2 前項の規定は、他人の物から生じた急迫の危難を避けるためその物を損傷した場合について準用する。
( 考 察)
違法とは法律に違反していること. 不法とは法律に違反していることのほかに、反社会的な行為を含む 意味合いを持つ。法治国家で自力救済が禁止されるのは、公の立場での裁定に任せなければ、力の強いもの勝ちの世の中になって終うからである。民法では正当防衛と緊急避難は、「人」の不法行為から防衛するのが正当防衛、「物」から生じた危難から防衛するのが緊急避難とされている。つまり、侵害してくる相手が「人」か「物」かで正当防衛と緊急避難が区別される。民法第720条は、一定の要件の下自力救済の例外を認める条項である。
民法720条(正当防衛及び緊急避難)
👆の魚拓👇
1.総論
本条は、正当防衛(第1項)と緊急避難(第2項)の場合には、損害賠償の責任を負わない旨を規定している。これは、加害行為の違法性が阻却されるからだと一般的に説明されている。つまり、適法な行為になるということ。
なお、民法では正当防衛と緊急避難は、「人」の不法行為から防衛するのが正当防衛、「物」から生じた危難から防衛するのが緊急避難とされています。つまり、侵害していくる相手が「人」か「物」かで正当防衛と緊急避難が区別されるということである。
2.正当防衛(第1項)
(1) 正当防衛
他人の不法行為に対して自力救済をすることは原則として禁止されています。しかし、急迫な加害行為に対して公の救済を求める時間的な余裕がない場合に、それに反撃できないとすると社会正義に反することになるので、一種の自力救済として認められたのが正当防衛である。
(2) 正当防衛の要件
正当防衛の要件を一つずつ見ていきましょう。
① 他人の不法行為
この他人の不法行為というのは、別に故意・過失の要件を備えていることは不要です。客観的・外形的に違法であればよいとされています。たとえば、責任無能力者の加害行為に対して防衛するような場合である。
② 自己又は第三者の権利又は法律上保護される利益を防衛するため
正当防衛は、自己の権利等を防衛するためですから、防衛の意思は必要ですが、同時に侵害者に対する攻撃的な意思があってもよいとされる。
③ やむを得ず
この「やむを得ず」というのは、他人の侵害が急迫で国家の救済を求める時間的な余裕がなく、加害行為以外には他に適当な方法がない、ということを意味する。
ただ、この他に適当な方法がない、というのを厳格に考えると、侵害される方には酷なので、たとえば、駅で口論となって相手方からの暴行を避けるために防衛上奪い取った傘を突き出して相手方を死亡させたような場合でも、その防衛行為が興奮、狼狽のあまり咄嗟に殺意なくなされたのであれば、社会通念上「やむを得ず」とされた判例がある。
また、防衛すべき利益と、加害行為によって侵害された利益との間に合理的な均衡が保たれている必要があります。些細な利益を守るために、あまりに大きな利益を奪ってはいけない、ということです。たとえば、パブ店員が女性客にからむ客に対して暴行を加え死亡させるような場合である。
この均衡を失する場合には、過剰防衛ということになり、違法性が阻却されませんが、過失相殺がなされる余地がある。
④ 加害行為
この加害行為(反撃行為)は、不法行為者に対するものでも、それ以外の第三者に対するものでもかまいません。
(3) 正当防衛の効果
これは、最初に書きましたように違法性が阻却されるということです。
また、第1項但書にありますように、防衛行為により第三者に損害を与えた場合は、第三者は不法行為者に対して損害賠償を請求することができる。
3.緊急避難
「物」から生じた急迫の危難を避けるために侵害行為(防衛行為)が行われた場合でである。
この防衛行為は、「不法行為」によるものでなくても緊急避難になる。たとえば、不可抗力で猛犬の鎖が切れて、襲われたような場合。
また、物から生じた危険でも、それが人の不法行為に起因するものであれば、正当防衛になる。飼い主が飼い犬を嗾けて人を襲わせたような場合。
尚、緊急避難の規定では、正当防衛と異なり、「已むを得ず」という要件が規定されていない。そこで、緊急避難が「物」に限定されていることから、この要件は不要だとする説があります。しかし、他に適当な手段がある場合や、法益均衡の失われる場合まで、反撃を正当化する必要はないので、この要件は必要と思われる。
最後に、第2項の規定にあるように、防衛行為は「その物」を損傷した場合に限定される。したがって、襲ってきた犬から逃れるため近くの家の塀を壊して逃げるような場合は、緊急避難は成立しない。
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