こじらせ女子ですが、何か?

心臓外科医との婚約を解消して以後、恋愛に臆病になっていた理穂。そんな彼女の前に今度は耳鼻科医の先生が現れて!?

惑星シェイクスピア-第二部【8】-

2024年07月19日 | 惑星シェイクスピア。

(※海ドラ「マクストン・ホール」に関して、ネタバレ☆があります。これから見る予定のある方はご注意くださいませm(_ _)m)

 

 天ぷら☆で「マクストン・ホール」を見ました♪

 

 全六話しかないせいもあり、珍しく一日で一気見してしまいました。「フォールアウト」も面白かったんですけど、とりあえずこちらの感想から書いてみようかな、なんて(^^;)

 

 んで、シーズン1見終わってから天ぷらの感想のところ見たら、「ドイツ版花男」といった指摘があり、「あ~、やっぱりみんな同じこと思うんだなあ」と思ったような次第であります(笑)

 

 わたし、花男のドラマの日本版のは見てないんですけど……昔、台湾版の「流星花園」のほうを見ていて、すごく面白くて夢中になって見ていた記憶があります。んで、その観点からいくと「マクストン・ホール」、すごく面白かったんですけど、2以降大丈夫かな、と思ったということについて、ちょっと書いてみたくなりましたm(_ _)m

 

 >>名門校マクストン・ホールに通う奨学生のルビーは、休み明けの登校初日に意図せずとんでもない秘密を目撃してしまう。傲慢な御曹司ジェームス・ビューフォートは一族の名誉を守るため、機知に富んだルビーを相手取らなければならない。ジェームスはルビーを黙らせようと買収を決意し、2人の熾烈な戦いの火蓋が切って落とされた……。

 

 まあ、見はじめてすぐわかることなので書いちゃって大丈夫と思うのですが、この「とんでもない秘密」というのは、ジェームス・ビューフォートの双子の妹、リディアが教師のサットン先生とキスしていたということです

 

 ジェームスはイケメンのシックスパック野郎なので、学校でもモテもて男子なわけですが、もとよりルビーは「目立たぬ透明人間」でいたいという優等生。オックスフォード大学への推薦状を頼むくらい信頼していたサットン先生が、美人の教え子と恋愛関係にあるらしきことはショックだったにせよ、そのことを誰かに言いふらしたりするつもりは毛頭ない。

 

 ゆえに、ジェームスが金にものを言わせたり、自分みたいなイケメンと体の関係を持ちたいんじゃないかと勘違い発言する必要も最初からナスィン☆だったわけですが、まあ今はなんといってもSNS人間不信社会ってものが、学校にも深く根を張り巡らせている……もし仮にルビーが「誰にも言うつもりはないから安心して」と最初から言ったとしても、たぶんJ・M・B(どーでもいいけど、ジェームスのこと・笑)は信じなかったとは思う。

 

 透明人間志望の優等生ルビー・ベルは、それでも新入生の歓迎パーチ―を仕切ったりしていて、校長先生の期待に応えようと奮闘する。ところが、ジェームスがDJを買収し、ストリッパーを雇いフロアを占拠したことから――校長先生は大激怒ところが、叱られたのはルビーだけでなく、「君がDJを買収したことはわかってる」と、ジェームスもまた一緒に校長室へ呼ばれることに。

 

 ジェームスはラクロス部で活躍度の高い中心メンバーらしいのですが、暫くの間部活を禁じられ、ルビーが委員長っぽい役をしているらしい学校の運営委員みたいなところで一緒に働くことになる……まあ、こうして書いてくると展開としては少女漫画的でめっちゃベタ☆です。ベタどころかベッタベタ☆なのですが、マクストン・ホールという名門校が、「え?ホグワーツ魔法学校?」といったような雰囲気の素敵な場所なので、「よくあるありがちな海ドラの学校生活」を描いているだけでも――新味があるように感じて、見てるだけでもめちゃ楽しい(自分比☆笑)。

 

 そして、次のチャリティ・ガラで名誉挽回しようと、親友のリンやキーラン・ラザフォードや、他の委員たちと一緒にがんばろうとするルビー。ここに、ラクロス部からやむなく追いだされる形となったジェームスが仕方なくやって来て、「そんな案より、ヴィクトリア風ドレスでも着てポスターにするってのはどうだ?」といったような提案をする。多数決により、ジェームスの案が「冴えてる」として通りますが、彼はアイディアを出しただけで、それ以上具体的に協力するつもりまではない。けれど、ポスターを作るにはあと3日しかない……そんな中、服を作るのが好きなルビーの妹が徹夜して素敵なヴィクトリア風ドレスを作ってくれますが、ルビーはこれをちょっとした不注意から、アイロンで燃やしてしまう。

 

 行き詰まる中、色々あって最終的に心を通わせあったジェームスとルビーは、デート(?)がてらジェームスの両親が経営しているロンドンのビューフォートの会社まで一緒に出かけていく。ジェームス・ビューフォートは超のつく金持ちなのですが、簡単にいえばルイ・ヴィトンやシャネルのようなファッション帝国の老舗店の御曹司っていう感じなんですよね。けれど、彼も妹のリディアも、父親から将来を期待され、相当苦しい思いをしている……この厳しい父親が、ルビーを一目見るなりゴミのように軽蔑し、なおかつジェームスの婚約者にも等しいエリントンとの約束をすっぽしかして何をしているんだと怒りだす

 

 というわけで、一度近づいたふたりの心の距離は再び離れてしまい、この翌日、前日にジェームスとルビーが着ていたヴィクトリア風ファッションの写真を使ったポスターが学校にでかでかと張り出されますが、「目立ちたくない」ルビーはそのことでも最初、ジェームスに腹を立てる……まあ、簡単にいうと金持ちの葛藤多い坊ちゃんジェームスが、幸せ満点家庭で育ったけれど、中流以下貧乏……なルビーといかにして結ばれるか――ということが主軸のドラマと思います♪

 

 いえ、誰か人にお薦めする分には、特にこのドラマは文字数費やす必要ないんですよね、実は(笑)。最初の10分とか15分見ただけで、「面白そう」とか、「こういう雰囲気、めっちゃ好きー」という方は、わたしと同じく全部見ることになると思うので(^^;)。強いて言うなら「ゴシップ・ガール」とかあのあたりのドラマが「超好き」という方なら、同じように好きになる可能性高いかなっていう感じがします(これも自分比☆笑)。

 

 んで、「花男のパクリ☆」とか「花男ドイツ版?英語版?どっち」問題なのですが、個人的にその可能性は結構あるんじゃないかなって気がしてます。なんでかっていうと、1話目で、ルビーがパパに漫画の「デスノート」を薦めてたことから……「花より男子🍡」のドイツ語版っていうのもおそらく存在するのは間違いないっぽいなと思ったというのがあります

 

 いえ、わたし自身はパクリ☆とか言っても、そう深刻に考えてるわけでもなく(他のドラマ見た方もそうだと思う。たぶん)、どっちかっていうとむしろ「どうせならもっと思いきり(いい意味で)パクったほうが良かったのでは……」と思ったくらいでした。

 

 まあ、ジェームス・ビューフォートがなんか役どころとして道明寺っぽく見える――ものの、鍵となるような類くんに相当する人物はとりあえず学校内にはいない気がする。他のジェームスがつるんでる仲間は、ゲイのアリスター以外はちょっと軽い感じなんですよね。どうせならこのあたり、もうちょっと考えてもよかったんじゃないかと思ったり……でもこれは、花男と比較して云々ということであれば、ということであって、それを抜きにすれば特にどうということでもなかったりはする。

 

 最終話の、ルビーやジェームスや他のクラスメイトたちのオックスフォード受験の模様も面白かったですが、ネタバレ☆になっちゃって恐縮なものの(汗)、結局ふたりはここで結ばれてしまう。いえ、そのこと自体はいいんですよ。もしシーズン2が制作になるかどうか、この時点でわからなかったとすれば、ふたりはとりあえず結ばれておく必要はあったんだろうなとも思う。ただ、日本や韓国のドラマにおける作りとして――わたしも絶対の自信まではないものの、次のようなことをちょっと思いました。ジェームスは自分の父親に、「あの娘のことは調べた。父親は障碍者で、今もあの家はローンを完済できてない。あんな貧乏娘と別れないというのであれば、あの娘の人生を潰してやる」的なことを言われ、事実、ルビーの長年の夢であるオックスフォード進学も何もかも、自分の父親であれば壊すのは容易いし、本当にそれをやるだろうと思ったことから……ジェームスはルビーと別れる決意をする

 

 この前日、初めて激しくキスしたばかりだったことから、ルビーはジェームスの変化に驚く。周囲からはもともと不似合いなカップルとして受け止められていたこともあり、「可哀想~」みたいにこれみよがしに囁かれるルビー。そこへ、「俺がおまえみたいな奴、本気で相手にするとでも思ったか?」みたいに言われ、ルビーは傷つくわけですが……日本とか韓国のドラマではこういう時、相当長い時間がかかったとしても、わかるのは大抵本人の口からではなく、誰か他の人の口から「実はそうだったのよ」と教えられ、主人公や相手の恋人の心が動く――というパターンが多い。

 

 まあ、ルビーもそのことを知ったのはリディアからであったにしても、最終的にジェームスは我慢しきれなくなってそのことを自分の口から言っちゃうんですよね。いえ、この点はドラマ的に全然マイナスだとか言ってるんじゃないんです。全然べつにそれでいいんです。でも、日本や韓国のドラマのパターンとしては、そうした一度「こうする」と決めた決定的秘密については……本人自身は何があろうとやり通そうとするのが王道パターンです。でもそこへ、「なんだ、あの女。好きだとかいったのは全部嘘かよ!?」とか、「おまえのことが世界一好きだとか、もう2度と離さないって言ったくせに!!結局全部遊びだったってわけ!?」という誤解が、ある偶然や、黙っていられなくなった第三者からもたらされる――そうなのです。真実は本人たちではなく、偶然や第三者からでなくてはならない。それが少女漫画における王道パターンであり、基本的に鉄則にも近いお約束事項だと個人的には考えます。

 

 いや、わたし「マクストン・ホール」に何か文句いったりケチ☆つけたりしてるんじゃないんです(^^;)ただ単に、花男と雰囲気が重なるところがあったことから、その点は日本のドラマや韓ドラなら、大抵はこの王道パターンを踏襲するんじゃないか……と見ていて思ったという、単にそれだけの話なのです。。。

 

 んで、「マクストン・ホール」、シーズン2が制作されるのだろうことは大変喜ばしいのですが、今後の展開が少し心配になったというか。いえ、日本のドラマか韓国のドラマなら、あんなアクシデントやこんなアクシデントが引き続き起こって、なかなかジェームスやルビーは結ばれない……ということを長々やってようやく最後に結ばれるとか、それでいいと思うんですよね。でも、マクストン・ホールの場合、今回ふたりはすでに結ばれてしまった、しかもジェームスは父親に対する反抗心といったこともあり、オックスフォードの面接受験を途中で辞退することに決めたらしく――いえ、これでもし、ルビーもジェームスもオックスフォードに入学し、今度はふたりの大学生活のあれやこれやの青春グラフィティが描かれる……とかなら、わたしも見るのめっちゃ楽しみなのですが、なんかどうも雲ゆきがあやしい(^^;)

 

 やさぐれジェームスがその後、親の財力に一切頼らず、イタリア料理店でウェイターをはじめ、そんな彼をルビーは変わらず愛する……う゛~ん。たぶん、そんな展開にはなりそうもない。まあ、そんなわけでシーズン2がどうなるのかわたしにも予測不能なのですが、とにかくシーズン1と同じく一気見したくなるような面白い内容を備えていてくれたらと、心からそう願っています

 

 それではまた~!!

 

 

 

 

       惑星シェイクスピア-第二部【8】-

 

「おばばよ、そなたも苦労したものだ」

 

 リッカルロは心底驚いていた。エレゼ海の向こうに、そのように強大な国があるというのも驚きだったが、彼はこの目の前の白髪頭の年寄り女が、壮大な法螺話をしているとは思えなかった。それであれば、息子のウィルフレッドのことについてもすっかり説明がつこうというものであり、「本人はその名で呼ばれることを嫌っておりますが、実はわたしの死んだ父の名なのです」といったことも、彼女が嘘をついていないことの証左のようにすら感じられることだった。

 

「ええ、まったく本当にね……自分でも驚くほど惨めな、哀しい、苦労ばかりの多い人生でございましたよ。生まれてから十六になるまで、最初だけが最良で、あとは悪くなる一方といったようなね。リッカルロさま、王子さまはこんな話を聞けば驚かれることでございましょうがね、こちらではエレゼ海と呼ばれるあの海――あの青く美しく荒々しい海の向こうには天国があると、向こうの国では信じられているのです。特に、北王国の海に面した町々や村々には、ルゼリア(エレゼ)海を通って人々の死んだ魂は天国へ行くと信じられているものでしてね、ゆえにお墓のほうはみな、ルゼリア海に向けて建てるという風習なのですよ。わたしも、あまりに自分の人生が惨めで、惨めすぎるあまり……死んでしまおうと思った時、『生きていた頃の苦労を贖うように、せめても魂だけでも天国へ行けたなら』ということに、僅かばかりの希望を持ちつつ身を投げたのでございますが、なんということでしょう!まさか、漁夫の網に引っかかり、こちら側の国の岸辺まで引き上げられるとは、思ってもみませんでしたよ」

 

 ウルリカは笑った。彼女は今話したようなことを誰かに打ち明けたいと思っていたにも関わらず、自分の亡くなった夫にも、実の息子にも――ここまで詳しく話したことは一度としてなかったのである。今、彼女は清々しい笑顔すら浮かべて自分の苦労の多い人生を笑うことが出来た。そして、あらためて隣の<東王朝>の第一王子に対し、深い敬愛の情を覚えていた。こうした身の上話をしてもいいと思えるものを彼が備えていればこそ……ウルリカは思いきった打ち明け話をすることが出来たのだから。

 

「そうか。ではおそらく……ロットバルト州のエレゼ海沿岸のどこかの漁村におばばはやって来ることになったわけだな。俺も他国のことなので、噂にしか聞いたことはないが、そちらでも確か、人は死んだらエレゼ海を通って魂が天国へ行くといったような伝承があるのではなかったか?あとは、エレゼ海にはリヴァイアサンという名の竜が住んでおり、それが海の荒れる原因だと聞いた記憶もある」

 

「そうなんですよ!まったく、驚くじゃありませんか。わたしは、北王国のルゼリア海の沿岸にある岬から身を投げて――それも、これだけの高さがあれば間違いなく死ねるだろうという高さからですよ――次に目を覚ました時、自分は天国にいるのかと思ったくらいですからね。ところが、こちら側でも、向こうに住んでいるのと似たような人々が暮らしていて、特に小さな漁村あたりの貧しさときたら、どちらも双子のようにそっくりな暮らしぶりなんですよ!ああ、王子さま、わたしは……そんな中で、唯一死んだ夫には良くしてもらいました。どこの誰ともわからぬ、言葉さえ通じぬわたしのことを、夫のウィロウはそりゃ大切に扱ってくれたんですからね。若い頃、まだ美しくて財産や地位のあった時のことであればいざ知らず、何も持たない、こんな年のいったババアのことをですよ!いえ、あの頃わたしは確かにまだ十数年は今より若いことには若かったですよ……でも、苦労に次ぐ人生の苦労によって、普通の中年女以上に老けてみえたでしょうからね。そんな女のことを、ウィロウは実に大切にしてくれたのです。わたしも、この男のためならば、どんなことでもしなけりゃならないと思えるくらい、夫のことを愛していました……そうして授かったのがあのウィルフレッドなのです。ウィロウは、息子の名前にウィルフレッドとつけたいと言うと『なんだか、ちょっと仰々しすぎやしないかね?』と控え目に反対したのですが、『ウィルフレッドと名づけておいて、普段はウィルとかウィリーと呼べばいいじゃないか』とわたしが言うと、あの人も妥協したんですよ。とにかく、人生の最後に、本当に心から信じ愛しあえる人間と巡り会えたこと、それがわたしの人から蔑まれるばかりの人生の、最後にあった神さまからの贈り物だったと思います……」

 

 ウルリカは笑っていた顔の表情に、再び少しばかり涙を浮かべたが、彼女は今、不思議と幸福だった。砂漠を越える旅は老骨に堪えるものであり、このまま灼熱の世界で死ぬかもしれないとウルリカが感じた瞬間もあった。だが結局、この時もこちら側の人間が彼女の命を救ったのだ。中央城砦の監視哨(バルティザン)から<西王朝>側をずっと見ていた守備隊のひとりが、ウルリカの姿を発見し――他の数名の隊員とこちらへやって来た時、彼女は砂丘のひとつに半ば埋もれるような形で倒れていたのである。

 

 以降は、「大したババアだ」、「すげえおっかさんだな、ええおい!」といった具合で、<東王朝>の兵士らの間でもすっかり有名になり、食事その他、待遇のことでも色々良くしてもらった。そうなのである。ウルリカにとっては、北王国の兵士らに捕縛された時と比べ、それは天国と地獄ほども差のある、破格の扱いとすら呼べるものだった!

 

「ウィロウか……確か、古代語で<海のうなり>という意味だったな。我々は以前は<東王朝>も<西王朝>もなく、ひとつの王国だったわけだが、さらにそれ以前にあった国で使われていたという言語だ。おばばよ、ものは相談なのだがな、おぬし、俺の治める公爵領の顧問官になってみぬか?」

 

「えっ、ええっ!?」

 

 自分の死んだ夫のことを思い、しみじみしていた時にそう言われ、ウルリカは驚いた。『わしのウィロウという名はな、昔の古い言葉で<海のうなり>という意味らしい。よくは知らんがな』と、夫が言っていたことがあるのを、ウルリカは覚えていた。そして、彼女は唯一、その<海のうなり>が恋しいがゆえに、あの貧しいだけの漁村の浜辺へ戻りたいという気持ちがあったが、息子のウィリーがこちらで心機一転、人生の巻き返しを計りたいということだったから……ウルリカは息子の望みに沿うよう、自分に出来ることはなんでもしてやりたいと思っていたのだった。

 

「俺は、今おばばが語ってくれた、北王国や南王国の文化といったものに興味がある。また、おばばがこちらへ辿り着いたように、おそらくは昔から……お互い、舟が難破するなどして、そのようにしてやって来た人間というのはいたはずなのだ。となるとどうなる?ロットバルト州の領主は、王都から課される重税にあえぐあまり、船団を仕立てて冒険の旅に出られぬと嘆いていると、間者から報告があったが……北王国でもいずれ、この可能性には当然気づくのではないか?」

 

「それは……確かに、そうかも知れませぬ。ただ、北王国は南王国と戦うのに忙しく、やはり船団を仕立ててこちらまで攻め込むまでの国力は、今暫くの間はないと思いますね。どう言ったらいいか……とにかく、こちらとは使っている言葉も違いますし、文化のほうも……共通点は色々ありますが、リッカルロさまが先ほど説明してくださった、こちらの<東王朝>と<西王朝>の言語の違いのようなものですよ。ワインを詰める酒樽と普通の樽では呼び方が違うとか、そうした事柄が数え切れないほどたくさんあるんです。そして、そうしたことを今わかりやすくいちどきに話せと言われましても……わたしも、どこから何を取っ掛かりにして話せばよいやらと、目が回る思いがするばかりと申しますか……」

 

 だが、北王国にとって、海を越えたところにあるという、あるかもしれないしないかもしれない国よりも、当座は南王国を征服することだけが彼の国にとっては最重要事項なのである。これは、ウルリカにとって、何百年かかってそうなるか、それとも北も南もさらに小国へと分裂してゆく可能性もあると彼女は見ているが――とにかく、いつかこの北と南の王国をひとつに統一できる偉大な大王が歴史上に現れたとする。その時、この大王がルゼリア海の向こうにも国があるやも知れぬと理解した場合……大船団を築いての侵略戦争ということが、もしかしたら未来にあるかもしれぬと、彼女としてはそう理解するばかりだったのである。

 

「わかっている、おばばよ。だからこそ、そなたを我がレガイラ城の食客として迎え入れたいのだ。いや、難しいことは何もない。そなたと息子のウィルフレッドには、城下町に快適な住居を用意させよう。年金のほうも生涯に渡って保証する……といっても、これは俺がオールバニ公爵領の領主であるうちは、という限定付きの話ではあるがな。おばばの父上が、南王国の伯爵領の領主として難しい立場に置かれたように、俺にも色々あるのだ。いつまでも今の地位に留まり続け、安穏と暮らしておれればいいが、俺がある日突然オールバニの領地を没収され追い出されるといった可能性はまったくのゼロではない。すべては、現リア王朝の王である我が父上の胸三寸といったわけでな……だが、俺が今の地位に留まれる限り、暮らし向きのことについては心配する必要がないと約束しよう。そのかわり、おばばよ、そなたは時々俺の話相手となって、海を渡った向こうの国の文化や風習について教えて欲しい。また、のちには言葉のほうも本に記録として残したいと思っているが、そうした条件でどうだ?」

 

「まったく、もったいのう条件でございます……このような老いぼれババアめに、そのようにお慈悲を垂れてくださるとは……見てのとおり、わたしはいつ死んでもおかしくない身の上です。ゆえに、わたしが死ぬまでの間に、このわたしの頭の中に記憶として残っているものはすべて王子さまのご随意のままになさってくださるのが、わたしにとっても望外の幸せとなることでありますれば……」

 

「では、決まりだな。息子のウィルフレッドには、それなりの官位を与えて働いてもらうことにしたいとは思うが……まあ、そうだな。まずはそれよりも正確にこちらの言葉を覚えてもらうことのほうが先かも知れんな。突然よそ者がやって来ていい職にありついたというのでは、面白くなく思った者に嫉妬され、思わぬ不幸に見舞われるということが……ないとも言えんからな。なんにしても、そうしたことも含め、困ったことがあればなんでも俺に相談するといい」

 

 このあと、リッカルロはウルリカの肩に手を回すと、彼女の額に親しみを込めてキスを送った。まるで、自分の語ったことがこの時限りのものでなく、確かに真心からの申し出であると証印でも押すかのように。

 

 リッカルロは、寝所として用意された部屋のほうへ戻っていったが、その場に残されたウルリカは砂漠の丘上に浮かぶ青い月を遠く眺め――暫くの間、不思議な心持ちでいた。自分の人生が不幸で、この上もなく惨め極まりなかったものであることは、彼女自身、進んで認めるところである。死んで天国へ行った場合、父親にも母親にも顔向けできぬほど、まったくもって酷いものだ。だが、ウルリカにはウィロウがいた。天国において、父とも母とも住まいを別にして暮らすにしても、ウィロウとはふたりで楽しくやっていかれるに違いない。地上においてと同じように、というよりも、それよりも遥かに優れた幸せな環境で!

 

 けれど、ウルリカは天国で愛する夫と再び一緒になる前に、自分には果たすべき使命があるのかもしれないと初めて考えた。無論、「そのためにこそ、自分はエレゼ海で溺れ死ぬこともなく、こちらの国にまで辿り着いたのだ」とまでは、彼女にしてもまるで思えない。だが、それでも――息子のウィルフレッドのためにはこれで良かったのだろうと今思えること、それだけが彼女にとって唯一救いとなることだった。

 

 それに、出会って間もないとはいえ、ウルリカはリッカルロ王子のことが好きだった。もし彼の口が奇形でなく、布覆いで隠した口許が、目許や鼻筋から想像したとおりの美男子としてのそれであったとしたら……(自分はここまでの信頼を、こんなにもすぐあの王子に覚えなかったのではあるまいか)とすらウルリカは思うのだった。

 

(もちろん、リッカルロさまは立派な方だから、あのまま伯爵令嬢のままでいたとしたら、結局のところちょっとぱかり普通より教養があるといった程度の、我が儘娘で終わっていたろうわたしなんぞとは比べようもないお方だよ。だけどお互い、なんだか似たところがあるんだね。わたしは女で、あの人は男だし、年の差だってたんとあって、わたしはあの人のおっかさんどころか、おばあちゃんでも不思議でない年齢なんだけどね。でも、何故だか不思議と相通じるものがあるんだよ……ほんとに、不思議なことなんだけどね)

 

 そして、不憫な息子のウィルフレッドの人生の風向きが、<東王朝>へやって来たことを契機に変わっていってくれればいいがと、ウルリカがそんなふうに考えていた時――彼女の息子のほうでもまた、母親と大体似たようなことを思っていたのだった。

 

 一階の大広間に何十人となく雑魚寝している中で、寝苦しいものを感じながらも、ウィリーの心は希望に浮き立っていた。というのも彼は、リッカルロ王子とウルリカの会話にこっそり聞き耳を立てていたからである。王子は人払いをし、ファイフにさえも「この老婆に俺が暗殺されるでも思っているのか?」と笑って言い、下がるよう言いつけていたわけである。そこで、ウィリーは小広間の一室の壁の隣で、窓から外の景色を見る振りをしながら、ふたりの会話を盗み聞きしていたのだった。

 

(おふくろの奴……まさかエレゼ川の向こうからやって来たのを、親父に拾われた身だったとはな。確かに、小さな頃から不思議ではあったんだ。『なんでふたりは結婚することにしたの?』だの、子供らしい疑問をなんとなくぶつけても、『子供がそんなこと聞くもんじゃない!』とか、そんなふうにしか返されたことはなかったものな。親父はそもそも無口な質の人だったし……)

 

 実をいうと、この父ウィロウのことに関しても、『親父は一体どこの何者だったのか』ということについて、ウィルフレッドは詳しいことをよく知らない。彼があの貧しい漁村において、貧しい者たちの中でもさらに最下層の子供として扱われていたことには、ある理由がある。ウィロウというウィリーのあの父親が一体どこからやって来たのか、村の誰も知らなかった。ふと気づいたら、浜辺の一角に掘っ立て小屋を建て、魚や海老や蟹、貝類などを採って暮らしていたが、その頃からすでに腕が片方しかなかったことから――村人たちは障碍者である彼を憐れみ、その仕事を取り上げ、追い立てることまではしなかったという。だがある時、村である噂が立ったことがあるということだった。あのウィロウという男は人殺しで、罪の償いのために片腕を刑場で失ったのだと……ウィリーは『この人殺しの息子め!』といじめられたことが一時期あったのだが、何故そうなったかといえば、子供社会のちょっとした複雑な事情によってだった。

 

 今にして思うとウィリー自身も(くだらん)としか思えぬのだが、当時は自分の父の殺人の疑いが晴らされなければ、もう自分に友人たちの間で居場所はないとすら思い詰めていたものだ。というのも、ウィリーは漁村の貧しい子たちの中にあって、似つかわしくなく整った顔立ちをしていたことから――幼い時分より女の子たちにもてた。そこで、ガキ大将らにいじめられたわけだが、小さな頃はその理由が何故なのかがわからず、(うちが貧乏だから)、(親父に人殺しの嫌疑がかかっているせいだ)などと、随分自分もクソ真面目に悩んだものだと、今にしてみればウィリーもまったく笑ってしまう。

 

 だが、その後成長するにつれ、(なんだ、コイツら。実はオレに嫉妬してるんだな)ということがわかってからは、相手に服従する振りだけしつつ、内心ではウィルフレッドは優位な立場を味わっていた。と、同時に、(こんなことは何もかもすべて間違っている)と、物心ついた頃からずっと思い続けてきたように……彼は父親が死ぬと、その弔いもそこそこに、しみったれた磯の香りくさい過去に別れを告げるべく、軍人の門を叩くことにしたわけだった。

 

 まさか、歩兵としての訓練もそこそこに、すぐにも徴兵されることになるとは思わなかったが、高級将校である騎馬兵らの盾として、ほとんど「死ね」とばかり戦争の最前列へ押し出されると――彼は「こんな馬鹿らしい戦争のために犬死にするなぞごめんだ」と、すぐにも悟りを開いた僧のような境地に達した。そこで、戦わずして逃走し、他の死体の山となった場所に死んだ振りを決め込み、倒れていたというわけだった。

 

 そこへ、よもや敵軍の兵らが引き返して来て、ご丁寧に生き死にを確認するのに、槍で順にトドメを刺していくとは思わなかったが、ここでもウィルフレッドは幸運だったのだ。何故なのかはわからなかったが、弓の傷を肩に受けた以外では、そう深刻な外傷があるわけではないとわかると、捕虜として縄をかけられ、引かれていくことになったのだから……。

 

(なんにしても、とにかくこれでオレにも人生に運が向いてきたらしいぞ。小さな頃はな、『あんなおふくろも親父も、親なんかいらない!!』とすら思ったこともあったもんだが、あのおふくろのお陰で、確かにこれからオレは楽が出来るかもしれん。とはいえ、あの口裂け王子さまがおっしゃるとおり、出る釘は打たれるという奴で、敵国からやって来たような人間がいい暮らしをしていたとすれば、そのうち嫉妬から嫌がらせを受けたりするかもしれないからな……そんなこと、こちとら今やすっかり慣れっこだ。今度こそ空気を読んで、人間関係その他、必ずうまくやってやるさ)

 

 ウィルフレッドはこの夜、うるさい歯ぎしりやいびき、それに男同士のすえたような体臭に囲まれていながら――未来に希望を抱くことが出来るだけで、いたく幸福な気分でいることが出来た。そして、母親の来歴についてはある程度理解したが(あのみすぼらしいババアが、まさかその昔は伯爵令嬢だったとは!)、父親は本当は何者だったのだろう、人を殺したというのは本当のことだったのだろうか、片腕を失ったのは、その昔サメに食われて九死に一生を得たからだということだったが、今にして思うと、ウィリーには自分の父が人を殺したというのも信じ難かったが、それと同じくらい父がサメに喰われたことがある……というのも、何やら嘘くさい、その場しのぎの法螺話だったのではないかとしか、思えなくなっていたのだった。

 

 そして、輾転反側してそんなことを考えるうち、その夜も「てめえ!寝ながら殴りゃあがったな」と、誰かがいきりたち、「そんなの知ったことか!こっちゃあ寝てんだからわかるわけねえだろっ!!」といったような、具にもつかぬ喧嘩がはじまるのを見て――ウィリーは亀のように肩を竦めると、目をしっかり閉じ、もう何も考えず、ただ眠ることに専心しようと決めたのだった。

 

 

 >>続く。

 

 

 

 

 


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