2008年に発刊された、テロによる東京大停電の物語。東日本大震災が起きる前ではあるが、そのシミュレーションのような「輪番停電」という大東京での節電手段が描かれている。物語の主人公は、毎日当たり前のように提供されている電力を、縁の下の力持ちで支える人たち。
物語は8月24日、夏のまだまだ暑い盛り、東京地区の電力供給が6200万KWのピークを記録した日、東京と長野をつなぎ、中電と東電を連結する信濃幹線鉄塔が爆破された事件から始まる。直後、東北と東京をつなぐ東北連携系線の鉄塔にヘリが衝突、倒壊して、一気に東北電力から東京地区への電力供給が断ち切られることで、東京地区の全世帯への電力供給が急減する。これにより、一時大停電が予測された東京地区の電力供給を司る司令部は縮減運用を指令、発電所のシャットダウンを伴う大規模事故を免れるが、東京地区は一帯が停電していた。しかし、さらに、鹿島火力発電所から新佐原をつなぐ鉄塔が爆破され、かろうじて夜間だったため大停電は起きなかったが、翌日の朝9時からは再び6000万KW規模の需要が予測される。東京電力中央の司令部では、翌日の対応に追われる。
警察では同時に起きていたスーパー襲撃とテロで使用された小銃の型番が同じことを突き止め、さらに、鉄塔に衝突して炎上したヘリから発見されたベトナム人とが所持する小銃も同一型番、東京停電をもたらした同時多発テロ対策本部が設置される。東電では、こういう事態に備えて、輪番停電を中央司令部からの遠隔指示で自動的に実行できるシステムを開発していた。翌日朝9時には、そのシステムを稼働させて輪番停電を実施、昼間のピーク時の縮退運用を行い、大停電を防ぐ予定であった。
翌日の朝、9時になって稼働を始めるはずの縮退運用システムは動かなかった。その時、東京地区は大停電、発電所もすべてがシャットダウンに追い込まれた。疑われたのは、当該システムをメインで担当していたエンジニア責任者の安西、なぜか前日夜から行方が分からなくなっていた。警察は安西を捜索すると同時に、鉄塔テロを引き起こした外国人グループを追っていた。外国人グループには4人メンバーがいたが、一人は鉄塔事件でヘリで墜落死、残る三人はアジトに戻って、安西と合流していた。
テロの夜、外国人グループは一帯が停電していた東京の中心部で闇カジノを襲撃、数億円を奪うことに成功するが、ヤクザの勢力に追われ、3人共殺害されてしまう。翌日、警察は3人の死体を発見するが、現金は見つからなかった。
安西は6歳の頃、母親を殺人犯に殺され、児童養護施設で育ち、努力して東電に入社後はSEとして仕事に励んだ。そして、知り合った恋人が、再び見知らぬ3人に殺害され、死刑にならなかった犯人とともに、東京という街を恨むようになる。テロの計画は安西が中心に停電計画が練られた。安西にはもう一つやることがあった。巣鴨にいる無期懲役確定の犯人殺害であった。刑務所内で大規模な食中毒事件が起きたのもテロのあった夜、狙われたのは安西の恋人を殺害した犯人だった。急患として刑務所から救急車で病院に搬送されるタイミングを見計ったように、リモコンヘリが救急車めがけて突進、爆発により殺害犯と刑務官も巻きぞいになって死亡した。リモコンヘリを遠隔操作していたのは、荒川に船を浮かべていた安西だった。
安西は死刑にならなかった犯人への恨みを晴らし、東京への恨みも外国人グループと共謀して果たしたのであった。こうして、テロ犯人は確保され、24時間以上の大停電は、発電所をシャットダウン状態から復旧することにより回復していった。物語の概要は以上。
物語で描かれるのは、鉄塔倒壊時のオペレーション、縮退運用の指示や各持ち場での動き、停電時に起きる電力供給サイドでの動き、輪番停電のシステム、そしてシャットダウンが起きるときの動きである。最後に、発電所が停止状態から再稼働する様も描かれる。電力会社にヒアリングして解説される各オペレーションは、電力供給に携わっている人ならおなじみかもしれないが、一般には知らないことのほうが多いだろう。そうした地道な努力で、毎日の電力が提供されているということ、SE出身だという作者は訴えたかった。あわせて描かれたのが、アジアから日本に研修制度を利用してきている若い人たちの置かれた過酷な状況である。こうした状況を座視するわけには行かない、というのが作者の正義感だと思う。