こじらせ女子ですが、何か?

心臓外科医との婚約を解消して以後、恋愛に臆病になっていた理穂。そんな彼女の前に今度は耳鼻科医の先生が現れて!?

残酷な庭で遊ぶ子供たち。-【5】-

2021年07月03日 | 日記

(※萩尾望都先生の漫画『残酷な神が支配する』のネタばれ☆を含みますので、閲覧の際は一応ご注意くださいm(_ _)m)。

 

 さて、今回はイアンのガールフレンドで、かつてはジェルミも惹かれていたことのある、ナディアのことから話をはじめてみたいと思いますm(_ _)m

 

 他の読者さんにとってはどうなのかわからないんですけど、実はわたしにとってナディアはさっぱり魅力のない女性だったりするんですよね(^^;)いえ、ひとつの物語として読むというのでなく、現実世界で友達になるとしたらナディアって最高の女性だと思います。

 

 また、いずれイアンはナディアを捨ててジェルミに走るんだろうな……ということも、ふたりが体の関係を持ちはじめた頃から読者には予感されていることであり――普通に考えたらほんと、あのイアンにナディアが捨てられる複雑な過程というのは……「ひどい、イアン!」、「ナディアが可哀想!!」みたいになるはずなのに、むしろ逆に「そうだ、イアン!」、「ナディアなんか捨てちまえ!!」、「GO!GO!!同性愛!!」と、旗を振ってイアンがジェルミのほうに走るのを応援せずにはいられない(たぶんこれ、いわゆる腐女子と呼ばれる方でなくても、女性読者の方はみんなそうだと思う^^;)

 

 いえ、ナディアってほんと、美人で優しくて性格よくて、なんでも揃ってる子なのに――お母さんは妹のマージョリーばかり可愛がるし、男運は悪い(?)し、彼女のような人はもっと人生でいいことあってしかるべきと思うのに……物語の中の登場人物として読む分には、「ナディアってなんかつまんない」っていう感じなんですよね。

 

 しかも、イアンとは美男美女の最高にお似合いのカップルでもあり……でも最終的に彼女がかなりひどい過程によってイアンに捨てられても、読者的には何故かあまり同情心が湧いてこないという、非常に損な人という気がしました(^^;)

 

 そして、その理由を「なんでかな?」と考えてみたところ、それはたぶんジェルミの受けた傷がそれだけ深く、ナディアはまあ、あれだけ美人で優しくて性格もいいのだから、イアン以外に誰か他に男を見つければいい。でも、ジェルミにはイアンしか――ジェルミの魂を救いうるとしたら彼しかしない……と、読者にはそう見えるからなのかなという感じがします。

 

 そしてこれは、イアンにとってもそうなのかなって思ったり。「あいつにはオレしかいない」というか、人ってやっぱりどうしても、相手の秘密や弱味をより深く知ったほうを選んでしまうという、そうした傾向にあるのではないかという気がします。こうして、ナディアとの太陽的な明るい恋愛より……イアンは暗い森の奥、深い湖の底にあるような、真冬の闇を持つジェルミとの恋愛を選んだ。

 

 ジェルミとイアンとの間にある連帯はたぶんここですよね。そこにナディアという名の、太陽の光が差し込む可能性もあった。でも、彼女はジェルミの告白を受けとめきれませんでした。そして、再びふたりは体の関係を持ち――この件に関してわかりあえる可能性があるとしたら、自分たちだけだという認識によって深く結びついてゆく。

 

 イアンはそのことを愛だと認識するけれど、ジェルミは「愛じゃない。ただの欲望だ」と否定する。ふたりは何度も会話によって、また肉体を通しても語りあい続けるけれど、なかなかうまくいかず、答えも見えない。けれど、ジェルミの髪がだんだんトーンを貼られる領域が減っていき、赤いのが黒くなっていくのに比例するように……少しずつではあるけれど、会話とセックスを通した治療のようなものは進んでゆきます。

 

 そして、ジェルミの心の快復にとって大切なのはイアンとの関係だけではなく――登場時は「おいおい。また変なヤツが出てきたな」と感じたロレンツォ、自殺マニアの可愛い裸族マージョリー、寄宿学校時代の友人のウィリアム、それに、そんな過去があっただなんて、表面的にはまるで見えなかったマージョリーの母、クレアなどなど……時間の経過とともに、「何もかもそのまま」、「苦しみにも絶望にも変化などない」ということはなく、ジェルミの内にも変化の時が訪れます。

 

 蛇口をきゅーっと閉めていたはずなのに、背中の傷の写真を見て、イアンに色々しゃべったことをきっかけに、そこから忘れたいのに忘れられない記憶、思い出したくないのに、そう思えば思うほど思いだされる記憶が、悲鳴とともに絞り出てくるジェルミ……「あーっ、あっあっ……」という、頭の中のこの悲鳴を止めたくて、今度はベリー牧師の息子、パスカルを利用して罰を受けようとしますが、遊びなれておらず、薬でイッてるパスカルはジェルミにひどい暴力を振るいます。

 

 そして、その現場に行きあってしまったマージョリーは、ある種の精神的なシンクロによって自殺をはかります。この時まで、ジェルミはおそらく、自分で自分に罰を与える地獄の無限ループは、個人的な問題であって、傷つくのは自分だけであり、他の人には迷惑をかけていない……そんなふうに認識していたのではないでしょうか。

 

 ところが、病院に運ばれ、なかなか目覚めないマージョリーを見て、初めてジェルミは「イアン、ぼく病気なんだね」と自覚します。以前とは違い、冷静に自分の虐待された証拠とも言うべき写真を眺めるジェルミ。これはあくまでわたしが思うに、ということなんですけど……ジェルミにとってあの背中の傷というのは、おそらく現実との接着面という気がするんですよね。普通、自分にとって思い出したくない記憶というのは封印して、なるべく遠くへ追いやりたいものだと思います。でも、その過去のトラウマはどこまでもジェルミのことを追いかけてくる。そして、それは自分の背中に刻まれたものなのだから、どこへ逃げてもついてくる、彼の犯した罪の象徴であると同時に――肉体だけでなく魂に深く刻みこまれた傷でもある。

 

 自ら過去と向き合う覚悟を決めたジェルミは、この時、イアンと色々話したことで――治療、という言い方はおかしいかもしれませんが、そうした傷が癒される段階が、一段大きく進んだように思います。この、文庫版第8巻の、バラバラのマネキンのようなジェルミが再び統合されるシーンは、本当に全巻通して白眉と感じる場面のひとつではないでしょうか。

 

「イアンを好きだってことが苦しい」、「好きな人にぼくが腐ってることを話すのが苦しい」……ジェルミの愛の告白を聞き、彼にキスをし、「愛してるよ」と応えるイアン。まだ完全に退場したわけではありませんが、この時、ふたりの間に現れる変態父さんグレッグの影は、かなりのところ薄くなってきています

 

 でも、読者的には、「よし!あともう一息だ!!」なんて、つい単純に思ってしまうわけですが、事はそう簡単ではなく、人をひとり救おうと思ったら……火災現場で消防隊員が人を助け下ろすのと同じく、相手を背負うだけの気力や体力のみならず、正しい判断力といったものまで要求されてくる。

 

 ジェルミの過去に起きたこと、またそこから生じる苦しみと絶望を共有し、彼が乗り越えるのを助けようとする過程で――イアンが血を吐いて倒れるのが、次の9巻なのですが、その前に次回はバレンタインのことから話をはじめたいと思いますm(_ _)m

 

 それではまた~!!

 

 

 

 

 


この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 残酷な庭で遊ぶ子供たち。-... | トップ | 残酷な庭で遊ぶ子供たち。-... »
最新の画像もっと見る

日記」カテゴリの最新記事