意思による楽観のための読書日記

破戒 島崎藤村 ****

破戒、なんという重く恐ろしい言葉だろうか。父の戒め、それは「隠せ」、絶対にであるという出自を人には明かすな、という事であった。瀬川丑松はその戒めを師範学校を出て教師になってもずっと固く守ってきた。

教師をしている丑松が飯山で下宿していたその同じ下宿で大日向という人間がの出身だという理由で追い出されたのだ。丑松は長野の師範学校をでて飯山の高等学校の教師として赴任してきた22歳の若者であり、だれもその出自を知る者はいなかった。丑松は大日向の出来事を深く受け止めた。どうしてもこの下宿をでたい、と考えたのだ。月給が出るのを待ちきれずに鷹匠町の下宿から蓮華寺に引越しをした丑松であった。蓮華寺には師範学校の老教師である風間敬之進の娘志保、その弟省吾が住んでいた。敬之進は子沢山で貧乏なため娘と息子を寺に預けていたのだった。丑松は志保に恋心を抱いていたが、自分の出自のこと思いも告げられずにいた。

丑松には師と仰ぐ人、猪子蓮太郎がいた。猪子蓮太郎は出身であることを公言する思想家であり活動家であった。かれの著書「懺悔録」は丑松の心を捉えた。丑松には師範学校以来の親友、土屋銀之助がいた。銀之助も同じ飯山の学校に赴任しているのだ。銀之助とは猪子蓮太郎の思想について議論するのだった。銀之助も丑松の出自は知らないが、猪子蓮太郎の思想についてはお互いに知っていたのだ。

丑松の父は小諸の向町というの親方であった。その出身を隠すために牧夫として烏帽子岳のふもと、根津の姫子沢に隠れるように家族と共に引っ越した。近所には出自は隠したまま、息子の丑松を学校に入れ、師範学校から教師にしたのだ。丑松の父の願いは、息子が世の中で出世すること、自分はそのためにはどんな苦労でもする覚悟だった。父は息子に戒めを与えた、「隠せ」、丑松はその戒めを守るしかなかった。

丑松が猪子蓮太郎の著作を愛読するのはかれの出自がだからだけではない。自分の出自を明言した上で、社会の下層の生活状態を研究し、なぜそうなってしまうのかを解き明かす、そのやり方に惹かれたからである。

丑松の学校の校長と丑松や銀之助たち若い世代の教師とはいつも意見の相違があった。校長は若い世代が、自分の意見に従わないことを苦々しく思っているが、そうした若い世代の教師が生徒や保護者の支持を得ていることにも腹立たしい思いをいだいていたのである。

11月のある日、丑松の父が種牛に押し倒されて殺された、という知らせが入った。知らせてくれたのは姫子沢に住む叔父だった。丑松は飯山から列車で姫子沢のある田中まで向かうことになった。その同じ列車に今度の選挙に立候補している高柳が乗っている。お互いに顔は知っているが面識はなかったので挨拶もしなかった。列車に乗るとそこには偶然、自分が師と仰ぐ猪子蓮太郎が乗り合わせていたのだ。一緒にいたのは蓮太郎の妻、そして今度選挙に立候補しているという弁護士の市村であった。高柳とはライバルになる。蓮太郎は市村の選挙を応援するためにこれから小諸、岩村田、志賀、臼田を一緒に回るのだという。丑松は父の死のため、これから告別式に姫子沢に行くことを告げて田中の駅で別れる。そうすると、高柳も田中の駅で降りたではないか。偶然であった。

丑松が姫子沢に帰るのは13歳で学校に入るとき以来である。丑松の父は、死ぬ直前にも自分たちの出自が近所の人達にバレることを避けるため、葬儀も家ではなく、牧場でひっそりと行うことを言い残していた。叔父叔母はその遺言を守り、質素な葬儀をあげた。猪子蓮太郎はひょこり葬儀を済ませた丑松を姫子沢に訪れてきた。丑松は蓮太郎には自分の出自を告白しようと何度も思うが、父の戒めを破ることはできなかった。

姫子沢にもはあった。変な話を聞いたのはその猪子蓮太郎からであった。選挙に出ている高柳が田中に来たのは、出身で今は金儲けで成功している男の娘を嫁にもらって、選挙資金にするためだというのだ。その娘のことは丑松も知っていた。金のためにそうしたことをする高柳を猪子蓮太郎は批判した。猪子蓮太郎は市村を応援するためにしばらくは信州に残るという。妻は東京に帰るため、列車で別れ健闘を祈ったが、妻は猪子蓮太郎の健康を気遣った。

丑松が父の葬儀から飯山に帰る際に、再び高柳と千曲川下りの同じ船に乗り合わせた。今度は新妻も一緒である。妻の顔をみると先方もなにやら自分のことに気がついている様子である。丑松は悪い予感がした。その予感は飯山に帰ると現実のものとなった。街で丑松の出自を言いふらしているものがいるのだ。

猪子蓮太郎が市村と飯山に選挙演説に来た。猪子蓮太郎は演説で高柳の婚姻の秘密を暴露し、高柳の批判を行い、蓮太郎の演説は人々の心をつかんだ。高柳は人を使って猪子蓮太郎を殺害し、拘引された。猪子蓮太郎の死にショックを受けた丑松は、蓮太郎に自分の出自を告白しなかったことを悔やむ。学校で父の戒めを破ってでも自分の出身を告白することをその時決意した。翌日、学校で丑松は受け持ちの生徒の前で、自分がであることを告白、父の戒めを破ったのだ。生徒たちは尊敬する瀬川先生の出自は問題ではない、どうか辞職などしないで欲しいと懇願したが、丑松は辞職願を提出した。校長はここぞチャンスとばかりに丑松の辞職届を受け取った。

そのころ、蓮華寺では志保がその寺の住職に言い寄られていた。この住職も破戒僧であるが、丑松の破戒とは全く異なるレベルの破戒である。志保は世話になった住職とその妻に顔向けができないと、実家の敬之進の家に帰った。敬之助の妻は夫に愛想を尽かし、実家に帰ってしまっていた。丑松の出自の告白、志保の思いを知った丑松の親友銀之助はなんとか志保の思いと丑松の思いをお互いに繋げてやろうと間を取り持つ。

飯山にはもういられない丑松、丑松を思い一緒に一生暮らしたいと考える志保、弁護士市村の取り計らいで、丑松はアメリカに行くことになる。丑松は志保に思いを伝え、志保も丑松に一生を捧げることを誓う。市村は丑松を東京の猪子蓮太郎の妻のもとにとりあえず住まわせることを手配する。

「破戒」、なんという重い厳しい言葉であろうか。丑松の苦しみ、志保の苦しみ、明治の時代にと呼ばれた、その後の日本では現在においても存在する問題である。民への差別、在日朝鮮人への差別、今でさえ、破戒の苦しみを持つ人達はいる。このようなことは知らなければそれでいいではないかという人もいるが、現実に今の時代にも苦しむ人が入る限り、問題の存在から目を背けてはいけない。破戒 (新潮文庫)
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