意思による楽観のための読書日記

トワイライト 重松清 ***

日本版スタンド・バイ・ミー、といえば聞こえが良すぎるかもしれない。ずっと身近に感じられる状況設定、場所は多摩ニュータウンと思しきかつての新興住宅団地、主人公たちは1970年代に小学校を卒業し、2001年に40歳を迎える小学校時代の同級生たち、物語は夏休みの最初の日7月20日にタイムカプセルを掘り出す場面から始まる。

克也の小学校時代のあだ名は「のび太」、勉強はできたがスポーツはだめなメガネ少年だった。今はソフトウェア開発会社の営業課長補佐、妻と小学6年生の息子がいるのだが、会社では退職勧奨を受けている。ジャイアンと呼ばれていたクラスのガキ大将だった徹夫は、しずかちゃんに相当すると思われる優等生でクラスのリーダー的存在真理子と結婚して二人の娘がいる。しかしこの二人の夫婦は破綻寸前、子供たちは両親の喧嘩に慣れっこになり、徹夫は酒に酔うと真理子に手を出し、真理子は家出をするのが日常となっている。ケチャと呼ばれていた竹内淳子は独身で塾の古文の花形教師、古文のプリンセスともてはやされた時代もあったが、今は人気に陰りが出ていているという。みんな40歳を目前にして、人生の上り坂から下り坂に差し掛かったような状況設定で、トワイライト状態である。しかし浩平だけは小学校時代と変わらない。フリーターで両親と同居、独身で気ままに暮らしている。その浩平が入院していた杉本と出会うことからタイムカプセルを掘り出すことに繋がる。杉本は重症の肝炎を患い、未来が見えないという。その杉本がタイムカプセルを掘り出して欲しい、と浩平に頼む。浩平が声をかけてクラスの仲間達が20名ほど校庭に集まるが、小学校は人口減少の煽りを受けて閉校となり、人影はない。

タイムカプセルを開けて夫々の思い出の品を取り出した最後に担任の先生の手紙が出てくる。白石先生、彼女は40歳でクラスの担任をしていたが、彼ら彼女らが卒業した直後に不倫相手の男性に惨殺されるという事件で死んでいた。そのことはクラスのメンバー全員が知っていたので、手紙の内容には関心が集まる。白石先生は自らの死を予見するかのような手紙である。40歳になっているはずの生徒たちに自分の不倫を手紙で告白する。そしてみんなに問いかける。「皆さんの40歳はどうですか、あなた達は今幸せですか」。この手紙を書いたあとの顛末を知っている皆は白けた気分になる。同窓会のはしゃいだ雰囲気は一気に盛り下がる。夫婦二人の関係が破綻寸前であることを隠して参加していた徹夫と真理子の呼びかけで二次会に向かう。しかし酒を飲むうちに徹夫は真理子を殴ってしまい、二次会はお開きになる。なんだか暗い展開にこれから先を読みたくない気分になるが、状況設定などから物語は40日間の夏休みで完結するという予感があるため、読み進んでみる。

徹夫はその後も真理子に暴力をふるい、真理子と二人の娘は同級生だったケチャの住むマンションに家出をする。ケチャの住むマンションは海の見える高層マンション、二人の娘は夏休みでもありハシャいでいるがいつまでもいる訳にはいかない。真理子は同窓会のあと偶然出会った克也を大阪の万博公園跡地に行ってみたいと誘う。アポロの月の石、太陽の塔、三菱未来館、ソ連館、その頃「未来」だったものは今はなく、太陽の塔だけが立ちすくんでいる。「今」になってみるあの頃の未来は草ぼうぼうの公園跡地だった。ニュータウンと呼ばれる団地に育ち、21世紀の未来を夢見て「新人類」と呼ばれた世代である。退職勧奨、夫婦の危機、肝炎による入院、フリーター、人気が陰った塾講師、自分たちが想った未来の現実を抱えて、クラスのメンバー達は立ち止まったかに見える。しかし、明治時代までなら人生もトワイライトだったが、トワイライトと言ってもまだ40歳であり、現代であればあと半分人生は残っている。入院して先の見えない杉本が「もう一回タイムカプセルを埋めよう」と提案する。散々な現実を共有することになったクラス仲間たちは誰も賛成しないが、杉本こそが未来を見たいと考えていることを皆は感じる。そして新しいタイムカプセルを未来に向けて送り出そうとする。徹夫と真理子は判子をついた離婚届をタイムカプセルに入れる。浩平は40歳の仲間たちを似顔絵にして入れる。50歳になった時、タイムカプセルは皆に開けられるのだろうか。

夏休みの読書には最適だったのかもしれない。


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