白珠だより

札幌にて美人画と武者絵を扱っております白珠画廊のブログです。

木の芽はるは「春」!

2019-03-07 | 画廊の様子
    

    霞たち木の芽はる雨きのふまでふる野の若菜けさは摘みてん
                        藤原定家

二十四節気の啓蟄、大地が温まり眠っていた命が大きいも小さいも一斉に息を
吹き返す時季です。北の街はまだまだ雪が残っていても雪解けのかすかな音に
心が弾みます。
木の芽が膨らむのはもう少し先、梅や桃、桜はあとふた月近くも待たなければ
いけません。

兼好法師は白梅と薄紅梅を愛でて「梅は白き、薄紅梅、ひとえなるがとく咲きたるも、
かさなりたる紅梅のにほいめでたきも、みなをかし。おそき梅は、桜に咲きあいて、
覚えおとり、けおされて、枝にしぼみつきたる、心うし」と。
南の地では樹に花咲き薫る頃、お先にどうぞです。

桃の節句のお祝いをしました。桃の花、菜の花、ちゅうりっぷ、
フリージアなど花屋さんでのお買い物と、鯛ならぬ鱈の切り身などお供えの
材料を見繕って雪の中を帰宅、なんとかおひなさまのご膳を整えました。
鱈は桃の花のピンクのそぼろにして桃の色ご飯に。可愛く仕上がりました。

花の時季は梅が先、厳寒に耐えて春、百花に先がけて咲き薫ります。
中国では「君子の花」とよび国花にしています。
   春さればまづ咲くやどの梅の花ひとり見つつや春日暮らさむ  憶良

桃は中国では仙木、仙果と呼び霊験あらたかな植物とされていて
桃の節句にはその花を供えて子供の健康と幸せを祈る風習があります。
   春の園紅にほふ桃の花下照る道に出で立つ娘子  家持
日本の色、日本人の愛する古典の歌です。

北国では木の芽が膨らむと梅、桃、桜は一斉に開花してその美しさを競い合います。 
長い冬の厳しさに耐えた私たちへのご褒美でしょうか。待ち遠しい日々です。

画家の故堀文子さんは画文集の中、「花のなかに描かれた蘂~しべの程よい気品。
まさに梅は百花の王たるに相応しい清冽な厳しさを湛えている。その美しさは、
一種の冷えた薫がある。」と。

今日の一枚の絵  「春近し」   竹久夢二    木版

皆さまは梅派ですか?それとも桃派?あ、桜ですか?
私は桃かしら。桃色は女性の肌着などに使われた身近な色、ちよっと
セクシー系のカラーと思われても仕方がないけれど、お雛さまの色ですから、
大人の女性たち、お年頃の乙女たち、小さな少女たちを魅力的にレデイとして
装ってくれる素敵なお色であるとと思います。  s・y
~春よ来い早く来い~

                                     





若菜のお粥をいただいて一年の無病息災をいのります。

2019-01-07 | 画廊の様子

明けましておめでとうございます。

久しぶりにお粥を炊きました。窓の向こうにふんわり積もった雪のように
真っ白で美しいのです。
青菜を刻んで振りかけるとお椀の中でいっそうその美しさが輝きました。
一掬いずつゆっくりとほおばるとまろやかな甘い香りがして口の中に
いっぱいに春が広がりました。     
                      s・y

ミセレーレ 

2018-12-24 | 画廊の様子
クリスマス イブによせて~

今日の一枚の絵  「聖顔」  ジョルジュ ルオー 1871-1958
 
  ルオーは二十世紀最高の宗教画家と言われ、その生涯において六十点以上の
「聖顔」~キリストの顔を描きました。
キリストの顔を真正面から描くことで神との対話を続けました。
社会の矛盾、無秩序、戦争の愚かさ、人間の罪、自らの人生における
挫折や悲しみへの救いを求め、神への愛とさらなる信仰を持ち続けることを
絵画を通じて描くことで祈り続けました。

聖顔、道化師、戦争の悲惨さを描いた銅版画、キリストの佇む風景画など
様々な絵画の中に信仰とは何かキリストとは何かを問い続けた生涯でした。

「ミセレーレ」~神よ我々を憐れみたまえ~ 詩編51 救済と鎮魂の祈りです。

          私の手元に一枚の絵はがきがありました。
          キリストご誕生のお祝いの日に静かなこのお顔を
          見つめてミセレーレと祈ります。
                            s・y
 
この一年、この小さな拙い部屋にお訪ね下さりありがとうございました。
心からお礼申し上げます。
新しい年が光に満ちた一年でありますようにお祈りいたします。
                            s・y 
私の庭にちょっと魔法をかけました。 フフフ            

黒いダイヤ

2018-10-11 | 画廊の様子
夜中の地震の揺れそして停電が長い長い時間のように思われました。
懐中電灯と携帯電話のわずかな光、小型ラジオの小さな声がどんなにか頼りに
なったことでしょう。
待ち遠しかった夜明けがやって来て朝の光が家の中に射しこみました。
小さなものがそこここに転がっていたけれど、大きなものは無事でした。
あ、足元になにかしら。これこれ、西郷どん!
箪笥の人形ケースのガラス戸がすれちがいに開いて隙間から落ちたのでしょう。
大きな瞳を見開いています。これくらいの揺れではびくともしない男子ですもの。
黒いダイヤと呼ばれ親しまれたたその瞳は真っ直ぐに新しい時代を夢に見つめて
いました。
その焔のように燃え尽きた生涯は正義と友情のためなら鬼にもなったことでしょう。
維新の豪傑と言われ、世の中を一心に見続けた瞳は今も人々を魅了しています。

今夏、地球に大接近した赤い星は焔星と呼ばれる火星です。
赤く燃える石~透き通った輝きで東南の空にあり、見上げる私たちを見守っています。

西郷どんは明治十年、西南戦争を起こし政府軍と戦い半年の後に虚しく敗れて
城山で自決しました。
この年、九月三日に火星が地球に最接近し、夜空に不気味に輝やきました。
人々は「西郷が星になった」と語りあったと言うことです。
それから火星は「西郷星」とも呼ばれるようになりました。

ゴッホの「星月夜」の夜空に描かれた美しい色の波のなかに秘かに紅い輝きを放つのは
火星~Mars.の光なのでしょうか。

この夏、カーネリアン~紅い石、瑪瑙が夜空に輝いているのを眺める度に、胸がきゅんと
なるのを楽しみました。                 s・y

秋ですね。




役者色

2018-07-23 | 画廊の様子
今日から夏の最後の節気「大暑」です。極熱の盛んなる時、季節は正しく
廻って来て、お昼のニュースでは関東地方で観測史上最高の41度を
越えたそうです。耐えられない蒸し暑さ、心からお見舞い申し上げます。

散歩道の土手の茂みに真っ白な十字の花の群れを見つけました。
どくだみ~十薬、なんて清潔な姿でしょう。
濃い萌黄色~深い夏の緑の葉の重なりの隙間を縫って風が通り抜けると
七色の紫陽花がゆらゆら右へ左へ。雨をたっぷり吸い込んで美しい様々な
違いの茶色に染まった地面を黄金色の陽の光が温めています。

水や土、樹や葉や花、実、自然の中にある様々なものから名づけられた
日本の色名は美しくゆかしくあります。

今日の一枚の絵  役者絵  錦絵  豊原国周 「団七九郎兵衛」 木版
                  
              九代目 市川團十郎 四代目 沢村源之助
         興行名  「花菖蒲慶安実記」 明治16年         
         外題   夏祭り浪花鑑  
                     
歌舞伎の舞台を覆う定式幕は勢いのある太い縦に並んだ黒、柿色、濃き萌黄で
なんとも粋で力強い色合いなのです。

お江戸のスター、アイドルは歌舞伎役者で彼らの身に着けるものは髪型、衣裳、
アクセサリーなどたちまち大流行しもてはやされました。しかし、江戸の中期
からは度々奢侈禁止令が出されて庶民の暮らしの全てに厳しく制約が課されました。
地味で洒脱で粋な江戸の文化がここで生まれました。
お茶の葉を煮出して作った茶色は厳しい制約の中で様々なニュアンスの色が工夫して
世に出されました。團十郎茶は代々の團十郎が狂言の衣裳に使った茶色で柿渋と
弁柄~土を焼いて作った顔料~で染めた色です。四十八茶百鼠という言葉もあります。

今日の一枚の絵 くにちかの團十郎は粋で洒落た柿渋茶(團十郎茶)の格子柄は
素敵ですね。江戸っ子が憧れるのは無理もねえ!

私は海老茶が好きです。明治の女学生たちの袴姿素敵ですもの!
もち!海老さまもね!       s・y