はじめに 求められる地域マネジメントと本書の構成
今日、マネジメントは様々な分野で使われる言葉である。経営の分野では、アメリカの経営学者P.F.ドラッカーの生み出した概念とされ、組織に成果をあげさせるための道具・機能・機関と定義されている。
ものづくりの分野では、人・設備・材料・方法を投入して、品質・コスト・納期の要求に応えることをマネジメントという。
環境マネジメントといえば、組織や事業者が環境に関する方針や目標を自ら設定し、これらの達成に向けて取り組んでいく自主的な取組みである。
行政面からいえば、目標と現状のギャップ(問題)を解決することを政策というが、政策を実現する施策や事業を体系的に組みたて、その進行管理を行うことが政策マネジメントだといえる。
まとめると、マネジメントとは、課題を解決するために、目標を持ち、それを実現するための取組みを総合的かつ論理的に実現していくことである。
では、地域マネジメントとはなにか。包括的に定義すれば、①地域の現在及び将来の課題を解決するために、②狭く囚われない、幅広い視野をもって将来像を描き、その実現のために、③様々な専門的な理論や方法を組み合わせて用いて、④地域の関係者の参加と協働を調整して進め、⑤地域の調査・分析と計画、実践、評価・見直し等を一貫して行うこと、と定義できる。
本書のタイトルは、地域マネジメント草書とした。草書とは早書きという意味では決してなく、草分け、草の根という意味を込めた造語である。地域マネジメントという未熟な方法論を開拓し、地域の現場で考え、実践に活かしていこうという姿勢を現わしている。
日本では、これまで、地域で生じている(あるいは生じることが予測されていた)問題への根本対策を先送りにして、諸問題への対策が後手後手となってきた。少子高齢化、地域の消滅可能性の高まり、財政難による行政維持の困難化、社会資本の維持管理・更新の問題、温室効果ガスによる気候変動の影響等、顕在化する諸問題は、1980年代・1990年代からその発生が予測できていた。また、世界的な人口爆発と経済活動の拡大が進行するなか、日本は人口減少、低成長時代となり、将来的にも諸問題の深刻さが加速する。
もはや問題を先送りにすることはできない。問題を解決するための将来像を共有し、地域マネジメントの方法を実践していかなければならない。
本書は、山陽学園大学地域マネジメント学部の教員が分担して執筆をした。同学部は地域の課題解決に貢献する人材育成を狙いとして、地域の実習を重視する。地域マネジメントという方法論を共有し、教育に活用する教科書として、本書を作成した。
また、本学部が活動のフィールドとする岡山県では、先進的な地域づくりが進められている。これらの取組みを本学部の教員が学びなおすともに、全国各地の人々に知ってもらいたい、それが本書の狙いである。地域マネジメントに関心がある全国の大学生、地域で活動する方々が本書の対象である。
執筆は本学部の教員の分担とした。経済学、経営学、工学、法学、環境学といった専門の異なる教員が各々の切り口から地域のデータや取組みを分析した。個々の分析の相違と異分野が織りなす、触発的な面白さを感じていただければ幸いである。
本書は、地域の現状と課題の整理(第1章)、岡山県内の岡山市、真庭市、西粟倉村の取組みの紹介(第2・3・4章)、問題提起と意見交換を行った座談会と全体まとめ(第5章)で構成する。個別の事例に興味がある方はそこだけ読んでいただいてかまわないが、全体を通読すると、本書のメッセージが伝わるはずである。
なお、取り上げた3地域以外にも岡山県内には注目すべき取組みがある。今回は、現段階で学部や教員の縁が強い地域を取り上げた。さらに多くの地域との関わりを深め、分析をさせていただきたい。また、地域マネジメントの方法論に関する具体的な理論や手法を示す書籍は、次の機会としたい。繰り返すが、本書は“草書”である。
*****以下、目次*******
はじめに 求められる地域マネジメントと本書の構成
第1章 地域の現状と未来
1.地域の縮小とひっ迫
2.地域を取り巻く動向
3.地域の未来に向けて
第2章 岡山市の取組み
1.岡山市の概要と取り上げる事例
2.持続可能な社会のための教育と地域づくり
3.天満屋と地域発展
4.浸水対策推進条例による安全・安心なまちづくり
第3章 真庭市の取組み
1.真庭市の概要と取り上げる事例
2.木質バイオマス利活用の取組みの創出
3.勝山地区における地域特産品づくり
コラム:真庭市でマップ作り-山陽学園大学の地域活動-
第4章 西粟倉村の取組み
1.西粟倉村の概要と取り上げる事例
2.ローカルベンチャー
3.地域再生における女性と起業
4.再生可能エネルギーによる地域づくり
第5章 岡山県内の取組みから地域の未来を考える
1.地域マネジメントの視点と論点(座談会)
2.未来志向の地域マネジメントのあり方
あとがき 地域マネジメントにおける大学の役割