第三 検討課題
1 道路法 99 条又は刑法 124 条(往来妨害罪)の罪が成立するか『道路行政セミナー』2006 年 12 月号 31・32 ページによると、道路法 99 条は刑法 124 条の(道路法 124 条の加重類型)であると解されています。この見解を前提とした場合・道路法 99 条と刑法124 条の構成要件の大部分は重なり合うと考えられます。そこで、刑法 124 条の客観的構成要件を検討するに、同条の「陸路」とは道路を(その道路が道路法上の道路であれば、道路法 99 条が適用されると解されす)、公衆の用に供されている必要があると解されています。続いて、A が市道(「陸路」に該当することは明らか)の「往来の妨害を生じさせた」(刑法124 条)り、「交通に危険を生じさせた」(道路法99 条)かを検討するに、フェンスが市道の縦断方向と平行に設置されている以上、市道の通行が妨害されていると解するのも無理があります。また、刑法 124 条の罪が具体的危険犯であると
< 2 月 19 日時点>
<3月8 日午前(修理直後)>
<3月5 日時点>
<3月8 日午後(フェンス再設置後)>
4 道路行政セミナー 2008. 12解されている以上、その特別法たる道路法 99 条の罪も具体的危険犯であると考えられます。しかし、L 型側溝の立ち上がり部分は市道の有効幅員外であり、本件事例の A の行為により危険が具体化したとまではいえないと考えられます。以上より、本件事例の A の行為は、刑法 124条の罪(及びその特別法たる道路法 99 条の罪)の客観的構成要件該当性をみたいえず、同罪は成立しないと考えざるを得ませんでした。
2 道路法 100 条 3 号(同法 43 条違反の罪)と刑法 261 条(器物損壊罪)の関係道路法は道路をみだりに損傷・汚損することを禁止しており(43 条 1 項)、これに違反した者は1 年以下の懲役又は 50 万円以下の罰金に処せられます(100 条 3 号)。また、刑法は他人の物を損壊した者を 3 年以下の懲役又は 30 万円以下の罰金に処する旨規定しています(261 条)。本件事例において、A は自身が実行行為者であることを認めています。L 型側溝に穴をあける行為が「損傷」(道路法43 条 1 号)・「損壊」(刑法 261 条)に該当することは明白であり、結果も発生しています。そして、実行行為と結果発生の間に相当因果関係が認められるので、客観的構成要件該当性はみたされています。加えて、A は本件フェンスを設置のために損壊した L 型側溝が市道の構造物であることを認識しており、フェンスの設置は故意行為によってしかなし得ないことは明白ですから、主観的構成要件該当性もみたされています。その他、両罪の構成要件該当性を検討するにあたり、問題となる点は見当たりません。
以上の検討より、A の行為に対しては、道路法 100 条 3 号・刑法 261 条の両方の罪が成立しますが、この両罪の関係をどのように解するかを巡り、当課では、法条競合であると解する見解と、観念的競合(刑法 54 条 1 項前段)にあたるとする見解がの 2 つがありました。両見解の内容等は次表のとおりです。
法条競合説(多数説) 観念的競合説(有力説)結論刑法 261 条の罪は適用が排除され、道路法 100 条第 3号の罪のみが成立する。→ A は 1 年以下の懲役又は 50 万円以下の罰金で処断される。道 路 法 100 条 3 号 と 刑 法261 条は観ね的競合(刑法54 条 1 項前段)となる。→ A は 1 年以上 3 年以下の懲役又は 30 万円
以上 50 万円以下の罰金で処断される根拠道 路 法 100 条 3 号 と 刑 法261 条は特別法と一般法の関係である。
道 路 法 100 条 3 号 と 刑 法261 条は保護法益を異にしており、両罪は特別関係に立たない。反対説からの批
批判
① 私道を損壊した場合は3 年 以 下 の 懲 役 又 は 30万円以下の罰金で処断されるのに対し、国道を損壊した場合は 1 年以下の懲役又は 50 万円以下の罰金でしか処断されず、道路法上た方が法定刑が軽くなり(法定刑の不均衡)、法益保護に欠けるきらいがある。
② 市道(道路構造物であるガードレールや橋脚を含む)に落書きした者を刑法 261 条の罪で告訴していた当課の従来の対応と矛盾する。(これらへの落書きに対しても、道路法 100 条 3 号のみを適用すべきだということになる。)
① 1 年以下の懲役刑及び30 万円以下の罰金刑が排除され、同種の器物損壊事件と比較して処断刑が重きに過ぎる。
② 異なる保護法益の間で安易に観念的競合を認めるべきではない。批判への反論①に対して、法定刑の不均衡は実務上しばしば生じる問題であり、それのみを根拠として、直ちに観念的競合であると解するのは短絡的である。
①に対して、道路法上の道路を損壊することは、道路管理者の財産を侵害するのみならず、社会的法益の侵害であり、単なる器物損壊事件と単純に比較できるものではない。
②に対して、判例は、パトロール中の警察官を襲って警察手帳を強奪した場合に強盗罪(個人的法益に対する罪)と公務執行妨害罪(国家的法益に対する罪)の観念的競合を認めており、これは大審院以来の確固たる判例である(大審院大正 6年4月2 日判決)。結局、この論争は決着がつかず、告訴・告発状には道路法 100 条 3 号の罪と刑法 261 条の罪を併記し、検察官の判断に委ねることになりました。(検察官が A を不起訴処分にしたため、この両罪の関係についての検察庁の見解は明らかにされませんでした。
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