成瀬巳喜男と川島雄三が協同監督をつとめた『夜の流れ』は、過去にしがみつく女と未来に対して前向きな女を対称的に描いたなかなかの佳作だった。『全裸監督』制作時に知り合ったという内田英治と片山慎三両監督によれば、女優伊藤沙莉をいじくり回すことがテーマだったという。6話オムニバス型式になっている本作、宇宙人をつれて歌舞伎町界隈を逃げ回る科学者を探偵マリコが探索するストーリーはまっこと面白くなく陳腐この上ない。むしろ、マリコが雇われママをしているスナックにたむろする常連客にスポットをあてたサブストーリーに魅力を感じる1本なのだ。
どこかフェテッシュな目線を感じる内田のパートには全く興味がなかったのだが、ポン・ジュノ譲りの演出が自分好みの片山慎三のパートに是非目を通しておきたかったのである。特にメイン・ストリームとはほとんど関係のない『鏡の向こう』と『秘密の姉妹』はオシ、内田の撮ったパートには殆ど感じられなかった“エロス”全開の2話だからだ。しかも、登場人物のヤクザの娘と阿佐ヶ谷姉妹似?のおばはん姉妹役に、ノンフェロモン系の女優をあてがってこれだけのエロスを出せるとは....片山慎三おそるべしなのである。
スナックカールスモールの場末感にピッタリな物悲しいストーリーは、フレンチノワール風といっては褒め過ぎだろうか。ミラーボックス・カーのガラスを挟んで意外な再会をはたしたヤクザとその娘。シリアルキラーの魔の手からギリギリ逃れた娘は、公園の片隅に座っていたオッサンが描く“真っ白なキャンバス”によって親父の死を予感するのである。ポイズンと🔫専門の殺し屋に育てられた地味ーな姉妹は、映画監督の卵ちゃんを性奴隷として仲良くシェアリング。両話ともマリコのドメバイ“ヤクザ”親父に繋がるストーリーになっているのだ。
「(国内マーケットたけでは)もうどうにもならなねんだよ💢」状況に追い込まれている邦画制作の現況を鑑み、本オムニバスは海外市場を視野にいれて作られているらしい。が、残念ながら国際的に通用しそうなのは鼻息の荒い内田英治ではなく、“エロ”をちゃんと撮れる片山慎三だけのような気がする。日本のアイドル女優のケツばかり追いかけた映画を作っても、おそらく外国人の目には“ロリコン”ムービーのようにしかみえないからだ。それほど現代の邦画界(特に実写)には大人が見るにたえうる作品が少ない、末期的な状況といえるだろう。
探偵マリコの生涯で一番悲惨な日
監督 内田英治・片山慎三(2023年)
オススメ度[]