こじらせ女子ですが、何か?

心臓外科医との婚約を解消して以後、恋愛に臆病になっていた理穂。そんな彼女の前に今度は耳鼻科医の先生が現れて!?

惑星シェイクスピア-第三部【7】-

2024年10月05日 | 惑星シェイクスピア。

【星たちを引き連れた夜】エドワード・ロバート・ヒューズ

 

「ストレンジャー・シングス」の中で、1980年代の曲が結構かかるということで……まあ、わたしの中でなんとなくパッと思い浮かぶ80年代の曲を並べてみようかなって思いました♪

 

 いえ、まあ今回で「時の翼の物語」は終わりとなり、時間軸のほうは次回よりハムレット・ギベルネス側へと再び戻ってくるのですが、今回は前文に書くこと特にないかなと思ったというのがあって(^^;)

 

 それでは、極めて偏った選曲ですが、順に貼っつけていってみようと思います(笑・

 

 ↓「テラ戦士ψboy」、実はわたしまったく知らなかったり(汗)。>>「超能力を持つ少女が宇宙からやってきた生命体"BOY"を悪から守るSFファンタジー」だそうです。なんだかすごく面白そう

 

 

 ↓菊池桃子さんもヒット曲多いですよね~♪

 

 

 ↓海槌三姉妹:「おーっほっほっほっ!!」、「おーっほっほっほっ!!」、「おっーほっほっほっ!!ごほっ、がはっ、ぐふっ……」、「あら、どうなさったの、亜悠巳お姉さま?」、「最近、ちょっと笑いすぎで喉の調子が……」、「まだまだ修行が足りないようね、亜悠巳。この程度で喉を壊してたんじゃ海槌家の人間として失格よ。おーほっほっほっ!!」……いえ、わかる人だけわかってくださいって話です(^^;)

 

 

 ↓スケバン刑事の映画のほうには確か、原作者である和田慎二先生がカメオ出演されてたと思います「つか、てめえ映画見てねーだろ☆」という話なのですが(汗)、テレビで特集されてるのを見たことがあったのです「スケバン刑事」大好きだったので、「和田先生ってこんな感じの方だったんだー」と嬉しかったのを覚えています。確か、主演の南野陽子さんが「どうして(武器が)ヨーヨーだったんですか?」みたいに質問されていて、和田先生は「飛ばしても戻ってくるから……」みたいに答えておられたような……ちょっと記憶曖昧ですみません

 

 

 ↓南野陽子さんもヒット曲多いですよね~♪

 

 

 ↓いえ、実はわたし映画の内容知らないのです(汗)。ただ曲だけ有名すぎて知っているという

 

 

 ↓こちらも映画見てなかったり(殴☆)。だったら何故貼ったwwという話ですが、有名曲だし好きなので

 

 

 ↓「セーラー服と機関銃」、映画見たことないんですよね(汗)。ただ、小学三年生くらいの時、合唱部に入っていたことがあって、それで歌わされたというか。でも最初の頃、なんか恥かしいなと思って口パクで歌ってたら、「口パクで歌うなら何故合唱部に入った!!」と顧問の先生に叱られました(ごもっとも・笑)。以来、大体のところ歌詞を覚えてしまい、カラオケでも歌ってみたり

 

 

 ↓「Wの悲劇」もわたし、薬師丸ひろ子さんの見たことないんですよね(すみません、ほんと)。ただ、武井咲さんのドラマをその後見たことがあって、「そっか~。こんな感じのお話だったんだ~」と驚いた記憶があります。

 

 

 ↓こうして見てくると、1980年代ってSF&超能力的なテーマのものが結構流行っていたのかなって思います

 

 

 ↓シンデレラ・ハネムーン、1978年の曲みたいなんですけど、まあ気にしないでください「コロッケの物真似?一体なんのことですか?(真顔☆)」

 

 

 ↓ロマンスも1975年の曲みたいなんですけど、いいんです、好きなんですうっ!!

 

 

 ↓明菜ちゃんは、ヒット曲多すぎて選べなかったので、とりあえず一曲だけ

 

 

 ↓工藤静香さんもヒット曲多すぎて選べず……なので、砂漠つながりによって選曲。「おニャン子クラブ?一体なんのことですか?」とは言うまい(笑)。

 

 

 ええと、何か色々自己満足的に並べてみましたが、選曲のほうに特に深い意味はなかったり1980年代後半の曲っていうことでいえば、レベッカやBOØWY、TMネットワーク、B❜zなどを聞いていたような気がするものの……いいんですう。とにかく大好きなんですうっ!!ということでww(若干キモい☆)。

 

 それではまた~!!

 

 

     惑星シェイクスピア-第三部【7】-

 

 ところが……。

 

『あ、この無限回廊の部屋はほとんどフェイクですので、無視して一番左端の部屋までお進みくださいませ。下手に開きますと、自分の欲望に狂う姿その他、一番見たくないものを見させられたり、過去の思いだしたくもない思い出が今起きているかのように復活してきますのでご注意を……』

 

 指環の死霊がそう教えてくれましたので、一行は真っすぐ左端の部屋のほうへ向かいました。大抵は、途中でうっかり一部屋くらいドアを開けてしまい、それが呪いのはじまるスイッチの役目を果たすということでしたから。

 

「だけどあんた、やけに随分詳しいじゃない?ここに死霊として住んでたことでもあんの?」

 

『ええ、まあ……』

 

「それに、死霊の騎士が襲ってこないのも、妙だ。あいつらはあくまでも、夜に闇の塔の外を守ってるってわけでもないんだろう?」

 

 このバリンの疑問に対して、指環の死霊はこう答えていました。

 

『実はワタシは……四十九人いる騎士のひとりなのです。名前をセヴァン・パーティントンと申します。死霊の王は、無念の思いで死んだ我々騎士を墓から呼び起こし、こう聞いたのです。「ひとつ、賭けをしないか?」と。「おまえたち、四十九人の騎士のうち、あのモルガン姫がひとりくらいおまえたちの戦いぶりのことを覚えていたとしたら……その時はおまえたちの勝ちだ。また、私が負けた場合には、唯一生きている間に敵わなかった望みをひとつだけ叶えてやろう」と。みな、そのまま眠っていればそのうち天国へ行ける身であったというのに、この世に対する執着ゆえに、死霊の王との取引に応じてしまったのです。いえ、もし仮にワタシのことを覚えてなくてもいい、他の四十七人の落馬した騎士たちのことを覚えていなくてもいい……でも、最低ひとりくらいは彼女のために戦い、命を落とした騎士の戦いぶりのことを覚えているはずだと、ワタシたちはそう考え、相談して死霊の王との取引に応じてしまったのです。まさか、負けた時の代償がこんなに高くつくことになるとも知らずに……』

 

「ふうん。そうだったの。あんたも、そのモルガン姫って人も、随分可哀想ね」

 

『…………………』

 

 死霊は一旦黙り込むと、一度指環の中へ消えてしまいました。みなは(こんな大切な時に一体どうしたんだろう?)と感じはしましたが、とりあえず一番左端のドアを目指してそのまま進んでいくことにしました。そこへ辿り着くまでにも相当長いこと歩きましたし、そうこうするうち、この扉の中がどうなっているかなどと、つい覗きたくなる心理というのはよくわかる気がしました。

 

 ところがとうとう――廊下の向こうの行き止まりが見えて来たのでした。しかもそこにあるアーチ型の石の窓からは、美しい空と雲が完璧な絵でも貼りつけてあるかのように見晴るかすことが出来ます。

 

「うっわ~……こんなところから落ちたら一たまりもなさそうだぞ」

 

 ロックが石の窓から吹いてくる風に吹かれつつ、下を覗き込んでそう言いました。すると、人も悪いことにグリンがドン!と突き飛ばすような振りをして驚かせます。そして、ふたりが「よせよお~」、「はははっ。つい悪ノリしちまっただ」だのとしゃべっているうち、バランとバリンとバロンとラヴィの四人は、先に左端の部屋のほうへ入っていきました。

 

「うっ……一体なんだ、このひどい匂いは……」

 

 バリンが鎧の上に着た藍色のガウンの裾で、鼻のあたりを押さえてそう言いました。というのも、最初のあの地下牢より、ここの部屋のほうが腐臭のほうがひどかったからなのです。バランもバロンもラヴィも、気持ちは一緒でした。ふたりは上品にハンカチで鼻のあたりを押さえていましたが、バロンはハンカチを持っていませんでしたので、とりあえず片手で顔の半分を覆うことにしました。

 

「ヒィ~、こりゃ、一体なんつーひどい匂いだべ」

 

「鼻がへん曲がっちまうほど、ひでえ匂いだ」

 

 グリンもロックもふたりとも、何かすっぱいものでも食べた時のように顔の真ん中に表情を寄せています。ここで、セヴァン・パーティントンが再び、アメジストの指環の中から出てきました。

 

『そちらの、六段の階段に囲まれた上のベッドで眠っておられる方がモルガン姫でいらっしゃいます』

 

 六人とも、窓のない灰色の石壁に囲まれた部屋、その真ん中あたりにあるベッドを見上げると、そちらのほうへ一段一段上がってゆきました。どう考えても、そこに腐臭の源と思われるものがあると感じましたが、そのことについては誰も口にしませんでした。

 

「こ、これは……っ!!」

 

 豪華な四柱式ベッドのほうは、カーテン状の覆いがかかっていましたが、夜のような濃紺のベルベットのカーテンは金のタッセルによって端に寄せてあり、レースのカーテンだけがすべてを覆い隠しています。そして、そのレースを通して六人の仲間たちが見たものは――美しいドレスを着た、頭に宝冠をかぶった皺だらけの醜い老女だったのです。

 

「セ、セヴァン、これって……」

 

『ええ』と、指環の所有者であるラヴィだけでなく、その場にいる全員に語るようにセヴァンは答えました。『この方が、蝶よ花よと育てられ、見る人すべてを魅了した、あの美しいモルガン姫の成れの果てなのです。ワタシたち四十九人の騎士は、死霊との賭けに負けました……もちろん、この方が自分を覚えてなかったことは、当時ワタシにとってショックなことではありましたよ。それは他の騎士たちにしてもそうだったでしょう。ですが、モルガン姫があまりにも見事にまったく何も覚えておられなかったことで……七人目か八人目の騎士くらいの頃になってくると――つまり、七夜目や八夜目くらいの頃になってくると、ワタシも他の騎士たちも、だんだん笑いがこみ上げてきたものでした。「おまえもかよ!」なんて、互いに肩や背中を叩きあって笑ったりしたものでしたが、流石に騎士の数が四十人を越える頃には……ワタシどもも笑ってなどいられなくなってきました。ワタシたちの計算としてはですね、モルガン姫のために戦い、命を落とした騎士を二~三十人ばかりも彼女が覚えてなかったとしても、三十何人目くらいの騎士にひとりくらいは覚えている者がいるに違いないという心積もりでいましたもので、死霊の王にどんな願いごとを叶えてもらおうかと、そんな話で盛り上がったことさえあったくらいでした。と、ところが……』

 

「誰のことも、見事なまでに綺麗さっぱり覚えてなかったんだな」と、溜息を着いてバリン。「それは騎士にとっては許せんことだ。だが、この場合騎士セヴァンよ、大切なのはその後そなたらがどうしたかということだ。つまり、四十九夜目、四十九人目の騎士のことをもモルガン姫が覚えてなかったというその日、一体何が起きたんだ?」

 

『すでにもう数え切れぬほどの歳月、遥か昔の時の彼方の出来事であるにも関わらず、その日その時のことはよく覚えております。湖に囲まれた城の近くでモルガン姫が休んでいると、死霊の王が「してやったり!」という勝ち誇った顔をしてやって来ました。そして、我々に契約の履行を求めてきたのです。我々は、死霊の王の要求を拒みました。いや、ワタシたちのことは最悪どうでもいい……いえ、本当はどうでもよくないのですが、ワタシたちのことでモルガン姫までが不幸になるのが堪らなかったのです。ですが、死霊の王は我々四十九人の騎士が束になってかかったところで到底かなう相手ではない。我々は身の毛もよだつような怪物や化け物どもに囲まれた婚礼の式に、嫌々ながらも参加させられ、震えて顔も青くなっているモルガン姫のことを悲痛な思いで見つめるしかありませんでした……ですが、本当の意味で死霊の王に屈するつもりはなかったのです。死霊の王の手足となり、その命令に聞き従うしかなくなった我々ではありますが、ある時あなた方と同じように、この闇の塔へやって来た強者どもがおったのです。彼らの中にひとり、この死霊を五十名まで閉じ込めることの出来る修道僧がおりまして、ワタシは彼とある取引をすることにしたのです。モルガン姫の魂を一度、そのアメジストの中へ閉じ込めて逃がしてはくれまいかと……彼らは姫の身の上を非常に気の毒がってくださり、こうしてワタシと姫の魂とは、一度この修道僧の指環の中へ取り込まれ、外の世界へ脱出することが出来たというわけなのでございます』

 

「なのでございますって……」と、バリンが腑に落ちないような、不満顔をして言いました。その不機嫌そうな顔は、ひどい腐臭のせいでもあったかもしれません。「おまえ以外の残り四十八人の騎士たちは一体どうしたんだ?それにその修道僧だって、ひとりでこの闇の塔へ乗り込んできたってわけでもないんだろ?その後その一行はどうなったんだ?無事だったのか?」

 

『はあ……それが、ですね。ワタシ以外の騎士仲間たちはワタシひとりくらいであればともかく、残り四十八人のうち五~六人ばかりも一度にいなくなったとすれば、すぐに死霊の王に感づかれてしまうだろう、だからおまえだけが行ってこれからモルガン姫をお守りするのだぞと、そんな感動的な言葉をかけてくれたのです。ワタシの骸骨と化し、冥府の闇のように暗くなった眼窩からは、涙が溢れそうになったものでした……そこでワタシは自分の魂に次のような誓いを立てたのでございます。必ずやモルガン姫のことのみならず、他の四十八人の騎士仲間のことも、この死ぬより悪い苦しい状況から救いだしてみせると……』

 

「そうだったのか」と、感じ入ったようにバラン。「して、この気の毒なモルガン姫のことは、どうすれば救えるのだ?」

 

『はあ。それが、ですね……あなた方の中で、このモルガン姫と結婚してもよいという殿方が姫にキスしてくだされば――彼女の呪いは解けるのみならず、我々四十九人の嘆きの騎士らの魂もみな救われて天国へ行くことが出来るのでございます。と言いますのも、死霊の王は当然、ワタシがモルガン姫の魂とともに逃げたということをご存じでしたから、そののち、また新たな賭けを……何かのゲームでも楽しむようにワタシに持ちかけていたのです。すなわち、闇の塔のてっぺんで眠る年老いて百六十歳とも千六百歳のようにも見えるモルガン姫と、酔狂にも結婚してもいいという男がいたら、例の契約のほうは無効にして天国へ行ける身に戻してやろうという、それはそうした新しい賭けによるゲームだったのです。死霊の王にとって……』

 

「ふうむ。だが、私はすでに結婚して子供もいる身だしな」

 

 バランは、顔中に皺という皺の寄ったような、醜い老女を見ながら言いました。自己犠牲という高潔さに富んだ彼であれば、結婚さえしていなければ、きっとこのモルガン姫に迷わずキスを与えていたことでしょう。

 

「あっ、兄上っ!!そんなの、この俺だって一緒だぞっ!!まあ、もしかしたら妻は、かくかくしかじかで仕方なくといえば、俺に第二の妻が出来たと聞いても、許してくれるやもしれぬが……」

 

 とはいえ、口ではそんなことを言いながらも、バリンはそんな気は最初から全然ないのでした。彼の場合はもし自分が未婚だったとしても、このような老女と結婚などとは絶対ごめんだとしか思えなかったことでしょう。

 

「ええと、オラはキスしてもええだども……」と、何故かもじもじ照れたようにグリン。「んだども、オラみえてなウスノロでバカでアホでマヌケって評判の男と、こんな高貴なお姫さまが結婚だなんて……目が覚めたあとモルガン姫がさめざめ泣きだしたら、オラどうしたらいいかわからねえだよ」

 

「オ、オイラも……」と、すっかり怯んだようにロック。「オイラみてえな田舎もんで、短足胴長で、顔の印象の薄いような男が自分の夫だって知ったら……ついでに金もねえ孤児のオイラと結婚することになったなんて、目が覚めたあとモルガン姫にわかったら、きっとがっかりするに違えねえよ。だから、協力してえのは山々だども……」

 

 ロックの言葉が力なく死臭の立ち込めた空気の中へ消えゆくと、自然、みんなの視線はバロンひとりに集中しました。

 

(えっ!?オ、オレ!?)

 

 マジですか、というようにバロンが絶望と失望の表情で、兄のバランとバリンを見返します。

 

「そういえばバロン、おまえはまだ結婚してなかったな」と、あくまで真面目な顔をしてバラン。

 

「そうだ、そうだ!!きっと御恵み深い神が、こんな時のためにおまえを結婚させずにきたのかもしれん。俺も、最愛の妻のジリアンさえいなければなあ。だが、今から離婚するわけにもいかぬ以上、バロンよ、モルガン姫に相応しいのはおまえくらいしかこの中にはおらぬ」

 

「いやまあ、いいけどさあ」

 

 バロンは次兄バリンに対しては(兄ちゃんの嘘つき……)と内心思いましたが、何かを諦めたような溜息を着くと、そのことを了承していたのです。

 

「えっ!?あんた、バロンっ。ほんとにいいの?彼女、もう何百年も眠ったままでいたんでしょ?で、一時的にまた目を覚まして結婚生活を送れたにしても――まあ、そうよね。またすぐに死ぬかもしれないと思ったら、その短いだろう期間耐え忍べばいいってこと?」

 

「違うよ」と、バロンは言いました。彼はこれまで結婚する機会がなかったわけではないのですが、生来の優柔不断が祟ってか、どっちつかずの態度を取るうち、大抵は女性のほうに振られるといったような人生だったのです。他にギャンブルに明け暮れたり、娼館通いをするなど、脛に傷の多い人生を送ってもきました。これはそのことの罰だ、とまでは考えませんでしたが、ともかくモルガン姫含め、五十人もの人間の魂がかかっている以上、迷うことは出来なかったのです。「とにかくみんな、階段を下りて下のほうへ行ってくれ。モルガン姫だって、今ラヴィの言ったようなことは耳にしたくないだろうからね」

 

 みなは(確かにそれはそうだ)と納得して頷き、一度席を外すことにしました。バロンがレースを分けてベッドに膝をつくと、歯槽膿漏の一番悪くなった歯ぐきでも、ここまでのひどい匂いをさせはすまい……というほどの、ひどい腐臭が漂ってきます。

 

 ここでバロンは(死霊に翻弄される、大変な人生だったのですね……)と、無意識のうちにも心の中で姫に語りかけ、あとは迷うことなく瞳を閉じると、その昔は若い娘の薄桃色だったのだろう老女の唇にキスを与えました。

 

 途端、周囲で再び、大きな地震でも起きたかのようなゴゴゴゴゴ……ッ!!という地鳴りのような音がしたことで、誰もがあたりの様子を見まわし、モルガン姫の眠るベッドから目を離した瞬間のことでした。開け放したドア、外のアーチ型の窓のところから、清新な風が吹いてきたかと思うと部屋の空気を清め、ふうっと一瞬にしてなくなったのです。

 

 バロンも、その風のせいで一瞬にして寝室の空気が清浄化されたように感じるのと同時、(それともオレの嗅覚がおかしくなっただけかな……)などと、疑わしく首を傾げた時のことでした。再び彼がベッドのモルガン姫のことを振り返ってみると――そこには百六十歳どころか、千六百歳ばかりにも見えていた老女の姿は消え、まだ十四歳ほどに見える少女がちょこなんと座っていたのです。

 

「ラ、ラヴィ、おまえ……っ!!モルガン姫はどうした?彼女は一体どこに……」

 

「どうやらこのあたしがモルガン姫だったってことみたいよ。ねえ、そういうことなんでしょ、セヴァン?」

 

 ラヴィは、自分の薬指に結婚指輪のように嵌まっているアメジストの宝石に向かってそう話しかけました。すると、そこからはフワッと顔が半分崩れて骸骨化した男ではなく、生きていた頃の、立派な騎士としてのセヴァン・パーティントンが姿を現していたのです。

 

「あなた方には、一体どうお礼を申し上げたらよいやら……そうなのです。魂だけのお姿になったモルガン姫は、死霊の王と結婚したことや醜い怪物どもと暮らした生活のショックのせいかどうか、ある時から記憶のほうを失っておいでだったのです。そこで、いつも誰か姫とその精神性が合うような娘の肉体に住んでもらい、彼女が老いて亡くなると、また別の肉体を探しと……とはいえラヴィリン・ラヴィッド、あなたさまの記憶がないのは、モルガン姫の魂の器となったからではありません。むしろ逆に、あなたがそのような形で森を彷徨っていればこそ、私はあなたをモルガン姫の依り代とすることが出来たのです」

 

「でもわたし、モルガン姫が目を覚ますと同時に自分のことも思い出したわよ。まあ、ろくな人生じゃなかったけどね。義理の両親から折檻されながら働かされるっていうような、特に思い出す必要もないような人生だったわね……実はさる国の王女だっただの、貴族の娘ってことだったりしたら良かったと思うけど、どうやらそういうことでもないみたい。だからね、バロン。あなたが嫌々ながらわたしやモルガン姫と一緒にいるような必要もないと思うわよ」

 

「えっと、わたしやモルガン姫って……」

 

 すると、ラヴィは突然バロンの顔をがしっと掴んだかと思うと、その唇に熱烈なキスをしました。とても処女のまま亡くなった人とは思えぬほどの、それは濃厚で情熱的なキスでした。

 

「だっ、だからね、これは違うのっ!!わたしじゃないのっ!!」

 

 矛盾した行動を取りながら、ラヴィは顔を真っ赤にしてバロンのことを突き飛ばしました。

 

「あーもうっ!!あんた、モルガン姫っ。四十九人の騎士たちとあんたも一緒に天国へ行くため、昇天したらいいんじゃないの?っていうか、このままひとつの体にあんたとふたりで住むってのはごめんだわ。だって、こんなふうにたびたび人格交替が起きたんじゃ頭のおかしい変人だと思われて、普通に生活するのも大変そうだものっ!!」

 

「ええっと、でも君はオレと結婚したわけだし……」

 

 バロンは混乱した頭のまま、そう言いました。このあたりの国では十四くらいで結婚することも特段珍しいことではありませんでしたが、それでも彼としては少々罪悪感の疼く年齢とは言えます。

 

「すみませんが、ラヴィにバロン殿。モルガン姫はまだ暫くこちらの世界で遊んだり、色々経験したりしてから天国へは向かいたいそうです。まあ我々はすでにそんな希望もなく、再び天国へ行ける身となったことを無上の喜びとするばかりですので……」

 

 セヴァン・パーティントンの魂はその言葉をみなまで言い終わる前に、黄金の輝きへと変わり、どこかへ行ってしまいました。バランもバリンもロックもグリンも、あまりのことに驚いてしまい、暫く口も聞けないほどだったのですが――この時、バランが突然ハッとしたようになると、こう言いました。

 

「みんな、私に摑まってくれ。そろそろ元のあるべき世界へ帰ろう」

 

「ふふっ。若い娘の姿で新妻になれて嬉しいわ」

 

 ラヴィが熱っぽい眼差しでバロンのことを見上げ、ぎゅっと愛する夫のことを見上げてきます。自分が男の彼の立場でも、あんな醜い老婆に――それもひどい腐臭を漂わせている死体に――キスすることなど、想像もできなかったことでしょう。おそらく、容姿の点でも騎士としての腕前その他をすべてトータルした場合、遥か大昔のモルガン姫ならば、惹かれていたのはバランかバリンのどちらかだったことは間違いありません。けれど、彼女の瞳にはもうバロンのことしか見えませんでした。そして、これが本当の意味で恋をするということなのだということが、このお姫さまにも生まれて初めてわかったというわけなのです。

 

(やれやれ。なんだか恐ろしいことになったようだぞ……)

 

 バロンは心の中でそう思いながら、兄バランの白いガウンの裾を掴みました。「ごめんね、バロン。もし嫌だったら……」と、ラヴィもまたバランの服の袖を掴みながらそう言います。

 

「いや、そのことはまた元の世界へ帰ってから考えることにしよう」

 

「んだ、んだ」と、バランの肩に触れつつグリン。「なんにしてもオラは、バロンの国の隅っこのほうにでも住ませてもらって、時々友達とクリケットするような生活でも送りてえだからな」

 

「オイラはシャリオン村が元に戻ってたら、それだけでいいや」と、ロック。

 

「ボウルズ町も呪いが解けて元に戻っているといいが」と、バリン。「それと、バロンとラヴィ……じゃなくてモルガン姫か?の結婚式も盛大に行わないとならないな」

 

「ふふっ、楽しみ」と、人格交替してモルガン姫。

 

「ええと、みんな掴まったかい?」まるで出航前の船のキャプテンのようにバランがそう聞きます。そして、みながちゃんと自分の体なり衣服のどこかなりにちゃんと触れているようだと確認すると、一度深呼吸し、何かの覚悟でも決めるように<時をかけるブーツ>の踵を三回打ち鳴らしたのでした。

 

 六人(もしかしたら七人かもしれませんが)が戻ってきた先は、ボウルズ町の、北の街道へ続く例の土手の上でした。今回、バランはちゃんとした場所へフワリと鳥の翼のように着地しましたので、誰もみな、瞬時にして時空移動したのだとはちょっとの間気づかなかったほどです。

 

「意外に終わってみると、呆気なかった気もするなあ」

 

 バリンがまるで、気が抜けたように、土手の緑の上に腰かけてそう言いました。なんだかもう、何十年も旅をしてきたような気がしていたのです。

 

「そうだな。廃墟と化したボウルズ町が、昔のように元に戻っているのがここからでも見える。聖堂の尖塔や、丘の上の城も、私の知っている元のままだ……廃墟になっている間、彼らがどこにいたのかとか、そうしたことはわからないよ。だけど、そんな細かい理屈はともかくとして、死霊の王の呪いが解けたことを今は喜び祝うとしようじゃないか」

 

「ああ、そうだな……」

 

 六人はこのあと、まずはボウルズ町のバランが城主の城のほうで、大きな祝賀会でも開くかのように、まずは食事のほうを心ゆくまで楽しみました。ボウルズ町はバランがシャリオン村へ向かう前と、一切何も変わってなどいませんでした。彼の妻も三人の息子たちも、自分の夫やお父さんがほんの数日留守にしていたとしか思ってはいなかったのです。

 

 シャリオン村のほうも、すっかり元の通り――というのは、例の竜巻がやって来る前の通り――に戻っており、ロックが井戸のほうを一応確かめてみると、時の穴のほうはすでに消失していました。このことを確認すると、バリンもバロンもラヴィもグリンも、安心してそれぞれ自分たちの住まいとする領地のほうへ戻るということにしたのです。

 

 さて、バロンとラヴィ(&モルガン姫)の結婚式のほうですが、こちらのほうは盛大に執り行われるということになりました。バロンは結婚前、足しげく娼館通いをしているといったような、羨ま……ではなく、実にけしからぬ生活を送っていた男性でしたが、結婚後はすっかり変わってしまったようです。というのも、モルガン姫(ラヴィ)との結婚生活をきちんと守らないと死霊の王の祟りが再来するかも知れませんでしたし、それ以前に娼婦の女性たちとさんざん遊んでもきましたので、せめても結婚した以上はその生活のほうを清らかに保ちたいと思ったのかもしれません。

 

 もちろん、他にも理由はあったでしょう。結婚後、奥さん以外に愛人を持ちたいと願う世の男性は多かったに違いありませんが、バロンは実質、ふたりの女性と暮らしているようなものでしたので、それはもしかしたら普通の結婚生活以上に刺激的なものだったのかもしれません。しかも浮気なんてしようものなら、ひとりの女性だけでなく、ふたりの女性に左右から締め上げられるにも等しかったため――バロンは結婚前の悪い癖を出し、再び娼館の女性たちとよろしくやるということが出来なかったのかもしれません。

 

 そのうちのどちらだったのかはわかりませんが、きっとおそらくは半々くらいだったのではないでしょうか。バランもバリンもバロンも、その生涯の間(バロンだけは結婚してのち、ということになりますが)、良い領主としてその領地を治め、幸福な人生を送り、長寿をまっとうして亡くなったと言い伝えられています。

 

 ところで、例の「五十人のなんちゃら……(以下略)」という、五十人系アイテムですが、それらはボウルズ家の家宝として取り扱われ――ロックはバランから褒美として開拓地を与えられると、弓矢のほうはその時、バランの子孫に与えて欲しいと言って渡していましたし、グリンの棍棒はバロンの城の宝物蔵に保管されることになりました――また、ラヴィの持っていたアメジストの指輪は、その後彼女の娘のひとりに継承されるということになったようです。

 

 けれど、その後数百年もの歳月が過ぎるうち、これらの宝剣も大楯も時をかけるブーツも散逸し、今はボウルズ家の領地のどこを探しても、いずれの品もないという状態になっているとのことです。そして、この物語はその後も人々に愛好され続け(書き記した作者はバラン・ボウルズであろうとされていますが、今となっては確かめる術はありません)、とりわけ今もその名の残るボウルズ家の子孫が治める領地に、銅像などとしてその名残りが町や村のあちこちに見受けられるということです。

 

 

 >>続く。

 

 

 

 

 


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