タイトルの 「波頭(なみがしら)の外側が覆い被さる」表現とは、繰り返し湧き立つ数段のオタマジャクシ様の丸い部分(波頭)を飲み込むように、その外側から波全体を覆い被さるように刺繍されている表現を指す。北四国に限らず他地方でも、衣裳や山車の装飾幕などの古刺繍に、さまざまな波の表現は数多く見られている。しかし、本稿の末尾において<他地方の刺繍に見られる波頭表現>で数例紹介しているが、北四国の波頭の酷似として取り上げた外側が覆い被さる波頭表現とは大いに趣を異にしているのが理解いただけると思う。この覆い被さる波頭表現は、間違いなく琴平に工房の拠点があった松里庵の流儀と深い関連があると考えている。以下に取り上げた、この地方の衣裳側・太鼓台側の各刺繍作品のリズミカルな波頭に注目していただきたい。
<衣裳側>
・肥土山(鶴の打掛)
・中山(立涌文の小忌衣)
・中山(鷹の羽織)
・中山(鷹の裃)‥明治42年製
・大部(親子獅子の四天)
<太鼓台側>
・坂出市内濱(鯉の瀧昇り蒲団〆)
・脇町(海女の珠取り幕)
・下野(北条氏・家紋伝説の幕)
・箱浦(妖術較べの幕)‥明治29年製
<他地方の刺繍に見られる波頭表現>
・シーボルトが見た長崎くんち子供の衣裳(シーボルト・コレクション『シーボルト父子の見た日本 生誕200年記念』1996.2ドイツ・日本研究所発行)
・愛知県・有松山車まつり 唐子車(中町)水引幕
・『特別展 江戸デザインの爆発 歌舞伎衣裳』(H1.4奈良県立美術館発行)‥左2点は兵庫県・個人蔵、3番目は福島県桧枝岐村千葉之家花駒座管理、4番目は東京国立博物館蔵、5・6番目は群馬県富士見村横室地区歌舞伎保存会蔵
・『ぎふ地歌舞伎衣裳』(2015.8岐阜新聞社発行)‥旧・各務原市の大谷興行所有
・『特別展 伊勢の歌舞伎と千束屋-神都に伝わる伊勢人のこころ-』(皇學館大学H20.12発行)
・『歌舞伎の衣裳展』(1995.9福島県立美術館発行)‥愛知県藤岡町教育委員会蔵‥船首に砕ける波頭(波間の赤いのは珊瑚)
(終)
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