、人の予想がはずれたとき、そのダメージを如何に少なくするか、それを考えるのが適応策である。また、省エネ思想では、アクティブ思想とパッシブ思想があるが、自然の力を受け入れて活かすパッシブ思想を見直す必要があろう。

 ⑤気候やその影響は、地域特性によって異なるため、地域の研究機関が地域への影響をきめ細かく把握し、地域の主体にそれを伝え、ともに対策を考えることが不可欠である。また、気候変動に対する適応の仕方は、自然と直接向き合う中で形成されてきた地域の伝統文化の中に見出すことができるだろう。

 ⑥温暖化問題の被害加害構造を考えると、エネルギーを大量に消費し、二酸化炭素を排出する大都市が加害者であり、地方が被害者である。地方では、高齢化や過疎化、経済停滞等によって弱っており、このことが温暖化の影響を大きくしている。地方は、現在、弱っている地域であるが、本来は自然と付き合う知恵を形成してきたしなやかな強さをもった適応先進地であると思う。その先進性を取り戻し、自然を受け入れる構造を持たない大都市から適応難民を受け入れる受け皿となる可能性がある。

以上、あくまで個人的に。。。

 

 

 

 

コメント (2)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 山村にとって、地球温暖化は... | トップ | 第19回環境自治体会議「にい... »
最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
長くてスミマセン。 (フランジィ)
2011-05-22 21:45:20
こんにちは、白井さん。

②について。
結局は経済論理で地域も疲弊してしまうような気がしています。地域が魅力あり、主体性を発揮することが可能な、人間いや文明の価値観転換、ダイナミズムの転換が必要なのでは。

③について。
市民と「ひとくくり」にしても、いろんなレベルがあると思います。ずっと昔からコミュニケーションの開発、双方向の情報流通のあり方など十分に研究されてきたのでは?また、市民も生活に忙しいのが本音です。さらにマスコミによる情報の流し方の研究もぜひお願いしたいところです。

⑥について。
エネルギーについても基本的に地産地消で考えられないでしょうか。都会での振動発電、それが許容範囲内での文明のあり方を考える、なんて楽しいかも。かえって自然エネルギーが豊富な田舎の方が生活レベルを高くできると、ヒトの流れも変わるのでは?

長くなってスミマセン。
決して批判ではないです、白井さんの貴重な見解を楽しみにしています
返信する
フランジィ君、コメントありがとう。 (白井)
2011-05-23 06:42:09
久しぶりのコメントをありがとうございます。

②について。そうですね、「環境統合経済」は温暖化適応を取り込んで、産業化を進めることになると思います。ただ、そこで欠けているのが、ご指摘のような社会や生活、人間の視点だと思います。「環境・社会統合経済」というより進んだ経済への移行を進めなければいけません。今回の震災は、そのきっかけを私たちに与えてくれたと思っています。

③の市民参加についてです。確かに市民参加における制約もありので、市民一人ひとりがおかれた状況に応じて、参加の程度や仕方を選べるようにすることかと思います。ご指摘のように、情報通信技術をうまく使った参加システムも考えられます。また、市民代表が専門家の知見を得て、気候変動適応を議論し、その結果を広く公開することで、さらに議論を進めるようなコンセンサス会議を、日本で定着させていきたいものです。

⑥のエネルギーの地産地消についてです。地熱、水力等の自然エネルギーやバイオマス資源は農山村に豊富ですので、やはり主役は農山村です。大都市に追随しない、これまでの時代の慣性にのらない、農山村独自の地域づくりを再生・創造していくことが必要なんだと思います。

回答になったでしょうか。
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

気候変動適応」カテゴリの最新記事