ネタばれせずにCINEるか

かなり悪いオヤジの超独断映画批評。ネタばれごめんの毒舌映画評論ですのでお取扱いにはご注意願います。

有りがたうさん

2009年09月09日 | ネタバレなし批評篇
伊豆の天城街道を走る乗合バスの運転手に、往年の2枚目スター上原謙(加山雄三の親父さん)が扮している。どちらかというと固苦しい演技が印象に残っている俳優さんだったが、(清水宏の演出が効いているのか)自然体の演技が実に心地よく、歩いている人々が道を避けてくれるたびに「有りがとう」と挨拶する上原のよく通る声に、何とも心が癒される作品だ。

そんな“有りがたうさん”の運転する乗合バスが追い越していく人々の後&前姿を見ているだけでも妙に楽しくなってくるのだが、そのバスに乗り合わせた乗客たちがこれまた一癖も二癖もある曲者ばかり。ハンサムな運転手に色目を使う酌婦(桑野通子)、東京に売られていく娘(築地まゆみ)とその母(二葉かほる)、その娘を卑猥な目で見つめ酌婦とは何かと張り合う付髭の保険勧誘員(石山隆嗣)。

彼ら彼女たちの会話から聞こえてくるのは、景気の悪さをひたすら嘆くうわさ話。まるで今の日本の不景気のことを言っているようなデジャブに襲われたが、さすがに娘たちが十羽一くくりで売られていく状況にまでは至らないだろう。生活だけを比べれば今の日本の方が格段に良くなっているはずなのに、話題にすることが70年前とさほど変わっていないというのは、ちょっと不思議な気がするのである。

天城峠へと続くこのダート街道にガードレールなどあるはずもなく、身売りされていく世間体の悪さに気落ちする娘を気遣いよそ見した瞬間、あわやバスが崖下に転落しそうになる。「とんだ軽業をお見せしちまいまして」運転手のその一言で許してしまう度量の広い乗客たちを見ていると、満員電車で毎朝いがみ合っているのが馬鹿らしくなってくる。「そんなの、あるわけないじゃん」と思わず突っ込みたくなるハッピーすぎるエンディングも、なぜかこの映画なら素直に許せてしまう。見終わった後、人に優しくしてあげたくなっちゃう1本だ。

有りがたうさん
監督 清水 宏(1936年)
〔オススメ度 

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