意思による楽観のための読書日記

茨の木 さだまさし ****

気持ちのいい感想を持てる話である。

主人公の真二、50歳を前に妻とは離婚した。兄の健一郎は実家の酒屋を継ぐために博多にいるが、健一郎と店の経営方針で喧嘩をしてしまった真二は家を飛び出し、今は東京にいる。喧嘩した時に父とも諍いになり、実家には帰らないまま2年が経過、そして父がなくなった。母を一人にするのは気になるが、健一郎とは気まずい関係である。その健一郎から父の形見であるバイオリンを送ってきた。バイオリンの中に書かれていた作成者名はイギリスはグラスゴーのアマチュアバイオリン製作者のR.C.Crawfordで1894年とある。バイオリンの製作者の生まれた町に行ってみたくて、イギリス行きを思い立つ。そんな時、健一郎の妻である香織から電話がある。年老いた母が重荷になるというなら自分が引き取ってもいいという真二に、香織は告げる、健一郎に軽い認知症の症状が出たというのである。しかし、イギリス行きの思いは強く、真二は一人、イギリスへと旅立つ。

イギリスではガイドを頼んでおいた。Glasgowといっても土地勘もなく、どう行けばいいのか、何を手がかりにするのかもわからないので、事前に唯一の手がかりである作成者名をガイドに送っておいて調査をしてもらっていた。そして何日かかってもR.C.Crawfordにたどり着きたいと想った。ガイドとして現れたのは若い女性、響子であった。聞くと7歳の娘がいて母に預かってもらっているという。響子は38歳、しかし夫とは別れたという。その夫とは年の離れたイギリス人で、今でも響子を追いかけているというのである。そして、真二はレンタカーを借りて、響子をガイドにロンドンから北に向かう。M6、北に向かう高速道路をひた走る二人を一台の車が追いかけてくる。響子を追いかけるイギリス人の男だった。真二はなんとか男を振り切ったかに見えたが、男は執念深く、猟銃を用意して二人の宿に迫る。そうとは知らない二人は田舎のB&Bに宿泊、そこでB&Bのオーナーのマリーに親切にされる。そこで、響子は真二のバイオリンを演奏する。バイオリニストを目指していたという響子、そうとはしらなかった真二、マリーと一緒に聞き惚れる。響子はコンクールでも優勝するなど活躍していたが、審査員の一人だったイギリス人に見初められ結婚した、それが今追いかけてきている男だという。娘は二人の間に生まれた子、しかし、男のDVに耐え切れず別れたと。真二も自分のバイオリンの話、家族の話をする。そんな二人の話を聞いたマリーはまるで、二人が娘と息子のように。そしてそこに響子を追いかけて男が猟銃をもって現れるが、それを撃退したのはマリー、男は警察に引き渡される。

響子から離婚にまつわるストーリーを聞いた真二は、響子に惹かれる。次の街に移動するとき、真二は響子に娘を呼んだらどうかと提案する。ちょうど夏休みだった。おしゃまな娘は花子、花子は子供らしく、真二にバイオリンのことを地元のラジオ局で放送してもらったらどうかと提案する。それは名案とばかりにラジオ局に掛け合った響子、ラジオ局の担当者は、イギリスにバイオリンの生まれ故郷を訪ねてきたという日本人の思いに感動、真二とのインタビューをして毎日そのインタビューを放送してくれることになる。街ではそのエピソードが有名になり、街中の人たちが日本からバイオリンの生い立ちを訪ねてきた日本人のことを知るようになる。やがてBBCでも全国放送され、自分もR.C.Crawfordを知っている、などという申出でが相次いで、ようやく、その作者の娘の住んでいる場所にたどり着く。そして真二は響子にプロポーズをする。花子もそれに賛成、響子の心は決まっているようだが、物語はそこで終わる。

いい話なのである。挿入される逸話にイギリスの詩人ワーズワースの詩「茨の木」(The Thorn)が登場、その詩を教えてくれた実習生の浅野先生の初恋した真二の話があって、浅野先生と響子がダブって見える。スコットランドでは、ピーターラビットの作者が自然保護のために土地を保有していた話も紹介される。その映画、先日たまたまBSの映画劇場で見ていたので、頭に残っていた。ワーズワースの詩も確かに高校の教科書で習ったことを思い出す。時代背景からみて多分、僕と同世代か少し下の真二、同じ世代の健一郎に共感するのかもしれないが、自分の記憶とダブル部分が多いストーリーは心に響くのである。さだまさし、眉山、解夏と読んできたが、なかなかのストーリーテラーだと思う。

ちなみに、この本は図書館で借りた本を、富士通 ScanSnap SV600でスキャンして、Kindle Fire HD 8.9で読んだが、全く問題なくスムーズに読めた。図書館の本は大きく重いので気軽に読むには不適と敬遠していた。スキャンするのに300枚で60分、平均すれば、本書であれば2P分をまとめて一回でスキャンするので、約150枚で30分かかる。これを面倒と思うか、便利と考えるか。SV600は45000円、Kindleは20800円、モトは取れないと思うが、これからしばらくは図書館通いが続くと思う。


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