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意思による楽観のための読書日記

動物化するポストモダン オタクから見た日本社会 東浩紀 **

2001年発刊のオタク論であり、現在の「押し活」にもつながる現代文化論。本書でいうポストモダンとは、日本でいう70年代の大阪万博以降の文化的世界を指す。「オタク」とは、江戸時代の粋に直結するような、作品からのメッセージよりも作品が示す「世界」や「趣向」を読み解くことに重きを置いているとする。80年代にカルト的支持を集めた「うる星やつら」は民俗学的なアイテムとSFファンタジーが混淆した独特の作品世界で知られており、鬼や雪女、弁財天をモチーフとした宇宙人が、セクシャルな衣装を纏っては次々と現れて事件を起こすドタバタコメディ。オタク的幻想が日本的意匠に囲まれて成立することを現わしているという。

日本的オタク文化は日本文化のサブカルチャーとして世界に広がり、エヴァンゲリオンの主人公である綾波レイのフィギュアにはネットオークションで国際的にも高値を付けて取引されている。サブカルチャーは今や一部のマニアにのみ語られるマニアの世界ではなく、またオタク系文化が日本独特の現象でもなく、ポストモダン文化の世界的流れの一つである。

オタク系文化の一つの特徴として挙げられるのが、二次的創作の存在である。原作をベースに作り出されるコピー的作品が商品化され、徐々に原作とコピーの境目もあいまいになり、原作者自身も二次的創作に関わるという流れがある。原作もコピーも等しい価値をもつ作品として消費すること、これを「シミュラークル」と呼び、オタク系文化の特徴であるとする。セーラームーン原作者がコミケに出品していたり、エヴァンゲリオンの制作会社が本編のパロディソフトを発売していることを指摘。原作自体も先行作品の模倣や引用で世界を構成することが多いのも事実。シミュラークルとして原作も二次的創作により増殖する消費されるというのがオタク系作品の特徴ともいえる。

こうしたオタク系文化の特徴は、作品が提示する背景にある独自の世界観を入り口として、消費者が購入するのはその世界が設定する社会や個人とその環境を断片化した小さな世界、見せかけの作品であるという。そのうえで、見せかけの小さな世界観を持つ個別の断片が多様に再結合して再び独自の世界観を構成する「データベースモデル」である。これを小さな世界と設定の二層構造にポストモダンの特徴があるという。

「ガンダム」の世界とその愛好者が抱く世界観がこれに該当するが、オタク系の消費者たちはこの二層構造に敏感であり、シミュラークルが宿る表層と設定というデータベースが宿る深層を明確に区別している。「エヴァンゲリオン」の愛好者たちは、その大きな世界観にさえ強い欲望を抱かず、二次的創作にこそキャラ萌えの対象とする。ガンダムファンは世界世紀の年表整合性やメカニックのリアリティに固執するが、エヴァンゲリオンファンは主人公に感情移入したりヒロインのエロティックな姿に没入、巨大ロボットのフィギュアづくりの細々とした設定を必要とする傾向があるというのだ。そしてエヴァンゲリオン以降、その入り口としての世界観設定さえも急速に放棄しつつある。メディアミックスで、コミック原作がアニメ化され関連商品や同人誌が出る順序は支配的ではなくなり、ゲームからイベント化され、それがアニメ化されたりもする。

消費者はニーズを満たしてくれる商品に囲まれてメディアが要求する消費を進めるのが、戦後のアメリカ的社会であり、これを自然と調和して生きる動物たちのようであるとして「動物的」と表現する。これに対応するのが「スノビズム」であり、与えられた環境を否定する実質的理由が何もないのに、形式化された価値に基づいてそれを否定する行動様式である。これは人間的とも言えなくて、歴史時代の人間的な生き方とも異なる。日本の侍における「切腹」はこれに該当、オタク的感性では、「騙されているのを承知の上で本気で感動する」という距離感であるとする。戦隊特撮ドラマやロボットアニメのファンは、個々の作品のストーリーというよりも、その趣向や登場する個性を切り離して成立しているという。これはスノビズムの特徴そのものであるとする。

そして、世界では1989年、日本では1995年にスノビズムの役割が終わり、別種のデータベース消費に取って代わられつつある。その変化を動物化と定義する。動物が持つのは生存、子孫繁栄、衣食住への欲求であり、人間は別種の欲望を持つという。人の男性による女性への欲望とは単なる性的欲望だけではなく、生理的な絶頂感だけでは満たされない、社会的に認められる他者による認識や承認をも渇望するという複雑な構造を持つ。動物化するとは、複雑な社会的承認欲求を必要としない、感情的な満足を最も効率よく達成してくれる萌え要素の方程式を求めて新たな作品を次々と消費し淘汰している。

本書内容は以上。現在の「押し活」はこのオタク系文化の特徴を継承し拡大してきた結果だといえるだろうか。動物化していた社会は、その後どのように変化しているのか。さらなる理論づけが必要な気がする。
 

↓↓↓2008年1月から読んだ本について書いています。

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