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意思による楽観のための読書日記

京都・イケズの正体 石川拓治 ***

タイトルから見ると「なぜ京都人はイケズをするのか」などの解説本だと勘違いするが、京都礼賛本である。「奇跡のリンゴ」の筆者がなぜ京都が好きなのかを自己分析、日本人の多くが京都に憧れにも似た感情を抱く理由を考察した一冊。「イケズ」に思えるのは、京都人が旅人や客人、移住者との間に取る「少し遠めの距離感」に戸惑っているから。京都生まれ、宇治育ち、就職後は東京に暮らすの私から見ると、離れてみる京都の良さを再確認できる本、と考え手に取った。

他府県民から見た京都と言えば「はんなり」で「みやび」な印象を持ちがちだが、そればかりではないのが京都、本書では京番茶を例に挙げる。京都人が毎日飲んでるお茶は、夏なら麦茶、その他の季節は番茶、ちょっとお客が来れば上等の「御煎茶」、めったに飲まないのが玉露。その番茶は筆者によれば煙草のにおいがする「京番茶」で、それを初めて飲む他府県民にとっては初印象としては「ちょっと無理」。しかし何度か味わううちに慣れてきて、クセになる味だそうだ。

京都府でお茶の産地と言えば有名な宇治茶だが、今ではその産地は宇治よりも宇治田原、南山城、和束であり、宇治市内の茶畑は多くが宅地化されてしまった。宇治茶は「覆い下栽培」と呼ばれる若葉に直射日光を9割がた当てないようにした方法で、新芽の上から3枚目までしか使わない贅沢な玉露茶が知られるが、京都人でも通常飲んでいるのはそのあと収穫された煎茶、そして番茶であり、一番茶を摘んだそのあとに摘み取られる茶葉や茎茶が使われる。京都人が好んで食べる「お茶漬け」は、「あーお腹いっぱい」となった後に、最後に少しのごはんに番茶をかけてすすりこむ一杯のこと。「キッチリ始末せんとあかんで」とよくしつけられてきた京都人は、「ご馳走様でした」と食事が終わったときにお茶碗に米粒を残さないための工夫でもある。

京都の味付けは薄め、本来の素材の味を感じられる工夫であるという。これは日本人がアメリカに行けばよく感じること。ケチャップとマヨネーズ、マスタードの味しかしないハンバーガーやホットドックをおいしそうにほおばっているのを横目に、お肉の味をもっと味わいたい、などと皮肉な感想を持っている日本人のなんと多いことか。京都の料理は御出汁文化であり、鰹節と昆布だし中心で、塩気を感じるお醤油はできるだけ控え目にする。春先の筍、夏の鱧、秋の松茸、冬の千枚漬け、京都の季節の味覚はどれも淡い味わい。平安時代からの食材保管は難しく塩漬けにされたため、新鮮な野菜や魚が手に入ると、その原材料の味が貴重である。そして漬けた塩分と旨味が溶け出した上澄みを調味料に使ったのが醤であり、「ひしお」。漬けられた材料により、魚醤、穀醤、草醤、肉醤と種類があり中国からもたらされた。それが日本では時代とともに大豆の醤に収れんされたのが味噌と醤油。

日本では一種類に特化した料理店が多いのも欧米に比べると分かる特徴で、寿司、てんぷら、蕎麦、焼き鳥、とんかつ、ラーメンなどの専門店は日本では当たり前だが、ミシュラン評価のために初めて来日した評価者は驚いたという。食材の真の味を味わうことが料理の神髄、だという京都の料理への感じ方が全国展開された可能性があるというのが筆者の指摘。京都人が良く使う調味料に山椒や七味がある。中でも、黒七味は祇園にある「了郭」でしか手に入らないという。山椒の刺激と唐辛子の辛さを感じる調味料で、レシピは公開されていない。ちり緬ジャコや八つ橋、各種お漬物なども、店によりその味は受け継がれているが、それぞれが独特である。

こうした様々な味とそれを支える料理人と消費者、そして3000もあるといわれる神社仏閣とそれを支える僧侶、庭園管理者、茶道、書道、華道など数多くの文化的な存在が組み合わされて京都はそこにある。全国や全世界にチェーン展開される流行の店とは一線を画した文化がそこにある、というのが京都であり、日本がインバウンドを今以上に増やしていける鍵もそこにはある、というのが筆者の主張。本書内容は以上。

今でも京都に帰るときには、学生時代の友人たちと食事をするが、夏なら鱧でも食べよか、秋なら香住までカニ食べに行こか、などと季節感にこだわるのが京都人。まぁ、これは日本人共通だとも思うが、京都近辺にはそうした四季の味を提供してくれる老舗がちゃんとそこにあるのが特徴。そういうと、また京都人の京都自慢、と言われそうだが、それをあえて言ってしまうのが「イケズの正体」でもある。
 

↓↓↓2008年1月から読んだ本について書いています。

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