『洞窟おじさん』でドメバイを苦に家出、山の洞窟で社会から隔絶された生活を送った男を演じた中村蒼。おっとりしたしゃべり方に独特の間があり、地に足のついていない感じの若手俳優とは一味違う、昭和な魅力を自然体で演じることのできる数少ない男優の一人だろう。
本作でも、母親が他界し親父が女をつくって失踪後大学を除籍、アパートも追い出されアッというまにホームレスに転落する大学生を演じている。
まずはお決まりのネット難民生活。風俗のティッシュ配りから、得体の知れない治験アルバイト。女に騙されたのがきっかけでホストの世界へ。しかし結局悪にはなりきれず、貧困ビジネスの餌食となり、あえなくホームレスに。
この間わずかに6ヶ月。こうして一応は暖房のある部屋でぬくぬくとこの映画を見ている私や俺は関係ないよと思っているあなたも、いつなんどきこのおさむくんような立場に追い込まれても不思議じゃないのが現在の日本の状況だ。
おさむくんにティッシュの配り方を指南したお兄ちゃんじゃないけれど、こんな終っている国を○○で吹っ飛ばしたくなる気持ちもわからないではない。チャラついているリア充を見たらそりゃ○○も覚えるだろう。
独男や独女に声をかけては飲食代をたかる家出娘、その女のせいで中国でシャ○の運び家をするはめになる元ホスト、ホスト狂いが原因でソープに沈められる元ナース、貧困ビジネスのカラクリをとうとうと語りながら抜け出せない土木作業員、ヤクザに半殺しにされたおさむくんを助ける被災ホームレス。
一度失敗したら二度と元に戻れない日本式システムの犠牲になった“東京難民”たちだ。しかし今は小説や映画の創作ネタになるこの難民たちも、そのうち大して珍しい存在ではなくなるはず。
世界資本家の要請で各法人は過去最高収益を上げるため、究極のコスト削減装置AIを発動せざるをえなくなるからだ。何とか逃げ切ろうとしていたリア充たちも、容赦なく切り捨てられる時代がもうすぐやって来るだろう。
その時は金子ノブアキ扮するアツシのように「金をなめんじゃねぇ!」と優しくイジメてやりましょうね。
東京難民
監督 佐々部清(2014年)
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