cafe de sou-ryu

ほっと一息
ちょっと休憩しませんか?

原点回帰(?) 絹について10

2009年03月06日 18時16分15秒 | my works
こんばんは。
本日の京都は朝から一日雨模様でした。
でも、今日の雨は暖かな雨です。
心なしか、街の木々も雨に濡れるのを楽しんでいるよう。
あ~、このまま春になったらいいのに…と、
甘い事を考える宗流です。


さて、本日は「絹について」のお話も、記念すべき(?)
第10回目となりました。
そして本日は「絹について」最終回です!
それでは、本日もまいりましょう。


糸の準備・図案・綜絖・紋紙と進み、機にかけられた糸は
ようやく織りにかけられます。
あとは職人さん・織機がひたすら織りに専念され、生地が織りあげられます。
今日は最後という事で、「機」についてのお話です。

帯で知られる京都の西陣では、現在量産を可能にするため
「ジャカード機」という機が使われています。
これは前回お話しました「紋紙」を使った織機で、
経糸の上げ下げを紋紙で制御しています。
では、それ以前はどうだったのかといいますと、
平安時代から明治当初までは「空引機」と呼ばれる機を使っていました。
これは、現在のジャカード機のように一人で織るものではなく
二人がかりで織る織機でした。

どのようにして二人の人間が必要かといいますと
一人はよく昔話で見るように機の前で織り手として座ります。
そしてもう一人は織機の上に作られた二階建の床のような部分に
腰を掛け、その場で経糸に通した綜絖を、手で引き上げるのです。
紋紙の役割を、まさに人間の手で行うという訳なのです。
これには下の織り手の人間と息があわなければ、
縦糸を引き上げるタイミングがとれません。
そこで、上下に座るコンビで歌を歌い、それに合わせて織り進めたそうです。
また、こうした空引き機のような機の種類を、「高機」といいます。


それに対して明治になってヨーロッパから導入された機を
「ジャカード機」といいます。
これは1800年代、フランス人ジョセフ・マリー・ジャカード
という人が発明したといわれる織機で、現在の機のように
穴のあいた紋紙を使用するものでした。
当時は人の手で機を織っていましたが、後に現在のような力織機となり
生産性が飛躍的に伸びたということです。
また、この機は「ジャカード」「ジャガード」「ジャカール」などとも呼ばれますが
同じものを指しています。


現在大量に生産される生地のほとんどは力織機によるものですが、
それ以外にも、麻で織られる小千谷縮には「居坐機(いざりばた)」
西陣で織られる帯によく使われる綴れ織には「綴れ機」
沖縄の伝統的な絣織物の琉球絣には「高機」
高級品の代名詞とも言われる結城紬などは「地機」で織られるなど
まだ人の手によって織り上げられるものも多くあります。
また、こうした手織りのものは力織機によるものに比べ
大変高価なものとして流通します。これは時間がかかる事もありますが
やはり機械には出せない味わいをもつ生地が織り上がるからなのです。


そして最後に、
様々な工程を経て織り上がった生地は、以前お話しました「精錬」という
作業を終え、水洗いされて絞られたものを既定の生地幅に伸ばす「幅だし」
そして最終工程の検品を終えてようやく製品となるのです。


多くの人々の手、そして仕事に対しての自負心やプライド
そうしたものが結晶して、一つの反物は出来上がります。
もしどこかで着物の反物を見かけられましたら、
その一反分の重さより遥かに重い職人たちの「きもち」を
感じて頂けましたら、和装関係者の一人として嬉しく思います。



※今回gooブログでの「絹について」のお話は終わりですが
「宗流まめ知識」の方で和装関係のブログを書いております。
もし宜しければそちらもご覧下さいね。



宗流


和装小物 宗流
http://www.sou-ryu.jp

原点回帰(?) 絹について9

2009年03月05日 22時27分35秒 | my works
こんばんは。
今日の京都は晴れたり曇ったりのお天気でした。
最近、すっきりと晴れる日が少ないようです。
季節の変わり目はこんなものでしょうか…。


本日は「絹について」第9回目です。
あと一回で10回になりますが、こんなに長くなるとは…
ご紹介した本人が一番驚いています。

さて、今日は織機(しょっき)のお話です。
前回までで糸の準備・図案のお話をご紹介しましたが
今回はいよいよ本格的な「織」作業の開始です。

以前の回でお話ししましたように糸の準備ができた経糸は
織機にセットされます。織る段階に入ると、そのセットされた経糸を
上げ下げし、その間に緯糸を通して生地が織り進められます。
その経糸を上げ下げする作業と、それを行う装置そのものを
「綜絖(そうこう)」といいます。

ちょっとイメージが分かりづらいかもしれませんので
恒例になりました(?)たとえを示させて頂きますと
マリオネット(操り人形)には、上から糸を体の各部分につなぎ
動かす部分を上げ下げしますね。
少し違うのかもしれませんが、綜絖とはそうした糸の上げ下げをする
操作であり、マリオネットの糸でもある大切な部分です。
その作業がマリオネットの動きにつながるように、
綜絖は織物を織るための糸を操る作業となります。


これは反物や帯などでそれぞれ用意された経糸の本数全てに
ひものようなものをつなげます。
例えば経糸が3000本あれば、3000本の綜絖が必要となります。
大変な作業となるために、これは綜絖のためだけの仕事
「綜絖屋」さんという職業があるくらいです。

そして綜絖と同じく、経糸の上げ下げを機に指示をする装置が
「紋紙」と呼ばれるものです。
これはボール紙のような厚紙に穴をあけ、その穴に織機の針が通り
その部分だけ経糸を上げることで地紋(模様)のある生地が織れるのです。
…これはたとえが難しいのですが、脚本のようなもの、でしょうか。
脚本家(紋紙)が細かな指示を役者(糸)にすることで
役者は細やかな心理描写や情景(模様)を表すことができる。
そんなところでしょうか。

この紋紙は、大きさとしては約35cm弱×4.5cmほどで
一つの図案に対して数百枚から千枚単位必要となります。
しかし、これは今では膨大な数の紋紙から、たった一枚の
フロッピーディスクに変わってきています。
これは「紋紙フロッピー」とよばれ、紋意匠図の情報が
コンピューターで読み込まれたものが入っています。


昔ながらの「織物」の作業が根強く残る和装業界の中でも
確かに時代の波が寄せているのは、こうしたところでしょうか。

しかし、データが様々なかたちのメディアに残される中
フロッピー自体も日常ではあまり見なくなった気がします。
もちろん和装以外のコンピュータ化された織機には
データだけでなく制御全てがコンピュータ化されたものもあるかもしれません。
ですが、こうした人の手がかかったものはなくなって欲しくない、
どれだけ便利になっても、人の手が加わった技術そのものに
価値や敬意を置く気持ちというものはなくして欲しくない。
そう思います。


宗流


和装小物 宗流
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原点回帰(?) 絹について8

2009年03月03日 19時34分04秒 | my works
こんばんは。
本日の京都は午前中から雨が降り出し
今もまだ降り続いています。
一雨ごとに春に近付く、と言われますが
今日はまだ春遠し、といった冷たい雨です…。


さて、今日は「絹について」第八回目です。
本日は図案についてのお話です。
昨日までで大まかに糸の準備が完了したのですが
今度は生地を織るために必要な前作業をお伝えします。


ご自身はあまり着物をお召にならなくても、
TVのCMなどに起用されたタレントさんが着用する
美しい着物や帯を目にされた事のある方は多いかと思います。
古典的で優美な柄や、現代的でモダンな柄など
着物や帯には、絵のように美しい様々な柄が織りあげられています。


この絵(図案)は織物を織る前段階で「正絵(しょうえ)」と呼ばれるもので、
帯や反物の幅にした紙に、柄の配置を考えながら絵を描いていきます。
「正絵」ができあがると、200~300倍に拡大し、
小さなマス目の方眼紙に写し取られます。
柄を方眼紙に写すのには、理由があります。
それは、線で表された「正絵」をマス目の点で表して、
その点が経糸で表すのか緯糸で表すのかを決めるためです。

デジタルカメラをよくご使用になられる方には馴染みが深いと思いますが、
ちょうど「ピクセル」と同じと考えて頂くと解りやすいかもしれません。
パソコン上で画像を大きく引き伸ばしたとき、
画像は色のついた点で表されるように、
方眼紙の上での柄を点で表わすのです。


方眼紙に拡大して写し取られた絵は、その柄を作る糸別に
マス目を塗り分けられます。
いわば織物の設計図といえばいいでしょうか。
このように経糸・緯糸で柄を織り出す織物を総称して
「紋織物(もんおりもの)」と言います。
そして設計図は「紋意匠図」と呼ばれています。


染めたり描いたりして、柄を出すのは絵の技術とセンスを持った
作家さんでしたら一人で行えるのですが、
織り物は各工程にそれぞれの専門家が存在し、
その技が順繰りに送られ、一枚の帯や反物が出来上がるのです。
そう思うと、織物はまさに「チームプレイ」といえるかもしれませんね…。


次にこの紋意匠図を元に、織機にその命令を伝える工程があるのですが
これはまた次回にしたいと思います。
本日はこのへんで…。


宗流


和装小物 宗流
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原点回帰(?) 絹について7

2009年03月02日 18時11分37秒 | my works

こんばんは。
本日の京都は、三月の訪れと共に春のような暖かさ
だった昨日とはうってかわり、冷たい風の吹く一日でした。
…とはいえ、これが本来の三月初旬なんでしょうが。
まさに「春は名のみの風の寒さ…」です。


さて、本日は絹についてのお話、第七回目です。
前回までの工程で、織機にセットする経糸のお話をしましたが、
今回はまず「緯糸」のお話です。
本日はちょっと長くなりますので、
休み休みお読みくださいますと幸いです。


ところで、呉服関係のあまり縁近くにない方にとって
最も身近にある絹織物といえば、シルクのスカーフや
絹の風呂敷かもしれませんね。
その中でも、もし風呂敷がお手近にあればご覧頂きたいのですが
正絹ものや化繊の種類を問わず、表面が凸凹としているものが
ありませんか?
もしかしたら、細かなしわみたいに見えるかもしれませんね。

これは、「シボ」とよばれる凹凸です。
この「シボ」は、始めからウエーブのかかった糸を使って
いるせいで、こうした凸凹ができる訳ではありません。
織る段階では、一見するとまっすぐな糸を使って織られています。


ちょっと分かりづらいのですが、
こうしたシボを作るためには、糸の準備工程に「撚り(より)」
というものをかける必要があるのです。
これは糸に「撚り」をかける事によって、平坦な生地だけでなく
様々な表情のある生地や、柄を織り出す事ができるため、
織りに際して、なくてはならない大切な工程の一つです。

この「撚り」には二つの方法があります。
イタリー撚糸と呼ばれる乾式の方法と、
八丁撚糸と呼ばれる水を使った湿式の方法です。
「撚り」を最も身近に体感して頂く一つの方法なのですが
みなさん幼い頃に、七夕飾りを飾るのに、
紙で「こより」をつくりませんでしたか?
紙を細めに切って、指で細く糸状によるのですが、
こよりを乾いた指先でよるのを乾式、
少し紙を濡らしてよるのを湿式、とした場合
糸の「撚り」もこれと同じようなものと考えて頂くと分かりやすいかもしれません。


話が脱線しましたが、糸の湿式の「撚り」は、水撚り撚糸とも言われ、
糸に水をかけて少し伸ばした状態で、約1mほどの長さの糸に
2000回から4000回ほど撚りをかけます。
こよりでいうと、2000回から4000回ほど指先でねじるわけです。
ですが、糸は一本の糸ですので撚りによって特に変わる訳ではありません。
糸自体を見たところ、この段階では大きな変化はありません。
また、この撚りには右撚り・左撚りと方向も決まっています。
縮緬の織物は、この右撚り・左撚りを組み合わせて織られています。


…ですが、これがなぜあの「シボ」を?
と思われる方も多いと思います。
それは、ちょっと話は前後してしまうのですが、生地の織り上がりの後、
「製練」という作業を終えるとシボが現れるのです。

上記の右撚り・左撚りの糸を一本ずつ交互に織り込んだものを
一越縮緬と呼ぶのですが、まずはこれを例にとります。
右撚り・左撚りの糸を交互に織り込んだ生地は、織り上がった時点では
特に凸凹のない平らな生地となります。
そして、織り上がりの生地はみなさんが普段使っていらっしゃる
しなやかなシルク製品から想像がつかないくらい、固くてパリパリなのです。


これは、以前繭のお話をした際に出てきました「セリシン」という
物質が、この段階ではまだ糸についているからなのです。
セリシンは撚りまでの工程では撚りがほどけないよう
糊の代わりにもなるのですが、織り上がると不要のものになります。

そこで「製練」という作業でセリシンを落とすのです。
これはアルカリ溶剤にマルセル石鹸などを加えた精錬液を
100度まで熱し、そこに織り上がりの生地を7~8時間漬けます。
するとセリシンが溶けると同時に、糸にかかっていた撚りが
戻ろうとします。ですが、糸が交互に織り込んであるため
まっすぐには戻れず、しわがよった状態となります。
これが「シボ」というわけなのです。


さて…今日はホントに長くなってしまいましたね。
すみませんでした。
明日からは織機の工程のお話です。
糸が生地になるまで、あと一息です!
お疲れ様でした。


宗流


和装小物 宗流
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原点回帰(?) 絹について6

2009年02月28日 17時48分52秒 | my works
こんばんは。
本日の京都はとてもいいお天気で
暖かな春を思わせる一日でした。
お仕事部屋でこもっているなんてもったいない!
…と、思わず本音。


さて、今日は絹についてのお話、第六回目です。
今日は繭からとった生糸を生地にする下準備の
お話を中心にお伝えしたいと思います。


昨日までで生糸となった糸は、次の工程に入る前に
まず最初に「下漬け」と呼ばれる作業をします。
これは生糸をある程度の長さのまとまりにした「綛(かせ)」
とよばれる糸の束をネット等に入れ、油剤に漬けられます。
この油剤は柔軟性をもたすため、また静電気防止用で、
何色かに色分けがされており、生地を織る時ための
糸の太さ別、縦糸や経糸用にそれぞれの色がつけられています。

そして「下漬け」が終わった糸は脱水をされ、
「綛」のままの姿でしっかりと乾燥させます。
またこの時、糸にダメージを与えないように
出来るだけ自然乾燥に近い低温除湿の部屋の中で
乾燥を行うそうです。

その後、乾いた「綛」をボビンとよばれる
20~25cmくらい(?)の糸車のようなものに
巻取ります。この作業は「糸繰り」と呼ばれます。
スピードを出して巻取れば効率が上がるのですが
早く巻取れば糸の風合いを損ねてしまうため
糸が切れないように注意しながらゆっくりと巻取られます。

次に、ボビンに巻取られた糸は、織までの中でも
最も大事な作業に移ります。
機織りの機械は、経糸と緯糸、そして紋縮緬等では
柄を出すヌキ糸と呼ばれる糸が必要となります。
その中でもあらかじめ機械にセットされるのが
経糸(たて糸)です。

これは生地によって必要な長さが異なるものの
一反を織りあげるのに8000~10000本もの本数が必要と言われてます。
この本数や長さ、幅を整える作業を「整経」と言います。
人が一人すっぽりと入れそうな大きなドラム状のものに
決められた長さの糸を巻き取っていくのですが
途中で糸が切れたら製品にならないため
巻き取り途中で糸が切れると、
センサーが教えてくれるようになっています。

今は何の作業でも自動センサーがあるため
何か異変があればすぐに修復ができるようになっていますが
昔はこの作業にかかわらず、
人の手と目に頼っていたかと思うと
とても頭の下がる話です…。


ちょっとここまで早足できましたが
何となく想像がつかれるでしょうか?
なかなか実際に現場を見学でもしないと
難しいのかもしれませんね…。
ですが、生活の中で絹製品を身近に感じられる方も
そうでない方も、こうした工程があるという事だけでも
知ってもらえましたら幸いです。

それでは、また続きは後ほどに…
よい週末をお過ごしください。


宗流

和装小物 宗流
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原点回帰(?) 絹について5

2009年02月27日 17時58分11秒 | my works
こんばんは。
今日の京都はお昼頃まで雨が降ったり止んだりでした。
気温もあまり上がらず、少し寒い一日…。
昨日の暖かで気持ちの良い日中はどこへやら、です。


さて、本日は絹についてのお話第五回目です。
昨日までは繭から糸を取るための機械工程の方法と、
人の手による繰糸の方法をご紹介しましたが、
今日はそれ以外の糸の種類と取り方をご紹介します。


まず一つ目は「紬糸」です。
これは昨日の人の手による糸の繰糸作業と
少し似ていますが、根本的に違う点は
座繰りの場合は繭糸を一本ずつ引き出して
数本をまとめて一本の糸にするのですが
紬糸の場合は繭の綿部分を丸ごと使用します。

繭をお湯につけて柔らかくするまでは同じですが
紬糸の場合は、この繭を袋状に広げて蛹を取り出し、
綿状のまま乾かしたあと、少しずつその繊維を
取り出して糸を紡ぎ出すのです。

ここから紡ぎ出された「紬糸」は細い繊維が絡まった状態で
糸になるため、まっすぐな繭糸をまとめた絹糸特有の照り
とは異なり控えめな照りが特徴で、この紬糸を使って織られた生地は
「ふし」のあるざっくりとした風合いに仕上がります。
ですが、紬の生地はとても丈夫で、「三代着て味がでる」
といわれる結城紬などもこの紬糸を使って織られています。


そして二つ目は「絹紡糸」です。
この糸はもともとくず繭や生糸のくずを利用した糸で
これらを精錬(セリシンを取り除く作業)、
切断等の工程を経て紡がれた糸をさします。

この絹紡糸には、座繰りなど手作業で糸を取り出す作業の際に出る
「きびそ」という副産物を利用される事も多いのですが
絹紡糸の中ではこの「きびそ」が高い割合で配合されるものが
最上品とされ、価格も通常の絹糸よりも高価で取引されます。

蚕が繭の糸を吐き出す時、一番最初に吐かれるのが
この「きびそ」とよばれる部分で、繭のいちばん外側にあります。
きびそは糸の吐き始めであるのと同時に、吐き終わりに比べ
繊度や繊維の形状などに優れているそうです。


このように、絹糸は繰糸の段階の方法や
加工方法によっていくつかの種類に分類する事ができるのです。
そして、各工程によって出来上がった糸は
それぞれの特徴を生かした生地に加工されます。


さて、ようやく絹織物に使用される糸(生糸)の
ところまでやってきました。
いよいよここから絹織物になっていきます。
ですが、まだ生地になるためにはいくつもの工程が
待っています。
その続きはまた後日にて…。

宗流


和装小物 宗流
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原点回帰(?) 絹について4

2009年02月26日 18時22分01秒 | my works
こんにちは。
本日の京都は久々にいいお天気でとても暖かな一日でした。
梅・桃・桜が一時に咲きそうな日というのは
今日みたいな日を指すのかもしれませんね…。


さて、本日は「絹について」の第四回目です。
昨日までは蚕の繭から糸を取り出すところまで
お話しましたので、今日はそれをもう少し詳しく
お伝えしたいと思います。

蚕を育てる仕事を養蚕といいますが、
その蚕の繭から糸をとって生糸として出荷するまでの
工程全般を「製糸」と呼んでいます。
そしてその「製糸」の作業の中で、
繭糸を何本か合わせて一本の生糸を作る工程を
「繰糸」といいます。
今日は主にこの「繰糸」の作業についてのお話です。


まず最初に、この「繰糸」作業は機械を使って行われる方法と
人の手によって行われるものがあります。
どちらも繭をお湯の中で煮て柔らかくし、繭の糸口から糸を引き出し
数本を合わせて一本の糸状にする作業なのですが、
機械と人の手、どちらにもそれ特有の特徴が出た糸ができます。


まず機械工程のものは、自動繰糸機と呼ばれる機械を使って行われるため、
糸が切れたり繭糸の本数を合わせたりの作業を
人が全て監視しなくともある程度自動で行われます。
また作業の労力を大幅に減らす上、なおかつ品質が安定しています。
そして時間も短縮されるため、作業効率も高いのが特徴です。

それに対して人の手を使って行われる繰糸作業を「座ぐり繰糸」といい、
座った状態で煮た繭から糸を引き出していきます。
この手作業の座ぐり繰糸でできた糸は、自然発生する節(糸の凸凹)や
太さ(繊度)が不均一なのが特徴で、それが製品として不適格かというよりは
かえってその特有の風合いが好まれる場合も多々あります。
また機械で糸を引き出す力に比べ、人が糸を引き出す場合は
絹糸張力が低く、糸本体へのダメージが少ないのですが
作業効率は機械工程のものに対して極端に悪く
その上、良い糸を取るためには熟練した手が求められるため
人材の育成にも時間がかかるのが難点です。

どちらにも利点・欠点はあるものです…。
そして、やはりどの産業や業種にもいえることですが
人の手を使った味わいや風合いに富んだものは
高い技術を要するため、その技術を伝承するという
本来の作業以外の面で大きな問題を抱えているような気がします。


ところで、この絹糸なのですが、
この繰糸機などを使って糸を作る上記のもの、
それ以外にもあと二つの種類があります。
一つは「紬糸」・もう一つは「絹紡糸」とよばれるものですが
こちらはまた次回の機会にお話したいと思います。

今日はこのへんで。


宗流



和装小物 宗流
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原点回帰(?) 絹について3

2009年02月26日 18時20分59秒 | my works
こんばんは。
今日は少し遅い投稿になってしまいました。
今夜(2/25)のうちにアップできるかな…?


さて、今夜は絹についてのお話第三回目です。
今日はいよいよ繭から糸になるお話です。

一回目・二回目で、絹の原料となるのが蚕の作る繭だと
いうお話でしたが、この繭から糸をとるのに、
あの丸いかたまりをどうするかご存知でしょうか?

実は…私は以前、あの繭は中の蛹が羽化したものを
集めて糸にするものだと思い込んでいました。
と、いうより、この和装関係の仕事に就くまで
考えたこともなかったのが正直なところです。


さて、何回かの脱皮を繰り返し、
いよいよ幼虫から蛹になる時期がきた蚕は
「まぶし」と呼ばれる容器の中で、糸を吐いて身をくるみます。
そして、丸い楕円形の繭が出来上がると
その繭は蛹が入ったままの状態でお湯でゆでられるのです。(!)

…少し残酷なお話ですが、それは今回は少し置いておくとして
先に進みましょう。


繭の糸は、前回のお話でも触れたように
セリシンという物質とフィブロインという物質から成り立っています。
セリシンは膠状の物質で、通常の空気中では固まり
繭の丸い形を保っているのですが、
お湯の中に入れると軟らかくほぐれてしまいます。
そのセリシンが柔らかくなった状態の中から糸をとるのです。

そこで前出のお話に戻りますが、もしかしたら
以前の私と同じように、蛹が羽化してからでもいいのでは…
という方がいらっしゃるかもしれませんね。
ですが、そうはいかない事情があるんです。

それは、あの繭をつくる蚕の糸は、一本の糸だからです。
そして、羽化するのを待てない理由が
蚕が羽化の時に吐くタンパク質成分が、
繭を溶かしてしまうという点です。
もし蛹の羽化を待ってしまうと、蛹のタンパク質成分で
繭には穴が開いてしまうのです。
そうすると糸は途中で途切れてしまい、
糸がとれなくなってしまうのです。
蚕にとっては可哀そうな話ですが
糸はこうしてとられるのです。


ちなみに、ちょっと余談にはなりますが
この糸をとった蛹は、捨ててしまうわけではないそうです。
全てがそうなのかはわかりませんが
飼料や肥料・そして釣り用のエサなどになるそうです。
つくづく最後まで蚕は人のために役立つ虫です…。
さすが「お蚕さま」と呼ばれるだけのことはあります。


さて、繭から糸がとれ、
ここからいよいよ絹糸(生糸)へのお話になります。
ですが、今回はこのへんで。
この続きはまた後ほどに…。



宗流


和装小物 宗流
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原点回帰(?) 絹について2

2009年02月24日 19時03分56秒 | my works
こんばんは。
本日の京都は一日雨が降ったり止んだりでした。
一雨ごとに、春が近づくと思うとわくわくしますが、
やはり雨は少しうっとうしいです…。


さて、原点回帰、本日はその2です。
(※HPではまだ「こもの屋の小さなこもの展」も開催中です!)
昨日は絹糸の原料となる「繭」についてでしたが
本日はその大元、「蚕」のお話です。
女性の中には虫が大嫌いという方も少なくはないでしょうが
本日は少し我慢して下さいね…。


先ほども触れましたが、絹糸(生糸)は蚕の作る繭から
糸を紡ぎ出し、それを数本集めて糸にします。
そして、蚕をさなぎの状態まで育て、繭を取るお仕事を「養蚕」といいます。
この「養蚕」から糸を取る「養蚕製糸」の技術は、
中国から伝わり、日本では弥生時代頃には
すでに絹織物が作られたという記録があります。


この「蚕」ですが、もとはカイコガという蛾の仲間全般をさします。
そしてこの製糸のために使われる「蚕」には、大きく分けて二つあり
一つは野外でクヌギの葉などを食べて育つ「野蚕」と
人の手で飼育・生育する「家蚕」の二つに分かれます。
本日はその中でも「家蚕」についてお話したいと思います。

「家蚕」は養蚕農家で桑の葉を与えられながら大切に育てられます。
卵から孵化した幼虫は桑の葉を食べながら成長して、
脱皮を繰り返しながら繭を作るようになります。
そしてその繭から細く美しい糸がとれるのです。


ちなみに…
この「家蚕」なのですが、これは完全に
人間の手で作られ、家畜化された生き物なのです。
「家蚕」とよばれる蚕は、野生回帰能力が退化し
人の手がなければ生きていくことができません。
そのため、蚕が一頭、二頭と数えられるのは
家畜と同じ扱いのためだと言われています。

幼虫のうちだと、目立つ体の白色はすぐに捕食の対象となり、
また、腹脚とよばれる胴体の足が退化しているため
木や葉の表面にしがみつく事もできません。
そして、蛹(さなぎ)になる時でも、一つ一つの升目に区分された
まぶしとよばれる蚕のための部屋がなければ繭を作れないのです。
まさに、蚕(家蚕)は絹糸をとるための一生を送ります。


ですが、だからこそ蚕は昔から敬いの気持ちを込め
「おかいこ様・おかいこさん」と敬称つきでよばれるのでしょう。
今でも、地方によっては蚕を神聖なものとして扱う地域もあるそうです。


絹糸はまさに文字通り、「一所懸命」に蚕が作り上げた
芸術品だといっても言い過ぎではないでしょう。
植物繊維や動物の毛繊維などの天然繊維の中で
最も長い繊維を持つ繭糸は、織り方や染色で
様々な風合いや表情をもち、私たちを楽しませてくれます。


食べ物が何かの生命のおかげで成り立つとよく言いますが
繭糸もそうです。小さな蚕の生命のおかげで、
絹製品は成り立って行けるのです。
それに報いるよう、大切に、そして生命の作り上げた芸術を
十分に味わう事が、せめてもの蚕への恩返しなのでは、と思います。



宗流


和装小物  宗流
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原点回帰(?)  繭について1

2009年02月23日 17時21分10秒 | my works
こんにちは。
今日の京都は午前中は少し雨も残りましたが
午後からは回復模様です。
明日はすっきりと晴れますように。


さて、本日は「こもの屋の小さなこもの展」も
ほぼご紹介できましたので、こちらはしばしお休み。
本来の和装関連のお話に戻りたいと思います。

今回はその復帰(?)第一回目、和装関連の基本中の基本
「絹について」その中でも「繭」についてお話したいと思います。


実際に和装関係に携わる方でなくても、
女性の方でしたら、化粧品などのお店に行かれた際
本物の「繭」を目にされた機会があるのではないでしょうか?

コスメ関係?和装と関係ないんじゃないの?
とお思いになられるかもしれませんが、
実はこれが案外関係あるんです。

あの繭玉なのですが、あれをコスメ関係に使用するように
なった所以が、大きく2点ほどあるそうです。
その1つがあの繭を作っている糸の細さです。

繭一ヶの糸の太さは約3デニールと言われています。
このデニールとは、糸の太さの単位で450mの長さで
0.05gを1デニールと言い、これを換算してみると、
450mで0.15gということになります。
450mもの一本の糸が1gにも全く満たないのですから、
大変な細さです。市販の洗顔ブラシに使われる
植物繊維・動物毛・化学繊維に比べても
かなり細いのではないでしょうか。

そして2つ目が、繭の糸の構成分子です。
繭の糸は大きく分けて二つの物質から成り立っています。
まずは絹糸(生糸)のもととなる「フィブロイン」
そして、そのフィブロインの周りを囲む「セリシン」という物質です。
この「セリシン」という物質は、生糸を作る段階では
不要なものとして除去されるのですが
コスメ用品としての繭には不可欠なものとされています。
この「セリシン」は人の肌の角質層をなすアミノ酸と
良く似た性質をもっているそうです。

また次回にもお話しますが、このセリシンの性質として
通常ではかたい膠状のものなのですが
約40℃程度のぬるま湯の中では柔らかく変化します。
その細い繊維とアミノ酸に似た成分は、
お肌に直接ふれたとしても悪い訳はありません。
コスメ用品として活用されるのも分かる気がします。

またこの「繭玉」をお見かけになられた際は
一度お試しになられてみてはいかがでしょうか?


さくっと「繭」の構成について触れてみましたが
まだまだほんの序の口です。
糸になるまではまだまだです。
この続きはまた次回に…。


宗流


和装小物 宗流
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