意思による楽観のための読書日記

彗星物語(上・下) 宮本輝 ****

城田家には13人の家族が暮らしている。恭太は11歳、姉は長姉の真由美21歳と次女の紀代美18歳、長男の幸一は24歳、両親は晋太郎と敦子、祖父の福造、そして晋太郎の妹で離婚して居候しているめぐみ、そしてその3人の息子たち春雄、夏雄、秋雄は中二、小五、小二と3歳の娘。そして犬のフック。この城田家にハンガリーからの留学生ポラーニ・ボラージュという24歳の青年が同居することになった。ボラーニは日本語を祖国で学び、日本では幕末の日本歴史を勉強し論文を書き上げるという3年の留学である。

ハンガリーはヨーロッパの中でも迫害と占領、そしてソ連による支配と厳しい歴史を持つ国、そしてヨーロッパの一員であり、日本の文化、日本人の考え方とは大きく異なる。同じ家に住むために衝突や摩擦が起きるが、13人の家族とはそうした異文化コミュニケーションをとおしてお互いに成長する。

彗星は長い楕円運動の末、何年か後に再び戻ってくるが、ボラージュもそのような未来を期待させるようなタイトルである。雄吉という恭太にとっては叔父にあたる恵那の住人は教師であり、天文台をもつ趣味人、彗星を発見するのが生き甲斐という人間であり、恭太が生まれたときに発見した彗星をキョウタ・シロタ彗星と名付けた。城田家の中心も敦子と恭太の二人であり、13名と一人の留学生、そして犬のフックが楕円の円周を回る彗星だともいえる。

それぞれの家族、ボラージュは完璧な人間ではなく、わがままやちょっと出過ぎた自己主張もするが、お互いを理解しようとしてさらに衝突を繰り返すが、そうした接触が相互理解を深めることになる。ボラージュの留学生仲間と城田家の二人の娘の交流の結果も楽しみな結末である。

宮本輝らしいしっとりとした読後感をもてる良い作品だと思う。時代設定が1985年であり、ソ連崩壊前、ハンガリーはまだ東側と呼ばれていた時代、日本への留学は大変難しい時期だっただけにボラージュの勉強も背水の陣である。今これを読むと、こんな時代もあったと思うが、ソ連崩壊を知らない世代がこの本を読むとどう感じるのだろうか。
彗星物語 (文春文庫)
彗星物語〈上〉 (角川文庫)
彗星物語〈下〉 (角川文庫)

読書日記 ブログランキングへ

↓↓↓2008年1月から読んだ本について書いています。

名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「読書」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事