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民事訴訟 【訴訟審理 証明 証明責任】逐次追加

2014-09-04 17:00:19 | 民事訴訟法
【証明責任】

 今回は、少し感銘簡単な書き方に徹してみよう。

(1)証明責任とは

 「自由心証主義」によっても裁判官にとって、「真偽不明」の場合が有り得る。此の場合に如何するか?
 此の場合に「証明責任」を基準とする。其処で、真偽不明の場合にも裁判官は実体法に基づいて判決を下すことが出来る。証明責任は自由心証主義が尽きたところで働く原理である。然し、ある事実が証明されたか如何かは、裁判官が尚も確信を得たか否かに罹るので、二つの原理の境界は客観的に明らかであると言い切れ無い。
 ある事実について誰が証明責任を負うのかは、訴訟以前から主として「実体法の規定」によって決まっていて、此れを「肖眼卯責任の分配」と言う。

 此処での「証明責任」は「挙証責任」や「立証責任」との意味とは異なる。其れは、「裁判官心証を形成出来なかった場合に当事者が受ける結果責任の不利益」である。此れを「客観的証明責任」と呼ぶ。

 此れに対して「主観的証明責任」と呼ばれるものがある。弁論主義の下では、行為責任としての「証拠を提出する責任」が観念される。此の概念は説明の為のものに過ぎず、当事者の証拠提出活動の規律に然程影響するものでは無い。其処で、「証明責任」は、「客観的証明責任」の意味で用いる。

 更に当事者は夫々自己に有利な法律効果を定める法規の構成要件に該当する事実について証明責任を負い、此れを果さ無い限り、弁論主義の結果として敗訴は免れ無い。此れを「主張責任」とも言い、原告の請求原因、被告の抗弁、原告の再抗弁、被告の再々抗弁等と分類されるのは、当事者の主張責任の分配を基準としている。

 一方の当事者が有力な証拠を出した場合、相手方は其れを覆せる証拠が無ければ敗訴してしまう。相手方が一方の証拠を覆す証拠を出した場合も更に最初に証拠を出した者は、其の相手方が出した証拠を覆せる証拠を提出することになる。此の様な「証拠責任の分配」は主観・客観両者の「証拠責任の分配」が訴訟以前に決まっている。

(2)証明責任の分配

①法律要件分類説
 証明責任の分配については「法律要件分類説」と言うのが通説である。⇒ある法律に基づく法律効果を主張するものが其の規定の構成要件に該当する事実に付き証明責任を負うと言うものである。

(具体的法律の規定の分類)
〇権利の発生を定める「権利根拠規定」ⓐ
〇一旦発生した権利の消滅を定める「権利消滅(滅却)規定」ⓑ
〇権利根拠規定に基づく権利の発生を阻止する「権利障害規定」ⓒ

(錯誤による無効)
 民法95 (錯誤)意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。

 上記本文の証明は意思表示の無効を主張する者が証明責任を負うが、表意者に重大な過失があることは意思表示の有効を表明する者が証明責任を負う。

 然し、実体法の規定が「分類の基準」として必ずしも明確で無く、法解釈が必要な場合もある(準消費貸借に於ける旧債務の存在につき、最判昭和43・2・16民集22・2・217〔<144〕。安全配慮義務の内容及び義務違反の事実に付き、最判昭和56・2・16民集35・1・56〔145〕)。

✻権利消滅規定を権利根拠規定から区別することは比較的簡単であるが、権利障害規定と権利根拠規定との区別は比較的困難が多い。

✻現代の紛争には立法当時予定されていたのと派異なる要素があり、立法当時の証明責任の考え方に従うと不都合を生ずることがある。⇒立証の難易、証拠の所在(当事者と証拠との距離)、漫然性、実体法の立法趣旨、信義則等を考慮して、利益衝量によって修正する余地は無いとは言え無い。

民法415 (債務不履行による損害賠償)
 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。
⇒「債務者は自己に奇跡自由無きことにつき衝眼卯責任を負う。」と言う考え方が一般的に成っているが(最判昭和34・9・17民集13・11・1412〔146〕)⇒法律要件分類説の形式的帰結が解釈で修正された例と言える。

✻間接反証の議論⇒法律要件分類説を前提とし乍当事者の実質的平等を諮る考え方がある。

②証明責任の転換
 立法者が、特別の場合に証明責任分配の一般原則を変更して相手方に反対事実についての証明責任を負わせることを言う。

〇ム自動車事故による損害賠償請求に於いて、民法709条では被害者が加害者の過失につき証明責任を負うが、自賠法3条但し書きは加害者に注意を怠ら無かったことについの証明責任を負わせている。

自賠法第3条
自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によって他人の生命又は身体を害したときは、これによって生じた損害を賠償する責めに任じる。
ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかったこと、被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があったこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかったことを証明したときはこの限りでない。

✻此れは訴訟の具体的経過から生ずることでは無く、「立証の責任」とは異なる。

③推定

「法律上の推定」⇒法律で「前提事実があれば推定事実があると推定する」
旨定めること。

(占有の態様等に関する推定)
第百八十六条
2 前後の両時点において占有をした証拠があるときは、占有は、その間継続したものと推定する。

(賃貸借の更新の推定等)
第六百十九条  賃貸借の期間が満了した後賃借人が賃借物の使用又は収益を継続する場合において、賃貸人がこれを知りながら異議を述べないときは、従前の賃貸借と同一の条件で更に賃貸借をしたものと推定する。この場合において、各当事者は、第六百十七条の規定により解約の申入れをすることができる。
2 従前の賃貸借について当事者が担保を供していたときは、その担保は、期間の満了によって消滅する。ただし、敷金については、この限りでない。※(期間の定めのない賃貸借の解約の申入れ)
第六百十七条  当事者が賃貸借の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合においては、次の各号に掲げる賃貸借は、解約の申入れの日からそれぞれ当該各号に定める期間を経過することによって終了する。
一  土地の賃貸借 一年
二  建物の賃貸借 三箇月
三  動産及び貸席の賃貸借 一日
2  収穫の季節がある土地の賃貸借については、その季節の後次の耕作に着手する前に、解約の申入れをしなければならない。

(嫡出の推定)
第七百七十二条  妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。
2  婚姻の成立の日から二百日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から三百日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。
手形法 第二十条  満期後ノ裏書ハ満期前ノ裏書ト同一ノ効力ヲ有ス但シ支払拒絶証書作成後ノ裏書又ハ支払拒絶証書作成期間経過後ノ裏書ハ指名債権ノ譲渡ノ効力ノミヲ有ス
○2 日附ノ記載ナキ裏書ハ支払拒絶証書作成期間経過前ニ之ヲ為シタルモノト推定ス

 推定事実からある法律効果が発生する場合に、其の法律効果を主張する当事者は、推定事実に代えて、前提事実を証明すれば足りることになる。前提事実が証明された場合、相手方は推定事実の不存在を証明し無い限り其の法律効果の発生は認められる。⇒法律上の推定は、証明責任を転換すると共に、証明対象事実(証明主題)を拡大し、挙証者に選択を赦す機能を持つ。

〔所有権の取得時効の成立〕
 (所有権の取得時効)
第百六十二条  二十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。
2  十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。

(占有の態様等に関する推定)
2  前後の両時点において占有をした証拠があるときは、占有は、その間継続したものと推定する。

 以上は厳密には(法律上の)事実推定と言われる。此れに対して〔権利推定〕と言われるものがある。「ある事実がある時は一定の法律効果があるものと推定する」

(境界標等の共有の推定)
第二百二十九条  境界線上に設けた境界標、囲障、障壁、溝及び堀は、相隣者の共有に属するものと推定する。

(共有持分の割合の推定)
第二百五十条  各共有者の持分は、相等しいものと推定する。

(夫婦間における財産の帰属)
第七百六十二条
2  夫婦のいずれに属するか明らかでない財産は、その共有に属するものと推定する。

〇(占有の態様等に関する推定)
第百八十六条  占有者は、所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ、公然と占有をするものと推定する。
→推定される事実

〇(所有権の取得時効)
第百六十二条  二十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。
2  十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。

⇒第百六十二条1項2項で示された事実が、第百八十六条1項で推定された事実が否定されると構成要件から外される。⇒第百六十二条「20年間他人の物を占有した者は、其の所有権を取得する。但し、所有の意思を持って平穏且公然に占有をし無かった場合には此の限りで無い。」と言う規定に書き換えられたことになる。

 法律上の推定と同様に証明責任を転換する効果はあるが、証明事実を拡大する効果は無い。此れは暫定事実と呼ばれる。

〇経験則
 ある事実があれば他のある事実も存在した漫然性がある。→このような場合に、裁判官が経験則を適用して、ある事実が証明されたことから他のある事実の存在も認める。⇒事実上の推定。
 事実上の推定は証明責任の転換と無関係であり、間接的事実が証明された場合に、相手方当事者に立証の必要が生じるに過ぎ無い。然し、相手方の立証は飽く迄反証であり、直接事実の存在についての裁判官の心証を動揺させれば目的を達成する。

〇間接反証

 甲:主要事実~ある法規の構成要件に該当する事実。
 乙:間接事実~経験則から甲の存在を推定させる事実。

 甲の存在につき証明責任を負う当事者が乙の存在を立証した場合、相手方当事者が乙とは両立する別の間接事実丙を立証して最初の推定を打ち破り、主要事実甲の存在を不明な状態に追い込む証明活動を間接反証と言う。⇒目的は裁判官の心証を動揺させれば足る反証に過ぎ無い。

 間接反証は、法律要件分類説による証明責任の分配を守りつつ、具体的に妥当な結果を齎す理論として実務で活用されている。
 
〇無断転貸を理由とする賃貸借契約の解除
(賃借権の譲渡及び転貸の制限)
第六百十二条
2  賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは、賃貸人は、契約の解除をすることができる。

 信頼関係の破壊が解除権の発生要件事実であり、無断転貸しはは其れを事実上推定する間接事実であり、無断転貸しが背信行為に当たら無い特段の事情を証明することは間接反証に当たる、と言われる(最判昭和41・1・27民集20・1・136〔147〕)。

〇此の父に対する認知請求訴訟。
 子の母が被告以外の男性とも関係が在ったと言う所謂不貞の抗弁は原・被告間の父子関係の存在と言う主要事実に対する間接反証に当たる、と説明される(最判昭和31・9・13民集10・9・1135〔148〕及び最判昭和32・12・3民集11・13・2009〔149〕)。

〇公害訴訟で被害者が証明責任を負う因果関係の証明に付き、間接反証の理論によって被害者の立証を緩和したと見られる判例もある(新潟地判46・9・29下民集22・9=10別冊・1)。

〇〔間接反証理論〕に対する批判

✻間接反証理論は実質的に証明責任の分配を変更しており法律要件分類説の破綻を示すものである。
✻一般条項の場合に、抽象的な構成要件事実を主要事実とし、具体的な事実を間接事実に過ぎ無いとする前提自体が不当である。

※次回に続く。


















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