ハンガリーはヨーロッパの中でも迫害と占領、そしてソ連による支配と厳しい歴史を持つ国、そしてヨーロッパの一員であり、日本の文化、日本人の考え方とは大きく異なる。同じ家に住むために衝突や摩擦が起きるが、13人の家族とはそうした異文化コミュニケーションをとおしてお互いに成長する。
彗星は長い楕円運動の末、何年か後に再び戻ってくるが、ボラージュもそのような未来を期待させるようなタイトルである。雄吉という恭太にとっては叔父にあたる恵那の住人は教師であり、天文台をもつ趣味人、彗星を発見するのが生き甲斐という人間であり、恭太が生まれたときに発見した彗星をキョウタ・シロタ彗星と名付けた。城田家の中心も敦子と恭太の二人であり、13名と一人の留学生、そして犬のフックが楕円の円周を回る彗星だともいえる。
それぞれの家族、ボラージュは完璧な人間ではなく、わがままやちょっと出過ぎた自己主張もするが、お互いを理解しようとしてさらに衝突を繰り返すが、そうした接触が相互理解を深めることになる。ボラージュの留学生仲間と城田家の二人の娘の交流の結果も楽しみな結末である。
宮本輝らしいしっとりとした読後感をもてる良い作品だと思う。時代設定が1985年であり、ソ連崩壊前、ハンガリーはまだ東側と呼ばれていた時代、日本への留学は大変難しい時期だっただけにボラージュの勉強も背水の陣である。今これを読むと、こんな時代もあったと思うが、ソ連崩壊を知らない世代がこの本を読むとどう感じるのだろうか。
彗星物語 (文春文庫)
彗星物語〈上〉 (角川文庫)
彗星物語〈下〉 (角川文庫)
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