ええと、<馬型人類>(笑)なる名称が出てくるのは次の【8】ではあるんですけど、今回の【7】と【8】とは結局、一繋がりの章を例の問題によって2つに分けたので、まあ前倒し(?)でどーでもいいことを書いてみようと思います(^^;)
今回、トップ画のほうが『ガリバー旅行記』なのですが、<馬型人類>のヒント(?)みたいになったのが、『ガリバー旅行記』に出てくるフウイヌムという、馬によく似ているけれども、人間より知性があって、道徳や品性といった意味からも人間より上らしい存在が出てくる章があるんですよね
あと、ここ書いてる時はまだ『スターメイカー』をそこまで読み進んでなかったと思うんですけど……『スターメイカー』の中にも確か、ケンタウロスのような祖先を持っていて、その後進化の過程で馬としての前脚と後ろ脚がくっついて丈夫な単一の足となり、人間に近い人種になっていった――みたいな惑星の住人がいた気がします(笑)
いやまあ、だからどーした☆という話ではあるのですが、わたしの書いたユージュニア星の人たちというのは、ユニコーンのような白い馬を祖先に持っていてその後人間にまで進化した……といった経緯があるらしいという、ただそんだけのお話です(^^;)
ちょっとわたしも『ガリバー旅行記』読んだの結構前なもので、内容忘れちゃってるんですけど(汗)、読んだほうの動機というのがですね、割と『ガリバー旅行記』で有名なのって、最初のほうにある小人のリリパットのいる国へガリバーが行ったとか、その次に今度は逆に巨人ばかりの国で、ガリバーが小人として苦労したとか、大体そのあたりなのかなって思うんですよね(たぶん)。
でも、わたしが『ガリバー旅行記』で知りたかったのって実はそのあたりではなくて、『天空の城ラピュタ』の元ネタ(?)であるラピュタっていう国が出てくる箇所があるって聞いたので、その部分と、ストラルドブルグという不死の人々が出てくる章がある……と前に何かで読んだので、そのふたつのことが書いてある章を特に読んでみたかったわけです
で、その時わたしにとって重要だったのが実は特に後者で、実際に読んでみてわかったのは――永遠に死なないだなんて、実はまわりの人たちには結構迷惑だ……みたいに書いてあるということでした(笑)。
というのも、そのブログディンナグという国に生まれた人全員が死なないというのではなく、時々たま~にそんな人が生まれることがある……ということで、老いによって容貌も醜くなってくるし、本人が自然な愛情抱けるのは孫の代くらいなもので、性格のほうも長く生きるにつれて気難しくなってくる、国からは生活していくためのお金が一生出るらしいとはいえ、そんな「永遠に生きる人」の周囲にいる人たちは実際のとこ、結構迷惑だ……的な??
まあ、↓の小説の中では、本星エフェメラの人々というのは不死に近い状態に達しているらしいのに、何故「永遠に生きる」選択をする人がいないのか、そうした理由についてはまた、お話後半のほうで出てきていたような気がします(^^;)
それではまた~!!
惑星パルミラ。-【7】-
ゼンディラはその後、偽装されたダリオスティンの死体――ようするに幼馴染みのヴィラン――と対面を果たすでもなく、そのまま王立アストラナーダ医院の一室にいて、オーレリアから甲斐甲斐しく世話を受けながら過ごした。
「やっだー!こんなど田舎辺境惑星にあんな美青年がいるんだなんてえっ。こんな込み入った政治的理由さえなければ、冷凍保存して本星にお持ち帰りして洗脳しちゃうのになー。わたしは前世から結ばれてるあなたの恋人です……とかなんとか、移送中に偽の記憶を移植しちゃったりなんかしてさー。あーあ、それなのにすぐ裁判惑星へ行っちゃうなんて、マジつまんなーい!!」
いやいやをする子供のように、オーレリアが首を振るのを見て、ヨセフォスもレディウムも笑った。場所は王立病院に付属の、ふたりの私邸でのことだった。辺境惑星とはいえ、本星は一種の衛星基地として、そこへ潜り込ませた配置人員のことは人権含め、貴重な人材として非常に手厚く遇する。彼らは左遷されるなり、法律に違反した免除の交換条件としてここにいるのではあったが、それでも毎月結構な給料の振込があったし、必要な資材といった物品は申請が通りさえすれば、必ず一番近くの惑星から送り届けてもらうことが出来る。つまり、そうした保障については十分約束されていたと言えるだろう。
「おまえ、レズビアンのくせになんでチンコのない僧なんぞに発情しなきゃならないんだ?」
「イーっだ!レディウム、あんたなんかしょうもない腐れバイのくせして何言ってんのよ。今日び、性器なんかなくたって十分にお互い快感を感じあえるもの。そしたら、ゼンちゃんにあんなことやこんなことやそんなことまでしちゃったりなんかして!あらま、どーしましょ」
農耕惑星プランティア産のワインを飲んだためではなく、オーレリアは頬を赤く染めていた。よほどよからぬ性的妄想が頭に思い浮かんだに違いない。
「やれやれ。オーレリア、ゼンディラの世話を見てくれるのは助かるけど……彼は今、心が傷ついてて、すごく繊細な状態にあるんだ。ロド二アス隊長の話じゃ、本星との交渉は難航しそうだっていうことだったし……まあ、彼を裁判惑星コートⅡに移送するのはあくまで形式的なことだけど、そのことが一種の転星療法的な作用をゼンディラに及ぼすってことがないものかな」
三人は軽い昼食を取っているところだった。メニューのほうはメセシュナの市場で買ってきた野菜や肉を挟んだサンドイッチに、惑星メトシェラから100光年ほど離れた場所に位置する、本星の備蓄倉庫でもある、下位惑星アマンゾから輸送されたパスタで作ったボンゴレビアンコといったところである(オーレリアはいつでも、輸送物品リストの最後に添付された請求書――そこにある金額を見て、「物品全部合わせた金額より、輸送費のほうが高いってどゆこと!?」と叫ばずにはいられない)。
「でも、俺たちも入ってたことがあるからわかるけど……あそこは裁判がはじまるまで狭い個室に閉じ込められなきゃならないからな。やっぱり転星療法ってのはさ、嫌なことのあった惑星から一時的に別の惑星へ引っ越すかなんかして、180度環境が変わることで自由な空気の元、のびのび観光なんぞして過ごすってのが――まあ、精神衛生上すこぶるおよろしいってことなわけだろ?ゼンディラにとってもし転星療法に当たるものがあるとしたら、裁判惑星を出て次に行った星でってことになるんじゃないか?」
「そうよねえ。それに、いくらひどいことのあった惑星たって、彼にとってここは母星ですもの。むしろホームシックになっちゃって、『ひどい罰を受けてもいい。とにかくメトシェラに帰りたい』ってことになる可能性のほうが高いんじゃなくて?それでもまだ、あたしやレディウムなんかはいいわよ。いつでも、それが本星じゃなくったって、通信自体は可能だし、全宇宙ネットワークで全然知らない他惑星の人間とチャットして過ごしたり……少しくらいはストレス解消になるものね」
「そうか。その可能性については考えてなかったな。すると、俺たちは彼を罪から救った救世主なんかじゃなく――むしろこれから地獄へ導く悪魔ということになるのかもしれないな……」
特殊工作員といったものは、ミッションをこなすに当たってある考え方の癖がどうしてもついてしまう。つまり、下位惑星系や辺境惑星の住民というのは、高位、あるいは中位惑星系の人間の言うことに必ず従うべし、というのだろうか。また、当地で任務をこなすに当たっては、その住民に対して生殺与奪の権利があるという前提に立ってつい行動を起こしてしまう。これはどことなく、植民惑星の人間の人権を無視し、好きなように振るまうことに似ている。
「確かにな。まあ、これから君たちが本星への帰還を許されたとして――君らと一緒かどうかは別として、裁判惑星コートⅡのほうへは諜報庁のESP部門から迎えが行くか何かするわけだろ?その時、ゼンディラはどう感じるものかな。色々親切にしてくれたのは、単に自分を利用するためだったんだと、そう悟ることになるのかどうか……」
「そーお?彼、ああ見えて結構骨太な子でもあるんじゃない?基本的には繊細な精神の持ち主かもしれないけど……そこから一気に精神の強くて太いところまで行っちゃうっていう、振り幅の大きい子なんだと思うわ。それに、ESP能力者でもあるんだから、環境に順応するのも案外早いんじゃないかしらね」
「とはいえだぞ」と、レディウムは、海鮮サラダの中のアサリをべっと空いた皿に吐き捨てた。砂利が綺麗に除去されてなかったのである。「これはたとえて言うなら、下位惑星系に今もいくつもある、まだコンピューターすらない中世時代の星の人間が、突然最先端の科学技術が浸透した社会へ放り込まれるようなものだからな。俺やおまえが高位惑星アイネイアスから転落して、こんなど田舎のメトシェラへやって来るより、そもそも精神的ショックが大きいんじゃないか?」
三人は今、竹林の動く映像壁紙に囲まれて食事していたが、オーレリアは不意に気が変わり、「ハティ!白樺林にしてくれる?」と壁に埋め込まれたナノ・コンピュータに注文した。この選べるホログラムによる映像は、他に数百万種類ばかりもある。
「なんで白樺?もっとこう、惑星ソレントのデ・クルティス山から見た絶景とか、そういうのがいいけど」
「じゃ、なんでもあんたの好きなのにしなさいよ、ヨセフ。あたしもね、ゼンディラがあんまり可愛くてって愛しくってたまんないのよ。なんていうの?こう……まだ文明に汚されてない処女って感じ?まあ、童貞でもなんでもいいけど、わたしもこんな流刑星みたいなとこにいるんじゃなきゃ、彼についていって最後まで見守りたーいっ!前にプラネット・テレビで、メトシェラに負けず劣らずの下位惑星の少数民族が、中位惑星に連れてこられた時どう反応するか――みたいな番組をやってたんだけど、中位惑星の人間が辺境惑星に連れて来られたりすると、一週間もしないうちに『家に帰りたーいっ!』てなるわけよ。ところがね、下位惑星から中位惑星へ連れて来られた場合……コンピュータもあってなんでも便利だから、案外順応するのが早いみたいよ。わたしも、彼にそういう科学技術的なものに慣れて欲しいなと思って、テレビ見せたりとかしたけど、『何故箱の中に人がいるのですか?』とは言わなかったわ。すごく不思議そうに驚いた顔はしてたけど……『この人たちは違う惑星に住む人たちなんでしょう?』ですって」
「おまえっ、バカっ!本星の科学技術について一般市民に語るのは惑星法134条第2項に触れる大罪だぞっ」
レディウムはそう言って、叱る振りだけしてみたが、彼とてもちろんわかっているのだ。ゼンディラが数日後にはこの惑星から出ていくだろうことを思えば――特に何も問題はあるまい、ということは。
「だって、メトシェラなんて辺境惑星中の辺境惑星じゃなーい?たとえば、元はスペイン語系の移民である住民とイタリア語系の移民たちが、今もお互いの言葉がところどころわかるみたいなのと違って……メトシェラの言語ってどこの惑星系の言語とも似てないもの。だから今わたし、少しだけど、全宇宙共通言語に批准されてるエスペリオール語を教えてあげてるところなの。ほら、ハティに言えば、日常会話くらいならメトシェラ語からどの言語にでも大体翻訳してくれるでしょ?」
「まあ一応、翻訳機があれば、中位惑星以上の惑星ならある程度は通用するだろうが……そうか、よく考えるとそういった問題もあったか。ヨセフ、どうする?裁判惑星へ行くまでの間、言語の睡眠学習による獲得をプログラムしておいたほうがいいんじゃないか?」
「そうだな。そういうことも一応、考えておくべきだよな……」
ヨセフォスはそう答えてはみたが、この時、まだ食事中だったのに、一旦席を外すことにした。ここはメディカル・センターであるのと同時に、特殊工作員たちの基地として機能してもいたから、彼ら専用の作戦ステーションや生活スペースも確保されているのである。
無論、ここで若干の疑問が湧いてくるに違いない。地上に見える病院のスペースは、実はそう広いものではない。だが、地下数階に渡って広がる空間について、惑星メトシェラを治める女王陛下も、王族たちの誰ひとりとしてその存在をよく知らなかったのだから。実をいうと、彼らの祖先にしても、自分たちが他惑星の進んだ文明を匂わせてくる医療センターを排除することが出来ないのが何故か、よくわかってなどいなかったろう。とにかく、王族の彼らや貴族の一部の人間たちは、生まれるとすぐメディカル・センターへ連れて来られ、健康チェックを受けることになっている。そこで、通常であれば治らないであろう病気を癒してもらったり、未熟児として生まれた子が本来なら死すべきところを蘇生してもらったり……とりあえず自分たちに善をなし、悪を成さないらしいことはわかっているが、医療センターにいる人間たちが一体何者で、何故自分たちを助けるかについて、十分説明できる者は誰ひとりとしていなかったのである。
それでも一応、自分たちが疑問に感じたことを医師らに質問することは許されていたし、今受けている検査が何で、こうした医療キカイと呼ばれるものがどのような機能をするかなど――聞けば一応、答えてもらうことは出来たわけである。また、女王陛下や国の宰相など、惑星政治に関わる一部の人間は、治世が変わるごとに本星エフェメラと同盟関係にあるという書類にサインするのが慣例となっている。そこで、その時現地にいた工作員らが向こうの最先端の科学技術の一端を垣間見せるなどして、この同盟関係にどんなメリットがあるかということを一通り説明する。さらに、相手から怪しまれぬよう、本星エフェメラにはどのようなメリットがあるかについても十分な説明がなされる。つまり、すべては「万が一のためなのです」と……現在、我らが数千万の惑星を擁する既知宇宙は、地球滅亡後の戦争以来、長くある程度の平和を維持してはいる。だが、もし再び互いに互いを滅ぼしあわねばならぬほど深刻な緊張状態となるかもわからず、その時、今はどうあれ、惑星メトシェラが重要な役割を果たす可能性はゼロではない――本星エフェメラが、ヒト型生命体の住む惑星すべてと同盟を結びたいと考えるのは、まさにこのためなのです……このように、約五千光年ばかりも離れた場所から話しているという惑星大統領に、奇妙な映像を通して力説されると、大抵のまだ未発達な惑星系の住民は「そうなのかな。まあ、なんか色々不思議なキカイとやらでいいことしてくれるし、こいつらがいてもいっか」となり、医療隊員や特殊工作員(大抵は親善大使など、適当な名称を名乗っている)の滞在を許すという書類にサインしてくれるというわけだった。
とはいえ、ほんの極一部ではあるが、こうした本星エフェメラ流の親切心という包装紙にくるまれた詭弁が、まったく通用しない惑星住民もいる。その一つが、ロド二アス・クルーガーの部隊が惑星メトシェラへ左遷されることになったタイタニック星であった(もっともこれは、ロド二アスたちが苦々しい思いをこめてつけた惑星名であって、開拓住民は自分たちの星を単にアラ二ス(エスペリオール語で<海>という意味)と呼んでいた)。
このタイタニック星は、メトシェラに負けず劣らずの辺境惑星で――いや、メトシェラ以上に環境的にも厳しく、歴史などはつい最近はじまったばかりに等しいことから、メトシェラよりも下位にランクする惑星ということになるだろう、本星エフェメラの価値基準に照らして言えば。
惑星アラ二スは、その名が示すとおり惑星の9割以上が海洋によって占められており、残り1割弱の陸地に降り立った、物好きな開拓住民がいたわけであった。ロドニアスはファイルと照合して名前や顔まで確認できたわけではなかったが、それでも彼らの首領か仲間の内に誰か、過去本星の特殊工作員として働いた者が存在していただろうことは間違いないと確信していた。
というのも、彼らの住む建物内を熱センサーによって検知したところ、その数はほんの三百人ほどであったというのに――こちらの呼びかけには一切応答することなく、とにかく一方的に攻撃を仕掛け、旧式のミサイルで容赦なく撃ってきたからだ。旧式、などと言っても追尾ミサイルであったので、迎撃システムを展開させても間に合わなかったのである。惑星アラニスを占める一割の陸地は彼らに占拠されていたため、ロドニアスたちは広い海上に基地を形造ることにした。ロドニアスとその部下約八十名は、この時一度宇宙船のほうへ退避して、海中作業専用ロボットが読み込んだ基地の設計図通り、それらを建造し終えるのを待つことにしたわけである。
こうした、陸地の9割どころか惑星すべてが海に覆われた海洋惑星というのは既知宇宙に数多く存在したことから――今ではそうした惑星でも人間が快適にオーシャン・ライフを送れるよう、一から十まで手順のようなものが確立されている。場合にもよるが、基地や住居群が建設されるのは、一般にいってまずは比較的浅瀬、もし浅瀬がなければ水深がそれほど深くないポイントをコンピュータが探索し、自然災害のリスクのチェックも済み次第、海中作業ロボットが海底に順に基礎を築いていき(この時使われる資材は、宇宙船内で3Dプリンタによって作成したものである)、こうしてやがて海中から建物の頭が見えるようになってくるわけだった。また、作業ロボットたちは自己複製が可能だったから、その時々で建設作業に必要な数に応じて順に増えていくということになり……最後、彼らは再び宇宙船に回収され、今度は別のお役目のため、人間たちの快適さに役立つよう働きの目的を変えるのだった。
なんにせよ、海中ロボットたちがフル稼働して働いても、その基地の建設には本星エフェメラの惑星時間にして、約三か月かかった。この間、陸地の人間たちはわざわざ攻撃用ヘリコプターや爆撃機などによって作業を邪魔しようとはしなかったし、彼らは彼らで限られた陸地をいかに有効活用するかということで、その三か月、汗水流して働いていたようであった(というのも、彼らの所有する陸上型作業ロボットは数も少なく、かなりの旧式だったからである)。
無論、彼ら開拓民に接触さえしなければ、向こうから積極的に攻撃してくることはないのであるから、実際のところ「そんな連中のことは放っておけ」という、普通に考えればそうした話ではあったろう。だが、本星諜報庁から派遣される特殊工作員の対惑星任務というのは、大抵がそうした性質のものであった。第一、軍隊と一緒で、特殊工作員らのミッションというのは「上司の指示に疑いを持つな」というものでもあったから、たとえば、ある惑星の某都市に住むなんとかいう男を捕縛して連れて来いと命じられたとすれば――最悪、理由など一切聞かされなくとも、命令通り従うというのが諜報庁特殊部隊員の仕事というものだった。
ゆえに、この場合も一緒で、惑星アラニスに人型生命体が不時着し、開拓民として根付こうとしているらしい……ということがわかると、本星エフェメラではいつも通りお決まりの措置が取られることになったのである。つまり、その住民らが何者であるかを調べ上げ、本星以下数万もの惑星が加盟している惑星同盟に加入するよう、責任者に電子サインさせろというわけだった。
こうした場合、惑星同盟がどのようなものか、説明する前から問答無用で攻撃されることはまずあまりない。だが、向こうが情け容赦なくミサイルを撃ってきたことで、ロドニアスたちにはすぐわかっていた。彼らはおそらく、「惑星同盟に加入しない自由」が欲しいのだろうということが……。そして、ロドニアスたちはその場合でも、最低そのグループの責任者から、「これこれこのような理由によって我々は惑星同盟に加入したくない」との説明を受けねば本星へは帰れないのであった。
不幸なことに、ロドニアスたちにとって、このミッションは難渋を極めることになった。陸地を占拠した開拓民が敵として徹底的に攻撃してきたわけではない。彼らにとって敵は人間ではなく海そのものだった。ある程度の津波が襲ってきても耐えるだけの構造をその基地は持っていたというのに――荒れ狂う海に襲われ続け、ついに基地内への浸水を許してしまったのである。ロボットたちは、すぐにこうした壁の補強作業に当たったが、ある夜、誰にも想定しえないほどの波に一昼夜揉まれ続け……ロドニアスの部隊では十数人の死者まで出してしまった。「かくかくしかじかの理由で、帰星を許して下さい。ミッション失敗の責任はすべて隊長の自分が取ります」と、ロドニアスは自分のためでなく、これ以上部下を失いたくない気持ちから申し出たのであったが(どう考えても不毛なミッションであり、大切な部下たちの死は犬死にのようにしか思えなかった)、「脳が無事な者は、冷凍して帰星次第甦せればよろしい。それよりも、何故そんなたった三百人ぽっちの、旧式の装備しか持たぬ者らを説得できんのだ」――脳味噌が鋼鉄で出来た半アンドロイドのロドニアスの上司は、「ミッションを成し遂げるまで帰星は許さん」と言い張り、一方的に通信を切ったのだった。
だが、こののちも災難――というか、ロドニアスたちの部隊では海難が続いた。建物の海中の基礎のほうはしっかり残っていたから、再び基地の建造に取り掛かったのだが(今度は前回の失敗を踏まえ、より津波に強い、耐久性の高い資材を使った。なんとも金のかかることではあったが)、ロボットたちが基地を建造中は何ごともないのだ。むしろ、海は晴れ渡り、命なきロボットたちのすることを優しく穏やかに見守ってさえいるかのようだった。ところが基地が完成し、人間がそこへ住みはじめると……怒涛の津波が基地を襲いはじめ――永遠にやむことはないかのような恐ろしさでもってちっぽけな人間たちを苛みはじめるのだった。
そして、このことが二度続いた時、とうとう追加部隊として二十数名の追加部隊と、ESP能力者がふたり、派遣されてきたのである。二度目の海難によって基地が無残に損壊した時、ロドニアスは今度はさらに語気も荒く上司である情報分析官に詰め寄ったのだが――「こんなミッション、ただの金と人員の無駄です!どうせ死ぬなら我々だってもっと意義のある惑星大義のために命を落としたい」とそう言って――この時、この鋼鉄頭の、何かと杓子定規な分析官は初めて基地が津波に襲われた時の様子を動画で見、かといって自分の面子もあることから、最終的にESP能力者を派遣させることにしたわけだった。
「馬鹿だね、おじさんたち。この津波は自然災害というより……むしろ人為的なものだよ。いや、相手はヒトではないしても、とにかく海に棲む、我々陸上に住む人間と同等くらいには知能の発達した鯨やイルカに似た生物がいるんだ。しかも……うん。なんだい、ティフ。こんな無骨なおっさんたちに囲まれて、いつも以上に恥かしいのかい?」
やって来たのは、十歳くらいにしか見えない少年と、彼より年が低いかに見える少女のふたり組だった。女の子のほうはボソボソと少年に耳打ちして話し、他の人間とは一切目さえ合わそうとしなかった。だが、この時は流石にロドニアスらに失礼と思ったのだろうか、顔を真っ赤にして少年の肩や胸をはたいていた。
「ふんふん……ハハハ。このおっちゃんたち、こんなところで無意味に足止め食っちゃってバカじゃないのって?いやいや、可哀想だよねえ。とにかくまあ、これで帰還できる理由も出来ただろうから、ぼくらがわざわざこんな辺境惑星くんだりまでやって来た甲斐もあったろうと言うものだよ」
おそらく、少女のほうではそんなことを彼に言いはしなかったのだろう。話を捏造されたからか、ティフと呼ばれた少女はますます激しく彼のことをバシバシ叩いていた。
「それで、その人並みに知能のある鯨やイルカのような存在がどうしたんだ?」
そう聞いたのは、ロド二アスではなく、彼の副官であるヨセフォスだった。ヨセフォスは、ESP能力のほうがあまり高いほうではなかったが、それでもティフと呼ばれる少女がテレパシーで少年に話していることくらいはわかっていた。耳許に囁いているのは単なる<振り>で、そうしないと周囲の能力者でない人間におかしく思われる……そうわかっているのだろう。
「つまりさ、何人も人が死んだり、脳味噌を凍り漬けにされて再生待ちだってのに悪いんだけど……あんたらはここの海洋生物たちに遊ばれたんだよ。海の中になんか見慣れない建物が立った、ありゃなんだろう、しかもそのあと、なんか見たことのないちっちゃな思念体がそこでわちゃわちゃしてる――わーい、わーい!みんなで遊ぼうよう……つまりさ、彼らはお互いにテレパシーでそんなふうに会話して、海に大きな津波を起こすことなんか、朝飯前なんだ。だから……そうだな。あんな基地なんか何回建てたって無意味だよ。彼らにとっては面白いおもちゃとしか見えてないんだもの。鋼鉄頭の情報分析官には、こう説明するんだね。このミッションを成し遂げるのは不可能ですって。何故なら、惑星の9割を占める海洋には、人間並みの知能を持つ大型生物がいて――彼らが互いに共鳴しあって波で遊ぼうとするたび、人間たちのほうはその遊びのためにもみくちゃにされるからですってね。報告書のほうには、ぼくとティフでもっとちゃんとした言葉遣いで、上官が納得できるものを書いて送信しとく。ま、なんにしても良かったね、おっちゃんたち。とりあえずあんたたちはこれで本星へ帰れる。ほんと、融通の利かない鋼鉄頭の上司を持つと、お互い苦労するよね」
海洋スーツの役割も担える、ブルーの宇宙服を着た少年がそう言うと、「やった!これで俺たち帰れるのか」と喜ぶ工作員たちがいる一方、この十歳ほどの少年の態度が、いかにも上から目線で小生意気そうに見えたからだろうか。不審の目で見てくる隊員たちも数名いた。
「これだけ広い海だ。なんらかの我らにはわからぬ未知の海棲生物がいるのは確かだろう。だが、何故そんなことまでがわかる?それも、津波が起きたその現場にいたというわけでもなく……ここは海上とはいえ、その海洋生物たちは今、海の――おそらくは相当深く、遠いところを泳いでいるんだろう?そんなの、おかしいじゃないか」
「ふふん。ほんとはそういうこと全部、ぼくにはわかっちゃうんだもんね~ってことにしたいけど、ぼくはそこまで図々しい嘘つきじゃない。こっちの妹のティフのほうがね、強い精神感応者(テレパシスト)なのさ。おっちゃんたち凡人に理解できんのも無理はない。が、ぼくやティフくらいの能力者になると……もう距離とかなんとか、はっきり言って関係ないんだ。この海上に浮かぶ、空を飛ぶことも出来る船で、ちょっとお散歩しただけで――そんな時間もかからないよ。クジラみたいな大きい個体とイルカみたいのの群れや……あとは、大型の魚の中にも、彼らのテレパシーによる会話が理解できるものがいるね。もっともこの場合は、人間の言語みたいな言葉によって理解してるわけじゃない。もっと感覚的なものさ」
(バカに一から説明するのは面倒くさい)という、いかにもな態度を少年――名前をラティエルと言ったが――がしていたためか、それ以後、何か質問する者はなかった。ロドニアスも特に口を挟めず、彼らを連れてきた特殊部隊員の責任者と話をすることにしたようである。
この時、ヨセフォスは最後、このラティエルという少年からこう言われた。「おや、あんたESP能力者だね?にも関わらず、部隊がこんなに失敗に失敗を重ねるまで、海棲生物たちのお遊びに自分たちがもみくちゃにされてるって気づかなかったの?」と……。
「俺は……ただの暗示能力者だ。テレパシーみたいなものを、他の人間や生物から普段感じることはほとんどないよ」
「ふうん。ぜんっぜん役に立たねえの~っ!!」
ラティエルは失礼にもそう叫んで、くるっと体を反転させると、船内の別の部屋へ移動しようとした。ヨセフォスは腹が立ったわけでもなんでもなかったが、ティフと呼ばれた少女が、恥かしそうに自分のほうをじっと見ているのにこの時気づいた。
『兄が失礼なことを言って、本当にごめんなさい』
その<声>は、心とも、頭の中ともつかない場所に直接伝わり、ヨセフォスは胸が痛くなった。その声の響きというのが、直接そのように口で言われるよりも、妙に輪郭がくっきりしていて、心から申し訳なく思っている気持ちの強く伝わるものだったからだろう。そのような繊細な精神によって、他者の考えていることがわかるというのは一体どのような感じのするものなのか……ヨセフォスは何やら、想像してみるだけで胸の奥が痛むものを感じた。
結局のところ、こうした追加人員があってさえ、惑星アラニスの陸に上がった人々を説得するにはあたわず――彼らはやはり問答無用とばかりミサイルを撃ってきたが、今度は死者が出なかったのは、ラティエルが念動力によって追尾ミサイルを破壊したからである――ロドニアスらはミッションを果たせずに本星へ帰還するということになった。
その後、この時の不手際の責任を問われ、ロドニアスの部隊は惑星メトシェラへ左遷されることになったわけだが、ヨセフォスはあのティファナという名前の少女に、ゼンディラはどこか似ているのではないか……ふと、そんな気がして不思議な気持ちになった。そうなのである。ヨセフォスにしても、特殊部隊員としてこれまで、いくつもの惑星でミッションをこなす過程で、たくさんの人間が無意味に死んでいくのを見たし、自分たちがその惑星の政治に首を突っ込んだがゆえに、人生が破壊される人々の姿というのも数え切れないほど見てきた。だが、そうした中でやはり、ある種の個人的な感情を抱くことはある。本来の自分の仕事の方向性としては排除すべき人物に該当するにも関わらず、その相手のことを助けた上でミッションを成功させようとする――といったようなことがそれに当たる。そして今回、ヨセフォスはゼンディラのことはなんとしても助けたいと思っていた。それは、彼が自分たちが本星へ戻るための取引材料になるから……というより、その後のゼンディラの人生が良心の呵責に悩まされず、幸福で平安なものであって欲しいと願う心から発するものだった。
ヨセフォスは作戦ステーションへ行くと、そこに並ぶいくつものモニターのひとつに、ゼンディラの部屋の映像を映しだした。もちろん、こうしたことはプライヴァシーの侵害であるとして、普段の彼ならこんなことはしない。だが、彼がもしかしたらふとした瞬間に自殺しようとするのではないかと、そんなことが心配で、ヨセフォスはゼンディラが無事でいるかどうか確認せずにはいられなかったのである。
ゼンディラはこの時、ベッドの端に腰かけて、壁に映るプラネット・テレビの教育番組を見ているところだった。彼は夜は睡眠カプセルで眠るようにと推奨されていたが、これもやはりレディウムとオーレリアがゼンディラが自殺するのではないかと恐れてのことだった。実際、彼はあまり食事の量も取らず、一日中ただ無為にぼんやりしていることが多かった。もっとも、ゼンディラとしては、僧院で過ごした時とまったく同じように――朝は五時に起床し、そのあとは祈りと瞑想の時間をとる――といったように時間を使いたかったわけだが、言ってみれば彼の心の罪悪感という名のバスラ=ギリヤークがそれを許さなかったわけである。
『おまえは人殺しだ!偽善者の仮面を被った大嘘つきめ!!今さら神に祈りを捧げたところでなんになる?いや、そもそもアスラ神は神ではないと、おまえ自身そう思っていたのではなかったかな?ハハハ。これは滑稽、滑稽。にも関わらず、今までおまえは何十時間となくこの神でない偶像に祈りと瞑想とやらを捧げてきたわけだ……もう誰もおまえのことなぞ救いはしないぞ、ゼンディラよ。もはや祈ろうと瞑想しようとどうしようと、ただ暗黒という名の空間が広がるばかりであることは、誰よりおまえがわかっていることではないか。しかも、この暗黒とは暗闇の空間のことではない。もしそれだけのものであったとすれば、どれほど良かったことであろうな、ゼンディラよ?何故ならこの暗黒は、おまえの心の――魂の内側から沁みだすようにして、おまえの全存在を満たすものだからだ。苦しめ、苦しめ、ゼンディラよ!「罪障なくば、すべての人は真に自由である」と、アスラ=レイソルも聖典の中で言っているぞ。だが、おまえはもうどのような詭弁を弄そうとも救われはせぬ。何故なら、人殺しという罪障の中に、おまえはもはや永遠に留まる以外にないからだ!!フハハハハッ!!』
(「罪障なくば、すべての人は真に自由である」……確かに、その通りだ。また、どのような罪をも、悔い改めたる者は赦されるとも、アスラ神は言った。「何故なら神とは、空に広がる宇宙よりも心の広いお方だからだ。また、人のどのような罪障もこの広い宇宙を満たすほど大きいものではありえない……そして、宇宙の神ソステヌの慈愛とは、この宇宙よりも広く深く大きいものだからだ。その深遠なる目的を信じよ。宇宙の塵なる人間たちよ。神はこのような塵すらも大いなる目的のために用いることがお出来になるお方なのだから」か……確かに、今のわたしはこの塵にすら値いしない者だ。また、四十九国に分裂していたメトシェラが、ひとつの国家に統合されるまでには――大義の名の元に、随分多くの血が流されたのだ。だがそれは、わたしがあの方を……ダリオスティンさまを死に至らしめた理由とは、根本的に何かが違う気がする……)
ゼンディラは今、住み慣れたアストラシェス僧院へ帰りたかった。そして長老らにありのままの事実についてのみ話し、それで彼らが自分を裁判所へ送付するというのなら、その正しい裁きを受けたほうが良いのではないかという気すらしていたのである。
>>続く。