血と骨〈上〉 (幻冬舎文庫)
血と骨〈下〉 (幻冬舎文庫)
主人公は金俊平、ヤクザもおそれて近づかないという、筆者の父をモデルとしたという男。ケダモノなのか人間離れした存在、どのような言い方をしても表現しきれないような、暴力とエゴのかたまりでした。その印象が強くてほかの作品の印象が薄い、というのも物足りない気もしますが、この異邦人の夜、これは記憶に残ると思います。フィリピンからきたマリアと韓国に生まれ日本にきて日本人と結婚、不動産で財をなす木村秀夫、この二人が様々な運命に踊らされ、結局はその出自からは逃れられない物語。マリアの恋人榎本、その榎本に5000万円の金を渡したのは木村、榎本はその金が元で殺されてしまう。マリアは残された5000万円を持って逃げるが、逃げるときにヤクザを二人殺すため警察とヤクザから追われる身となる。六本木で金を元手にクラブを開業、ビジネスを広げようとするとヤクザに邪魔をされる。一方、木村の娘で何不自由なく育ってきた貴子は、韓国性であるコウ、韓国名であるキジャを名乗ろうと裁判を起こす。父の故郷である韓国に渡り、父のふるさとに両親と祖父母の墓を見つける。墓のそばで父の生い立ちにまつわる秘密を知ることになる。マリアも木村もその生まれを隠そうともがくが、結局少しずつ生まれの秘密はばれてしまい、マリアは自殺、木村は生まれ故郷で警察に逮捕される。在日韓国朝鮮人は60万人、フィリピンなどアジアからの出稼ぎ労働者も10万人以上いると思われますが、不正滞在やその他で正確な統計はないと思います。そうした方々がどういう立場、どのような思いをもって日本で生きているのか、この小説はほんの一面かもしれませんが日本の読者に見せているのだと思います。アジア諸国からの出稼ぎにはヤクザが絡み、在日コリアンには政治家と北朝鮮が絡む、そうしたこともこの小説では描かれていると思います。アメリカには日本の何倍もの移民が住んでいて、日本以上に差別や生活格差が存在しますが、そのことをアメリカ人は知っています。知っているのか知らないのか、認識があるかないか、これは大きな違い、何が正義か、何が悪なのか、立場によって様々、このような実態があること日本に住む私たちはいつも認識しておく必要があると思います。
異邦人の夜〈上〉 (幻冬舎文庫)
異邦人の夜〈下〉 (幻冬舎文庫)