白珠だより

札幌にて美人画と武者絵を扱っております白珠画廊のブログです。

恋に死ぬ

2018-06-06 | 画廊の様子
   かくしてそ人の死ぬといふ藤波のただ一目のみ見し人ゆゑに
                   万葉集  巻12 3075

     ~ただ一目だけ見た人が忘れられず、恋の苦しさにたえられません。

艶やかに波打つような藤の花房を表す美しい言葉があります。
影藤は水面や見上げる人の足元に映る花影、そして藤姉妹とは日本にある二種類の
野田藤と山藤を云うとか。
藤浪は初夏の風に揺れる花房を美しく表現した言葉でしょう。
揺れる花房に思わず頬をつけるとふんわりと甘い香りが漂い花びらがこぼれます。

   恋しけば形見にせむとわが屋戸に植えし藤波いま咲きにけり
                    山部赤人

藤色は青紫系のなかのいちばん薄い色で平安時代にはもっとも美しく高貴な色として
愛され「枕草子」にも度々、におうように美しい女性が藤衣を身に纏い登場します。
近代では藤色の着物の女性がヒロインとして数々の小説や美人画に描かれました。
樋口一葉の「たけくらべ」の美登利は藤色絞りの半襟や桃色を襦袢にかけていたよう
です。色白で目が輝き少し口が大きくて、ぬりぼっくりをはいて走り回る少女はやがて
美しい京人形になっていくのです。

   遠い人おもへば悲しゆく春の藤波の花ほろほろと散る
                     佐々木信綱


       今日の一枚の絵 「晩春麗姿」  高畠華宵  ポスター

ここ、三日続けての夏日で花びらがほろほろこぼれ始めました。
日毎に日の光を浴びて様々な緑は重なり合って深くなっていきます。
私は藤の花房の艶やかなその美しさの厚み重み揺らめく景色の鮮やかさに、
その中に秘められた儚さが怖くも感じられてしまうのです。
この華宵の絵の女性のなんと美しく気品に満ちていることでしょう。 s・y


              数日前  近くの公園にて

    かさねの色目    藤  表 薄色
                 裏 萌黄  藤の衣の季節 旧暦の三月から四月


風光る

2018-05-04 | 画廊の様子
水分をたっぷり含んだ地面から柔らかな湯気が湧いています。
うららかな春の日、心にも光が射して来ました。あの厳しい
冬を今無事に乗り越えた安堵の気持ちで安らいでいます。
たった一日、散歩を空けると林や森や野原の桜色、萌黄色、
白の美しさがいっそう深くなっているのに驚いてしまいます。
桜色は紅染めのもっとも淡い色です。日本の春は南から北まで
幾日もかかって濃くも淡くも順にこのピンクに染められて行きます。
平安時代から人々にもっとも愛されてきた日本の色です。

「今日の一枚の絵」の主人公はまるで光る風を通り抜けて来たような
初々しい女性です。
ふと、あのプラハの春、自由を求め、民主化を求めたチェコスロバキアの
人々の一人、五輪の名花と今も私たちの心に残るベラ チャフラフスカの
面影が浮んできます。
どんなに長い年月、時の政府から迫害を受けようとも心を曲げなかった人、
不幸なことが幾つも重なったにも関わらず凛として生き抜いたひとです。

五輪の競技を通して交流のあった日本人への深い信頼と親しみはその生涯
変わることはありませんでした。

このことは以前、作家の長田渚左氏「桜色の魂」を読んで知りました。

日本を愛したベラは彼女の優美で流れるような演技に込めた桜色の魂と
一人の日本人から贈られた日本刀のサムライ魂をその生涯、美しい日本の
心として愛し、凛として生き続けたのです。
        ベラ チャフラフスカ  1942~2016年
                  
                    女子体操  金メダル         
                     
                     ’64 東京 
                     ’68 メキシコ
                        
今日の一枚の絵  「春浅し」   岩田專太郎 木版


        春 たまごのグラタンを……美味しい!  s・y


端午の節句

雪化粧

2018-03-02 | 画廊の様子
嵐は去っていき、窓の向こうは静かな夜の帳が降りて来て、もう春の星たちが
出番を待っています。

明日はお雛祭り、ひと月も前からお飾りしたお雛さまのお顔は日毎に
ぼんぼりの灯りの中で優しく美しさを増していくように思えます。
細やかなしっとりとした春の雪はお雛さまのお顔にのせる白粉のよう。

大伴旅人の作と言われる「松浦川に遊ぶ」の歌とその漢文の序にひとりのたびびとが
川のほとりで魚を釣っている乙女たちに出会う話の中で~柳葉を眉のうちに開き
桃花を頬の上に発く~と乙女たちを描いたのはお雛さまの美しいお顔と重なります。

明日はとびきり美味しくて美しいちらし寿司を作ってお供えしましょう。s・y

今日の一枚の絵   花嫁人形  蕗谷虹児   色紙 プリント

   ひな祭り   ♪お嫁にいらした姉さまによく似た官女の白い顔~(^^♪

初鏡

2018-01-20 | 画廊の様子
今日はもう正月二十日、新年の祝い納めです。
日本中のそれぞれの地方で様々な行事を終え、お正月のお供え物を
残さず感謝して頂き、新しい力にしてスタートする日です。
お正月は心をリセットする大切な一年の節目です。

子供の頃の元旦の朝には、枕元に新しい下着と母の手編みのセーターが
おいてありました。
冷たい空気の中でそろそろと着替えると心も体もすっきりとして
子供ながらに何か新しいことを始めたいなと張り切ったものでした。
髪にリボンを結んで寒いけれどスカートをはいて、お行儀よくふるまったのは
幼い女の子の新しい年への一歩を踏み出す意気込みだったのでしょうか。

春を寿ぐために、一番に良い着物、新しい着物に袖を通して美しく装うのは
その昔、春衣、正月小袖といってそれを纏う歓びは特別だったことでしょう。

平安貴族の女房たちは季節の色を衣に映して楽しみました。
春着の襲の色は先ずは「梅」~表は白梅で裏は蘇芳~、次は「紅梅」~紅梅で
裏は蘇芳~など。
「若草」~表は薄青で裏は濃き青~など。

  天武天皇とその妃藤原夫人の雪の日のラブレター

      我が袖に降りつる雪も流れゆきて妹が手下にい行き触れぬか

      梅の花ふり覆ふ雪を包み持ち君に見せむと取れば消につつ

今日の一枚の絵  「コンパクト」  宮下柚葵  肉筆

 初鏡  初化粧をする華やぎのある顔を写す鏡~その心

みなさま、いかがお過ごしでしょうか。
ご挨拶が遅くなり大変失礼を致しました。
新しい年が佳き一年でありますようにお祈りいたします。
今年もどうぞよろしくお願いいたします。  s・y













ほんとうのさいわいをさがしに行こう

2017-12-31 | 画廊の様子
シュウシュウごとごとシュワシュワと遠慮がちな小さな音が聴こえて来ました。
まだまだ夜が明けないのに何かしら?
カーテンの隙間からおもてをのぞくと、そう雪です。
今年初めての除雪車が雪の花びらを空に舞いあげていました。
冬の足音があたりに響いています。

暮れ行く今年、寂しさが一入心に漂います。

国を追われてさまよう多くの人々、戦争の焔、悲しいことがあふれています。
賢治さんの「銀河鉄道の夜」の中には~ほんとうのしあわせってなんだろう~と
くりかえし、くりかえしジョバンニとカンパネルラの間で語られています。

新しい年はもうすぐそこに……
「ほんとうのしあわせ」とはなんだろう、どこにあるのか、みんなのしあわせ、
ひとりのしあわせ……を探す旅に出かけましょう。

拙いこの白珠の部屋をお訪ね下さりありがとうございました。
新しい年が健康と幸せに満ちた一年でありますように。 s・y

今日の一枚の絵  「雪の夜の伝説」 竹久夢二  リトグラフ