フィリピンに約3万人いると推定されているコピノ(コリアンとフィリピーナのハーフ)。バブルにわいていた80年代の日本にも、ジャパゆきさんたちが大勢日本を訪れたことも記憶に新しいが、最近はアジアのドスケベオヤジどもが、フィリピンやタイを往訪し現地調達するのが主流になっているのだとか。当然種だけ残してさっさとトンヅラする輩がほとんどのため、コピノと呼ばれる貧しい家庭に育ったハーフが現地で急増中らしい。
考えてみれば、コリアン・ノワールの第一人者パク・フンジュンが撮った『THE WITCH(1の方)』も、韓国の社会問題をテーマにしていたような気がする。最強の人間兵器として英才教育を受けた女の子が、その育ての親たちに復讐するお話は、加熱しすぎの韓国受験戦争を揶揄した物語といえなくもないからだ。ある目的で韓国金持ち一族に拉致されたコピノのアングラ・ボクサーが、得体の知れない殺し屋(キム・ソンホ)とともに、その金持ち一家に一発かますといった内容で、“貧乏野郎”と蔑まれるハーフのリベンジストーリーにもなっている。
社会に蔓延る悪を退治する“寄り道しない”お話もそれはそれで好物なのだが、本作のように“社会問題”が背景に描かれている作品の方が、パク・フンジュンには合っているような気がする。映画前半、コピノのマルコが強盗失敗のあと交通事故にあい、その後トントン拍子に韓国へ連行される下りは、フンジュンにしては少々退屈だ。しかし、これらが全てラストで明かされるどんでん返しの伏線になっているので、それなりに注意して見ておく必要があるだろう。
マルコの味方なのか敵なのかいまいちはっきりしない設定が、ブランド服で身をかためた喘息もちの殺し屋をまるで“(陽気な)ターミネーター”のように見せている。キレのある無双アクションは、もはや突っ込む必要のない完成度。むしろ、この殺し屋がなぜマルコにつきまとっていたのかが最大の謎となっている“ワイ・ダニット”な一本なのだ。キム・ソンホにしても、『THE WITCH』のキム・ダミにしても、非情な殺し屋にはとても見えないキャラ作りがとてもお上手なパク・フンジュンなのでした。
貴公子
監督 パク・フンジュン(2023年)
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