脳梗塞によって死んだ脳細胞はどうなるのか?
主治医から説明を聞いたけど、納得できませんでした。
生き残った脳細胞の境界はどうなる?
瀕死の細胞は?掃除後の空間は埋まらないのか?
麻痺した機能の回復はどういう手順で回復するのか?
予備回路があるというけど、そこへ繋ぐにはどうすればよいか?
予備回路とは、どんな機能をもっているのか?
リハビリを続けながら回復していく様相や脳の動きを感じる中で
長い間疑問に思っていました。
2005年10月1日
私は死んだ脳細胞について、子供達にどうなるのかを文献等での調査をお願いしました。
返答をくれた中の一つに、脳梗塞、半身麻痺からの完全復帰という手記のコピーがありました。その中に参考情報として「NHKサイエンススペシャル 驚異の小宇宙・人体Ⅱ 脳と心 秘められた復元力:発達と再生」(1994年出版)がありました。
早速、書店で注文をしようとしましたが既に絶版になっていました。そこで図書館の蔵書検索で検索すると、ありました。早速取り寄せて、読みました。納得しました。リハビリによって回復していく状況や手足の動きの変化そして脳の作業状況(私、脳の動きを感じるのです)等を統合して考えると、納得できました。
それから、不安感なくなり、回復するんだと思えるようになりました。脳を意識いてリハビリをするようになりました。
貴重な情報ですので掲載しておきます。
脳損傷からの回復過程について
新潟大学脳研究所の生田房弘教授は、脳損傷後の修復過程の研究を電子顕微鏡を使って行っている。損傷を起こした脳の組織を時間を追って克明に見ていくと、まず、細胞と細胞の間に広い隙間ができ、そこに脳浮腫液という液体がたまる。その中で、死滅したニューロンがマクロファージ(含食細胞)と呼ばれる細胞できれいにそうじされると、そこに、鍾乳洞のようなたくさんの穴、隙間ができるので、脳軟化と呼ばれている。その穴も浮腫液で満たされている。隙間の周囲を見ると、あちこちに生き残った多数の毛細血管や無数のシナプスが見える。そのシナプスや血管のまわりには、細胞分裂を終わったアストロサイト(星状グリア細胞)などのグリア細胞がびっしりとへばりついている。生田教授によると、これらは損傷を起こした脳細胞内部で起きた再生へのドラマの痕だという。さらに、生田教授は興味深いことを語っている。「大人の脳は細胞と細胞とが互いにぎっしりひしめき合っており、ニューロンが新しいネットワークを作ったりする融通性は見られませんが、損傷を起こした脳は、まるで、発生途中の胎児の脳の状態とそっくりの状態をまず作り出そうとしているようにみえます。発生や成長途中の脳というのは、ニューロンのネットワークがまさに形成されようとしている途上にあり、ニューロンや他の細胞との間には、元来広い広い隙間、細胞外間隙が存在しているのです。ですから、ニューロンはまるで海に浮かんだ単細胞生物のように、脳内の細胞外液の海を自由に泳ぎ、新しい突起を伸ばしてネットワークを形成していきます。
グリア細胞がまずその道を付け、次いで、結合したシナプスを覆うことでニューロンネットワークの形成を助け、完成させているのです。脳損傷もこれとまったく同じことをやっているのです。不幸にも組織が死滅したあと、まず次々に細胞と細胞との間に広い隙間を作っていきます。その中でマクロファージは壊れた組織の掃除をし、アストロサイトはその後、ニューロンを育てる因子を出し、周辺のニューロンに突起を伸ばすように促します。脳の組織が死ぬと、損傷脳はその状況を逆手にとって、その部位を胎児期の状態に戻し、組織化を再び行おうとしているとしか考えられません」
生田教授のこの話は、大人の脳にも機能を再生させようとするメカニズムがあることを示竣している。(50頁ー51頁)
ニューロンの生と死の物語
・ プログラムされた死
ニューロン(神経細胞)は、一度できてしまうと増えないことで知られている。だが、胎児期に脳が作られるときには、ニューロンも爆発的な勢いで分裂増殖を繰り返す。そして、充分な量のニューロンが確保されたあと、実は、過剰に作られたニューロンは約半分にまで間引かれ、生理的な死を迎える。これはプログラム死とも呼ばれ、ニューロンが情報回路を形成する時期とほぼ一致している。標的細胞(軸策を伸ばしていく相手の細胞)と正しくシナプスを形成できなかったニューロンがプログラム死するのである。
シナプスの形成によってはじめて脳の神経系は機能し、神経情報の連絡が始まる。それでは、ニューロンがシナプスを作るために神経突起(軸策)を伸ばしていくメカニズムは、何に由来しているのだろうか。
そのカギを握るのが、神経栄養因子(neorotrophic factor )という総称で呼ばれる一群の蛋白質である。
多細胞生物にあっては、個々の細胞は全体の中の一つの構成要素として機能しなければならない。細胞が分化し、増殖していく場合にも方向性を規定するものがあり、形、役割が位置づけられていく。このために細胞の外から働きかけ、ニューロンの分化と生存をコントロールしているのが神経栄養因子なのである。そして、たくさんある神経栄養因子の中でも代表的な存在が、神経成長因子( nerve growth factor,NGF)という小さな蛋白質である。
・ シナプス形成のメカニズム
NGFは、脳の中では新皮質と海馬のニューロンによって作られ、分泌される。これらのニューロンには前脳基底野のコリン作動性ニューロンが投射(神経線維を標的に向けて伸ばしていること)しており、コリン作動性シナプスを形成している。
NGFが標的細胞から分泌されると、ニューロンの神経線維はその濃度勾配を感知し、そちらに向かって伸びていく。NGFの供給量は標的細胞群の量によって規定され、その限界以上のシナプスを形成しようとして神経線維を伸ばしても、標的部位へ到達できないことになる。したがって、神経回路の形成においては、ニューロンのほうに主導権があるのではなく、標的細胞側がコントロールしているわけである。
複雑精緻なニューロン・ネットワークを作り上げるためには、細胞が決まった相手と手を結ぶ(シナプスで連絡する)ことが必要だ。いちばん離れている例では、脊髄の運動ニューロン、感覚ニューロンは、いメートル近くも離れている相手と間違いなく正しい回路を形成している。それでは、ニューロンはどのようにして自分の標的とする細胞群を見分けているのだろうか。
どうやらNGF以外にも、それぞれの神経系に対応するいろいろな物質があって、それが標的細胞、組織を特定させるらしい。ヒトの場合,数千種類あるのではないかといわれているが、現在見つかっているのは10種類程度にすぎない、NGFをはじめとするさまざまな神経栄養因子は、ただ繊維を伸ばすことを支援するだけではなく、決まった相手に連絡を結ぶメカニズムそのものを担っているのである。
成熟したニューロンになればNGFの作用が終わるかというと、それほど急に分泌量が減るわけではない。ということは、その後も何らかの作用をしているということだ。その役割の一つとして考えられているのが、再生系である。ニューロンが何らかの障害を受けたとき、修復されて再生し、生き残るために役立っているものと思われる。
さらにいえば、特にニューロンが障害を受けていない場合でもNGFが出ているということは、単に再生だけでなく、生きつづけるということそのものに関わっているのではないだろうか。事実、NGFには前脳基底野のコリン作動性ニューロンの死を予防する効果が確認されている。つまり、NGFという蛋白質がいつも働いているから、ニューロンは生きているのかもしれないと考えることもできるのである。
ネットワークの再構成。そこでは何が起きているのか。
脳損傷が起き、それに伴って発芽によるニューロンのネットワークの再構成が起きるとき、ミクロのレベルではいったい何が起きているのだろうか。さまざまな研究者の意見をつなぎ合わせ、あえて一つのシナリオを作ってみた。実際はもっと複雑で未知のことが起きているようだが、とりあえず蛮勇を振るって、強引に一つのストーリーを作ってみたらこういうことになる。
まず、衝撃によってニューロンの軸策が切れるか、特定のニュウロンが破壊されるとしよう。すると、今までそのニューロンを保護して栄養などを補給していたアストロサイトは突起を縮め、丸くなって傍らで待機する。損傷を受けたニューロンはミクログリアによってきれいに掃除され、食い尽くされるだろう。ミクログリアはニューロンのカスを食べながら、サイトカインなどの物質を放出。これが引き金になってアストロサイトが分裂を始める。なぜアストロサイトが分裂を始めるかというと、ニューロンの死滅で隙間だらけになった脳組織を、「パテ」のようにアストロサイトが固め、補強するためである。それと同時にアストロサイトはNGFなどの栄養因子を放出し、近くのニューロンの軸策からの発芽を促す。発芽を起こした近くのニューロンの軸策はまるで無数のヘビのように周囲を動き回り、もとからあったネットワークの受けて側のニューロンに接続して、新しくたくさんのネットワークを形成する。
ここまでが脳の機能の再生の第一段階である。脳損傷という状態を引き金に、まるでトカゲのしっぽが生えるようにニューロンの軸策から発芽が起き、とりあえず応急処置的なネットワークの手当てがなされたのである。
さて、大切なのはこれからである。脳が損傷を受けたとき、人の場合は必死でリハビリをするだろう。環境からの刺激が、ランダムに接続したニューロンを整理し、望ましいつながりを残して、不必要なものを落としていく作業が必要になる。それを実現する、脳の機能の再生の第二段階のシナリオはこうだ。
一つのニューロンにいくつもの軸策が接続して、とりあえずそのうちのどれかが正しい接続だと仮定しよう。もともとニューロンの接続部分=シナプスには、シナプスのつながりを維持する不思議なメカニズムがある。あるニューロンから情報が流れ、シナプスを経由して次のニューロンに情報が伝えられるとき、情報をもらった側のニューロンから情報提供側のニューロンに「おかえし」として、NGFなどのニューロン成長因子が放出されるのだ。ニューロンは一本では生きていけない。生きていけないというよりも、複数のニューロンが手をつないで、より複雑な情報ネットワークになることこそ、その生物の情報処理能力を高め、激烈な進化のゲームで勝ち残っていける基本的な要因となる。そのことを思うと、NGFなどを介した栄養因子のやり取りのメカニズムは、非常に巧妙な「ニューロンの生存戦略」ではないかとさえ思えてくる。
さて、話をもとに戻して、あるニューロンを取り合うようにランダムに接続した多くの軸策があるとする。リハビリによってその中の「もとのネットワークに最も近い軸策」に強い情報(インパルス)が流れてくると、当然その部分で大量のNGFなどが放出される。さらに驚くべきことに、高頻度のインパルスが流れるシナプスからはある種の「抑制物質」が放出され、まわりのインパルス頻度の少ないシナプスの活性を下げる。その結果、インパルス量の多いシナプスはさらに強くなり、インパルス量の少ないシナプスは弱体化して、ついにははずれていく。こうして、使われるネットワークが残り、さらに強化されていくのである。昔から「頭は使えば使うほどよくなる」というが、これがミクロの世界の仕組みである。リハビリをすると脳の機能が再生され、能力をよみがえらせていくのも同じ原理である
主治医から説明を聞いたけど、納得できませんでした。
生き残った脳細胞の境界はどうなる?
瀕死の細胞は?掃除後の空間は埋まらないのか?
麻痺した機能の回復はどういう手順で回復するのか?
予備回路があるというけど、そこへ繋ぐにはどうすればよいか?
予備回路とは、どんな機能をもっているのか?
リハビリを続けながら回復していく様相や脳の動きを感じる中で
長い間疑問に思っていました。
2005年10月1日
私は死んだ脳細胞について、子供達にどうなるのかを文献等での調査をお願いしました。
返答をくれた中の一つに、脳梗塞、半身麻痺からの完全復帰という手記のコピーがありました。その中に参考情報として「NHKサイエンススペシャル 驚異の小宇宙・人体Ⅱ 脳と心 秘められた復元力:発達と再生」(1994年出版)がありました。
早速、書店で注文をしようとしましたが既に絶版になっていました。そこで図書館の蔵書検索で検索すると、ありました。早速取り寄せて、読みました。納得しました。リハビリによって回復していく状況や手足の動きの変化そして脳の作業状況(私、脳の動きを感じるのです)等を統合して考えると、納得できました。
それから、不安感なくなり、回復するんだと思えるようになりました。脳を意識いてリハビリをするようになりました。
貴重な情報ですので掲載しておきます。
脳損傷からの回復過程について
新潟大学脳研究所の生田房弘教授は、脳損傷後の修復過程の研究を電子顕微鏡を使って行っている。損傷を起こした脳の組織を時間を追って克明に見ていくと、まず、細胞と細胞の間に広い隙間ができ、そこに脳浮腫液という液体がたまる。その中で、死滅したニューロンがマクロファージ(含食細胞)と呼ばれる細胞できれいにそうじされると、そこに、鍾乳洞のようなたくさんの穴、隙間ができるので、脳軟化と呼ばれている。その穴も浮腫液で満たされている。隙間の周囲を見ると、あちこちに生き残った多数の毛細血管や無数のシナプスが見える。そのシナプスや血管のまわりには、細胞分裂を終わったアストロサイト(星状グリア細胞)などのグリア細胞がびっしりとへばりついている。生田教授によると、これらは損傷を起こした脳細胞内部で起きた再生へのドラマの痕だという。さらに、生田教授は興味深いことを語っている。「大人の脳は細胞と細胞とが互いにぎっしりひしめき合っており、ニューロンが新しいネットワークを作ったりする融通性は見られませんが、損傷を起こした脳は、まるで、発生途中の胎児の脳の状態とそっくりの状態をまず作り出そうとしているようにみえます。発生や成長途中の脳というのは、ニューロンのネットワークがまさに形成されようとしている途上にあり、ニューロンや他の細胞との間には、元来広い広い隙間、細胞外間隙が存在しているのです。ですから、ニューロンはまるで海に浮かんだ単細胞生物のように、脳内の細胞外液の海を自由に泳ぎ、新しい突起を伸ばしてネットワークを形成していきます。
グリア細胞がまずその道を付け、次いで、結合したシナプスを覆うことでニューロンネットワークの形成を助け、完成させているのです。脳損傷もこれとまったく同じことをやっているのです。不幸にも組織が死滅したあと、まず次々に細胞と細胞との間に広い隙間を作っていきます。その中でマクロファージは壊れた組織の掃除をし、アストロサイトはその後、ニューロンを育てる因子を出し、周辺のニューロンに突起を伸ばすように促します。脳の組織が死ぬと、損傷脳はその状況を逆手にとって、その部位を胎児期の状態に戻し、組織化を再び行おうとしているとしか考えられません」
生田教授のこの話は、大人の脳にも機能を再生させようとするメカニズムがあることを示竣している。(50頁ー51頁)
ニューロンの生と死の物語
・ プログラムされた死
ニューロン(神経細胞)は、一度できてしまうと増えないことで知られている。だが、胎児期に脳が作られるときには、ニューロンも爆発的な勢いで分裂増殖を繰り返す。そして、充分な量のニューロンが確保されたあと、実は、過剰に作られたニューロンは約半分にまで間引かれ、生理的な死を迎える。これはプログラム死とも呼ばれ、ニューロンが情報回路を形成する時期とほぼ一致している。標的細胞(軸策を伸ばしていく相手の細胞)と正しくシナプスを形成できなかったニューロンがプログラム死するのである。
シナプスの形成によってはじめて脳の神経系は機能し、神経情報の連絡が始まる。それでは、ニューロンがシナプスを作るために神経突起(軸策)を伸ばしていくメカニズムは、何に由来しているのだろうか。
そのカギを握るのが、神経栄養因子(neorotrophic factor )という総称で呼ばれる一群の蛋白質である。
多細胞生物にあっては、個々の細胞は全体の中の一つの構成要素として機能しなければならない。細胞が分化し、増殖していく場合にも方向性を規定するものがあり、形、役割が位置づけられていく。このために細胞の外から働きかけ、ニューロンの分化と生存をコントロールしているのが神経栄養因子なのである。そして、たくさんある神経栄養因子の中でも代表的な存在が、神経成長因子( nerve growth factor,NGF)という小さな蛋白質である。
・ シナプス形成のメカニズム
NGFは、脳の中では新皮質と海馬のニューロンによって作られ、分泌される。これらのニューロンには前脳基底野のコリン作動性ニューロンが投射(神経線維を標的に向けて伸ばしていること)しており、コリン作動性シナプスを形成している。
NGFが標的細胞から分泌されると、ニューロンの神経線維はその濃度勾配を感知し、そちらに向かって伸びていく。NGFの供給量は標的細胞群の量によって規定され、その限界以上のシナプスを形成しようとして神経線維を伸ばしても、標的部位へ到達できないことになる。したがって、神経回路の形成においては、ニューロンのほうに主導権があるのではなく、標的細胞側がコントロールしているわけである。
複雑精緻なニューロン・ネットワークを作り上げるためには、細胞が決まった相手と手を結ぶ(シナプスで連絡する)ことが必要だ。いちばん離れている例では、脊髄の運動ニューロン、感覚ニューロンは、いメートル近くも離れている相手と間違いなく正しい回路を形成している。それでは、ニューロンはどのようにして自分の標的とする細胞群を見分けているのだろうか。
どうやらNGF以外にも、それぞれの神経系に対応するいろいろな物質があって、それが標的細胞、組織を特定させるらしい。ヒトの場合,数千種類あるのではないかといわれているが、現在見つかっているのは10種類程度にすぎない、NGFをはじめとするさまざまな神経栄養因子は、ただ繊維を伸ばすことを支援するだけではなく、決まった相手に連絡を結ぶメカニズムそのものを担っているのである。
成熟したニューロンになればNGFの作用が終わるかというと、それほど急に分泌量が減るわけではない。ということは、その後も何らかの作用をしているということだ。その役割の一つとして考えられているのが、再生系である。ニューロンが何らかの障害を受けたとき、修復されて再生し、生き残るために役立っているものと思われる。
さらにいえば、特にニューロンが障害を受けていない場合でもNGFが出ているということは、単に再生だけでなく、生きつづけるということそのものに関わっているのではないだろうか。事実、NGFには前脳基底野のコリン作動性ニューロンの死を予防する効果が確認されている。つまり、NGFという蛋白質がいつも働いているから、ニューロンは生きているのかもしれないと考えることもできるのである。
ネットワークの再構成。そこでは何が起きているのか。
脳損傷が起き、それに伴って発芽によるニューロンのネットワークの再構成が起きるとき、ミクロのレベルではいったい何が起きているのだろうか。さまざまな研究者の意見をつなぎ合わせ、あえて一つのシナリオを作ってみた。実際はもっと複雑で未知のことが起きているようだが、とりあえず蛮勇を振るって、強引に一つのストーリーを作ってみたらこういうことになる。
まず、衝撃によってニューロンの軸策が切れるか、特定のニュウロンが破壊されるとしよう。すると、今までそのニューロンを保護して栄養などを補給していたアストロサイトは突起を縮め、丸くなって傍らで待機する。損傷を受けたニューロンはミクログリアによってきれいに掃除され、食い尽くされるだろう。ミクログリアはニューロンのカスを食べながら、サイトカインなどの物質を放出。これが引き金になってアストロサイトが分裂を始める。なぜアストロサイトが分裂を始めるかというと、ニューロンの死滅で隙間だらけになった脳組織を、「パテ」のようにアストロサイトが固め、補強するためである。それと同時にアストロサイトはNGFなどの栄養因子を放出し、近くのニューロンの軸策からの発芽を促す。発芽を起こした近くのニューロンの軸策はまるで無数のヘビのように周囲を動き回り、もとからあったネットワークの受けて側のニューロンに接続して、新しくたくさんのネットワークを形成する。
ここまでが脳の機能の再生の第一段階である。脳損傷という状態を引き金に、まるでトカゲのしっぽが生えるようにニューロンの軸策から発芽が起き、とりあえず応急処置的なネットワークの手当てがなされたのである。
さて、大切なのはこれからである。脳が損傷を受けたとき、人の場合は必死でリハビリをするだろう。環境からの刺激が、ランダムに接続したニューロンを整理し、望ましいつながりを残して、不必要なものを落としていく作業が必要になる。それを実現する、脳の機能の再生の第二段階のシナリオはこうだ。
一つのニューロンにいくつもの軸策が接続して、とりあえずそのうちのどれかが正しい接続だと仮定しよう。もともとニューロンの接続部分=シナプスには、シナプスのつながりを維持する不思議なメカニズムがある。あるニューロンから情報が流れ、シナプスを経由して次のニューロンに情報が伝えられるとき、情報をもらった側のニューロンから情報提供側のニューロンに「おかえし」として、NGFなどのニューロン成長因子が放出されるのだ。ニューロンは一本では生きていけない。生きていけないというよりも、複数のニューロンが手をつないで、より複雑な情報ネットワークになることこそ、その生物の情報処理能力を高め、激烈な進化のゲームで勝ち残っていける基本的な要因となる。そのことを思うと、NGFなどを介した栄養因子のやり取りのメカニズムは、非常に巧妙な「ニューロンの生存戦略」ではないかとさえ思えてくる。
さて、話をもとに戻して、あるニューロンを取り合うようにランダムに接続した多くの軸策があるとする。リハビリによってその中の「もとのネットワークに最も近い軸策」に強い情報(インパルス)が流れてくると、当然その部分で大量のNGFなどが放出される。さらに驚くべきことに、高頻度のインパルスが流れるシナプスからはある種の「抑制物質」が放出され、まわりのインパルス頻度の少ないシナプスの活性を下げる。その結果、インパルス量の多いシナプスはさらに強くなり、インパルス量の少ないシナプスは弱体化して、ついにははずれていく。こうして、使われるネットワークが残り、さらに強化されていくのである。昔から「頭は使えば使うほどよくなる」というが、これがミクロの世界の仕組みである。リハビリをすると脳の機能が再生され、能力をよみがえらせていくのも同じ原理である