憲法九条一項は現状通り。二項には日本が保有する戦力を二つに分けて、一つは国連待機軍とし平和維持活動その他に従事、もう一つは国土防衛隊とすることを明記、平時は国内外への災害救援を任務とする。更に非核三原則と外国軍隊とその施設を国内に設置しないことも明記する。この案は小沢一郎が「日本改造計画」で提唱した案と重なる部分がある。小沢案は、現状の九条に加え、三項として「ただし、前二項の規定は、平和創出のために活動する自衛隊を保有すること、また、要請を受けて国連の指揮下で活動するための国際連合待機軍を保有すること、さらに国連の指揮下においてこの国連待機軍が活動することを妨げない」を付け加えるというもの。
憲法が制定された1946年当時は、GHQの力に押される形で制定された憲法ではあったが、平和憲法は守るという大前提で自民党が進める路線を日本人は支持してきた。戦後長く日本の政治を担ってきた自民党政権が進めてきたのは、日米安保推進、軽武装、経済重視の路線であったが冷戦崩壊とバブル崩壊で前提が崩れた。1990年代以降の経済的停滞の20年を迎え、サンフランシスコ講和条約を起点とした日米安保条約で日本中に米軍基地を設置されながらも、日本人が経済大国として維持してきた国際的評価へのプライドは、すっかり緩んでしまった。それと同時にロシアと米国の国力低下、中国の台頭などの結果、ナショナリスト的主張を強める安倍政権が誕生し、支持を維持してきたと分析。
筆者は、安倍路線の問題点として次の点をあげる。
1. 安倍政権が掲げる「誇りある国づくり」は日本中心主義に根差しており、国際秩序を支える国連中心主義、平和主義、個人の人権尊重、民主主義と合致しないこと。
2. 対米協力路線と「誇りある国づくり」とが合致しない矛盾をはらむ。
3. 日米関係強化だけではロシア、中国との緊張を常にはらみ、国際的な課題の解決はできない。
4. 復古型国家主義への警戒を持つ隣国との敵対的関係が経済的な足かせになる。
5. 少子高齢化、財政問題、産業空洞化などの構造的問題にまともに対処せず金融政策中心の経済刺激策に依存するだけでは、国民が基本的に感じている「将来への不安」に応えきれない。
6. 経済政策でも米国への対応を第一優先とするため、TPPやAIIBへの参画などの大きな問題で選択肢が限定される。
憲法制定時、マッカーサーの頭にあったのは、1946年2月時点で国連で議論されていた国連軍設置であった。その議論はその後の冷戦で実現しなかったが、日本の憲法制定に権限を持っていたGHQとしては、当時の国連での崇高な理想を先取りする形で憲法に取り込んだ、それが「戦争放棄、交戦権放棄」であった。この理想の前提は国連軍が加盟国からの協力を前提に各国がそれぞれ紛争解決手段としての戦争と国連軍を前提として交戦権も放棄することであった。しかし憲法は制定され、崇高な国連軍のポジションには1951年までは占領軍が、その後は日米安保条約に基づいたアメリカ軍が当てはまることになる。つまり交戦権の国連への委譲はアメリカ軍への交戦権の委譲として現在でも機能していることになる。集団的自衛権行使が大きな問題になるのは、自衛権行使の委譲先が米国軍となり、米国の方針には絶対的に反対できない立場で参戦することになる点である。米国の方針が日本国憲法より上位に来るのである。筆者が国連軍への参画を提唱するのはここからである。
55年体制と言われる自民党誕生の直前、GHQの占領政策や反共主義の意向に従ってきた自由党の吉田政権が54年に総辞職、吉田政権に反発してきた鳩山一郎、岸信介らの民主党が政権をとり保守合同をはたして自民党が誕生、鳩山・岸が目指す憲法改正の主張が掲げられた。改正ポイントは自衛軍備を整えることと駐留外国軍隊の撤退に備えることで対米独立を図ることである。しかしその路線は、60年の日米安保条約改定への国民的反発を招き、その後の池田、佐藤とつながる「憲法維持、軽武装、経済重視、安保維持」路線になり、経済発展の実現から国会議員の過半数を維持する自民党政権が継続することになる。90年代の冷戦崩壊、バブル崩壊、村山政権による「自衛隊合憲、日米安保維持」方針は、それまでの社会党支持者層離反を招き、その後、自民党のハト派であり保守本流であった勢力も後退、自民党ではタカ派的勢力が首班を占めるようになる。
筆者は、現状でどのような対立軸があり、どうふるまうべきかについても提案している。本書に掲載されている図を参照する。その上で、現行の安倍政権やさらなるタカ派勢力である図のB+Cの勢力に対抗するため、内部的には多くの主張は異なるもののA+Dの勢力がBC勢力との対立ポイントを明確にしたうえで国民の選択を乞うことが重要であると唱える。
2016年7月には参議院選挙が実施され、国民はアベノミクスの評価とともに、憲法改正についても問われているが、いったい対立軸は何なのかを、その歴史的意味をも含めて理解したうえで答える必要がある。本書は格好の参考書であると考える。
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