サイレント時代から役者として活躍、アメリカの魂ジョン・ウェインの名付け親で、ハンフリー・ボガートを一躍スターダムに押し上げたのも、このラオール・ウォルシュの功績と言われている。まさにマチズモ映画の巨匠ウォルシュ円熟期に撮られた傑作ギャング映画なのである。当時悪役スターの座を不動のものにしていたジェームズ・キャグニーを主役にすえ、警察の張り巡らした網の目を掻い潜り強盗を繰り返す一味のボスを凄味たっぷりに演じさせている。
持病の発作とマザコンがリンクしたキャラが軟弱との指摘もあるようだが、シナリオの構成上どうしてもキャグニー演じるコーディーがぶっ倒れる場面が必要だったのではないだろうか。意識を失うほどの頭痛に襲われながらも警察官や刑務所のチンピラを一撃で殴り倒すコーディを見ていると、「ちっちゃいのにこいつ本当に強いんだな」と逆に思えてくる上手い演出だ。「俺が信じるのはお袋だけだ」なんて台詞をきめられるのは、世界広しといえどもこの“ちびっこギャング”キャグニーだけだろう。
コーディ率いるギャング団へ加わる潜入捜査官ファロン(エドモンド・オブライエン)、真面目を絵に描いたようなフィリップ捜査官(ジョン・アーチャー)、そして、これまた情婦の典型のようなブロンド女ヴァーナを演じたヴァージニア・メイヨが脇をしっかりすぎるくらい固めていて、B級にありがちな綻びをまったく感じさせないのである。ちなみに役のイメージとは真逆の堅実な私生活を送っていたメイヨは、離婚歴のない唯一の?ハリウッド女優として有名だそうな。
何かというとはじきに頼る現代とは違って、1949年はまだ男の拳がモノをいった時代なのだ。潜入がばれそうになった途端にまずはごまかしの一発、お袋のことをバカにされる度になめてんじゃねぇの一発、刑務所脱走を邪魔する奴らはすべて拳固でカタをつける男たち。バキューンバキューンもいいけれど、俺達ビーバップ世代にとっては殴り合いがないとどうも物足りないのである。そんなごっついコーディの報復を恐れて“逃げない女”を演じられるのは、やはり私生活でも逃げなかったヴァージニア・メイヨしかいなかったのである。
白熱
監督 ラオール・ウォルシュ(1949年)
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