白珠だより

札幌にて美人画と武者絵を扱っております白珠画廊のブログです。

紫匂う

2014-06-05 | 画廊の様子
~この花のひとり立ちおくれて、夏に咲きかかるほどなん、あやしく
心にくく、あはれにおぼえ侍る~と紫のゆかり深い「源氏物語」には
藤の花についてこのように描いています。
春の風に花のつぼみがうながされ、夏の風に揺すられてやっと花房が
目を覚ます、季節のはざまの中でいたずらっぽく微笑む藤の花を待ち
わびる心なのでしょう。
明石から都に還った光源氏が朧月夜の君に再会する藤の花の宴では
 沈みしも忘れぬ物をこりずまに身も投げつべき宿の藤波 と詠います。
なんと甘くしっとりとした大人の愛の告白でしょうか。

「枕草子」には八十八段の”めでたきもの”の中の一つに、~いろあひ
ふかく、花房ながく咲きたる藤の花の、松にかかりたる~と述べて、
色は藍深く、花房は長くと、きっぱり定めています。

平安時代には桜と並んで藤は華やかで格が高く霊力を持った樹木として
大切にされ、この花にまつわるたくさんの伝説や物語が生み出されて
きました。

明かりをすべて落とした真っ暗な場内に杵の音が響くと、ぱっと舞台に
ライトがあたり、松に絡まった大きな藤の木の下で藤の花の精がほろ酔い
ながら*藤の花房色よく長く*と藤音頭に合わせて娘心を踊ります。
藤の花房が舞台の端から端まで美しく揺れて、それはそれは華やかな
歌舞伎踊りの骨頂ともいえる六代目菊五郎の創作でした。
「藤娘」は以後多くの踊り手によってさまざまに工夫され魅力ある演目
として今にいたっています。

藤は千年生きるといわれるそうです。
逞しい幹と枝は驚くばかりで、その先には紫匂う花房をまるで
さざ波を立てるように揺らすのです。

ここ北国では五月の半ばから咲き始めた藤の花は少しづつ花びらを
散らしながら艶やかに薫りを放ちその藤色は一層、辺りを優しい景色に
染めています。

みどりなる松にかかれる藤なれどおのが頃とぞ花は咲きける
                    紀貫之
今日の一枚の絵  「晩春麗姿」 高畠華宵  ポスター
               


    近くの公園の藤棚、甘い香りに酔いました。  s・y 



    今日のお菓子  カトルカール カラメルソースをかけて焼きました。