こじらせ女子ですが、何か?

心臓外科医との婚約を解消して以後、恋愛に臆病になっていた理穂。そんな彼女の前に今度は耳鼻科医の先生が現れて!?

ぼくの大好きなソフィおばさん。-【19】-

2017年08月04日 | ぼくの大好きなソフィおばさん。
【エミリー・ディキンソンのウィキペディアより】


 今回もまた、ちょうどいいところで文章を切ることが出来なかったので、中途半端なところで>>続く。っていうことになってます(^^;)

 そんで本文のほうもちょっと長いので、ここの前文どうしようかなって思ったんですけど……前回エミリー・ディキンスンの「マスター・レター」について触れたので、三通あるうちの一通について文章を引用してみようかなって思いましたm(_ _)m


 >>親愛なるマスター(先生)

 私は病いの床にありますが、あなたが御病気だということで更に悲しくなり、あなたにお便りする間、しっかりした方の手を使って書いています。私はおそらくあなたが天国にいらっしゃると思っていました。また口をきいて下さったので、本当に素敵で素晴らしくて、びっくりしました――あなたがお元気だといいのですが。

 私の愛するものが皆もうこれ以上弱くなったりすることがないようにと願っています。すみれは私の側(かたわら)にあり、駒鳥たちもすぐ近くに来て、そして「春」――と皆が言うのですが、彼女は誰なのでしょう――は戸のそばまで来ました――

 本当に今の季節は神の家です――天国の門です。開いたり閉じたりして、天使たちが、素敵な騎手と共に出入りします――私がミケランジェロ氏のように偉大で、あなたのために絵が描けたらと思います。私のお送りした花が何を言ったかお尋ねですね――それでは花は私の言うことを聞かなかったのです――メッセージを託しましたのに。花は、日が沈む時に西の唇が言うこと、それから夜明けが言うことを伝えたのです。

 もう一度お聞き下さい、マスター。今日が安息日(サバス)だとは申し上げませんでした。

 海の上で安息日を迎えるたびに、私たちが陸地で会うまでの安息日の数を私は数えてしまいます――丘は水夫たちの言うように青く見えるのでしょうか。今晩(今)はこれ以上お話し致し(これ以上おれ)ません。こんな痛みがあるため出来ないのです。

 病気で身体が弱っていると、どうしてこんなに記憶力が強くなり、愛することはたやすくなるのでしょう。お手紙下さいますか。お元気になられたらどうか、すぐお手紙下さい。

(『エミリ・ディキンスンの手紙』山川瑞明・武田雅子さん編訳/弓プレスより)


 これはおそらく投函するつもりだったのだろうと思われますが、他に2通あるマスター・レターのほうは激情的というか、告白的雰囲気の強いもので、最初から投函するつもりはないけれども、それでも(相手に思いを伝えるのに)書かずにはいられなかったといった雰囲気の手紙であるように思うんですよね(^^;)

 なんにしても、ディキンスンが生きたのは1830~1886年なので、今から百年以上も昔の人の個人的な手紙を読んでそんなに面白いものか……と思われるかもしれませんが、これがもう面白いのです!!

 何故かというと、やっぱりこの手紙を一通読んでみただけでもわかりますけれども、ディキンスンの手紙って多分に詩的なところがあって、独特の調子で書かれているというのがありますし、伝記を読んだりしてある程度人物相関図のほうがわかったあとに読むと、「なるほど~♪」といったようになってさらに面白いというか。。。
 
 なんにしても、次回はアンディくんの初体験といったところだったかな~と思います(^^;)

 それではまた~!!



     ぼくの大好きなソフィおばさん。-【19】-

 春休みまであと一週間を切った頃、突然なんの前触れもなしに、ソフィがフェザーライル校までアンディに会いにやって来た。

 校長室へ呼ばれたアンディは、例の漫画絵の件のことで最後通牒を校長より言い渡されるものと思い、暗く沈んだ顔をして校長の邸宅の呼び鈴を押していた。メイドのひとりが出て校長室まで通してくれたが、アンディはいつもなら石造りの廊下の左右を飾る彫刻の品などに目を奪われながら歩く。けれど、この日はただ深くうなだれたまま、足元に敷かれた赤い絨毯をじっと見つめ、校長室まで行進していったのであった。

 ところが、「入りたまえ」との言葉を受けて校長室に足を踏み入れると、左手にある応接室からネイビーブルーのスーツを着たソフィが、軽くアンディに向かって手を振っているところだった。

「ソフィおばさん。どうして……」

 アームストロングは、罪の告白からたったの一日で随分顔色の悪くなったアンディの顔が、一瞬にしてパッと輝きを放つのを見た。瞳の中からは疑心のようなものが消え、素直そうな少年そのままの、子供らしさのまだ残る彼が突如戻ってきたかのようだった。

「校長先生が、気を利かせてくだすったのよ。春休みまでまだ一週間くらいあるけど、特別に少し早く帰っていいんですって。おばさん、そのことを聞いて嬉しくなっちゃって、急いで迎えに駆けつけたのよ。まあ、アンディがもしちゃんと二学期を最後までお務めしたいっていうんなら、おばさんリース湖の近くに宿でも取って待つことにするわ」

「いや、僕帰る。ソフィおばさんと一緒に、早くノースルイスの屋敷に帰りたい」

 アンディは抑え難い自分の本音をすぐ口に出してしまったことを恥じた。そこで瞬時にして顔が耳まで赤くなったが、ソフィが「また大きくなったわね」などと言って肩や腰に手を回してくれた感触が嬉しくてならず、そんなこともすぐどうでもよくなった。おそらく自分はフェザーライル校のすべての生徒が敵にまわろとうとも、彼女さえ味方でいてくれたら、きっとこれからも生きていかれると、アンディはこの時、ソフィの中にまるで安息の地でも見つけたような思いであった。

「そうか。では帰ってゆっくり休養したまえ、フィッシャー君。春休みは二週間ほどしかないが、それでもゆっくり実家で静養すれば、二学年の最終学期を乗り越える力を蓄えることが出来るだろう。君には僕もアダムス先生も期待してるんだ。頑張りたまえよ」

「はい、校長先生」

 アンディは以前と同じ素直さで頷くと、ソフィと寄り添うようにして校長室から出ていった。彼にはもちろんわかっていた――アームストロング校長とアダムス先生が自分の無実を信じてくれたということや、校長先生がそんな自分の身の上を心配し、義理の母であるソフィのことを呼んでくれたということが……。

 アンディはその日のうちにすぐ荷物をまとめ、ソフィの運転する黒のランドクルーザーでノースルイスへ戻ることになった。同級生は「何故フィッシャーだけ早く帰るのさ」とか「なんでわざわざおっかさんが迎えにきたんだ?」と訝っていたが、アンディがつむじ風のようにすぐいなくなってしまったため、事の真相についてさほど深く考える者はなかった。というよりも、「どこか体の具合でも悪かったんじゃないか」といったような無難ところに噂話は落ち着いたようである。

 リシディア町からノースルイスへ帰る途中、ソフィはいくつかの都市や町などに宿泊し、アンディのことを楽しませながら自宅への旅を続けた。車の助手席に座っている間、アンディは物思いに沈むように黙り込んでいることが多かったし、ソフィもまた当たり障りのない話しかしなかった。もちろんソフィはアームストロング校長から頼まれてはいたのだ。彼が何故自分がしてもいない罪を自白したのか、出来ればその理由を聞き出してほしいといったようには……。

「それにしてもアンディ、あんた背が大きくなったわね」

「そうかな。まわりの生徒は僕よりでかいのが多いよ。そりゃ百六十七センチのおばさんよりは、僕も背が高くはなったけど」

 車で移動中、ラジオを時折かけながら、ソフィは昔のことを懐かしむような話ばかりした。彼女にとっては今もアンディという息子の存在は驚異だった。何故といって、出会った時には彼の身長は百三十センチほどしかなかったのに、いまや四十センチ以上も伸びて百七十二センチもあるのだ。それにだんだん顔も大人びてきて、これが共学の学校であったとすれば女子が黙ってないだろうといった容貌をしている。だが彼自身はまだ全然幼く、自分自身の真の価値には気づいていないようだった。

(もしその時が来たら)と、ソフィはふと思う。(わたしも小姑よろしく、紹介されたガールフレンドにいちいちケチをつけたりするようになるのかしらね。フェザーライルを卒業するまでにまだ四年もあるし、大学へ入ってからがすっかり花盛りといったところかもしれないわ)

 アンディは当然、校長から話を聞いて、ソフィがすべてを知っているものと思っていた。だから、いつ本当のことを話そうかと、間合いを計ってはいたものの、あっという間に移り変わる車窓の景色を眺めていると、何故だか頭の中がゆっくりと癒されていくような感覚があり、それでずっとぼうっとして、愛する義母と取り留めのない話ばかりしていたのである。

 けれど、物見遊山的にあちこちの都市や町に立ち寄り、ソフィが色々と服を見繕ってくれたり、何かと気遣ってくれるのに接しているうちに――明日ノースルイスの屋敷へ辿り着くという段になって、ようやくアンディはぽつりぽつりとデイモン・アシュクロフトの件について話しはじめたのだった。

 アンディの気も知らず、ソフィは無神経にもホテルでツインルームを取ろうとしたが、アンディはムッとしたような顔をして断り、「ひとりになりたいから」と言って、部屋は別々にするということにしていた。

 けれど、ホテルのレストランで美味しいイタリア料理を食べたあと、アンディは隣の義母の部屋を訪ねていき、自分の悩みごとをすっかり話すという決心をしたのである。

 ソフィは途中立ち寄った街で買った天然石の宝石類や、安い下着やドレス風ワンピースなどを広げており、それを鏡の前で合わせているところだった。

「おばさんはセレブ階級なんだからさ、いくらセンスが良かったとしても、ブランドのロゴとか入ってる服のほうがいいんじゃない?それにその宝石類も全部模造品でしょ?」

「もう、アンディはファッションのことがまるでわかってないのね」

 下着姿だったにも関わらず、まるで気にせず義理の息子のことを通すと、ソフィは忘れな草が散りばめられた水色と白のワンピースを着、手や耳元にトルコ石やシルバーのピアスやバングル、重ねのブレスレットをしていった。

「安いものと高級なものを織り交ぜて、センス良く着こなしてこそ本当のセレブというものよ。まあ、わたしの場合もうこういう格好は年齢的にどうかと思うんだけどね、あんたといるとつい自分も若くなったような気がしちゃって困るわ」

「おばさん、それほんと?」

 ベッドの端に腰掛け、アンディはそれまで深刻な顔をしていたのだが、不意に組んでいた手をほどき、ドレッサーの前で髪を梳かすソフィのことを見返した。

「本当ですとも。でもアンディはまだたったの十四歳ですものね。あんたが成人した時、わたしはもう四十過ぎね。まったく、歳なんて取りたくないもんだわ」

「そんなことない。おばさんは綺麗だよ。今だって、僕が九つの時に出会った時となんにも変わってないよ。相変わらず優しいし、それに――」

「それに、なあに?」

(みんな、おばさんとなら寝たっていいってさ)とは言えず、アンディは黙りこんだ。それから、(自分はこんな話をしにきたんじゃない)と思い、「そんなことより」と話の矛先を変えた。

「おばさんはアームストロング校長から聞いてるんでしょ、僕のこと」

 アンディは自分でも話しながら、(ああ、嫌だ嫌だ)と感じる。何故こんな一流ホテルのいい部屋で、好きな女性を目の前にして、こんな子供っぽい話をしなくてはならないのか。

「ええ、もちろん聞いてるわ」

 ソフィは竹の櫛で髪の毛を梳かすと、ドレッサーの丸椅子から立ち上がり、アンディの隣に座った。ギシリ、と少しだけベッドがしなる。

「じゃあ、なんで今まで聞かなかったの」

「あんたがそのうち自分で話すと思ったからよ。それに、もしわたしに話さなかったとしても、アンディが無理な顔をしないで学校へ戻るようならそれはそれで良いのかなと思って」

 ソフィとアンディの手はベッドの上で重ね合わさるところだった。もちろんソフィのほうは無意識だと、アンディはよく知っている。彼が仮に背中に手を回したところで、この義理の母はむしろ体をこちらにもたせかけてくるくらいだろうということもわかっていた。

 この絶対的な距離――相手がまるで性を感じさせない子供だと思えばこそ、彼女は平気で自分の前で着替えもするし、ベッドの上で抱きあうことさえ許してくれるのだという<違い>を認識することは、今のアンディにとってつらいことだった。

「僕さ、前に手紙に書かなかったっけ?一学年上の先輩に物凄くチェスの強い人がいるって……」

「ええっと、なんか悪魔みたいな名前の子だったわよね?ラストネームのほうは、アなんとかっていう子じゃなかったかしら」

 アンディ自身でさえ、手紙に書いた内容についてはよく忘れてしまうというのに、ソフィのほうではその内容について実によく覚えていた。というのも、ソフィは義理の息子から届いた手紙を一度だけでなく、返事を送ってからも何度も読み返すという習慣があるからだった。また、彼から届いた手紙はすべて絹か繻子のリボンで束にし、高級菓子店の化粧箱に収め大切に保管してあった。

「そうだよ。デイモン・アシュクロフト先輩。すごく目立つ人でね、たぶん三学年の中じゃ……いや、校内でも一番目立つ先輩かもしれない。僕、もしかしたら彼のことを敵に回してしまったかもしれないんだ」

 ソフィにとってアンディのこの告白は非常にショックなものだった。というのも、自分の高校時代のことを思い返してみても、クラス内、あるいは学内でトップクラスの目立つ生徒を何かの拍子に敵に回してしまうということは――笑いごとではなく、酸素ボンベが必要なほど、空気が高山並みに薄く感じられる出来事であるからだ。

「それで――あんた、どうするの?その先輩が本当は嫌いでそんなことになったの?それとも、向こうがあんたを心密かに嫌ってて……」

「違うんだよ。その人とはね、仲自体はすごくいいんだ。ただ、ちょっとした行き違いがあって……見解の相違というのかな。歴史の先生にベンジャミン・アダムスっていう先生がいるんだけど、その先輩はこの先生のことが嫌いでね。僕の同級生もみんなアダムスの授業は眠い、奴の人格もまた眠たくなるばかりに退屈だなんて言ってる。で、おばさんも知ってると思うけど、うちの学校ってのはテストでいい点数を取れば自動的にAをもらえるっていうようなシステムじゃないだろ?授業の態度やしょっちゅう行われる小テストの結果なんかも参考にされるし、仮にもしいつもテストで百点をとったにしても、Aプラスをもらえるとは限らないんだ、そういう意味ではね。それで、アシュクロフト先輩がアダムス先生を嫌ってる理由っていうのがさ、テスト自体の点数はとても良かったのに、Aマイナスとかそんな不当な成績しかもらえなかったことが原因らしいんだよ。僕、仲間がアダムス先生の……なんていうかまあ、相当馬鹿にした絵を受け取ったことがあってね、それ授業中のことだったんだけど、思わず吹きだしそうになってさ。そこを先生に見つかって百行清書の罰を受けたんだ」

「まあ、それは大変だったわね」

 ソフィが腰に手を回してきたので、アンディは子供の頃よくそうしたように、隣の義母に身をもたせかけた。今はこうするのがとても自然なことのように思われたが、彼女にとって自分はいつまでも子供なのだろうと思うと――アンディは少し悲しかった。

「うん。そのことは手紙にも書いたような記憶があるけど、その百行清書を放課後に教室で行っていた時にさ、アシュ先輩がやって来て、さっき僕がしたみたいなアダムス先生の話をしていったんだ。けど僕、まさかその時に彼がこっそりアダムス先生の漫画絵を盗んでいくとは思わなかった。寮の部屋に戻ってから、それがなくなってることに気づいたけど、先輩が持っていったとは思いもしなくてね。で、こんなことがあった一か月後くらいに、突然校長室に呼ばれて……びっくりしたよ。そのアダムス先生の漫画絵が、パブリックスクールを批判するような手合いのサイトにアップロードされてるって言われて。もちろん、校長先生もアダムス先生も僕を犯人だと思ってたわけじゃなかった。でも、犯人に心当たりはあるかみたいに聞かれても、僕には答えようがなかったよ。もちろん、一番最初に疑ったのはアシュ先輩だったけど、彼に直接そう聞いて「自分がやった」とあっさり言われて驚いたんだ。僕はそのありのままを校長先生に言うべきだったかもしれないけど、結局自分の良心と妥協して、それは自分がやったことだと言ってしまったんだ」

「そうだったの」

 ソフィはアンディの体に回した手を動かすと、彼の背中を撫でた。アンディもまた、子供の頃と同じように彼女に遠慮なく甘えるということに決め、ベッドの上に足を投げだすと、義母の太腿の上に頭を置いて目を閉じる。

「このことでたぶん……デイモン・アシュクロフトが僕に何かするっていうことはないとは思ってるんだ。ようするに、校長の前で彼の名前を出したりして、彼のお父さんが学校に呼びだしを受けるとか、そんなことにもしなったとしたら、僕は完全に彼を校内で敵に回すことになるだろう。でも僕は自分の良心の許すギリギリの選択をしたから、彼は僕のことを「馬鹿な奴」とでも思って、これからは放っておいてくれる気がする。でも……うまく言えないんだけどね、おばさん。僕は自分が良くない、正しくない側の道を選んでしまったんじゃないかっていう気がして、それで校長先生に嘘の告白をして以来、心が重かったんだと思う」

 ここでアンディはふうっと溜息を着き、アーサー・ウォルシュの言っていたことは本当だとあらためて感じた。仮に解決しそうにない問題でも、口に出して誰か信頼する人に話したというだけでも、アンディは心の重荷が相当軽くなるのを感じていたからである。

「坊やは本当に良い子ね」

 ソフィが髪の毛を指で梳きすかしてくれるのを心地好く感じながら、アンディはなおも目を瞑ったままで答える。

「そうかな。僕はね……変な話、アシュ先輩のことは校長先生にありのままを話したほうが彼のためなんじゃないかって気がした。なんでかっていうとさ、彼はこれと似たことを繰り返しては、周囲の誰かに罪を押しつけたりとか、そんなことを繰り返しそうな気がするからなんだ。けど、もし校長先生が真実を知ったら知ったで相当悩むことになるともわかってた。おばさんも、彼のお父さんが国防大臣をやってることは知ってるだろ?」

「ええ、もちろんよ。政治家の開いたパーティなんかで、二度くらい会ったことがあるわ。押し出しのいい人でね、タイプとしてはアンディのお父さんとまったく似た感じよ。ようするにアンディと同じくデイモン君にも、実際相当なプレッシャーがかかってるんじゃないかしら。名門校をいい成績で卒業し、次はユトレイシア国立大学になんとしても入学しろ、といったようにね。しかも、そのための金ならいくらでも惜しまないみたいに言われても……ちっとも嬉しくないんじゃないかしら、子供としては」

「そうか、なるほど」

 アンディはソフィに髪の毛を撫でてもらうのを心地好く感じながら、(彼には彼で普段表に見せていない、そうした裏の事情があるのかもしれない)と初めて思った。アシュクロフト国防大臣のことは、アンディはテレビで見たことがある程度だが、それでも今ソフィの言ったことがそのまま当てはまるように思われる人物だったからである。

「一見完璧そうに見える先輩も、周囲にそう見せかけるために、もしかしたら無理をしていたりするのかもしれないな。そう思ったら僕、なんだか彼のことを許せるような気がしてきた。ありがとう、ソフィおばさん」

「べつにおばさんは何もしてなくてよ、坊や。可愛い自慢の息子を学校まで迎えにいって、自分も遊びがてらあちこち連れ回したっていうそれだけですもの」

「いいんだよ、おばさん。僕にはちゃんと伝わってるから、それで十分なんだ。大分前に聞いたことなんだけどさ、彼のお母さんも小さい時に亡くなっちゃってて、今家にいるのは義理のお母さんなんだって。でも、彼の話しぶりからして思うに……ソフィおばさんと僕みたいに、心の通じ合ってるような関係じゃないみたいなんだ。そのことを思ったら僕、たぶんこれからもあの先輩とはそれなりにうまくやっていける気がする」

 結局のところ、これがアンディが最終的に出したデイモン・アシュクロフトに対する答えとなった。この翌日、アンディはノースルイスの屋敷へ戻り、二週間ほどそこで過ごしてから再びフェザーライルに戻ったわけだが、また新しい学期がはじまる頃には、アダムス先生の超笑える漫画絵のことなど、大半の生徒が忘れていた。そしてアンディもまた同じように、二学期の末頃にあった事件のことは頭の中でリセットし、デイモン・アシュクロフトとは「先輩・後輩として」それなりにうまくやっていくことにしようとの心構えで寮のほうへ戻ったのである。

 ただ、アンディは以後、例のダークフェザーテンプルへは参加しなかったし、そうしたところで特に先輩方のほうでも問題はなかったようである。会のメンバーたちと廊下で通りすがったり、食堂で顔を合わせたりしても――みな、以前と同じ通常の態度のままであったし、デイモン・アシュクロフトにしてからがそうだった。もちろんアンディは、彼の黒曜石のような瞳が、「君を校内に居ずらしくしようと思えば、いくらでもそう出来る力が僕にはあるんだけどね。あえてそうしなかったことを感謝したまえ」と語っているも同然であることに、気づいてはいたにしても。

 こうしてアンディは、力のある先輩連に逆らわない道を選び、次第に少しずつ目立たない凡庸な生徒になっていった。その理由が何故なのかということは、アンディ自身にもよくわからない。三学年に上がった時、寮の同室者は例のデイヴィッド・エイブラハムとなり、アンディは彼のことを特に好きとも嫌いとも感じなかった。学年中で一際輝いているのはやはり相も変わらずザカリアス・レッドメインで、アンディは三学年に上がって以降はザックとも以前のような<大親友>というほどではなくなっていた。そうした中でアンディが一緒にいて変わらず楽だと感じられるのがアンソニー・ワイルであり、今ではアンディは西階段にある非常口で、自身も時に煙草を吸うということがあるほどだった。

「そういや、例のダミアンの映画、僕も見たよ」

 最初は肺の奥のほうまで煙を吸うのが難しかったが、だんだんにアンディはただふかすというのではなく、そうした煙草の吸い方まで覚えるようになっていた。

「結構面白かったろ?ホラー映画の中じゃ十本の指に入る名作だな。聖書的な考察なんかもしっかりしてるしさ、黙示録にある<不法の人>とか<獣>と呼ばれたりするアンチキリストってのは、もしかしたらああした形で出てくるんじゃないかって思ったりもするよな」

「うん、確かに。デイヴィッドの奴にこんな話はもちろん出来ないけどね。でもあいつとは結構神学の話をしたりすると面白いよ。まあ、同室者として楽しい奴とは言い難いにしても、悪くはない奴だ」

「悪くはない奴か。俺は奴さんの偽善者ヅラを見てるだけでも吐き気がしたがね。何しろあいつときたら、俺の顔を見るたびにイエスの話しかしやがらないんだから。「君はきちんと洗礼は受けてるのか」なんてことにはじまって、なんちゃらかんちゃら、イエスが十字架上で流された血のことを思えば、我々に出来ぬことは何もないとかなんとか……なあ、アンディ。どう思うよ?あいつまだ十五だってのに、将来はイエスのために殉教するのが夢なんだってさ」

「それはある意味凄いな」アンディは一瞬煙草にむせそうになりながら言った。アンソニーもアンディも、冬の冷気から身を守るためにコートを着ていたが、ふとした拍子に冷たい空気が気管に忍びこみ、アンディは喉元に何かこみ上げるものを感じることがあった。「なんていうか、殉教ってこと自体もそうだけど、将来自分は牧師になるんだとか、僕たちくらいの歳できちんと定まってるってことが凄いよ。僕なんか、自分が本当は何になりたいのかすら、いまだによくわからないっていうのにさ」

「へえ……親父さんの事業は継がなくていいのかい?」

「さあね。他の生徒の親父さんたちってのは、そういうことのために息子を一流校に放り込もうとするんだろうけど、うちはちょっと事情が違っててね。父さんはたぶん、フェザーライルに息子が通ってるって肩書きが単に欲しいだけって気がするし、僕に会社を継いで欲しいって本当に思ってるのかどうか、かなりのところ怪しい気がするな。そりゃ口ではそう言ったりはするよ。けど、僕が実際にそうしようとした場合、父さんはたぶん相当意地悪をして経営のノウハウなんてのを僕に叩き込もうってな魂胆なのが見え見えなんだ。そのくらいだったらさ、何かひとつ、自分の好きなものを見つけてそれを極めたほうがいいって思わないか?」

「ふうむ。なるほど」

 今アンディの言ったことに対し、アンソニーは思うところがあるように、暫く冷たい冬の空気の中で黙りこんだ。彼は公立校に進学した友人三名とバンドを組んでいるのだが、それがアンソニーが今唯一夢中で取り組んでいることだったからである。

「そういやさ、アンディ。俺に女紹介してくれって言ってた気がするけど、あれ、今でも有効なのか?」

「うん。僕もそろそろ大人になりたいなと思ってさ」

「その、ようするに……おまえの愛するおばさんを満足させるためにってことか?」

「いや、それも否定はしないけど、そんな不純な動機で女の子とつきあえるほど、僕には経験値がないわけだからね、そういうのがなんかやだなと思って」

 ふたりは暫く黙って煙草をふかした。アンソニーはもちろん、何故優等生だったアンドリュー・フィッシャーが突然自分と同じく煙草を吸ったり、適当に遊べそうな女性を紹介して欲しいなどと言ったりしたのか、その理由を知っている。

 事の起こりは二学年から三学年へと上がる間の夏休み中のことだった。アンディは他のセレブな友人たちと話を合わせるためだけに海外へなど行かず、やはり義母のソフィと一緒にヴァ二フェル町へ出かけていった。その海辺の別荘は自分とソフィふたりだけの夢の楽園であり、温かい心の交流を持つことの出来る友人たちが待つ場所でもあった。向こうでも自分の来訪を毎夏楽しみにしていると知っているだけに、アンディにとってヴァ二フェル町へ出かけていくということは、欠かすことの出来ない習慣と化していたのである。

 ところがその楽園に、またしてもアンディにとっての蛇男が現れたのだ。義母の愛人であるセスとソフィは、アンディがブラッドの家から戻って来ると、玄関口で喧嘩の応酬をしているところだった。

「ここには来ないでって言ったじゃないの。あの子が帰ってくる前に早く帰ってよ!」

「なんだ?今年の夏は俺とバリに行くって話をしてたじゃないか。次の小説に、マカオや香港あたりを牛耳ってる東洋のマフィアが出てくるんだよ。だからそのへんの雰囲気を掴むためにさ、おまえも一緒に行くって計画を立てたばかりだったろう?」

「だってあんた、いつもそんなことばっかり言って、実際計画通りに旅行したことなんてないじゃないの!いつも突然電話して来ては「気分的に参ってるから会いに来い」だの、無理なことばっかり言って……わたしにだって自分の暮らしってものがあるんですからね。それに、前にも言ったと思うけど、わたしにとってアンディは妄想上の父親のあんたなんかよりずっと大切な存在なんだから!!」

 アンディはここで、白い麻のスーツを着たセスという男が、かなり強引にソフィのことを抱き寄せるのを見た。彼女のほうでも抵抗することなく、こんなことには慣れっこだというように、容易く彼に唇を許す。

 その恋人同士の口接けはとても長いものだった。ソフィには彼女が言ったとおり、自身の暮らしといったものがあり、この愛人とそうしょっちゅう会ったりすることも出来ないのだろう。そこで男のほうでは、そう簡単に会えないことにイライラしたような時には相当無理なことをソフィに言っているに違いなかった。それと、これはアンディがノースルイスの屋敷で肌で感じたことなのだが、女中のサラやアンナが女主人の行動を逐一監視し、どうも雇い主であるバートランドに報告している節が見受けられるのだ。アンディはそのことを知った時(ざまをみろ!)とセスに対して思ったし、まさか自由に会えないからこそふたりの間ではさらに激しく愛が盛り上がっているなどとは――思ってもみなかったのである。

 アンディはふたりの口接けから目を逸らすと、男の乗っている青のマセラティに蹴りを入れたくなる衝動を堪えつつ、<妖精の泉>のほうに向かって歩いていった。ソフィが何故あの男のことを<妄想上の父親>などと言ったのか、その理由がアンディにはわかる気がした。自分の父親のバートランドとソフィの間には、真の意味での愛情はない。そこで彼女はおそらく、自分が本当に愛している男の子として、アンディのことを我が子のように可愛がる……といった図式を頭の中で構築したのではあるまいか。

(そうか。そういうことだったのか)

 妖精の泉を通りすぎ、<蛍ヶ池>のほとりまでやって来ると、アンディは手近な平べったい石を手に取り、石投げをはじめた。そしてこの時アンディは、妖精の泉と蛍ヶ池の間くらいにある、湧き水の溢れているところまでいって、そこに大きな石を幾つか落とすことを思いついた。周囲は雑木林と雑草に囲まれているだけの、見ようによってはどうということもない場所ではある。だが、湧き水の溢れている場所はいつやって来ても限りなく透明で、こんこんと水を底から溢れさせるのと同時に、周囲の砂を浮かび上がらせていた。アンディは苦労して遠くから三十センチ大の石を運んでくると、そこへ投げこんだ。最初、湧き水を溢れさせる穴はごぽんと音をさせ、窒息でもしたように一瞬動きを止めたが、それでもやはりまだ生きていた……いや、生きているという言い方はおかしかったかもしれないが、とにかくアンディはこの時、この透明な湧き水を溢れさせる場所を失くすということしか考えなかった。そこで今度は先ほどよりも大きな石を運んできて、そこへ投げこんだ。また穴のほうではごぽんという音をさせ、何か老人が喉詰まりでも起こしたような奇妙な音をさせたが、それでもまだしぶとく生きていることがアンディにはわかった。そこで最後にトドメとばかり、さらに大きな石を汗をかきながら運んできて――アンディは湧き水の溢れる穴へ落としこんだ。先ほどよりも何か苦しげな音が聴こえたものの、アンディは幼少の頃より培ってきた、自然を擬人化するという想像力をこの時はあえて使おうとしなかったのである。

 湧き水を溢れさせる場所は、それでもまだ小さく喘ぐように周囲の砂を浮かび上がらせていたが、アンディは額の汗を拭うと、(よし、これでいい)と考え、最後に「畜生!!」と何度も叫びながら川底にあった石を気でも狂ったようにさらに湧き水の穴へ向け、繰り返し投げた。自分という存在があんまり惨めで涙さえ出てきたが、こうしてアンディの中である種の<儀式>が終わると、彼は手の甲で涙を拭い、海辺の家へと取って返すことにした。

 ソフィから誕生祝いにもらった時計を見ると、男がやってきた時刻より一時間半も時が経過しており、あの話の流れから見て、義母は息子の自分が帰ってくる前にと思い、セスという男のことを追い払っているに違いないという気がした。

 ところが、ワックスによって艶光りしている青のマセラティは、なおも海辺の家の前に駐車されたままだった。アンディは心臓がドキドキと鳴り出すのを感じたが、また妖精の泉のほうへ引き返していって時間を潰そうという気はしなかった。もしソフィが二階の寝室で愛人と抱きあっているというのなら、その現場を押さえ、自分の気持ちにはっきり片をつけるべきだと、そんなふうにさえ思っていたのである。

 だが、ダイニングのほうからはなおも何か言い争うような声が聞こえ、ふたりが寝室にいるのではないということがすぐはっきりとした。そこでアンディはまったくもって気が進まなかったとはいえ、そこへ顔を出さないわけにはいかなかったのである。

「おお、坊主。随分前の話になるが、いつぞやは俺の車に石を投げてくれてありがとうよ」

 アンディはこの時、まるで石化でもしたように黙りこんだ。この男こそがソフィの愛を一身に受けている男なのだと思うと、憎らしいと思うのと同時に、微かに羨ましくもあり、何も喉から言葉が出てこなかった。というより、自分はこの場で何か意味のある言葉を話す必要があるだろうかとさえ思ったのである。

「ごめんなさいね、アンディ。この人、ここは義理の息子とあたしの聖域だから、とっとと出ていってちょうだいって言ったのに、あんたと少し話がしたいって言って、帰ろうとしないんだもの」

「べつに、いいよ」と、アンディはようやくのことで喉の奥から声を絞りだした。「なんだったら、泊まっていけば?僕はエイデンかブラッドの家にでも泊めてもらうことにするから」

 そう言いながらも、アンディは自分の心の奥深くから、清水のかわりにどす黒い感情が溢れてくるのを感じた。この偽りの演技は間違いなく長続きしないと彼自身よくわかっていた。声も震えさせずに言うのがやっとだったし、そんな気振りなど見せないために、気力を総動員させねばならず、アンディは暑気あたりでも起こしたように、今にも倒れそうなくらいだったのだ。

 だがアンディは、これ以上自分が惨めにならぬために、ダイニングテーブルに収まった椅子の背もたれを夢中でぎゅっと握りしめ、どうにか「なんでもない」という振りを必死で続けた。

「こんな人、二階の寝室へなんか絶対あげたりしないから、安心していいわ、アンディ。この別荘はあたしとあんたの家なんだし、もっと言えばアンディのお父さんの持ち物ですもの。そういうわけだから、事情が飲みこめたんなら、さっさと帰ってちょうだい、セス」

「それで、僕に話って?」

 アンディは額にどっと汗が噴きだしてきたため(その日、外の気温は三十度を越していた)、テーブルの上からティッシュを二枚とると、一枚目で額の汗を拭き、二枚目のほうではこれ見よがしに嫌な音をさせて鼻をかんでいた。アンディにしてみればこれもまた「なんでもない」アピールをするための、必死の演技だったといえる。

「いや、こんなこと、本来なら俺が言うのも変な話なんだが……こいつがアンディさんのことを俺との間に出来た妄想上の息子だなんていうから、そいつは一体どんな子なんだろうと興味を持ったというかね」

「アンディ、違うのよ、この人が言ってるのはね……」

(わざとだ)と、この時アンディははっきりとそう直感した。(僕が玄関の前庭のほうにいるってわかっててさっき、わざとソフィおばさんにキスしたんだ。そうか、これでようやくわかったぞ)

 ソフィ自身が自分でそう言っているように、優先順位としては彼女の中では義理の息子との約束や用事のほうが常にランクが上なのだろう。きっとこれまでこのセスという男は、ソフィがアンディとのことを優先して自分が二番手に回されるのを面白くなく感じてきたに違いない。

「いいよ、べつに。説明なんかいらない。実際さっき、ふたりがキスしてるところも見ちゃったし。だから邪魔しちゃ悪いと思って、近くの森を散歩してからまた戻ってきたんだけど、まだ車があったからさ、これは今日はもしかして泊まっていくのかなって思ったんだ」

「アンディ……」

「べつに、おばさんもさ、僕のためとかなんとか言ってないで、父さんと離婚でもなんでもしたらいいよ。僕は――たぶん、おばさんなしでもひとりでやってかれると思うし、学校にはそれなりに友達もいるし、父さんはあんな人かもしれないけど、愛情のかわりに金はたっぷりくれるって人だから、適当に利用すればいいってだけの話だ。おばさん、車借りるね。ここのところ、ブラッドやエイデンに教えてもらって運転のほうは随分上達したから、事故ったりすることはないと思う。ゆっくり安全運転でいくし、エイデンの家までは目と鼻の先みたいなもんだから、心配いらないよ」

「駄目よ、アンディ。どうしても出かけるっていうんなら、おばさんが送ってくわ。エイデンやブラッドについてもらって運転の練習するのは構わないのよ。でも、あのランドクルーザーは普通の車と違ってちょっとコツみたいなものがいるから……」

 そう言ってソフィがアンディのことを引き止めようとすると、彼は義母の手をかなり強引に振り払っていた。この時のソフィの驚いた顔を、アンディは生涯忘れることはないだろう。

「もうママゴトは終わりだって僕は言ってるんだよ、ソフィ!十五っていったら、世間じゃ立派な大人だ。おばさんはさ――僕の成長がどうのと言いながら、結局は自分の保身のことを考えてるだけなんじゃないの!?愛人との情事も楽しみたければ、親父の金も欲しいだなんて……そんな売女みたいな女、僕はもう自分の母親だとは思いたくない!!」

 ソフィのほうでは、自分の愛する息子から<売女>などと呼ばれたことがよほどショックだったのだろう。その場によろめき崩れそうになるのを、セスが抱きとめると、泣きだした彼女のことを慰めるようにブロンドの髪を撫でていた。

 息子の口からひどい言葉を聞かされたソフィもショックだったかもしれないが、むしろそんな言葉を言わざるをえない状況に置かれたアンディのほうがもっと不幸だったろう。彼はランドクルーザーのエンジンをかけてガレージから出すと、エイデンやブラッドの家へは向かわず、ここから十分ほど車を走らせた先にある岬のほうへ向かった。

 そこの、今は使用されておらず、無用の長物と化している灯台の近くまでいくと、はまなすの花の咲く茂みでアンディは泣いた。周囲に人は誰もおらず、手入れされていない灯台付近の敷石は崩れ、間から雑草が伸び放題だった。木の杭を組み合わせてフェンス状にしたものが灯台のまわりを囲っていたが、それらもどこか危うい姿勢をしており、修繕が必要なことは明らかだった。

(そんな勇気はないけど、ここから飛び降りて死にたいような気分だ)と、アンディは泣きながら感傷的にそんなことを思った。前にあのセスという男と会った時とは違い、今度ばかりは決定的な破局だった。破局、などといっても、アンディもソフィも互いに離れられないことはよくわかっていた。けれどこれからは間違いなく以前とは何かが変わっていき、肉体的にも精神的にもある一定の距離が保たれた関係というのが続き、前まであったような完全な親密さのようなものは除々に失われていくだろうという気がしたのである。

(愛してる、ソフィ。僕にとっておばさんはおばさんなんかじゃないし、義理のお母さんでもない。僕はひとりの女性としてあの人のことが好きなのに、それなのに……)

 セスという男は、ここまでのことを計算していたわけではないだろうと、アンディはそう思っていた。彼の意図はおそらく、かなり子供じみたもので、長男よりも次男の言い分ばかりソフィが優先するのを面白くなく感じたといったようなことで訪ねてきたに違いなかった。ようするに、自分が姿を現せば何が起きるかはよくわからないが、何かが起きるのは間違いないと直感していたのだろう。

 アンディは年齢的にまだ幼いせいもあったかもしれないが、自分の感情をコントロール出来ないところをセスという男に見られたことが恥かしかった。言うなれば悪魔のような男がやって来て、ほんの一言何かを囁いただけで、自分はまんまと相手の奏する笛の音に合わせ、踊ってしまったようなものだった。

(売女だなんて、あんな言葉をおばさんに対して言うなんて……)

 だが、次第に涙が収まってくると、アンディは結局これで良かったのだと思いもした。セスという男に石を投げてやって以降、アンディは極力セスのことは考えないようにして来た。一体月に何度くらい会うのか、おばさんとどんな話をするのか、寝るとしたらどの程度の頻度でそうするのか、そうしたことはもちろん考えはした。けれど、アンディはソフィのより深い愛情のほうを信じることに決め、残りのことは自分にとって都合良く解釈することでこの精神的難局をどうにか乗り越えようとしたのである。つまり、あの男は実際はしょうもない浮気者で、そのことでソフィおばさんにやがて愛想を尽かされるに違いないであるとか、男の金のだらしなさに彼女が見切りをつけるであるとか、何かそうしたふたりが別れるシチュエーションを思い描くことで、そのあとはもうソフィおばさんは完全に自分のものになる……そんな夢想をアンディは漠然と展開し、自分の心を救ったのである。

 だが、あのふたりの間にある分かち難い磁石の引き合いのようなものは、時の風化になど少しもさらされていないようだった。アンディは大人の恋愛のことはまだよくわからなかったが、それでも次のことはわかった気がした。ソフィのほうでは離婚を成立できない申し訳なさから男と会える時にはなるべく彼の言い分を入れ、セスのほうでは彼女のことを十分自分のものに出来ない欲求不満から――なおのことソフィを求める傾向が強まったのではないだろうか。

(なんにしても、僕とおばさんの関係はこれで終わりだ。でもおばさんとあの男との親密な関係はこれからも続いていく。これはそういうことなんだ)

 ひび割れた石と雑草の間でひとしきり泣き、アンディが惨めな思いでもう一度立ち上がると、優しく風が彼の頬をなぶっていった。潮の香りとはまなすの花の香りとが混ざりあい、絶妙なハーモニーとなってアンディの鼻孔をくすぐっていく。灯台を見上げると、それは太陽の黄金色で照射され、海のほうでは沈みゆく夕陽を受け止めているところだった。

 ここへアンディがソフィとやって来たのは、九つの時のことだった。初めて彼女とふたり灯台から海に沈む夕陽の姿を眺めた時、アンディはとても悲しく孤独な景色のように感じたものだった。もしおばさんが横にいなかったら、こんなにも美しく悲しい光景に自分は耐えられただろうかとさえ……けれど今、アンディの前に世界というものは限りもなく美しく広がっているというそれだけだった。かつては悲しく孤独だと感じたものに、自分が悲しく孤独で惨めであるがゆえに、アンディはこの上もなく魂を癒されたのである。

 そしてアンディはこの時、<神秘の湧き水>と自分が名づけていた場所に対してした仕打ちを思いだし、突然自然のすべてに向かって許しを乞いたいような思いに駆られた。あんなに自分がひどいことをしたにも関わらず、自然というものはまったく別の場所でも同じように繋がっていて、こんなにも自分を癒してくれる……そう思うと、心からの悔恨の念に駆られ、今では何故自分があんなことをしたのか、アンディは自分の行動の意味がまるでわからないほどだった。

 アンディは自己憐憫の涙をとどめ、まずは自然のすべての前に膝をついて謝罪すると、それから次にソフィに対し、心の中であやまる練習をした。だが、どう言ってあやまっていいのか、それは彼にもわからなかった。「売女なんて言葉を使ってごめんなさい」とか、まだ子供の時分であったなら、それも良いだろう。けれど、それがアンディの本心でないことはソフィにもわかっているはずだった。にも関わらず、普段使ったことすらないそんな言葉が衝動的に出てしまったということが――すべてを物語っていた。

 アンディは灯台の前に膝をついて、一体どのくらいそうしていたことだろう。けれど流石に夕陽が完全に没しきる頃になると、(そろそろ帰らなければ)との思いが彼の心を掠めた。けれど、海辺の家はもう前と同じ家ではなくなってしまったし、アンディはやはりエイデンかブラッドにでも今夜は泊めてもらおうと思った。そしてようやくのことで彼が灯台の前から去ろうと踵を返した時、一体いつからそこにいたのか、ソフィがそば近くに立っていた。

「ごめんなさい、アンディ。おばさんが悪かったわ」

 アンディが一もニもなく大好きなおばさんのことを抱きしめると、後ろの国道に遠く、青のマセラティの姿が見えた。すると、あの男はここまでソフィのことを送ってきて帰ることにしたのだろう。

「いいよ。べつにもう……いいんだ」

 ふたりの間に、他にもう言葉は何もなかった。その日、ヴァ二フェル町は実に快晴だったのだが、アンディとソフィの間には手に負えないハリケーンか何かが通りすぎたようであり、ふたりはその嵐がなぎ倒していったものをどう修復していいかもわからず、途方に暮れたような態で夕食を言葉少なにすませていた。

 そして、夜になってアンディが眠れぬ頭を枕に就けようとした直前、寝室のドアの脇にソフィがどこか心細い佇まいで立っていたのだった。いつもならアンディも、「おばさん、どうかした?」とでも声をかけるところである。けれど今夜、彼は何も言わなかったし、ただ視線だけで「何か用?」と冷たく聞いただけだった。

「アンディ、まだおばさんのことを愛してくれる気はある?」

「あるよ。当たり前じゃないか」と、アンディは素っ気なく即答した。今ではあの男もいなくなり、アンディはソフィに対し、思いきり我が儘な態度が取れた。と同時に、そんな自分を深く恥じてもいたのであるが。「僕とおばさんの間にある絆のようなものは、これから先何があっても決して消えてなくなったりしないものだよ。でも、おばさんは父さんよりもあの男のことが好きで……いや、そのこと自体は仕方ないって僕も一応理性では理解してる。けど、少なくともこの家にはあの男を入れて欲しくなかったんだ。必要最低限の僕に対する礼儀として」

 ソフィはアンディが自分に対し、許してくれる余地を持っていることに幾分ほっとし、白いレースのパジャマ姿のまま、義理の息子のそば近くまで静かに寄っていった。

「おばさんは……お父さんと別れたほうがいいって、アンディはそう思って?」

「思うわけがないだろう、そんなこと」このこともアンディは即答した。まるで考えることさえ馬鹿馬鹿しいとでもいうように。「法の力の元にあってこそ、僕とおばさんは親子でいられるんだよ。もしそんなものさえなくしてしまったら、僕とソフィはただの赤の他人同士ってことになってしまうじゃないか。僕はそんなのは絶対嫌だね。おばさんが父さんのことを愛してないのはべつにそれで構わない。けど、あの男とこれからも会うっていうんなら――そんなのはちょっとどうかと思う。うちの父さんがあんな人だから、僕もおばさんに倫理や道徳について説くことは出来ないとしてもね」

「そうね、アンディ。本当にそうね」

 ソフィはまるで反省しきりというように、膝の上で手を揉み絞りながらアンディの話を聞いていた。こういう時の彼女は大概の自分の要望を受け容れてくれるとアンディはよく知っている。けれど、あの男と別れるか、これから先僕と永別することにするか、どちらかを選んでくれとは、流石にアンディにも言えないことだった。

「昼間のことは、僕も悪かったと思うし、反省もしてる。二度とあんな言葉は使ったりしないって約束もするよ。でもおばさんは……やっぱりずるいよ。あの男の愛情も僕の愛情も欲しいだなんて、欲張りすぎなんだ。おばさんはどう思ってるか知らないけど、父さんはああ見えて、意外におばさんのことを愛してるよ。もっともそれは、あの冷血漢の父さんなりにっていうことではあるけど……あの男と別れる気がないんなら、今の二倍も父さんによくしてやってくれないかな。僕のことはもういいから」

 そう言ったきりアンディは、ふて寝するようにベッドの中へもぐりこんだ。今夜に限ってアンディは、愛する者を傷つけるのが心地好かった。セスがやって来たのは八月半ばのことであったが、彼がやって来て以降、アンディとソフィの間の関係は夏休みの終わりまでこの呪縛が解けないままだった。離れることは出来ないほど愛しあっているのに、片方がひたすらに許しを乞うて機嫌を取り、また一方は我が儘な王として自分の権利を酷使したのであった。

(おばさんがもし、あの男と寝てるみたいに僕ともそうしてくれるっていうんなら、許してあげてもいいよ)……アンディは自分の心の底にあるそんな本音に気づいていた。実際、あんまりソフィの態度がしおらしいので、時々アンディは自分が一言そう頼みさえすれば彼女が唯々諾々と従ってくれるのではないかと思うことさえあったほどである。

 夏休みを迎える少し前の、学期末テストの終わったあとに、馬鹿らしいようでいて大切な、性教育の授業があった。講師として招かれたのは、某有名医科大の、産科の教授だった。彼は総白髪で眼鏡をかけ、スーツの上に白衣を着た、一風変わった感じのする初老の男で、鷹揚な口調で次のようなことを一方的に語って帰っていったのである。

「愛しあっている女性とたくさんセックスすることほど素晴らしいことはこの人生にない。が、愛しあっていてもまだ心の準備や経済の準備が整っていない時に女性が妊娠したりすると、大変なことになるとはみんな知っているね?はい!そこで大切なのが避妊することなのであります!!」

 教授が講堂の壇上でスライドを棒で指し示すと、色々な種類のコンドームがスクリーンに映し出された。

「あ~、まあこれなどは女性を喜ばせるために突起物がついておるようだが……わしの若かりし頃はこんなものはまだ開発されてなかったわい」

 教授は独り言でも呟くようにそう言って、ひとりで「わっはっはっ!!」と笑っていた。周囲の生徒たちはみな、「あの色ボケじじいにこんなことを言わせておいて良いのか?」というように互いに互いの顔を見合っていたものである。

「さてさて、避妊しないとなると女性は妊娠する確率が当然高くなりますわな。そして若い娘が十四、五六で妊娠した場合、当然堕胎することが多くなる……中には宗教上の理由などから子供を生み、里親の手に委ねるといった場合もあるが、それでも人知れず闇に葬られていく子のほうが遥かに多いということになりますわ。ところで男性諸君、女性にとってこの堕胎というのは、体に相当負担のかかることなのですぞ。初期の頃の妊娠ならばともかく、五か月目あたりで突然やっぱり堕ろしたいなんて言ったらあんた……母体のほうにも相当な負担となるのですぞ。おたくら、今はまだ十四、五歳くらいかね。性体験のまだない清い子らは、自分だけはそんなことに絶対ならないと思うかわからんが、今日わしの話していくことは後学のためによーく覚えておくのですぞ。もし避妊し忘れてついうっかり彼女が妊娠した場合、まずは優しく労わってあげるのです。そして男らしく自分の責任であることを認めるのをお忘れなく。けどまあ、相手の女性がただの遊び相手だったような場合、話が何やら難しくなりますわな。その場合は相手の女性に丁寧に頼みこみ、堕ろしてくれと頼む以外はありません。出来れば一緒に病院へついていってあげて、お金のほうは全部出してあげるというのが最低限の男の道というものですな。はい!みなさん、いいですかあ~?まず、避妊が一番大切。でももしそれでもついうっかり中出ししてしまって彼女が妊娠してしまったらですな、丁寧に優しく堕胎を頼むしかありませんわ。もちろん愛しあっていて、そのことを契機に結婚するとでもいうのならば、こりゃまた実にめでたい結構な話ですがな。わっはっはっ!!」

 教授はここでまた真顔に戻ると話を変え、コンドームには性病予防の効果もあることを説明しだした。そしてそれでも万一性病にかかってしまったような場合は、おかしな自己治療などせず、まずは速やかに病院へ行き、自分が性交した女性の全員に連絡することが大切だと言った。スライドには、性病を放っておいて末期状態となった患者の陰部が次々と映し出され、生徒の中には思わず「おえっ!」とか「うえっ!」と声を洩らしたり、目を背ける者までいる始末だった。

 そしてそのたびに教授は、「ひどいおまんこですね」とか「ひどいおちんちんですな」などと、性病患者の皮膚疾患の患部を順に棒で指し示していった。

「はい!性病を放っておくと、最後はこんな地獄のような様になると、みなさんよく理解しましたね?避妊と性病予防はセットみたいなものと覚えておくと良いでしょう……もっともこんなことはテストには出ないでしょうがね!わっはっはっ!!」

 それから最後に教授は、かなり胸の大きな女性のセミヌードの写真を棒で指し示した。

「さて、お若いみなさん。この女性をどう思いますか?結構な美人ですが、ま、わしのタイプではないな……などというわしの好みはどうでもよく、一般論としての意見を伺いましょう」

 すると、「セクシー!」とか「おっぱいサイコー!!」だの、「一発やりたい!!」だのいう極めて紳士らしからぬ意見がいくつも飛び出した。

「結構けっこう。おお、先生方、そんなに目くじらを立てなさいますな。これぞ、うら若き青少年の健康な性欲の発露というものですからな。変に上から抑えつけたりするのは、むしろよくないことです。結局ひとつの穴を塞いでも、また別のところからぶしゅーっ!と欲望の火花が散るという程度のことなんですから……まあ、今からもう四十年以上も昔のことになりますかな、わしが将来結婚する妻といまだ出会っておらない君らくらいの歳の頃、この手のものを自分の部屋で隠れて読んでは、よくマスターベーションしていたものです。一度父親に見つかって、「手はちゃんと洗えよ」と言われた時はまあ、冷や汗ものでしたな……なんて話はさておき、君らの中にはきっとこうした自慰行為をすることに非常な罪悪感を抱く子がいるかもしれない。けれど、わしはここでひとつ明言しておきましょう。マスターベーションするのは良いことです。こうしたどこの誰とも知らぬ美しい女性とのセックスを頭に思い描き、グラビアの上にたっぷり精を漏らすのはまったく悪いことではありません。何故おまえのような色ボケじじいにそんなことがわかるのかとおっしゃいますか?何故といってそれはあなた、性欲をほどよく消化するのは君らくらいの歳の子供らには非常に大切なことだからですよ。「またやってしまった」などと、重く考える必要はないのです。何故ならばそれは自然なことなのだから。いいですか?そのような欲求を溜め込んで、いざ女性と接触した時に変なストーカーになって相手をレイプしたりだとか、避妊せずに女性とセックスして相手を妊娠させてしまうよりは、繰り返し何度もマスターベーションすることのほうが遥かに優れているのです。いいですかな?そこのところ、よーく覚えておきたまえよ、諸君。それでは、これで性の授業を終わらせていただきます!」

 プラチナブロンドの老博士が講壇を下りていくと、誰もがみな神学の教師の顔のほうを一度ならず見た。何故ならば、キリスト教ではこう教えているからだ。「姦淫の眼で女性を見る者はその目を抉りだすべし」、「あなたの右の手が罪を犯すのなら、それを切り落としてしまいなさい」、またオナニーの語源は旧約聖書は創世記のオナンであると言われているが、彼は故意に子孫を残さぬため、兄嫁の中に入るも精のほうは外に漏らしていたということで――神から罰を受け死亡しているのである。

 オコナー教授の性の授業は生徒たちにとって非常にためになるものだった。これはアンディにとってもそうだった。ある意味、彼の言葉に救われたといっても良いかもしれなかった。アンディはそういう時、ソフィのことをなるべく考えまいとするものの、やはりそれは彼にとって無理なことだった。というのも、アンディはもともと<性>といったものに対して真面目な考えを持っていたし、ソフィ以外の女性のことを頭に思い描いてそうした行為に耽るなど、精神的姦淫ではあるまいかといったように考えていたのである。

 とはいえ、ソフィのことを想像してそのような行為に耽った場合でもやはり罪悪感といったものは強くつきまとった。アンディは自分の父に対し申し訳ないなどとはまるで思いもしなかったが、それでもやはり実の父の後妻に恋をしているということ自体が、禁断の実に手を伸ばすことに他ならないのだとは思っていたし、そこでまた思い出されるのが幼い頃より親しんできた聖書の言葉なのである。

 族長ヤコブの長子ルベンは、父ヤコブのそばめの寝床に上ったということで、本来ならもらえるはずの長子としての権利と祝福を失っただけでなく、そのことで将来的に子孫らに災いすら与えている……アンディは哲学の授業が好きで、相当その手の本を読んできてもいるが、倫理・道徳といった面に照らし合わせて考えてみた場合、やはりアンディが縋れそうな逃れの細い道はどこにもないように思われた。

 だがアンディは自分のソフィに対する恋心を<倫ならぬ恋>といったようには思わなかったし、自分の彼女に対する想いは純粋で穢れのないものであると信じきっていた。けれど、そこに<性>というものが一度入りこんでくると、事態はよりややこしく複雑にからみあった毛糸玉のように思われ、それをほどこうと思うならば、どこかを断ち切り、痛みを感じる以外に選択肢はないというのも事実だったのである。

 アンディはこうした行き場のない思いをかかえて三学年へと上がり、アンソニー・ワイルと煙草を吸う機会が増えただけでなく、成績のほうも下がっていった。そしてアンディは自分のソフィに対する行き場のない思いを消化するために、アンソニーの言う<遊べる女性>に手合わせ願いたいといったように頼んでいたというわけなのだった。



  >>続く。





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