世界中で麻疹のアウトブレイクがやまない背景に、麻疹ワクチン接種率の低下があることはすでに報じられてきたところです。でもそれは一律ではなくて、ある種のグループに顕著であると、米国の現状から興味深い考察がProMEDに載っています。
- ワクチン接種率の低下問題、SNSの影響やフェイクニュースについて盛んに論じられている。これだけなら、フェイスブックからワクチンに関するウソの記述を削除すればよいことになるが、それでは本質的なことが抜けている。
- 特に注意せねばならないのは、麻疹は国中に均一に流行っているのではなく、特定のグループに多いことで、tight-knit and traditional に注意。
- たとえば、ワシントンでは、特にロシア語を話すウクライナやロシア系に多い。これらのグループはもっとも接種率が低い。
- NYでは、接種率の低いユダヤ正統派(undervaccinated Orthodox Jewish)に多く、304例がこのグループであった。
- さらに以前にはオハイオ州のアーミッシュ、ミネソタのソマリア系など。
- こういったtight-knit グループに対しては、特に公衆衛生的に注目を注がねばならない。いったん流行が始まれば爆発的なことになる。これらのグループは共通の価値観と信念を共有し、頻繁に交渉がある。近年おこった26のアウトブレイク中、実に12回はこうしたグループに起こっている。その流行は大規模になり、最近の感染者数の75%を占める。
- これらのグループは共通言語を話し、共通のニュースを読む。フェイスブックもさることながら、こうしたグループのリアルのネットワークこそ要注意。
- ワシントンの麻疹は、欧州への旅行者により持ち込まれた。ウクライナではワクチン接種率は31%しかなく、昨年56000例だったのが、今年もうすでに28600例になっている。こうした持込みが、接種率の低いコミュニティに入ってしまえば、燎原の火のごときことになる(it can spread like wildfire because measles is so incredibly contagious)。
- 2016年の研究では、ウクライナ生まれの親の子供の接種率80%、同ロシア生まれの親の子85%、対してアメリカ人いっぱん92%という数字だった。
奥が深い話。多民族国家では、ある特定の民族やグループにワクチン懐疑が特に強く、すなわち特に接種率が低く、爆発的に広がるという現実。日本には、「特にワクチン懐疑が強い民族」というものがないのが幸いではありますが、それでも、三重の宗教施設にて集団感染が発生したように、単一民族の中においてもワクチン懐疑の強いある特定集団というものが存在し麻疹流行に輪をかけるかもしれないこともわかってきたのが今年であります。
ここらへん、リスクコミュニケーションにあたっても難題となりますが、把握できる限り濃密なアプローチが必要ですね。
ソースはProMED
http://www.promedmail.org/post/6382433
VOX
https://www.vox.com/2019/3/19/18263688/measles-outbreak-2019-clark-county