読書備忘録

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香納諒一著「川崎警察 下流域」

2023-09-28 | 香納 諒一
1970年代の川崎。多摩川の下流域を舞台にした昭和の臭い一杯の警察小説。京浜工業地帯として発展する裏で、ヘドロで漁ができなくなった漁師たちが、漁業権や船舶の買い上げと、補償金をエサに立ち退きを迫られ、漁民の間に分断と対立
が生じていた。また新興工業地帯には朝鮮や沖縄からの流入者も多く住み、住民問題は複雑化していた。そんな土地で、多摩川河口に溺死体が上がった。遺体は元漁師の矢代太一と判明。彼は漁業権問題で漁民をまとめる交渉役だった。だが遺体には複数の打撲痕が認められ、泳ぎが得意だった漁師の溺死という不自然さと併せて事件性をうかがわせた。そして遺品にはなぜかキーホルダーが二つあり、自宅以外にも家があるようだった。川崎警察署刑事課のデカ長、車谷一人は、ベテラン捜査員たちや新米刑事の沖修平らを叱咤しながら捜査に乗り出す。矢代は漁師をやめて得た補償金で、夫婦で食堂を始めたが、妻の病死によって店をたたみ、いまは次男と暮らしていた。居酒屋やクラブで酒を飲むだけが楽しみだったという。漁業権放棄問題では対立する漁師グループから恨みも買っていたことがわかった。被害者の足取りを追ううちに、矢代は居酒屋で飲んでいるところに若い女性から電話がかかり、慌てたようにして店を出て行ったことがわかった。事件後、矢代に離れの部屋を貸していたという夫婦から川崎署に電話が入った。しかも義理の娘とふたりで借りていたという。矢代には息子が二人いたが、ともに独身で、義理の娘などはいなかった。手がかりを得た車谷たちは、不審死事件の背後に横たわる予想外に深い泥沼に足を踏み入れることになる・・・。天と地ほども違う二人の元漁師の運命。老人がかくまっていたらしいが彼の死後失踪した母娘の部屋に眠っていた大量の札束入りの金庫。浮かび上がる暴力組織。夜のネオン街を仕切る地元暴力団と凄腕の謎の殺し屋。事件は仕掛け花火のように飛び火して行く。河川敷を不法占拠して掘立小屋の朝鮮人集落。当時の世相と、終わらない戦後を匂わせるきな臭い地勢状況を上手く盛り込みながら展開していく。捜査活動を堅苦しく見せないのは、刑事たちのスピーディな動きであり、表情たっぷりの個性ある魅力、互いへの思いやりや、危険な仕事に取り組むゆえの連帯や心意気を感じさせる人間味だろう。真の犯人が明らかになる後半面白く読み終えた。



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