ナイジェリア出身の監察医が、多発する元NFL選手不審死の原因を突きとめる医療サスペンス。紆余曲折の末、選手同士の激しいタックルにより生じた“脳震盪(映画タイトル)”が原因であることが判明する。新しい病名(CTE)を協同で医学雑誌に発表しやっとこれでアメリカ人として認められる、と充足感に浸っていたオマルだったが.....
実際に起きた事件をベースにしている本作は、オマル医師が冒頭別の殺人事件の証人として呼び出されるシーンから始まる。検察側に身元確認を求められ、出身や学歴、職歴を長々と説明するのだが、これが実に分かりやすい人物紹介になっている。陪審員の皆さんは、ナイジェリア人の私のことをどこの馬の骨かとお思いでしょうが、(容疑者の)彼を殺人犯人と決めつけるのはアメリカの歴史に新たな汚点を残すことになりますよ、とコロンボ刑事なみの観察眼をそこで披露するのである。
とにかくウィル・スミスのなりきり感が絶妙で、アフリカ訛りの発音から仕草までどこか垢抜けない、しかし頭はキレキレのアフリカ人医師オマルを怪演しているのだ。ハリウッド広しといえども、これだけの役作りができる俳優はこのウィル・スミスとトム・ハンクスぐらいしか思いつかない。返す返すもビンタ事件がなんとも悔やまれる俳優さんなのである。やがてNFLの隠蔽体質によってピッツバーグの監察医協会から追い出されてしまったオマルは、白人たちが自分のことを“ブードゥー医師”としか見みなしていないことを思い知らされるのである。
監察前の死体にむかって「君の声を聞きたい。だから協力してくれ」と真摯に語りかけるオマルは、その〈声なき声〉を届けただけなのに、なぜ自分がアメリカ人からこんなにヒドい仕打ちを受けなければならないのか理解に苦しむのである。アメリカの巨大利権を脅かす者は誰であろうとけっして許されない。それがアメリカで暮らす市民の掟だからである。発表論文も白紙撤回、地方の監察医へと追いやらてしまうオマルはその後アメリカ市民権を得たらしいが、彼の真実の〈声〉は今なおかき消されたままなのである。
コンカッション
監督 ピーター・ランデズマン(2015年)
オススメ度[]