(※『7SEEDS』に関してネタばれ☆があります。一応念のため、ご注意くださいませm(_ _)m)
ええと、今回の【14】と次の【15】は、二つでひとつの章なんですけど、例によってgooblogは30000文字以上……以下略☆問題によって、二つに分けるということになりました。なので、変なところで途切れて次回へ>>続く。ということになっていますm(_ _)m
んで、『7SEEDS』、一通り読んだあと、現在2巡目に入りました♪(^^)と言ってもわたし、1~10巻については無料で読んで、11~35巻+外伝のみ電子書籍にて購入したので……まあ、11巻目からっていうことなんですけど
いえ、夏のエリートAチームと、花ちゃんたち他グループの衝突っていうのは、ハルくんが最初に偶然「家路」を吹いてしまったことからはじまり、もう避けようもない不幸だったんだろうな……と、何かそんなふうにあらためて思いました
7人それぞれ、みんなトラウマを負っている中でも――もしかして安居が一番精神的に脆くて、傷を負っているようにも思われ……そんで、彼らが処刑した教師のひとりである卯浪ですが、今回あらためて読み返してみて、涼がそう指摘しているとおり、安居は本人がそう自覚していないながら、第二の卯浪になる道を危うく辿るところだったのかなあと思ったりしました
そして、それを癒したのがナツだった。茂=ナツと重ね合わせることで、安居は夜に寝ながら夢遊病のように茂を探すことをしなくなった。ここで、涼の中ではたぶんナツ=出来なさすぎる奴=死んでもやむなし☆……という方程式に当てはまらなくなったのかなと思うのですが、安居&涼の花ちゃんに対する当たりというのは、最初から最後近くまでキツイものだったと思う。。。
ナツはナツで、わたし好きなんですけど……今回読んでて思ったのは、花ちゃんの「デキるヒロインとしてのつらさ」だったでしょうか。なんというか、最後まで読み終えると、「出来杉彼氏感」強めな嵐くんですが、そんな嵐くんの支えでもない限り、『7SEEDS』のヒロイン張るのはつらいなーというか、キツイなーというか(しかも再会できるの、本当に本当に本当の最後のほうだし)。
一度目に読んだ時はそう思わなかったんだけれど、「誰にも頼らずにがんばる花ちゃん」の気を張ってテンパってるテンパリ感がひしひしと伝わってきて何かこう、痛々しいというか。。。
しかも、安居はそんなふうに気を張ってがんばってる花ちゃんのことを踏み躙るようなことをし……シャワー室で花ちゃんの裸見てる安居って、小瑠璃ちゃんがシャワー浴びてるとこ見てる卯浪と実は大差ないんじゃないかとあらためて気づき。。。いえ、安居には安居の事情があるってわかってるものの、『7SEEDS』の女性陣のみでもし仮に<一番キモい男>を決定すべく投票するとしたら――間違いなく1位になるのは安居だろうなというか(^^;)
まあ、もっともあのシーンで安居が「綺麗だ」とか、「暴れるな。優しくしたい」とか花ちゃんに言ってたら、それはそれで別の意味でキモいわけですが……う゛~ん。「安居キモっ!」、「キモ安居っ!!」と思いつつも、そうしたキモいところ含め、わたしは安居というキャラクターが結構好きです(笑)
さて、今回は前文にあんまし文字数使えないため、この続きはまた次回!!ということに
それではまた~!!
マリのいた夏。-【14】-
ロリの父と母が、今後協議ののち離婚へ至るだろうことがはっきりしたのは、8月の初旬、夏の暑い日のことだった。その年は家族で旅行へ行くということもなく、それまで例年あった友人らとのキャンプの計画もなく、ロリは本当に<特に何もない夏>を過ごしていた。
もちろん、自分としては図書館でのアルバイトの初体験といったこともあり、充実していると感じていたが、それでも他の同年代のティーンエイジャーにしてみれば、『ボーイフレンドと出かける予定もないだなんて、随分つまんない夏休みだね』くらいにしか思われないだろうことはわかっていた。
(ここの家に、今後とも永遠に自分は住まい続けていることだろう……だなんて、どうしてあんなに無邪気にぼんやり信じ続けることが出来たのか、今となってはなんとも不思議な限りよね……)
母シャーロットが、夫の出ていった翌日には、屋敷の中の整理をはじめるのを見て――ロリも少しずつ手伝うことにしていた。「図書館のアルバイトで疲れてるでしょうから、いいのよ、ロリちゃん」と母は言ったが、ロリにしてもそのほうが気が紛れていいのだった。
ロリはあのあと、「親友の恋人とはつきあえない」ということをルークにはっきり言った。一度そのように心が決まってしまうと、冷淡な態度を取ることもそう難しくなかった。けれど、それでも彼は毎日図書館へやって来て、本を借りていった。そして、返却した本にははっきりそれとわかる形で、必ずなんらかの紙片が挟まっていた。しかもそれは、長ったらしい謝罪の手紙といったこともなく、『君は思ってもみないだろうけど、案外オレは君のことをよく知ってる』ということを匂わせるようなものだった。
たとえば、ロリの好きな作家の小説の一節を抜き書きしたような言葉を挟めていたり、あるいはそれは詩人の気の利いた恋愛の言葉であったりした。>>「いつも変わらなくてこそ、本当の愛だ。一切を与えられても、一切を拒まれても、変わらなくてこそ」、>>「愛を拒まば、愛からもまた拒まれん」、>>「愛とは、自分自身よりも他の存在を好もしく思う感情のことである」、>>「事情が変われば己も変わるような愛、相手が心を移せば己も心を移そうとする愛、そんな愛は愛ではない」、>>「きみが百歳まで生きるなら、ぼくはその一日前まで生きたい。そうすれば、きみがいない日を生きなくてすむから」……それから、そんなことの続いた十日後、ルークはメーテルリンクの『青い鳥』の中に>>「いつかぼくは将来的に、「なぜ帰りが遅いのだろう」と君に心配してもらいたい」と書いた紙を挟めてきた。
この前日、ロリはルークが『星の王子さま』の本の間に『恋によって一度も心の破れたことのない者よりも、愛を知っている者のほうがいい』――という言葉を挟めて来た時にも、少しばかり心の動くものはあった。よほど、駐車場にいる彼の元まで行って、「何よこれ!もしそうだとしても、わたしの心が破れる相手はあなたじゃありませんから!!」と言ってやろうかと思ったのだ。
けれど、その感情が怒りであれなんであれ、何も言わないことが最善であると信じた。何分、もうすぐ夏休みも終わるし、さらにその前に図書館でのアルバイトも終わる……そう考えた場合、本当にもう少しの辛抱だと、そう思っていた。もちろん、ロリは知らない。ルークが今日、(これで駄目なら、明日からこんなことはもうやめにしよう)と考えていたことなどは。けれど、最後の最後になってようやく、ルークの思いはロリに通じた。赤のアルテオンの前にいたロリの瞳には微かに涙があった。だから、ルークはやっぱり彼女があらためて「つきあえないのに、もうこんなことやめて欲しい」と言いにきたのかもしれないと思いはした。
「……覚えてたの?」
「うん。だけどまあ、オレは……あのブルーの可愛いインコが死んだ時、特に君に何か言ったってわけでもないし。むしろマリのほうがさ、『ロリがあんまり悲しがってるから、かわりの可愛い鳥でもプレゼントしたほうがいいと思う?』って、オレに聞いてきたくらいだったんだ。でもオレは、『そういう無神経なことはしないほうがいいんじゃないか』って言った。ロリ的には、どっちが正解だったと思う?」
「うん。たぶん、それで良かったと思う……」
もちろん、どちらが正解だったかなど、今となってはわからないことだ。その昔、ロリが今いる高級住宅街へ住みはじめた頃、父親が誕生祝いに綺麗な水色のインコをプレゼントしてくれたことがあったのだ。ロリが本当に欲しかったのはペットショップの子犬だったが、『結局毎日世話をすることになるのはわたしなのよ』ということで、シャーロットが『そうね。小鳥くらいならいいかしら』と、トムに譲歩したわけであった。けれど、そのミチルと名づけられたインコは、オルジェン家へやって来て一年もせずに死んでしまった。病気でも、猫に食べられたわけでもなく――ある朝、篭にかけた布をロリがパッと取り、『ミチルちゃん、おはよう』といつものように挨拶した日のことだった。青い鳥は止まり木に片足の爪が引っかかり、そのまま逆さ吊りになるような形で死亡していたのである。
あんなに可愛がって言葉を教えたインコが、自分の不注意で死んだと思い込んだロリは、その後暫く落ち込んでいた。庭の片隅にインコのミチルのための墓を立て、そのやや盛り上がった土の上に、つるつるした青い石を置き、毎日お祈りまでしていたほどである。ルークは時折、生垣の間からそんなロリの様子を通りがかりに見ることがあった。そして一度だけ、家の庭から少しばかり花を摘み、ロリに手渡したことがあった。
『鳥が天国に行けないなんていうことがあるかしら?』
墓前に花を飾り、一緒にお祈りしたあと、ロリは涙ぐみつつルークにそう聞いた。
『そんなことないと思うな。だって、鳥は空を飛べるだろ?だから、きっとそのままお空を飛んでいって、天国にまで行き着くことが出来たんじゃないかな』
『そうよね。わたしもきっとそうだと思ってたの』
とはいえ、ルークはこの時以降も、自分から積極的にロリに話しかけることはなかったし、それはロリにしてもそうだった。そしてこの時ルークは、かつて昔、自分がマリに言った言葉をあらためて思い出し、ハッとしていた。『そんな無神経なこと、しないほうがいいんじゃないかな』……けれど、今にしてみればそれもまたわからないことだった。何故なら、他のどんな綺麗な鳥を与えられても、あの時のロリにとってミチルの代わりになりはしない――まだ幼いながら、自分が愛犬を失った時のことを思い出し、ルークはそう言ったのだったが、マリのプレゼントした新しい鳥がミチルの悲しみを早く忘れさせた可能性というのも大いにあったろうからだ。
――車のエンジンをかけ、静かに発進させる間も、ルークは暫く黙ったままでいた。ロリも暫くの間静かに泣きじゃくっていた。けれど、自分がずっと泣いていたのでは彼も困るだろうと思い……ロリはようやくのことでこう口にしたのだった。
「わたし、どうしたらいいの……?」
「べつに」と、ルークは何故か冷淡な口調で言った。「オレのことが嫌いなら、無理につきあえとは言えないし、もしその逆だったとしても、ロリはマリのことを気にしてるんだろ?その点に関しては、全部オレのせいにすればいいよ。いずれ、オレとのことがわかって、もし仮にマリが怒り狂ったとするよな?そしたら、ロリはマリにその件に関して何も言わなくていい。オレのほうから告白してきて、マリとは別れたって聞いたからって、それでいいんじゃないか?そのあと、あいつがオレのことを無茶苦茶になじってきて、ラケットで張り倒して来ようとどうしようと……そういうのは全部、オレのほうで引き受けるからさ」
「本当に、最初からそこまで考えてた?」
ロリは自分でも不思議だったが、この時少しだけ笑ってしまった。何故かというと、マリはこれまで試合でダブルフォルトになってしまい、頭にくるあまり、ラケットを地面に叩きつけて壊したことがあった。けれど、この場合のマリの怒りはその比でないだろうとしか思えなかったからである。
「そりゃそうだろ」と、ルークは今度は怒ったように言った。「マリはこの件については、オレのことを絶対許さないだろう。ロリ、君のことは許すとしてもね」
「そんなこと、関係ないんじゃないかな。わたしとルークがもし仮につきあうってなったら、マリはわたしのことも絶対許さないよ。それに、わたしも自分のことを許せないと思うから、許さないままでいてくれたほうが……もしかしたら、いいのかもしれない」
このあと、ロリも流石に沈黙が重くなって、あえて自分から明るい調子で、こんなふうに言った。
「あ、あのねっ、ルーク。うち、引っ越すんだ。その……お父さんとお母さんが、離婚することになって……」
ルークは前とは違い、この日は山の上からすぐ坂道を下り、市街の中心地のほうへ向かおうとしていた。けれど、もう少しすればさらに車が混み合い、ラッシュに引っかかる時間帯であるにも関わらず――ルークは狭い路肩に車を一時停止させたのである。
「本当に?一体いつ?」
ルークは心底驚くと同時、心からロリを心配している様子だった。
「えっとね、割と最近、かな。その話しあいのためだけにお父さんが帰って来て、少しの間揉めたの。ほら、ルークも知ってるでしょ?うちのお母さんとルークのお母さん、そのことでいつも色々話しあってるし……」
「ああ。まあ、うちの親父の浮気はビョーキみたいなもんだから。母さんもすっかり諦めきってるし……でも、ロリの家庭のとうちのそういうのとは本質的に違うと思う。じゃ、もしかしてオレ、ものすごく間の悪い時に告白したりしたんじゃないか?」
「ううん。もしかしたらその逆かも……お父さんとお母さんがあんなふうに言い合ったりしてるところ、今まで一度も見たことなかったから……むしろ、そのことで色々悩むことで気が紛れたっていうか」
「そっか」
ルークはウィンカーを出し、再び車を発進させると、最初行こうと思っていたホテルのレストランはやめにしようと思った。ふたりきりで話せればどこでもいいと思っていたとはいえ、内容のほうがお互いの家庭のプライヴェートなことになるとわかっていたからだ。
「あのさ、これからうちに来ない?」
「うちって……ルークの家ってこと?」
ロリはただ普通にそう聞いただけなのだが、やはりルークは笑っていた。
「オレ、大学に入ってから、大学の近く……いや、正確には歩いて十分ちょっとかな。そのくらいのところに部屋を借りたんだよ。なるべく早く家から出たくってさ」
ハミルトン家の長男マーカスは、現在ユトレイシア大付属病院にて、レジデントの一年目である。そして、マーカスはマリの姉フランチェスカの大学卒業を待ち、結婚する予定であるという。マリはマーカスがフランチェスカにデレデレする様子を見せるたび、顔の表情に嫌悪感を滲ませ、『ヘドが出そうなカップルよね』とルークに言い続けてきたが、そのふたりがようやく結ばれるというわけだった。また、長女のアンジェリカは現在オリビアの通う大学のふたつ上の学年だったが(ちなみにITメディアコミュニケーション学部)、デューケイディア市のクラブにて遊び呆けているため、成績のほうは留年するギリギリといったところだったようである。
こうなると当然、母エマの愛情の対象は、ルークひとりに絞られてくるようなところがあって――ルークはマリと決定的に別れることになりそうだと悟ってからというもの、部屋探しをはじめていたのだった。けれど、結局のところ彼が信託財産を自分の自由に出来るのは二年後ということで、自分だけの部屋を借りるという段においては、母親から随分あれこれ干渉されることにはなった。
「わあ。マンションのエントランスとか外観とか、そういうの見た時から思ってたけど……とっても素敵なところだね。なんかルークらしいっていうか……」
(オレらしいって、どういうこと?)とは、ルークも聞かなかった。もちろん、ロリの言っている意味が『王子さまらしい』といった意味だということまでは、彼も知りもしなかったわけだが。
「本当はもっと……金のかからないような部屋で十分だったんだけどさ。母さんから、『ロイヤルウッド校の頃のエリートのお友達だって遊びに来たりするでしょ?そういう時、ランクの落ちた貧乏なとこに住んでたら、あんたが惨めな思いをするのよ』とか、『ハミルトン家の財政状態を疑われて、変な噂を流されたりしたくないしね』とか、色々うるさく言われてね」
タワーマンションの高層階からは、ユトレイシア市街が見晴るかせて、とても素敵だった。夏のこの時分は、夜の七時を過ぎてもまだ明るいくらいだが、ルークはもう当たり前のように毎日見ているせいか、外の景色にあまり注意を払っていないように見える。もちろんロリには、彼がその景色の中に彼女のいることのほうが重要だ……などと思っているとは、露ほども感じなかったことだろうが。
「何か飲む?食べるものとか、何か買ってきたら良かったんだけど……結局、ウーバーか何かで頼めばいいと思って」
「ううん、いいよ。本当はいつも、仕事終わったらお腹すいてるはずなんだけど、今日はなんかもう、そんなことにも気がまわらないや」
「嘘だろ?昼メシ食ってから、腹に大して何も入ってないんだったら、それが当たり前だよ。えっと、じゃあピザを注文するか、あとは中華でもタイ料理でもインド料理でもイタリアンでも……色々あるけど、何がいい?」
「えーと……」
――結局、ルークは今自分が嵌まっているという中華飯店から、春巻や餃子やラーメン、チャーハンなどを注文していた。ロリは春巻や餃子を美味しいと思ったし、届くまでにラーメンの麺が伸びきっていても、特段気にしなかった(というより、ロリはルークほどラーメンという食べ物に対し造詣が深くない)。チャーハンも美味しかったけれど、ルークほどがつがつこれらの品を食べることに夢中になりはしなかった。
「あんまり口に合わない?」
「ううん。すごく美味しいけど……そっかあ。ルークは今、中華料理とか日本食に嵌まってるんだね。わたし、日本食はスシ以外よく知らないし、中華は前に食べたけど、名前あんまり覚えられなくて……」
「ああ、うん。そのうち、中華の美味しい店とか一緒に行こうよ。本当に美味しいお店に行くとさ、『何これっ、マジで激うまっ!!』みたいになって、自然と名前とか結構覚えるよ。少なくともオレはそうだった」
このあとも、ルークががつがつチャーハンを食べ、ラーメンをずるずるすするのを、ロリはただじっと横から見つめていた。
「……どうかした?」
「ううん、べつに。ただ、食べ方がすごく男の子だなあと思って……」
ロリがそう言うと、ルークは一度水を飲み、それからティッシュを二枚ほど取って口許をぬぐっていた。微かに頬が赤い。
「ほら、オレ家にいる時はさ、割と母さんのしつけ通りにメシ食ってる感じだから。あと、小さい時から近所のどっかの家に招かれた時は、意地汚くガツガツ食べたりするんじゃないとも言われてたし……そういえばロリ、覚えてる?ロリんちの庭の隅っこのほうに、緑色の小さな屋根のついた東屋みたいのがあって、そこのテーブルで紅茶とかスコーンとかクッキー並べて、一緒に食べたことがあったろ?大抵は他にマリとか、近所の他の子たちがいたりしたけど……一回だけ、オレとロリとロリのお母さんしかいなくてさ。あの時以来、また、あのお茶会に招いてもらえないかなあと思ったけど、ロリのお母さん、オレがそう思って生垣の前をうろうろしてても、それ以降は一度もお茶に誘ってくれなかった。『あら、ルーク。学校は楽しい?』とか、そんなことは生垣越しに聞いてくれたんだけどね」
「だったら、そう言ってくれたら良かったのに……」
もちろん、ロリは覚えていた。シャーロットは、ルークがインコのミチルのことで何かを言ったから、ロリが立ち直ったらしいと知り――それで、ある種のお礼をこめて隣人の息子をガーデン・ティーに招いたわけである。けれど、ロリがそのあと、緊張のあまりカチンコチンになって、クッキーの味もよくわからなかったと言って泣いたことから……以降、ルークはひとりだけではオルジェン家へ招かれることはなかったのだ。
「そもそも、オレたちってずっとそういう感じだったろ?基本的に、オレとロリはそんなに直接話したりしない。でも、マリを経由したりとか、ラースやライアン経由で、君がああ言っただのこう言っただの、進路はこうするつもりらしいだの、お互い何故か色々知ってるっていう。でも、随分遅くなったけど、あの夜以来ハッと気づいたんだ。べつにもう、ロリと直接連絡したりして話したとしても、どうってこともないんじゃないかってことに……」
「あの夜以来って?」
ルークが前に言っていた、去年あったキャンプの夜のことだろうとロリにしてもわかっていたが、彼の気持ちをあらためてはっきり聞いておきたかった。
「だからほら、ロリがキツネのあとを追っていって、シカをじっと見てたりして、さらにそのあと白いフクロウみたいのが出てきたから、これ以上待ってらんないなと思って声かけた時のこと」
「う、うん。あのキツネはたぶん、キャンプ場の残り物なんかを狙って、あのあたりを徘徊してたんだろうね。あたしのこと見ても、全然警戒心なんてなかったから、人間からエサをもらったりすることがあったのかもしれない。本当は、良くないことだけど……わたしも何か手にパンでも持ってたら、あげちゃってたかもなって思ったくらい」
「動物、好き?」
「好きっていうか……好きは好きでも、わたしのは結構、偽善的な好きかもしれないなって思う。見た目の可愛い毛むくじゃらなフワフワ動物撫でて、自分が癒されたいみたいな?だから、キツネが物欲しそうな目をしてたら、きっとエサとかあげちゃいそうだし、本当にその動物のことを思ってるとか、生態系全体のことを考えてるとか、そういうのじゃない気がする」
「ふう~ん。べつに、そこまで難しく考えなくてもいいんじゃない?」
「う、うん。まあ、それはそうなんだけど……」
(あ~、やばい。ロリ、可愛いな。キスしたい)
ルークは一瞬そう思ったが、自分がたった今ギョーザを食べたことを思いだし、さらにはげっぷが出そうになって、どうにか喉を叩いてごまかした。ロリはちまちまとしか食事してなかったが、それはマリのことが時折ちらつくのと、ルーク王子の前で粗相は出来ないという多少の緊張、その他仕事の疲れなど、色々な事柄が絡みあい、あまり食が進んでなかったといえる。
「たぶんオレ……どっちかっていうと、ロリが実際オレとつきあってくれたとしたら、かなりのところガッカリするとは思ってるんだ。ええと、ほら、ロリが前につきあってたノア・キングって奴。あいつほど落差激しくないにしても……でも、ノア・キングの奴と他のオレを含めた男全般、どう違いがあるかって言えば、そう違わない気はする。だから、女の人はどうかわかんないけど、男の側としてはあいつの身に起きたことを聞いても、軽蔑するとか、そういう気持ちは全然ないわけ。むしろ、そんな可愛い子相手に童貞捨てられたんなら、マスターベーションしてるところ見られたって、むしろラッキーだったんじゃね?って程度かもな」
「べつにわたし、ノアにはそのあたりについて何も言わなかったよ?ただ、向こうがすごくへこんでるみたいで、特段軽蔑してるわけでもないのに、軽蔑されてるって思い込んでるみたいだったから、そういうので別れようとかいうんじゃないんだよ、みたいな話をして……もちろんね、ノアには本当のことは言わなかったの。わたし、ずっとルークのことが好きだったし……」
「…………………」
(今、なんて?)と、聞き返そうとして、ルークは出来なかった。それから、(もう油淋鶏なんて食ってる場合じゃねえわ)とばかり、フォークをテーブルの上に置いた。
「それ、ほんとに?」
「う、うん。でも、そんなに重いっていうのじゃなくて、ほら、ルークは王子キャラで、小学の時も中学の時も、割と女の子たちは全員、ルークのことが好きだったじゃない?わたしもそういう群れの一員だったみたいな、そんな程度のことだもん」
「でも、マリのことを思うとオレとは恋愛できない?」
「一応、理屈としてはね、ルークはもうマリに別れを切り出してるんだしとか、順番として間違ってないとは思うの。でも、気持ちがついていかないっていうか……もし、ルークとそういうことになったとして、一度でもデートしたとするでしょ?そしたら、もう二度とマリの顔をまともに見たりできないんじゃないかって思うと、それは間違ったことなんじゃないかと思ったり……」
(間違ってないよ)と言うかわりに、ルークはソファの上のロリに近づき、彼女にキスした。(さっきロリもギョーザを食べていたはずだ)と思ったことが、彼に勇気を与えた。もちろん、急いではいけないとわかっていたから、すぐ体を離すことにしたけれど。
「えっと、そういえばさっきロリ……エレベーターで上がってくる時、オレの親父の浮気がどーとか言ってなかったっけ?」
「う、うん。ずっと前からね、わたし、ルークに聞いてみたかったの。うちのお父さん、本気の浮気歴が結構長いっていう人でね、愛人のほうが本命みたいな生活を長いこと送ってて……それで、愛人のほうの息子さんが――あ、お父さんとは血は繋がってないの。向こうの女の人の、死別した旦那さんとの間の子供。で、そのデヴィッドって名前の息子さんが、今年陸軍士官学校へ入学することになって、わたしだってもう来年には短大卒業するでしょ?だから、そろそろ一緒になろうみたいな、そうした話運びになったらしくて」
「それで離婚、か。随分勝手だな」
ロリがもう食事をする気がないらしいと感じ、ルークは冷蔵庫からデザートを取り出すことにした。美味しいナシやモモのシャーベットだった。
「どうかな。本当はもっと早くに離婚しててもおかしくなかったんだろうけど……たぶん、お父さんなりにわたしのことも考えてくれたのかなって思う。今の今まで、食べるものとか着るものとか、金銭的なことでは何ひとつ不自由することはなかったから、そういう意味ではお父さんにすごく感謝してて。だけど、子供としてのわたしの立場とお母さんの妻としての立場っていうのは、当然全然違うっていうか……どう言ったらいいのかな。もう随分前から心は離れてるってお互いわかってたとしても、もう二十年もずっと夫婦でいたわけでしょう?お父さんはまあ、待望の愛人と結婚でもなんでもして、第二の人生スタートさせればいいとしても……だからね、わたし、これからはわたしがお母さんのこと支えていきたいなと思ってて……」
>>続く。