ネタばれせずにCINEるか

かなり悪いオヤジの超独断映画批評。ネタばれごめんの毒舌映画評論ですのでお取扱いにはご注意願います。

ちょっと思い出しただけ

2022年06月28日 | 激辛こきおろし篇



劇中しつこいほどに登場するジム・ジャームッシュ監督『ナイト・オン・アース』の一幕。公園で恋人を待ち続ける男(永瀬正敏)は、同監督『パターソン』へのオマージュだろう。(ついでに言わせてもらえれば、あの変な体操は多分『リミッツ・オブ・コントロール』からの引用)一瞬主人公照生と恋人の葉が同じ年のおなじ誕生日を繰り返すタイム・リープSFかと勘違いするシナリオだが、『ブルー・バレンタイン』を思わせる時系列遡り系のラブ・ロマンスだったらしい。

ヒロイン葉の職業が『ナイト・オン・アース』のウィノナ・ライダーと同じタクシーの運転手。6つのブロックに区切られた構成も『ナイト・・・』のオムニバス型式と共通で、コロナ明けを予感させる映画ラストの夜明けシーンはまちがいなく『ナイト・・・』を真似た終わり方だ。しかし、アラサー世代の松井監督がそのジャームッシュ2作品を真に理解していたのかどうかと聞かれると「かなり微妙」と答えざるを得ない。

ダンサーの照生(池松壮亮)とタクシードライバーの葉(伊藤沙莉)の破局から出会いまでを逆におった本作で浮かびあがってくるテーマは、「(コロナ以前の)かけがえのない日常を取り戻す」というアフターコロナにおいてはもはや望むべくもない夢物語だからだ。この世にはびこる心理的暗闇に言及した『ナイト・オン・アース』、そしてジャームッシュ自身の生き方(映画監督と音楽家の2刃流)を投影した『パターソン』とは、かなりかけはなれた内容に終始しているのである。

映画の表層部分だけを真似て悦に浸っているという意味では、マッド・リーブス監督の『ザ・バットマン』で垣間見れたズッコケ気味のオマージュにより似ているといっても過言ではないだろう。“秘すれば花”とはいうけれど、目に見える表面上の演出だけを真似ても程度の低いパクリにしか見えないのであって、元ネタの映画との共通項をどのレベルで見い出すかによって、その映画監督の力量が自ずと知れると思うのだがどうだろう。

ちょっと思い出しただけ
監督 松居大悟(2021年)
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