江戸の町には35箇所の高札場があったという。幕府や大名から通達されるのは「達(たっし)」。天皇や公家に対する通達は「禁中並公家諸法度」、寺院・神社・陰陽師に向けては「諸宗本山本寺諸法度」、武家に向けたものが「武家諸法度」。そして庶民に向けたのが「御触書」。御触書にも老中から出された「惣触(そうぶれ)」と御触書の大半を占める町奉行が出した「町触」があった。庶民にとっては老中であろうと奉行であろうと同じ効力だったので、本書ではいずれも町触と記述する。
町触の通達された経路は、町奉行→町年寄→名主・月行事(がちぎょうじ)→家主→店子(庶民)。町年寄以下が町人で、町年寄は町奉行の支配下の役人、その下の名主は、年寄、肝煎、町台などとも呼ばれた町内会長的な位置づけ。月行事は五人組の月当番。町奉行は奉行所に町年寄を集めて御触書を配布、以下順序どおりに伝わるが、店子には文字が読めない人が多く、家主は店子を集めて読んで説明した。その場合でも、証拠のために覚書として文書も手渡した。
こうした御触書の中でも重要な内容を高札場に掲示した。江戸には6箇所の大高札場があった。日本橋南詰、常盤橋門外、筋違い橋門外、浅草橋門外、麹町半蔵門外、芝車町である。キシリタン禁令、火付け密告、人足駄賃などが常時掲載された。その他高札場は35箇所。上水、橋梁、塵芥などの町触が掲載された。江戸の町と天領以外における通達は各大名に任された。
過去の通達は今のようにWEBで検索もできないため、吉宗時代に御触書集成である「寛保集成」が作成され、以降、宝暦、天明、天保と再版された。
生活統制面の御触書。火事場野次馬斬り捨て御免、奉公人の刀所持は主人に罰金、男色禁止、かぶき者追補、大酒禁止、赤穂浪士の芝居禁止、江戸城近辺での出店禁止、男女混浴禁止、芸の師匠の売色禁止、喧嘩両成敗など。
有名事件関連、凶悪事件後の御触書。賊を訴えでたものに銀30枚、人身売買は死罪、鎖国遵守、キリシタン密告者に賞金、偽同心注意、堕胎禁止、ニセ薬注意、鉄砲禁止、捨て子禁止、贋金づくり重罪・密告歓迎、犬殺し密告50両、賭博重罪、夜10時以降外出禁止、心中未遂は晒し者、葵の御紋使用禁止、無銭飲食注意、など。
災害関連の御触書。明暦の大火に乗ずるものに注意、延焼防止のため道路拡幅、火事の際は身一つで逃げること、路地に屋根を葺かぬこと、蝗発生のため節食、浅間山噴火のため暴徒に注意、台風直撃のため蔵米放出、など。
本書内容は以上。結構細かい、生活の詳細までを規制する内容に驚きである。