なぜ賢い人が間違うのか？

今週の本棚

藻谷浩介・評　『認知バイアス事典』＝山﨑紗紀子・宮代こずゑ・菊池由希子・著、高橋昌一郎・監修

2021/8/14　毎日新聞 東京朝刊 

（フォレスト出版・1980円）

人間がいかに間違うかを示す60類型

50代の評者にも、行政から新型コロナワクチンの接種券が届いた。指示通りにスマートフォンから、慣れぬLINEで登録したが、結構苦労した。「バージョンアップ」のたびに使いにくくなるソフトやアプリもそうだが、どうしてもっと、簡単にわかる設計にできないのだろう。

そんなときこそ掲題書である。世の中で行われているわけのわからない判断は、およそのところ、この本に厳選して盛られた60種類の「認知バイアス」の、どれかもしくは複数が絡んで起きているようなのだ。

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「バージョンアップ」のたびに使いにくくなるPCソフトやアプリ

 

地域エコノミストを名のり日本総研主席研究員の藻谷浩介の「デフレの原因は人口減少が原因だ」との馬鹿馬鹿しい非科学的な俗説には大反対。そもそも日本に限らず先進諸国は全員が少子高齢化が進行して人口減少になっているし、世界中で日本に一番似ている韓国は日本以上の少子高齢化が進んでいるが、デフレでゆっくりと死につつあるのは世界中で日本国だけ。（★注、「えらい人が間違う」との例で一番ピッタリなのが書評を書いた藻谷浩介だったとの笑えない笑い話）

ところが、今回の若手研究者３人による認知バイアス辞典の書評冒頭（掴み）のマイクロソフトとかグーグルなどインターネット関連とかパソコンなどAT関連では何故が不思議なことに「バージョンアップするたびに」良くなるどころか逆に使い勝手が悪くなる。何とも身につまされる話なのです。（★注、５０歳代の若い藻谷浩介でも変化に付いていけないで「使いにくくなった」と感じるなら私が困っているのは「当然だったのか」と大いに納得）

マイクロソフトの基本オペレーティングシステム (OS) ではMicrosoft Windows 95にバージョンアップした時には確かに以前より向上した。ところが マイクロソフトが2001年に発表したWindowsシリーズWindows XP（ ウィンドウズ XP）はぎりぎりセーフ。それ以降はPCのカタログのスペック値が向上するが、何故か使い勝手悪くなる一方なので、今使っているWindows１０は地獄のようなOSなのである。（★注、グーグルブログの仕様も勝手に変更するので付いて行くだけで四苦八苦。やっと慣れて安心したころに、直ぐに変更されてガックリとなる）

 

『東大話法』の安冨歩教授による、なるほど！すごくわかりやすい！解説（大発見）「なぜ『優秀』な人が集まって、とんでもなく愚かな暴走をするのか？」

わかったこと
１、優秀な人が、最初から「愚か」だった。
２、集団になると、相互作用でさらに「愚か」になる。
３、暴走が始まると、ますます「愚か」になる。

今のキャリア官僚、昔ならエリート軍人など「なぜ『優秀』な人が集まって、とんでもなく愚かな暴走をするのか？」の目からウロコ的な３原則の大発見ですが、その後補足説明として安冨歩教授は、科学と宗教とが対立概念ではなくて並立するというか、『部分』（科学）と『全体』（宗教）との関係だと喝破している。（★注、そもそも近代科学を含めて、『科学』とは歴史的に見ると宗教から派生したものだったので、時々は人為的ＣＯ２温暖化説のような不可思議な『先祖がえり』現象が起きてしまう宿命を背負っていた）

 

それなら今回紹介した「認知バイアス辞典」の帯の『賢い人・偉い人も、「見たいものだけ」を見ると馬鹿になる。』は根本的な間違いで最初の段階で「偉い人がバカ」なのですが、それを言ってはお終いなので、少しでも間違わないように「認知バイアス辞典」を文字起こしして参考にしましょう。藻谷浩介は非常に適切なアドバイスを行っているのです。（★注、言うは易く行うは難し。無関係な他人には認知バイアスを指摘できるのに、自分では出来ない典型例）

人間がいかに間違うかを示す60類型を文字起こしすると、

（バージョンアップのたびに使いにくくなるソフトやアプリの）冒頭の例は、（つまり最後）にある「知識の呪縛」の好例であろう。自分が知っていることは他人も知っているだろうと思い込み、知識を持たない人の立場を考えることが出来なくなってしまう現象」だ。

デジタルに詳しい人ばかりで仕様を決めるから、ＩＴ弱者に避けられ、市場が広がらない。日本の家電産業の凋落も、テレビのリモコンが無意味に複雑怪奇になったあたりから始まった。生き残りたいＩＴ企業は、「知識の呪縛」について社内研修を徹底すべきではないか。

新型コロナウイルスとオリンピックを巡る経緯も、認知バイアスの博覧会のようだ。以下、数字は掲題書内での掲載順である。

 

首相はワクチン接種で感染は抑制できると考えたようだ。だが先行国では、接種で死亡率は大幅に下がったものの、感染の方は、数か月の間は逆に拡大した例が多い。チェリー・ピッキング（０６）で、不都合なデータを無視したのか。ギャンブラーの誤謬（０８）で、「昨年の夏休み、年末年始、今年のGWと感染拡大に見舞われたのだから、今度はそろそろ感染が拡大しない方に賭けよう」と思ったのかも知れない。だがそれは、好ましい結果が起きる確率を何となく高いと思い込む、希望的観測（１２）だった。

余談だが、五輪を誘致しながら開会式をドタキャンした前首相も、対人論法（０９）、お前だって論法（１０）、藁人形論法（１１）などの常習的使い手で、その岩盤支持層は、信念バイアス（１８）、確証バイアス（３８）が強かった。

 

（★注、これだけ認知バイアスが重なると最早健常者ではなくて精神病者であるが、一番問題なのは狂っているのは安部晋三首相一人ではなくて日本国が組織的に狂っていることである。まさに破壊的カルト宗教が社会の末端から国家の中枢部まで蔓延していた７６年前の敗戦状態の大混乱と同じというべきであろう）

 

他方で、五輪開催中の新規陽性判明者急増は、外国人がウイルスを持ち込んだせいだと思う人いるかも知れない。だが、感染から発症まで２週間のタイムラブがあるので、期間中に陽性となった人の過半は、五輪関係者の入国前に、日本人同士で感染していたのである。五輪開催と第五波の拡大は、疑似相関関係（４０）の典型例であり、それに気が付かないとすれば、内集団バイアス（４８）が強すぎるのではないか。

（★注、タイムラグがあるので五輪開催と第五波がまったく無関係との藻谷浩介の指摘ですが、そもそも我が日本国は島国でインド由来のデルタ株の蔓延は、単に「日本人同士で感染した」で収まる話ではない。五輪開催で浮かれ騒ぐ日本政府が空港などの検疫をおろそかにし、かつ国内のＰＣＲ検査抑制をするという世界に例が無い愚劣な政治判断のツケが１～２カ月遅れで現れたのである。無関係どころか五輪開催と第五波とは明確な因果関係があったとの判断の方が客観的科学の結論）

 

「五輪成功で、政党支持率は上がる」と期待するのも早計だろう。「五輪は面白かったが、感染拡大は嫌だ」という状況は、典型的な認知的不協和（２７）だからだ。不協和状態解消のために、人は追々、記憶を改竄する。

「五輪は面白かったので、感染拡大を気にしない」と思い直す人も出ようが、「感染拡大は嫌なので、やっぱり五輪は楽しめなかった」と思い直す人も多くなりそうだ。

（★注、この結果が出るのは時間が経ってからで直ぐには分からない。今後日本の経済が回復すれば「五輪はよかった」になり逆に経済が悪くなるなら「五輪は悪かった」となる。
７６年前の第二次世界大戦で鬼畜米英の日本人が世界一の親米国家に大変身した最大の原因とは、日本の帝国陸海軍が威張っていた独立国時代よりも、外国占領軍（GHQ　アメリカ軍）が威張っていた占領時代の方が格段に一般市民の生活が向上したことに尽きるのである。これは対テロ戦争のイラクやアフガンでも同じでフセイン政権やタリバン支配の時代よりもアメリカ軍占領で市民生活が向上すればアメリカ万歳になる。ところが、明らかに社会が悪くなったので反米感情が高まった結果タリバンが復活したのである）

 

残念ながら、危機が叫ばれるほど心理的リアクタンス（５１）が働いて、あえて他人同士マスク無しで同席する人が出てくる。「決して開けてはいけませんよ」と言われると玉手箱に手が出る浦島太郎は、どこにでもいるだ。

（★注、これも残念ながら知的エリート藻谷浩介風の論理のすり替え「手品」で、命の危険をあえて冒す極少数の例外は何時の世界にも存在するのは事実だが、それは社会にとって何の影響もない。全体に占める人数比が小さすぎるのである。多くの人々は根本的な勘違いをしているのだが、常に法則の通りに動く自然科学とは違い、社会科学では必ず極少数の例外が常に生まれるのである。

今のように政府やマスコミ有識者が危険性をいくら強調しても「それほど危なくない」と多くの人々が判断するから守られないのである。欧米一神教世界では同性愛などは「神に背く許されない絶対悪」なのです。ところが、日本昔話の鶴の恩返しで「決して見てはなりませぬ」と言われたらコッソリ覗いてみたくなるのは人情だった。性に寛容な日本とは違い同性愛を法律などで禁止していた欧米社会では逆に LGBT が大流行するのは当然だったのである）

 

提題書は、今時の大学生向けの教科書なので、客観的かつ読みやすく書かれている。共著者の３名が、非常勤講師や助教の女性だからか、類書によくある上から目線の説教調や、自己啓発本臭さが無い。文中の事例も、夫婦のすれ違いや職場での問題など、身の丈で共感できるものばかりだ。そして全編から、「みんな、ここ、気を付けようよ！」との、静かな呼びかけが聞こえてくる。

 

６０の項目は数百の候補を絞り込んだものなので、漏れているバイアスもまだまだありそうだ。分数の増減を分母ないし分子の増減と混同してしまうとか、モデル構築のために便宜的に置いた前提が何時の間にか事実として独り歩きするとかは、学者にも多い間違いである、単なる同調バイアスを超えた、「集団での虚構の共有」という人間の本性がもたらす事実の歪みも、ぜひ続編では取り上げてほしい。

 

SDGｓ（持続可能な開発目標）が学校で教えられる時代になっている。認知バイアスも、小中高で繰り返し教育し、「人間がいかに思考を短絡し、事実認識を間違うか」を、日本人共有の戒めとするべきではないだろうか。イノベーションだの、国際競争力だのと言ったものは、そうした教育が行われれば自動的にくっついてくるものだと、評者は確信する。
８月１４日毎日新聞（今週の本棚　「認知バイアス辞典」藻谷浩介評）

（★注、この「認知バイアス辞典」自体には現在の政府やメディアや知的エリートを批判している文言は一つも無いが、はからずも、いかに認知バイアスを使って善良だが愚かな一般市民を騙しているかの教科書的な告発本でもある）

 

「間違う」（個人の過失）ではなく「間違わされている」（騙されている）

 

ただし、この「認知バイアス辞典」は逆に使えば「オレオレ詐欺」などの特殊詐欺のマニュアルにもなる諸刃の刃。そもそも善意の個人の無意識の個々の認知バイアス云々以前に、意識的に引き起こされている国家権力やその権力と一体化したマスコミや有識者による集団的な認知バイアスの押し付けこそが大問題。圧倒的な情報格差が存在するのですから「間違う」のではなくて、正しくは「騙される」（間違わされている）のである。（★注、一字違いで大違い。現象としてはまったく同じだが、見る方向が違えば結論が正反対になる）

 

正常性バイアスと集団同調性バイアスの相乗効果　2013年08月28日 | 放射能と情報操作

 

人はなぜ子供騙しの簡単な嘘にだまされるのか

『人はなぜだまされるのか』について放射線防護学の専門家で疑似科学やオカルトを批判するジャパン・スケプティクスの元会長でもある安斎育郎は、数々の騙しのテクニックを紹介して科学的な懐疑心の大切さと主観と客観的事実を混同しやすい常識の盲点について語っている。（★注、安斎育郎は２０１１年３・１１フクシマの何年も前に「放射能は食べても直ぐに健康に影響しない」ので英国ブレア首相の元ＫGBリトビネンコの放射性ポロニウム210での暗殺はインチキ臭いと科学的事実で明確に指摘している）
ところが安斎育郎が幾ら口をすっぱくして『思い込みや騙しの手口』を説明しても、騙される人はあとを絶たない。（★注、今でもWikipediaなどにはプーチンがポロニウム２１０でリトビネンコを暗殺したとの客観的科学法則を丸ごと無視した低級なお馬鹿プロパガンダが掲載されている。いくら間違いだと分かっても一旦定着した「正論」は簡単には修正出来ないのである）
『自分は絶対に騙されない』といいつつ、人はだまされ続けるのである。
此処で『なぜ』の視点を１８０度引っくり返したのが進化心理学の石川 幹人で、人類は３００万年前の過酷な狩猟採集時代の生き残りに有利だったので『人は、だまされる』ように進化した。
社会性の生き物である人間では『騙される』（他者を信じる）方が自然（多数派）であり、疑う方が異常（少数派）なのである。

進化心理学から見る集団同調性バイアス

人類は数百万年もの長い間利害が一致する血縁関係にある数十人以下の少人数の共同体で生活していたのです。
（相手が家族とか親族の場合）疑わしくて『納得できない』場合ても、他人の言葉を『とりあえず信じる』ように進化した。
石川 幹人よると、社会全体では『疑う心』は常に少数の例外である。
親しい少数の人間集団では一々相手の言葉を疑うよりも、『人を信じる』方が圧倒的に有利なのです。
ところが近年（数千年前）になって血縁関係に無い巨大な人間集団（社会とか国家）が出現してくる。
共同体内でも支配被支配の上下関係が生まれ、利害が相反するにもかかわらず、人類は以前の『とりあえず信じる』モードのままなので、子供騙しの見え透いた嘘でも多くの人々が結果的に騙される。
荒唐無稽にも思える石川 幹人の『人が騙されるのは人類の進化の過程である』（社会の進化に人類の進化が追いついていない）との進化心理学ですが、３・１１以後の政府や東電のお粗末過ぎる嘘八百を信じる多くの人々を見ると、俄然信憑性がでてくるから不思議である。
普通の大人なら絶対に信じないであろう無茶苦茶が、現在平気でマスコミが垂れ流し多くの人が疑うことなく信じている様は、悲惨すぎてとても正気とは思えない。
一億総痴呆状態なのである。
今の日本国の状態は『人類とは、そもそも信じる（騙される）ように進化した生物だった』とでもしないと、到底説明が付かないのです。

 

遭難時に主観（願望的な自分勝手な判断）を優先すると命がいくらあっても足りない

物事を判断する基準を自分自身の『善悪』など主義主張ではなくて、客観的『正誤』だけで判断すれば政治的立場に関係なく（科学や数学と同じで）必ず『同じ答え』が出てくる。

先ず最悪を予想せよ

遭難時のサバイバルとか軍事（戦争）では、自分は「こう考える」「こう見える」「こうあるべきだ」などの主観的判断は邪魔になることはあっても利益になることは滅多にない。自分の主観（判断とか理想）と科学的客観的事実とは、（もしも両者が一致していれば万々歳だが、）基本的に何んの関係も無いのである。（★注、極限的なサバイバル時では、科学的な客観的事実を正しく把握したものだけが生き残る可能性が出てくるのである）