本作はアメリカで起きた9.11をモチーフにしているらしい。
なるほど敵役のジム・ハリソン(ベネディクト・カンバーバッチ)はウサマ・ビンラディン、真相を隠してクリンゴン=イラクに戦争をふっかけるマーカス提督はブッシュJr.そのものの人物設定。
おまけに宇宙船をのっとって司令本部に突っ込もうとするシーンなどは、アメリカ人にとっては悪夢ともいえるあの衝撃映像を思い出さずにはいられないだろう。
今や宇宙モノを撮らせたら若手No1のエイブラムス、過去のスタートレック・シリーズにリスペクトを捧げた仕掛けも随所に織り込んでいるだが、この映画そんな社会派・懐古派ファンを喜ばせる枠組みだけにとどまっていない。
「人類はなぜ戦争を起こすのか」という永久命題に一石を投じた映画でもあるのだ。
家族同様の部下を守ろうとしてテロを企てるジム・ハリソン、恩師を失なった悲しみから復讐心をたぎらせるカーク、そして冷静沈着なバルカン星人スポックも大切な友情が原因で怒りを爆発させる。
家族や友人そして同じ民族が受けた悲しみや怒り、恐怖心や孤独感に共感する時(スポックが元艦長の死に際に感情を読み取ったように)、テロや戦争が起きるのではないか。くしくも京大学長が仮説で述べていた人類学的テーマを、9.11事件と関連付けて映画化した本作は反戦映画としても見逃せない一面を備えている。
イントゥ・ダークネス
監督 J.J.エイブラムス(2013年)
〔オススメ度 〕